日本における「ものづくり中枢都市」である愛知県 豊田市。さらに森林、河川、田園なども広がっており「豊かな緑の街」としての顔も持つ。そういった同市において、初となる「専門フェロー」3職種の公募が行なわれる 。今回の公募に至った背景、入職者に期待する役割とは――豊田市の辻󠄀邦惠副市長の特別インタビューをお届けする。
世界屈指の「クルマのまち」であり、自然豊かな街としても知られる愛知県 豊田市。今回、市政初となる専門フェロー(副業人材)3職種の公募を行なう。募集に至った背景から、辻󠄀邦惠副市長に伺った。
はじめに、豊田市では、一人ひとりの「安心な暮らし」と「生きがい」、「つながり合える地域」をともにつくり、幸せを感じられる地域共生社会を理念として掲げ、実現をめざしています。このような社会を実現していくためには、医療・介護・福祉の支援を着実に提供していくことが重要です。ただ、それだけで本当に十分なのかとも考えています。高齢者や障がい者、子ども、外国人などのみなさんももちろんのこと、いかに多様な市民がつながり合い、自分らしく過ごしていけるか。私たちとしては、これまでの「福祉的に困っている人を支える」という関わり方に加え、興味や関心、楽しみを通じて、「人」や「活動」の輪を広げてつなぎ、ともに地域を創っていくまちづくりを進めたいと考えています。このような新たな関わりを生む「地域共生社会づくり」に外部からの専門フェローの方々と一緒に取り組みたく 、今回の公募に至りました。
続いて伺えたのが、それぞれの担当者に期待する役割について。
(1)福祉ブランディングアドバイザー
まず、福祉ブランディングアドバイザーは、広義のデザイン視点から、地域共生社会に向けて共感を生むための市民への伝え方や、関係者の理念や価値観などを結びつける形の提案や具体化を進めていただく役割です。市民などの共感を生むために、施策の可視化、伝え方の提案や具体化を職員らと一緒に進めていただけることに期待しています。ぜひ、一般的な福祉のイメージから脱却し、たとえば「面白そう」「楽しそう」「カッコいい」などの観点で、地域共生社会をめざす取組や活動などを市民やステークホルダーに伝え、いかに巻き込んでいけるか、そういった役割にチャレンジしていただきたいです。
(2)福祉支援アドバイザー
福祉支援アドバイザーには、福祉等の専門性を生かして、支援への客観的・具体的な助言役を担っていただきます。ケース会議への参加などを想定しており、市民への支援を行なう庁内各課の職員や各機関の担当者をサポートいただければと考えています。ぜひ具体的なケース支援を通じ、多機関が関わる体制をつくるところに力を発揮していただきたいです。
(3)人材育成アドバイザー
最後に、人材育成アドバイザーについては、ヒューマンリソース領域などの経験を生かし、福祉や子育て、まちづくり等部門の関連研修のプログラム化も含め、今後の人材育成体系の枠組みなど、専門的な知見からの提案をしていただきたいです。また、関連プロジェクトに参加し、学生実習をまち全体で受け入れるプログラムづくりにも関わっていただきたいと考えています。ぜひ若い人材を巻き込んだ持続可能な体制づくりにもチャレンジいただきたいです。
辻󠄀 邦惠(つじ くにえ)副市長
続いて伺うことができたのが、3職種に共通するやりがい・魅力について。
豊田市において「地域共生社会づくり」をテーマにしたソーシャルインパクト採用は初の試みです。地域共生社会に向けた仕組みや体制づくりには、決まりきった形はありません。そのため、チャレンジとアイデアが重要になるでしょう。そこには「民の視点」や力が必要になると考えています。こうした姿勢で取組を進めている豊田市でこそ、専門性を生かし、社会やまちを変えていくやりがいを直接的に感じていただけると思います。
また、働き方につきましても、現状は週1日勤務、1日当たりの概ねの勤務時間数も決めていますが、ご要望などを踏まえつつ、柔軟にすり合わせていければと考えています。副業として関わる方はもちろん、たとえば、育児、介護、配偶者の転勤などで定職を離れたものの、あらためてキャリアを生かしたい、まちづくりに関わりたい、そういった思いのある方々にもチャレンジいただきたいです。
昨年度、2000名の参加者以上を集めた「地域共生社会推進全国サミット」を豊田市で開催された。この際、全国で初めて地域共生社会推進の考え方として、太田稔彦豊田市長が「とよた宣言」を発出した。
やりがいの一方、ミスマッチしないためにも事前に知っておくべき厳しさ・注意点についても伺うことができた。
やはり行政と民間では考え方や進め方が異なり、ぶつかることがあるかもしれません。また、多くのステークホルダーを巻き込み、市民や企業などが主体者となってもらうために活動していきますので、当然、さまざまな意見の相違もあるでしょう。そのため、ぜひ対話やコミュニケーションを大切にして、業務を行なっていただきたいですね。業務経験や専門性だけでなく、豊田市というまちをどうしていきたいのか、そこにどう関われそうか、また思うように進められない際に他者や関係者とどう向き合うのか、このあたりはぜひ面談で伺えればと考えています。
続いて伺えたのが、副市長ご自身の仕事について。取組の一つひとつが、より良い市民生活への貢献につながっていく醍醐味がそこにはあるという。
私自身、市職員として長く働いてきたのですが、たとえば、青少年育成、福祉・医療、企画、生涯学習など、いくつかの分野に携わってきました。さまざまな立場で、関係するみなさんと地域課題の解決に向き合うことができ、それは自分にとって大切な財産となっています。非常に印象に残っている仕事でいうと、市民にとっては身近であるけれど専門性の高い地域医療提供体制について、医療の専門家の方々と協議し整理したことや、また、近隣自治体の住民や職員のみなさんに強い思いがある中で、それぞれの立場や思いを汲み取りながら協議を重ね、市町村合併に向けた調整を進めたことも忘れられません。たまたま、つい最近、障がい当事者団体の方から、障がい者の移動に関する過去の取組について、「あの時の取組が今の活動を支えるきっかけになっている」と思いがけず伝えられたこともありました。当時、さまざまなことに悩み、葛藤や壁もたくさんありましたが、未来を信じ、市民の皆さまのために取り組んだことがこうして今につながっていると知ることができ、とても嬉しかったですね。
そして最後に伺えたのが、ご自身の仕事観について。副市長にとっての「仕事」とはどういったものなのだろう。
時代が変化していく中、市民の暮らし、地域社会の在り様における「めざす姿」を実現していく。そのための取組を組み立て、具体的に実践していくことが、私にとっての「仕事」と捉えています。
豊田市は今、まちづくりの前提を大きく変える(これまでの「人口増」から「人口減」を前提としたまちづくりとする)タイミングにあります。これまでの枠組みの見直しも必要です。「そもそも論」から整理することも重要になってきています。だからこそ、市民をはじめ、専門家、事業者など、今まで以上にさまざまな方々を巻き込み、力を合わせ、「めざす姿」を共有し、状況確認や意見交換、擦り合わせを行ないながら、新たな発想でどんどんチャレンジしていきたい。その過程は容易ではないと思いますが、どのような新たなつながりやチャレンジが創られてくるのか、とてもわくわくしています。今回入職くださる方にも、ぜひそのわくわくを共に感じていただければと思います。