2022年は推計人口増加数が静岡県内でトップ*、例年、出生率・年少人口数も県内トップクラスを誇る袋井市。若者世代から「住みやすいまち」として支持される同市が、今回初となる「産業戦略官(部長級)」外部人材公募を開始した。なぜ、今回新たに外部から産業戦略官を採用するのか。募集の背景、期待、そしてビジョンについて大場規之市長に伺った。
(*)デジタル戦略局 統計調査課 令和4年 静岡県推計人口年報より。(2023年は増加した市町なし)。全国の自治体で人口減少社会に突入しているなか、静岡県袋井市は現在人口維持(微増)で推移し、県下23市で唯一の人口増加自治体となっている。
今回、初となる「産業戦略官」公募を実施する袋井市。まずは同ポジションの募集背景から大場市長に伺った。
私が市長に就任してから3年が経過したのですが、選挙にあたり、公約に掲げていた大きな柱の一つが「産業活性化」であり、地域のにぎわいの創出です。
とりわけ、私が市長に就任したのはコロナ禍の真っ只中であり、日本全体が非常に厳しい経済状況に置かれていました。あの時、多くの方々が、改めて経済の重要性を強く感じていたのではないでしょうか。袋井市でも、将来に向け、どのようにして持続可能なカタチで地域を発展させていけるのか、非常に重要なテーマとなりました。
もちろん市長という立場ですので、喫緊の課題にも対応し、バランス良く市政の発展のために尽くしてきたところでもあります。同時に、私を市長に選んでいただいたからには、市民のみなさまにも非常に大きく期待をいただいている「産業活性化」という約束を果たしていきたい考えです。
また、行政的な視点から言えば、これまでは国・県から降りてきた政策を順当にこなす、いわば「横並びの行政」で成り立っていましたが、それはもう通用しない時代と言えるでしょう。社会の課題が多様化・複雑化するなか、地域ごとに最適な取り組みが重要です。そして、それぞれが生き残りをかけ、いかに産業と地域の活性化に取り組んでいけるか。それもまた「横並び」とならないよう、どれだけ地域のメリットを活かし、独自性が発揮できるか、あらためて問われていると考えています。
もう一つ、私個人としても企業誘致・産業誘導はぜひ取り組みたい領域でもあります。というのも、私自身、民間出身であり、企業経営などさまざまなキャリアを積んできました。たとえば、建設会社の役員をしながら、ライフワークにも近いカタチで、大手アパレル企業の出店支援、医療・介護施設の建設支援などに携わったこともあります。そういった知見やノウハウを生かしていきたいです。
袋井市役所内では、今まさにこういった「産業活性化」を推進していくための体制構築しているところでもあります。この大きなテーマに向き合う職員のモチベーションも非常に高いです。あとは目指すべき方向性を一つにし、職員を束ね、具体的な策として強力に推し進めてほしい。それがまさに今回公募をさせていただく「産業戦略官」のポジションです。
「私自身も民間出身。役所・行政を特別視せず、フラットにぜひご応募いただければと思います。」と語ってくれた大場市長。「さまざまな組織で仕事をしてきましたが、本質はどこでも同じ。人と仕事をしていく上で、自分本位ではなく、みんなで喜びを分かち合う。そういった姿勢や向き合い方を大切にできる方であれば、ご活躍いただけると考えています。」
なぜ、袋井市は静岡県下23市で唯一の人口増を実現できたのか。その背景には昭和40年代以降に行なってきた大手製造業の企業誘致、民間資本による生活サービス・商業施設の立地、さらに公共・民間による宅地供給の展開などがバランス良く進み、好循環な地域経済が形成されたことが背景にあるようだ。ただ、「その状況に甘んじてはいない」と大場市長は語る。
確かに静岡県内でいえば、これまでは人口を増やすことができ、「住みやすいまち」として評価をいただいてきました。ただ、それはこれまでの成果であり、中長期的には他の市町と同様に減少局面に入り、生産年齢人口(若者世代)減少も課題となるでしょう。その下げ幅をいかに抑えられるか。そして早期に地域の活力を増し、若者世代に魅力的な仕事と雇用を創出していけるかが勝負です。現在、全国の自治体が口を揃えたように「地域活性」「企業誘致」と言っているわけですが、「やっぱり袋井市でやろう」という状態にするにはどうしたらいいか。市としては若者世代に支持されているアドバンテージを生かし、中長期的な先行投資を強化していく予定です。
そういったなか、具体的に「産業戦略官」に期待する役割とは。
主にはこれまで進めてきた第2次産業(大手製造業など)の企業誘致に加え、新たに第3次産業(商業・観光・IT企業等)の誘致、起業家・スタートアップの育成支援などで行動力・営業力を発揮し、牽引していただきたいです。また、培ったキャリアや経験を、在籍となる産業部(産業未来課・商業観光課・農政課)職員たちの人材育成・指導にも活かしていただければと考えています。市の職員はどちらかというと、地域のことを知り尽くしたスペシャリストと言えます。一方で他の地域との比較や、第三者的な評価などはなかなかできていない部分です。そういった点でも、外部から見た袋井市のポテンシャルの発見、客観的なアドバイス、模範的なアクションなどにも期待しています。
