プロダクトコンセプトは“物流版AWS”。「オープンロジ」は、その独自のシステムでEC事業者の物流オペレーションを自動化するだけでなく、全国の倉庫と提携し、EC事業者にとって最適な物流網を構築。事業成長を促進する高品質な物流を提供しつつ、物流業界の上流から下流まで、業界全体の最適化・標準化を目指すスタートアップとして注目されている。今回お話を伺ったのは、そんな「オープンロジ」に三菱倉庫、ファーストリテイリング(ユニクロ)を経て入社した笠原英嗣さん(33)。そこには「物流を軸に社会課題を解決したい」という志があった――。
オープンロジの革新性・強み
▼“1対N”の物流ネットワークによって実現された、柔軟かつ拡張性の高い物流網
これまでの物流は基本、「一つのEC事業者に対して一つの倉庫で在庫を管理・運用」するのが一般的。しかし、倉庫の品質は実際に使ってみないとわからないことも多く、自社が求める物流クオリティが提供可能な倉庫を探し当てるのは至難の業。また、急激な事業成長は勿論、マーケティングや時期要因で大きく顧客ニーズが変わるEC事業において、限られた倉庫リソースで実現できることはあまりにも限定されている。EC事業者にとって、物流は不透明で最適解の無い、頭を悩ませるものとして存在していた。
オープンロジはそこに対して、個別運営されてきたさまざまな倉庫を“ネットワーク化”し、システムで連携。入荷・検品作業、在庫管理、発送作業など一連の物流業務を全て自動化できるだけでなく、1対Nの倉庫提供を可能に。柔軟なオペレーションへの対応の他、蓄積された大量のデータを活用した季節・キャンペーンなどによる販売数の急激な変化への対応、事業拡大時の新たな倉庫選定・移管の手間を削減するなど、EC事業者のビジネス成長に沿った物流網の提案を可能にしている。
▼オペレーションの標準化とデータ活用によって、高い倉庫品質を実現
ただシステムを提供するだけでなく、倉庫内部のオペレーション改善にまで寄与しているオープンロジ。データに基づき、倉庫それぞれの課題を抽出しながらオペレーションの最適化・標準化を行い、高品質サービスを実現。作業員ごとの作業工数をデータ化し、入出庫データとも照らし合わせながら人員計画のサポートも行うなど、これまでにデータ化されてこなかった部分を可視化し、倉庫品質の向上に貢献している。
▼世界的なネットショッププラットフォーマーとの連携
オープンロジはECカート・プラットフォーマーとAPI連携を行い、自動出荷を実現している。日本の大型ショッピングモールだけではなく、カナダ発のグローバルなECプラットフォームであるShopify、2023年2月には日本の物流プラットフォーム初となる越境EC支援のGlobal-eとの業務提携を実現し、EC事業者が国ごとの関税ルールや決済方法、配送対応などにとらわれることなく、越境ECビジネスに挑戦できる環境を整備。様々なEC事業者へのニーズに叶う提供価値を着実に広げ、導入アカウント数は12,000以上(2023年10月時点)に及ぶ。
深刻な「物流課題」解決のために、今できることを
まずは「オープンロジ」を知ったきっかけ、そして入社の決め手について伺ってもよろしいでしょうか。
もともと海外スタートアップの事例から「分散型の物流ネットワーク」のアプローチは知っており、興味を持っていました。そういったなか、たまたまAMBI経由で出会ったのが「オープンロジ」だったんです。日本でも挑戦している会社があるのかと。
この「倉庫と倉庫をネットワークでつなぎ、物流を最適化していく」というのは、言葉で表現するのは簡単ですが、物流業界で言えばすごく異端。物流の原理原則である、ハブアンドスポーク(*1)からすると全く異なるアプローチであると同時に、日本が今まさに直面しようとしている物流課題を解決する上で、この「分散型物流ネットワーク」の考え方は大きな有効打になり得ると考えています。数年前から新しい物流ネットワークの在り方として「フィジカルインターネット(*2)」という概念も生まれ注目されているのですが、オープンロジは日本でその実現をリードしている会社だなと思いました。
商業のオンライン化が進む中、物流はグローバル共通の課題です。日本では「物流の2024年問題(*3)」が叫ばれており、これまでのようにドライバーが長距離輸送できなくなるとされています。つまり一つの大規模拠点集約型倉庫から各地に荷物を運ぶやり方では追いつかなくなるということ。さらに倉庫で働くスタッフなど、物流に関わる方々の高齢化も喫緊の課題になっています。
こういった環境変化のなかで「拠点に分散して荷物・商品を保管し、最適な場所から運ぶ」仕組みが、これからの時代には合っているのではないか。今後、確実に生じる社会課題の「前始末」ができるのではないか。その解決に向けた基盤を持つオープンロジで、自分にできることをやらねばいけないと考えました。
(*1)…大型倉庫などの中心拠点(ハブ)に貨物を集約し、拠点(スポーク)ごとに仕分けて運ぶ輸送方式
(*2)…モノの動きをデジタルに捉え、最も効率的・低負荷な方法で届ける物流の世界観
(*3)…2024年4月1日から、トラックドライバーにおける年間の時間外労働時間の上限が960時間までに規制されることで生じるさまざまな問題のこと。輸送能力が不足するなどの問題が指摘されている。
