全国初(*)となる窓口での手数料QRコード決済、採用時のWEB面接(前年度比約30倍の応募)、LINE@を使った道路の損傷通報システムなど、先進的な取り組みが注目される大阪府四條畷市。同市の改革を牽引するのが、市長である東修平さん(30)と、2017年10月に副市長に着任した林有理さん(38)だ。「まずは市役所の組織変革から」ーー林副市長、着任1年半を追った。
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人口減少に悩む地方、全国の市町村にとって「大阪府四條畷市」は新たなロールモデルとなるかもしれない。
全国的な傾向と同様、これまで人口減が深刻な課題となっていた同市に、改善の兆しが見え始め、11年ぶりの転入増となった。
副市長である林有理さんはこう語る。
「四條畷市の人口流出は年々少なくなってきています。東市長が着任したのが2017年1月。2018年度は流出率を約12%減らすことができました。市全体の取り組みが少しずつ実を結んできた形だと捉えています」
「日本一前向きな市役所」を掲げる東修平市長のもと、市役所職員たちを中心に、さまざまな取り組みが注目される四條畷市。
大阪府内でも先駆けとなる、ユニークなものも多い。一例としては下記のようなものがある。
■四條畷市公式LINE@活用(道路の損傷を市へ通報、その後の対応をHPで確認できる)
■市役所窓口でのQRコード決済
■公民連携による、子どもの見守りサービスの導入
■自治体のネット番組配信
■市民協働の新たな形として『なわてオクトーバーフェスト』『コーヒーフェス』などの開催
■子育てマップの作成&配布(その店舗を利用しなくても、ミルクのお湯がもらえたり、オムツ交換ができたりするところがわかる)
加えて、受動喫煙防止条例(道路全面禁煙)制定、その他都市整備なども進む。
こういった改革が進められている裏側で「まずは市役所から変わらなければならない」と考え、組織改革に取り組んだ林有理さん。副市長着任から1年半、彼女が果たしてきた役割に迫った。
[プロフィール]林有理/1980年生まれ、大阪府出身。慶応義塾大学総合政策学部卒業後、2003年、リクルート入社。2007年より『スーモマガジン』編集に携わり、不動産情報の提供に従事。2011年1月より住宅情報誌『スーモマガジン』編集長へ。住まい研究所(旧リクルート住宅総研)主任研究員兼務。まちづくり分野のフィールドワーク、講演、研究活動に携わるなかで「当事者として、まちづくりに参画したい」という志のもと、2017年10月1日、四條畷市×エン・ジャパンの公募プロジェクトを通じ、大阪府四條畷市初の女性副市長に着任。2歳の娘の子育てと市政の業務を並行する、ワーキングママ。
「東市長が掲げる改革を成し遂げていく。そのために、まずは四條畷市役所を強い組織へと変えていくべきだと考えました」
民間から市政へ。初の女性副市長となった林さんが、着任後すぐに取り組んだのは、組織改革だ。
「私は、市長が掲げるビジョンに共鳴して入庁しました。彼のビジョンを最大に叶えることが私の役割。市長はスピード感が非常に速い方なので、そこに対応できる組織に変えるべきだ、と」
副市長は、市長たる長の補佐していく。“長の命を受けて政策を立案し、企画を統括していき、事務を統括する職員を司る人間である”とされる。
「地方分権一括法が施行されたのが約20年前。地方の力を強くし、国の管理を少なくしようというものです。いわば「経営者はあなたたち」と国から言われているみたいなものなんですよね」
机上ではなく、その意識を市役所に根付かせていく。そのためにまず取り組んだのが、1)全事業の「把握」(ヒアリングして事務・事業の全体把握)、2)一元管理の「体制づくり」、3)定例化して進捗確認すること だった。
「私のモットーの一つが「着眼大局、着手小局」。与えられた任期の中で戦略的に進めていくために、まず市役所版の“取締役会”を発案させていただきました。民間でいくと経営ボード、そこを固めていく。市役所は国の監督省庁が違うということもあってか、想像以上に縦割り。ですが、これからの都市経営は、子育て政策一つとっても、福祉部門はもちろん、都市整備や公民連携的な企画部、教育委員会など課題は多岐に渡ります。単一の部署だけでは解決できない。そこにスピードを求めるために、部長クラスの責任者たちが一致団結することが不可欠だと考えました」
彼女が発案した週1回の部長会議。はじめは上手くいかないことの方が多かったという。
「まず全ての部署で“この1年で何をするのか”を書き出し、いつまでにどのような作業をするか、リスト化をしてもらいました。そして500以上ある事務事業の主要150程度に対し、30分で全て確認していく。まずは「進捗しています」「遅れています」の一言でいいんです。ただ、議論が始まってしまうなど、はじめは全く上手くいきませんでしたね」
ただ、半年間、続けていくと組織に変化が訪れた。
「次第に、それぞれの部署が何をやっているか可視化され、一致団結してあたるような案件に対して、意見交換が活発になっていきました。視野が皆さん広がってきた。「こうしてはどうか」という改善提案も出てきて。会議そのもののあり方にしても、自分たちで考えて決めていく。「私たちが目指している市とは、どのようなものか」、「市長が掲げる”日本一前向き”とはどういったものか」など部長クラスでの素地を固めていきました。まだまだ続けている最中ですが、ようやく都市整備やその政策を迅速に前へと進められる素地は整ってきたと思います」
こういった組織変革に取り組みつつも、一方では母としての視点で子育て政策にも取り組んできた林さん。
今年度はさらに政策の企画立案にも力を入れていくという。特に「わくわくしているプロジェクト」という視点で「子育て政策」と「都市整備」への取り組みについて伺った。
