商船三井が、2026年4月入社に向けたキャリア採用を開始。今回は2022年9月に入社した鹿又美里さん(29)を取材した。もともと、総合印刷会社で働いていた彼女は、なぜ商船三井に転職したのか。そこには「営業としてダイナミックな取引に関わり、エネルギーインフラを支えたい」という思いがあった。
商船三井
140年以上の歴史を持つ日本の総合海運企業グループ。900隻を超える世界最大級の船隊を保有し、鉄鉱石や原油、LNG、自動車、コンテナ貨物など、あらゆる物資の輸送をグローバルに展開。2050年までのネットゼロ・エミッション達成に向けて、LNG燃料船の導入やアンモニア燃料船の開発など、脱炭素化に向けた環境技術で業界をリードしている。また、近年は海運事業に加えて、海洋事業や不動産事業、クルーズ船事業に投資するなど「非海運事業」にも注力。事業の柱の1つとして強化している。
「社会インフラを支えるダイナミックな仕事」に惹かれて
総合印刷会社を経て、2022年に商船三井へ転職した鹿又さん。全くの異業種に飛び込んだ背景には、どのような経緯があったのか。
前職は、印刷会社で営業として充実した日々を送っていました。ただ、4年にわたりさまざまな業界の企業を担当するなかで、自分の志向が少しずつ明確になっていったんです。特に私がやりがいを見出していたのは、「社会インフラに関わるテーマ」そして「取引規模が大きく中長期的な視点で関係を築ける案件」。次第に、もっとそういった仕事に深く携わりたいという気持ちが芽生えていきました。
こうした中、偶然アンビの広告バナーで商船三井が募集をしていることを知りました。2022年当時、海運業界は社会的に大きな注目を集めており、日経新聞などで商船三井の社名を何度も目にしていました。漠然と「勢いがあってダイナミックな仕事ができそう」というイメージを抱いていたこともあり、直観的に広告をクリックしたのを覚えています。
そして、本格的に情報収集を進めていくうちに、いかに海運業と社会インフラの結びつきが強いかを実感し、ますます惹きつけられていきました。ここなら、大規模な社会インフラプロジェクトに関与することが出来るかもしれない。これまでとは桁違いの規模の案件に挑戦できるかもしれない。知れば知るほど、自分のやりたいことに合致していると感じ、志望度はどんどん高まっていきました。
また、選考では、思った以上に和やかな雰囲気だったことも印象に残っています。なぜ異業種から海運に興味を持ったかといった話はもちろん、大学時代のサークルの話にまで会話が広がり、私の人となりを深く知ろうとしてくれている姿勢が伝わってきて、とても嬉しく感じました。こうした丁寧なコミュニケーションを経てご縁をいただき、入社を決めました。
鹿又美里
2018年新卒で総合印刷会社に入社し、クレジットカード会社向けの法人営業として従事。2022年9月に商船三井へ。現在、ドライバルク事業本部 電力炭事業部 電力第二チーム 主任。
初のLNG燃料石炭船でのミッション
2022年に入社した鹿又さん。その仕事内容について、特にやりがいを感じたエピソードと合わせて伺った。
入社以来、電力炭事業部にて、国内電力会社向け石炭輸送船のオペレーション業務と、顧客との折衝、それによって貨物を獲得し案件化していく業務を担っています。
なかでも、2023年に商船三井初となるLNG燃料で航行する石炭輸送船のプロジェクトに関われたことは、私にとって非常に貴重な経験でした。近年の「脱炭素」の潮流を受け、当社では「安定した燃料輸送」と「環境負荷の低減」の両立という課題に挑んでいます。LNG燃料船は、まさにその象徴とも言えるプロジェクト。この船に関わることで、次世代の海運を担う仕事の意義を実感しました。
また、このプロジェクトでは、これまでになく新しい知識や経験を得ることができ、とにかく刺激的でした。本船は従来の重油焚の船とは構造が異なるため、オペレーションも未知の領域。新しい船なので、そもそも船が港の設備や岸壁に問題なく対応できるのかといった基本的な確認・調整から手掛ける必要があり、すべてが初めての経験でした。
さらに「海上公試」と呼ばれる、船の試運転にも立ち合うことができました。実際に船の中で3泊4日を過ごし、船長や海技員のみなさんが、何十項目もあるテストを朝から晩まで進めていく。この過程を通して、船の奥深い魅力に気付かされ、一体感も生まれていったように思います。そして、怒涛のテストを経て竣工式を迎え、遂に造船所から船が出航していく様子を目にしたときの感動は、今も忘れられません。