オープンロジ 物流プラットフォーム企画部のリーダーとして活躍する笠原英嗣さん(33)。三菱倉庫に新卒入社後、ファーストリテイリングに転職。グローバルサプライチェーン管理・北米エリア等を担当後、オープンロジへ。現在は個別倉庫の課題をヒアリング・改善を進めつつ、最適なソリューションを提案するなど、拡大する物流ネットワークの品質改善・DXをリード。物流業界全体の品質の向上とプロダクト開発の進化に貢献している。
「新たな物流ソリューションを開発から手掛ける」という選択
物流業界全体の課題解決に目を向けた転職だったと。その危機感はどこから来たものなのでしょうか。
前職(ファーストリテイリング)での経験は非常に大きかったと思います。特にコロナ禍を経て、「既存のやり方の延長では、EC物流が立ち行かなくなるのではないか」といった強い課題感を抱きました。
コロナ禍では、特に消費者行動が大きく変化し、EC需要が爆発的に高まりましたよね。そこで何が起こったか。小口配送の取引回数が増え、全く配送が間に合わなかったり、返品が大量に発生したり、物流は大混乱に陥り、社会問題にもなりました。社会インフラである物流は安定供給される必要があるにも関わらず、です。
どれだけ一社が抱える物流拠点を自動化・効率化しても、社会全体で見れば「部分最適」にしかなり得ません。依然として巨大な倉庫前で、トラックが列を成し、積荷の順番待ちをしている状況がある。そういった状況を目の当たりにし、本当に「物流」を軸として社会課題の解決に挑むのであれば、一社のメーカー企業に所属するのではなく、社会を一歩前に進める物流ソリューションを創出したい。まさに過渡期にある物流業界で、自分も30歳という節目も迎え、「ここでチャレンジしなければ後で後悔する」と考え、オープンロジに入社をしました。
「これが社会にとって良い方法」を検証・実装していくやりがい
どういった時に、仕事のやりがいを感じますか?
パートナーとなる倉庫様、お客様となるEC事業者様に「分散型物流ネットワーク」という新しいソリューションを信じていただき、それぞれの事業成長やニーズに応じた提案ができた時、その提案が成果につながった時が一番嬉しいですし、やりがいを感じます。
また、自分たちで日々検証を繰り返し、標準化された高品質なサービスを作り上げていけるのも、プラットフォーマーならではの仕事です。たとえば、誤出荷を減らすため、データに基づく施策立案と倉庫様との密な連携を前提とした実行力で、オペレーションの最適化・標準化を進めてきました。主体的に課題を抽出し、ありたい姿の実現に向けて、試行錯誤しながら現状とのギャップを埋めていく営みは醍醐味の一つです。
現場を知る物流のプロフェッショナルが集まるだけでなく、大量のデータからソリューションを構築している、というのもオープンロジの強みだと思います。高い専門知識を持つ“人”と、“大量のデータ”。その二つが掛け合わさることで、本質的に社会課題を解決する最適なソリューションが生み出せるのです。
倉庫様のキャパシティや品質、コスト、リードタイムなど、多種多様な物流ネットワークから得られるさまざまなデータを収集して評価し、生産性や採算性の向上につなげて「Triple win -三方良しの事業を創る-」(*4)を実現する。大量のデータと、EC事業者様のニーズと物流ネットワークとを組み合わせ、新たなソリューションを創出し、社会を一歩前に進めていくことができる。自分たちが信じる「これが社会全体にとって良い方法である」を検証し、実装していけるのは、オープンロジならではだと思います。
(*4)…オープンロジのバリューの一つ「Triple win -三方良しの事業を創る-」。オープンロジの目指す世界を実現するには、「パートナー」「自社」が力を合わせ「顧客(EC事業者)」を支えるという考え方。
入社前に知っておいたほうがいい「厳しさ」について「正直、泥臭い仕事も多い。そこは覚悟しておいたほうがいいと思います」と笠原さん。「例えば、全国の倉庫様を訪問し、データ取得のために業務フローをスタッフの方々と考えていくこともあります。当然、すぐに理解が得られないこともある。粘り強く交渉したり、関係を築いたり。自分自身で考えながら動く。当然、決まったタスクもない。会社のビジョン・ありたい姿に対し、いかに貢献ができるか、自分たちの仮説を形にしきれるか。こういった部分は求められると思います」
目指すは「物流に変革を起こしたのはオープンロジ」と言われる存在
最後に、今後実現していきたいことがあれば教えてください。
私たちのシステム、ソリューションは、山登りでいえば、まだまだ「2合目」くらいの段階だと捉えています。現場の方々も巻き込み、着実にアップデートしていきたいです。そして、ゆくゆくは「物流に変革を起こしたのはオープンロジ」と言われるようなプロダクト・サービスを、仲間たちとつくっていきたいと考えています。
特に私たちが見据えているのは、モノの動きをデジタルに捉え、最も効率的・低負荷な方法で届ける「フィジカルインターネット」な世界。当然、物流はレガシーで巨大な産業なので、長い歴史の中で強く結束した状態を解きほぐし、新たなネットワークを構築するには、かなりの時間がかかるでしょう。
ただ、EC事業者様、倉庫などの全てのパートナー企業様を含めどんどん理解者が増え、成功事例が積みあがっていくなかで「自分たちが歩いている方向は間違っていない」と信じられるフェーズに来ることができました。ビジョンを共有する仲間と、途方もないと思われるゴールに向かって歩いていく過程そのものが楽しいとも言える。物流のより良い未来へ、楽しみながら一歩一歩近づいていければと思います。