「人口の減少に対し、何ができるのか。ここは至上命題です。考えるべきは、今まで転出するのはどういう世代か。どうしても若者たちが出て行くことが多かったんです。そういった世代に向けて、“ここで自分が20~30代を過ごして家庭を持ちたい”と思ってもらえるようにする。まずはここの流出を食い止めたい。そこに向けて小さなことも含めて手を打ち続けてきた1年でした」
市として行なったのは、どうすれば子育て世代が暮らしやすい街にできるか、徹底して考えていくこと。たとえば、「子育てプロジェクトチーム」を結成し、子育て重点施策を取りまとめていったという。そこで集まった声としては、
「受動喫煙が心配」
「道が狭く、ベビーカーで歩ける歩道がない」
「子どもたちを遊ばせる公園が少ない」
などがあった。ここに対して、一つずつ解決に向けて取り組んでいる。
受動喫煙防止条例の制定は形となった実績だ。
公園に関していえば、いかに増やすかだけではなく、公園を使う人々が快適に過ごせるような形で管理していくか。ここの取り組みもスタートさせていく。
「国定公園が2/3を占める四條畷市ですが、市街地には緑が少ないんですよね。やっぱり適正な緑の量っていうものは、人間の居住の快適性に直結します。そして、その緑を身近に感じながら、子どもを公園でのびのび遊ばせたい。今ある公園をどういう風に活かしていくのか。どのように地域の人たちと協働で管理し、魅力あるものにできるか。地域とワークショップをしながら、モデル地区をつくっていく。自分たちの手で、自分たちの欲しい公園の形を決めて、つくっていく。維持管理を自分たちの手でしていくのか、していかないのか、ここも含めて市民の皆さんの意志を尊重しながらやっていきたいと考えています」
行政はあくまでも「協働」する。そこでプロのファシリテーターがワークショップを担当していくそうだ。
「やっぱり行政が前に出ていってしまうと、市民さんから直接意見をもらう構造になりがち。そうではなく、私たちもそばについて共に議論に入っていく。みなさんが当事者になっていく。それがこの夏から始まるのですが、すごく楽しみですね」
「受動喫煙防止条例の制定」「子育てマップの配布」「保育園のオムツの持ち帰りの廃止」なども実施。子育てプロジェクトチームでより詳細なアンケートを実施したり、市長による各地区での「市民対話会」で声を集めたり。自身が子育てをしながら実際に感じたことも施策に反映されている。
もうひとつ、林さん自身が今年度、取り組みたいテーマとして掲げるのが、都市整備だ。
「都市整備に関しては、これまでの「維持」という観点から、「より地元滞在時間の長い方(子どもと高齢者)にやさしい街に」という方針を打ち立てるところから取り組んでいます」
その場面において、とくに大切にしているのが、職員たち自身が「主体的に参加する」ということだ。
「都市計画に関しては、若手メンバーたちも積極的に絡んでくれています。たとえば、「子どもと高齢者に優しい道路」をコンセプトに、整備を進めていく予定なのですが、その前提として、「どのルートが歩きやすいか」「回遊性が高まるか」と、あらゆるパターンを出してくれていて」
「市民のみなさんにしても職員にしても、自分たちで考え、動かすことで未来はつくれるものだと考えています。「自分たちで楽しくつくる」というのがすごく大切。それが、私がやりたいと思っているまちづくりなのだと思います」
四條畷市の『子育てマップ』も彼女の発案で実施。お店の紹介と併せて「お湯がもらえる」「おむつが替えられる」など子育て中のママ・パパにやさしい情報を掲載。職員が一店一店、訪ねて歩き、情報を収集した。
もともと副市長になる前は、住宅情報誌の編集長だった林さん。全国を巡るなかで感じた「街」に対する課題意識が、彼女自身の歩む道に重なるようになっていった。
「街を楽しくしていきたい。稚拙ですが、ここに尽きると思っています。私たちの世代は、バブル崩壊以降に大人になりました。大きな震災も二度経験している。どこかネガティブな空気が社会を覆っていた時代でもあったと思うのです。そういった中、私たちの世代がどう社会を変えられるかが、肝になる。私たちの世代が屋台骨を支えなきゃいけないけれど、先人たちのやり方では通用しない時代。そんな時に全国を巡ると、キラキラと輝いて、その⼟地で、その街で⽣き、ポジティブに物事を変えている人たちがいた。取材を重ね、彼らを研究するうちに共通項も見えてきたし、次は当事者となってこうした経験をお役に立てたいと思いました」
そして、最後に伺えたのが、林さん自身の仕事観について。
「リクルート創業者である江副浩正さんの言葉で「自ら機会を創り出し、機会によって自らを変えよ」は、ずっと大切にしてきたものです。当事者となり、自分を成長させていく。付け加えると、それによって社会を良いものに変えたい」
市長、職員、市民、その間に立つことも少なくない林さん。利益相反する場合もあるだろう。いわば「板挟み」となり、苦境に立たされることもあるはず。それでも彼女は常に前を向く。
「もうひとつ、私が大切にしている言葉で『一切唯心造』というものがあります。“すべての物事は自分の心持一つで決まる”という意味。どのような出来事に対しても、ポジティブであり続けたい。楽しむものでもある。もちろん、大変だと思うことはありますが、すべて前に向かうためのもの。すべて受け止め、みなさんにとって最良の状況をつくり出す。最適なものに変えていく。ここに私自身の喜びがあるのだと思います」
2019年、改革をさらに前へ。林さん、そして四條畷市の挑戦は続くーー。
(*)参照
https://www.sankei.com/west/news/190115/wst1901150007-n1.html