もともと人と関わって働くことが好きな私にとって、仕事は「1人では成し遂げられないことを実現していく手段」と捉えているのですが、商船三井での仕事は、まさにそのものだと思います。
もちろん、一人の力だけでは船を動かすことはできません。商船三井という環境だからこそ、まだ前例のない先進的な船でさえも動かすことができる。これこそが、この仕事の醍醐味だと感じています。
もう1つ、転職して感じるポジティブな変化について「世界で起きている問題を自分ごととして捉えられるようになった」と語る。
これは私のもともとの気質かもしれませんが、世界で起きている出来事から目を背けず、常に関心を持ち続けていたいという思いが強いタイプです。だからこそ、2022年にロシアとウクライナの戦争が始まった時、まだ前の会社にいたのですが、非常にもどかしい気持ちを抱いていました。世界が大きく動いている一方で、私の生活や仕事は驚くほど平穏で、まるで別の世界のことのようで。その安全は恵まれていることだと分かりつつも、世界から断絶されているような感覚に「本当にこれでいいのだろうか」と、自問自答する日々でした。
一方、海運業界で働いていると、良くも悪くも世界情勢・自然災害などの影響をダイレクトに受けます。それによるトラブルなども日常茶飯事ですが、だからこそ、今の仕事は自分と世界が地続きで存在していることを実感できているように思います。
たとえば、2023年~2024年ころにかけて、海運の大動脈であるパナマ運河は干ばつの影響を大きく受けていました。先日その特集がTVで放送されていて、非常に興味深く見ている自分がいました。こうした世界で起きている出来事を、以前よりも身近な問題として捉えられるようになったと感じています。自分の意識が、少しずつ広がり、これまであまり関心がなかった分野にも自然と目が向くようになりました。広い視野を持つことで、世の中の動きに敏感になり、自分自身の成長にもつながっていると実感しています。
やりがい・醍醐味の一方で「厳しさ」について、「これは海運業界全体に言えることだとは思いますが、船は24時間・365日運航しており、不測のトラブルも発生するので、土日祝日や深夜に対応が発生することはあります」と話す鹿又さん。「常に電話に出られる状態にしておく必要があるので、人によっては厳しいと思うかもしれません。また、取引規模が桁違いに大きいため、どこで燃料をどれくらい積むかといった判断1つでも、収益・損益を大きく左右します。そのスケール感に慣れるまでには少し時間がかかりました」
鹿又さんの転職前後での働きがいの変化を示すグラフ。
エネルギー輸送を通じ、社会インフラを支える
そして、今後の目標について、こう話してくれた。
これからも引き続き海運事業に携わり、エネルギー関連事業に関わっていきたいです。今は石炭を運ぶバルカーという船を担当しているのですが、原油などを運ぶタンカー、天然ガスを運ぶLNG船にも挑戦していきたいですね。
そして将来的には、次世代のクリーンエネルギーで動く船やその運航に携わりたいです。現在、エネルギー業界全体としてはCO2の排出量の削減という課題に直面しており、商船三井でもアンモニアや水素などの次世代のクリーンエネルギーを燃料とする船の開発が進んでいます。そういった未知の課題にも果敢に挑み、エネルギー業界の課題解決に少しでも寄与できるような存在になれたらと思っています。
一貫してエネルギー領域への高い熱量を持ち続けている鹿又さん。彼女をつき動かす、その原点とはーー。
中学校3年生の時、地元である宮城で東日本大震災を経験したことは、私の大きな原点になっていると思います。当時、電気やガスといったインフラは全て止まり、日暮れとともに眠り、日の出とともに起きる生活が続きました。食事も、蝋燭の灯りを頼りにするしかありませんでした。その経験を通じて、当たり前に使っていた灯りや冷暖房が、決して当たり前ではないことを身に染みて感じたんです。それ以来、「人々が生きていく上で必要不可欠なものに関わりたい」という思いが、ずっと心の奥にありました。
その思いがあるからこそ、今、商船三井でエネルギーインフラに関わる中では、「この仕事はやる意味があるのだろうか」といった迷いが生じたことはありません。どんな業務であっても、その先に社会的な意義をはっきりと見出すことができます。この気持ちを胸に、これからも社会に貢献していきたいです。