AIリクルーティングプラットフォーム「HERP」は、人材業界が抱える大きな課題を解決するかもしれない。採用担当者の事務作業を自動化し、多くの企業の戦略的な採用活動の支援を目指す。創業は2017年3月、2018年1月にリリースしたβ版は、数十社が利用。そして2018年8月、開発と同時に組織としてマーケティングとセールスを強化するフェーズへ。組織立ち上げ/コアメンバー募集に併せて代表取締役CEOの庄田一郎さん(29)にお話を伺った。
特別連載【FUTURE】
ドローンやVR、キャッシュレス化、仮想通貨・ブロックチェーン技術…目まぐるしく変化する時代において、それぞれの企業が未来に向けて仕掛ける新規事業・サービスに焦点をあてていく特集連載です。日本を代表する大手企業からベンチャーまで。イノベーティブなプロジェクトのリーダーを取材し、事業の狙い&ビジョンに迫ります。
「いま、経営において“人材採用”こそが大きな戦略の鍵を握るものになっています」
こう語ってくれたのが、HERP社CEOの庄田一郎さんだ。
「特に課題となっているのが、採用活動における非効率な業務です。例えば、多くの企業は応募者の情報などをExcelに入力し、管理をしている。採用難が続く中で、いかに優秀な人材を確保するか。複数媒体で求人掲載し、さらに人材紹介会社も活用。社員紹介、自社HP運用、求人検索エンジンへの配信設定、さらにメールなどの連絡、応募書類の管理…採用担当者にとって、時間はどれだけあっても足りない。ここを解決することが、人材業界にとって、企業経営にとって欠かせません」
じつは庄田さんは、もともと人材業界の出身、さらに人事担当者として働いてきた経験を持つ。
「人材業界/採用領域をテクノロジーで変えていきたいんです。例えば、企業がエージェントや求人メディアに情報を提供し、採用が決まったら料金を支払う。エージェントや求人メディアに情報が偏り、企業や求職者が得られる情報は限定されている。もっと企業自身が情報を簡単に取得できて、分析できれば、情報の非対称性を解消できると考えています」
自身の原体験こそが、その志の根底にはあるー。
株式会社HERP 代表取締役CEO 庄田一郎/京都大学法学部卒業後、リクルートに入社。エンジニア新卒採用に従事する。その後、エウレカに採用広報担当として入社し、責任者を経験。2017年3月にHERPを設立した。
彼の関心は、いかに人事・採用担当者が本来やるべき人材要件の定義や採用戦略の策定などの考える時間を創出できるか、にある。
「人事はよりクリエイティブな仕事をしていくべき。ただ、日々やらなければならない事務処理も多い。ここに常にジレンマがありました。最適化されたツールも日本では見当たらない。であれば、応募者とのやりとりからデータ管理、さらには分析まで完結できるプラットフォームを自ら作ればいい。それが『HERP』の原型です」
『HERP』が実現していくもの、その詳細について伺えた。
「まず『HERP』で実現するのは、人材採用に関するあらゆる事務作業の自動化。特に強みとなるのが、効率化を重視するWeb系企業の業務フローに適したUXとなっていることです。これは私自身が長くWeb業界のHRに携わってきたからこそ開発できるものだと思っています」
具体的に提供して行く機能としては、
・候補者情報の自動取得/求人媒体との情報連携
・候補者とのメッセージの一元管理
・募集記事の一括投稿
・新着の応募情報等をSlackで通知 etc
実際、導入企業では、事務作業の時間を半分以下に削減した実績もある。
「アメリカでは企業における採用管理システム(ATS)導入率は75%。ただ、国内での導入率は約2%に留まっている。これからさらに必要とされていくのは間違いない。大きなポテンシャル秘めたマーケットだとも言えると思います」
同時に、庄田さんが構想するのは、単なるATSではない。
「戦略的な採用活動にフォーカスできる、新たな仕組みを提供します」
彼らが掲げているのは「Open Recruiting API構想」。利用企業が持つ求人、候補者データを、API経由で採用媒体やエージェントと適切にやり取りできるというもの。もし、この構想が現実となれば、人材採用におけるフローそのものが劇的に効率化される。
AIリクルーティングプラットフォーム「HERP」
求人媒体と自動で情報を連携し、候補者情報の自動取得、候補者とのメッセージの一元管理、求人票の一括投稿などを行なうことを可能とした採用管理システム(ATS)。さらに「HERP」により実現していく業界のあり方として「Open Recruiting API構想」が掲げられている。利用企業が持つ求人、候補者データを、API経由で採用媒体やエージェントと適切にやり取りできるというもの。特にスタートアップの経営や採用戦略に携わるキーパーソンが、賛同を表明している。
もうひとつ気になるのが「AI」の活用について。世の中的にはバズワード化している部分もあるが、『HERP』ではどのような活用がされていくのか。
「特に機械学習において企業の採用手法のレコメンドおよび人材のマッチングに役立ていけると考えています。まだ実験段階ですが、例えば、それぞれの企業が蓄積したデータをもとに、面接から内定までのコンバージョンレートを見て、内定の可能性をAIが判定していく。また、適切な求人媒体の選定や入社後の配属レコメンデーションなどにも活かしていけると考えています」
同時に庄田さんは「AIはあくまでも手段」と語る。
「本質的に重要なのは、いかに正確なデータを人事や採用担当者、経営者が手にできるか?という部分です。求人募集、採用は企業が個人情報を入手する入り口。だからこそ、採用時における正確なデータ取得が欠かせない。その後の社員データにもなるのですから」
つまり「有意義なデータの活用」こそが彼らが志向する部分。
「いま、ほとんどの企業において、内定における適切なコンバージョンレートやCPAについて把握ができていない現状があります。それは正確な情報取得が難しい上に、十分にデータの活用ができていないから。情報が集約されるプラットフォームとなることで、データを活用した新たな採用の形をつくる。採用プラットフォームとしてデータを蓄積し、戦略的な人事データの活用を推し進めたいです」
「HERPは求人メディアや人材紹介事業を行なわない、いわゆる第三者のポジション。だからこそ、採用業界の構造を中立な立場で変革して行く存在になれる。さまざまな企業と連携し推進していける」こう語ってくれた庄田さん。Web業界でもHRに力をいれる企業が、その普及に期待を寄せている。
解決したい課題がある。そのなかでもなぜ彼は「起業」という選択をしたのだろうか。
「出来上がった会社で働くより、今から新しくつくった方がおもしろいじゃないですか」
庄田さんの行動原理はシンプルといってもいいのかもしれない。
「私は飽きやすいところがあるのですが、仕事だけが唯一飽きずに続けられる、本当に楽しいことなんです。心から最高に楽しい、気持ちいいと思える瞬間って…もしかしたら仕事でしか感じたことがないのかもしれません(笑)」
そして未来について、楽しそうに語る姿が印象的だった。
「これまで開発に力を入れてきたので、今はまだセールスもマーケティングのチームもない状態です。控えめにいって…SaaSのセールスチームをゼロからつくる、すごく価値の高い経験が積める環境だと思っていて。ビジネスって自分たちでつくるほうが圧倒的におもしろいんですよね。ルールがあるようでない。やろうと思えば、やりたいことが全てできる。誰も考えなかったようなゴールを作って目指す。ルールからつくっていくスポーツみたいなもの。そこに楽しみを見出し、アドレナリンが出る瞬間を共有したい。そういった価値観を共有できる仲間と一緒に働いてみたいですね」