ちなみに今回採用される方の役割として、第2次・第3次産業にフォーカスさせていただきましたが、袋井市全体での産業構造からいえば、第1次産業(お茶・お米・クラウンメロンの生産)含め、非常にバランスが良く、さまざまな成長の可能性を秘めているのではないか?と思案しています。産業分野や固定観念に縛られず、さまざまな分野を有機的につなぎ、総合的に「働く場」を生み出していきたい。まさにそれこそが産業活性化であり、その総合力こそが独自性にもつながるのではないかと考えています。
袋井市内にある収容人数5万人以上を誇る「エコパスタジアム」。陸上、サッカーなどのスポーツ、さらに芸能文化(有名アーティストのライブ多数開催)までさまざまなイベントの舞台として活用されている。「エコパは県下最大級のスタジアムです。現在も多くの方に来場いただいていますが、新たな産業へとつなげていくポテンシャルもまだまだあるはず。たとえば、近くには散策道や豊かな自然もあり、スポーツツーリズムや観光に結びつけていくことなども検討ができるかもしれません。エコパはあくまで一例ですが、ぜひお持ちのネットワークや知見、発想を活かした企画・実行に期待しています。」
そして伺えたのが、今後のビジョンについて。袋井市が目指す理想の姿とは――。
当市は「チャレンジ&スマイル」を合言葉に、市民と共に明るい未来を切り拓く市政を運営してきました。ですので、抽象的ではありますが、あらためてそれを一人でも多くの市民が実感できる状態を目指していきます。なぜ、「スマイル」だけではなく「チャレンジ」か。やはりチャレンジングな地域は魅力的ですよね。「楽しそうだ」「仲間に入りたい」「何かできることがあればやってみたい」と思っていただけることには非常に価値があります。世の中、どれだけ暗いニュースがあったとしても、少なくともその地域にはチャレンジと笑顔がある。元気で前向きであれば、若い世代のみなさんを中心に「いいことがありそう」と将来への希望も感じられるはずです。
そして最後に伺えたのが、市長自身の仕事観について――。
市長に就任して3年が経ちますが、改めて思うのは市長とは「未来をつくる仕事」であるということです。職員や市民、そしてさまざまな機関や事業者のみなさんと一緒に、20年後どうあるべきなの、100年後どうありたいか。みんなで考え、未来に向けた「種まき」をしていく。もちろん目の前の課題解決にも取り組みますが、やはり「未来」のために今私たちはここにいると捉えています。その先頭を歩き、切り拓くのが私の役割です。
市長になり、さまざまな評価を受ける立場になり、改めて感じることでもあるのですが、私自身は、常に将来のことを考えているように思います。「未来を生きている」と言ってもいいかもしれません。その原動力にあるのは「もっとこうありたい」「こうであってほしい」という、私のなかにある「将来に対する欲」です。簡単にいえば、現状に満足ができないのでしょう(笑)良く言えば「現状に甘んじない」ということを大切にしてきました。
ただ、それは現状の否定ではありません。「では、どうしたらいいのか」「どういった解決方法があるのか」と現実的に考え、建設的に議論し、変化を起こしていく。このあたりは民間企業で働いていた時代の成功体験が生きていると思います。もちろん私一人ではなく、多くの人たちの助けを借りながら、主体者となり、変化を起こし、多少なりとも現状、そして未来を変えてきた自信があります。民間企業でもできたのだから、袋井市でも、職員をはじめ、仲間たちとであれば、必ずできると私は信じています。今回入庁いただく方ともそういった志を共に、明るい袋井市の未来をつくっていきたい。きっとそれは実現します。ぜひ力を合わせて頑張っていきましょう。
大場市長に聞く「産業戦略官」に求める能力・マインドについて
ビジネスや商いは誰かの「一人勝ち」では成り立ちません。ステークホルダー全員が「やって良かった」と最後に喜びを分かち合えるような施策の企画立案、そして実行に期待しています。特に企業誘致、産業誘導は、関係者が非常に多い。動く資金や社会への影響も大きいものとなります。ですので、いかにみんなが力を合わせ、プロジェクトを推進していけるかが成功の鍵を握ります。その上で大切なのは、コミュニケーションなどを含む人物面です。お互いに尊敬し、好きになること、そして信頼関係を築く。そうすることで経済的な利害を超えた「あなただから一緒にやりたい」というプラスが生まれていくはず。特に新しい未来を切り拓いていく仕事でもありますので「みんなをその気にさせる」「人を巻き込む力」などを重視したいと思います。
もう一つ、ぜひ失敗を恐れず、前向きなチャレンジを重ねていく姿勢に期待しています。その背中は職員たちの模範ともなると考えています。もちろん、そのためには失敗を許し合い、支え合える環境が必要です。仮に失敗したとしても再びチャレンジしたくなる、そういった組織や環境づくりも共に進めていきたいです。みんなで失敗や壁を乗り越えた時に、素晴らしい笑顔が生まれ、共に喜びを分かち合える。そういった「笑顔あふれるスマイルシティ袋井市」を共に実現していきましょう。