貧困、人種差別、環境破壊といった世界の社会課題を解決する。さらに、ビジネスとして成り立たせていく。そういった取り組みを続けてきたのがボーダレス・ジャパンだ。すでに各国で課題解決に取り組んできた同社、その裏側にある仕組みとは?代表取締役副社長・鈴木雅剛さんを取材した。
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社会課題の解決を目的に行う「ソーシャルビジネス」。ボーダレス・ジャパンは、その「専門家集団」といえるだろう。
世界規模でソーシャルビジネスを立ち上げてきた同社。現在、12カ国で32事業を展開している。まずは実際の取り組みについて、少しだけご紹介したい。
・オーガニックハーブの契約栽培で貧困農家を支える(AMOMA natural care)
買取ったオーガニックハーブは、授乳育児中のママ向けブレンドハーブティーへ加工、販売。現在では、日本全国の産婦人科病院で紹介されるトップブランドに成長している。
赤ちゃんと母乳育児の専門ブランド AMOMA natural care│www.amoma.jp
・革製品の生産で貧しい人々の「働く」場を増やす(Business Leather Factory)
未経験や未就学を理由に、働く場のない貧しい人々に向けた取り組み。バングラデシュで本革製品の工場を設立し、女性や障がいのある人々をはじめ約700名の雇用を創出。国内16店舗とECを展開。
ビジネスレザーファクトリー│https://business-leather.com/
・地方で暮らす人を増やし、消滅可能都市を無くす(きら星)
まちと人をつなぐ、コネクティング・ハブ「きら星BASE」という体験型施設の運営。今の会社に勤めたまま地方暮らしを実現する「テレワーキング」、地方の中小企業で枯渇する「リーダーポジションへの転職」をサポートすることで、移住を促進。
ソーシャルビジネス紹介│きら星(ボーダレスグループ)
https://www.borderless-japan.com/social-business/kirahoshi/
ビジネスとしての成果も着実だ。
売上高だけ見ても、設立以来12期連続で過去最高を更新。グループとして総勢1,000名以上の従業員を数えるまでに成長を遂げている。
ボーダレスグループが手掛けてきた、ソーシャルビジネスの一例
ユニークなのが、その仕組みそのものだ。
時に "社会起業家養成所" と称されることもある同社は、「社会課題を解決したい」という志を持つ起業家のプラットフォームを作り上げた。
「ボランティアではなく、あくまでビジネスとして成功させることが、私達の目的。だからこそ事業プランは何回、何十回とチューニングを繰り返しながら、筋の良いものに仕立てていく。今まで32以上のビジネスを立ち上げたからこそ、どうすれば成功の軌道に乗せられるか、というナレッジが蓄積されているんです」
こう語ってくれたのが、ボーダレス・ジャパン副社長の鈴木雅剛さん。同社創業メンバーの一人だ。
そして実際の事業が動き出した後も、全面的にバックアップをしていくという。
「事業プランニングからマーケティング、バックオフィス業務まで、事業成功の上で必要なことは全力で支援していく。もしも新規事業をやるとなれば、起業家とともに会社の設立からマーケティング、オペレーション構築まで、がっつりとセットアップをしていくこともあります」
『サントリー』『ミスミ』『アマゾン』『リクルート』をはじめ、各業界の一線で走ってきたビジネスパーソンが集う同社。各々が専門を活かしながら、起業家とともにビジネスを作り上げる。
さらに、起業に伴う資金面のサポートも特徴的だ。
「グループの各社が集まって、スタ-トアップや事業拡大の際に必要な資金をシェアしあう。各社は独立経営を維持しながら助け合う、「相互扶助」のプラットフォームを作り上げているんです」
社会起業家たちのプラットフォーム
「経営が軌道に乗り余剰利益を生み出せた時は、新たな社会起業家へ投資する。社会起業家を成功に導き、さらに成功した起業家が次の起業家に恩を繋いでいく。そんな「恩送り経営」がボーダレスの本質です。(公式HPより)」
こういった仕組みを作り上げていった結果、この半年だけでも「8社」の新しい事業が産声を上げているという。
鈴木雅剛(40) 代表取締役副社長
横浜国立大学 大学院卒業後、株式会社ミスミに入社。入社直後から新規事業開発を担い、2年で売上高3億円の黒字事業へ。2007年、現社長の田口一成氏と共に、株式会社ボーダレス・ジャパンを共同創業。副社長としてファイナンス・コーポレート部門全般を扱うバックアップスタジオを主管。
"社会起業家のプラットフォーム"は、なぜ生み出されたのだろうか。
鈴木さんの口から語られたのは「ソーシャルビジネス」を成功させる難しさだった。
「"社会をよりよくしたい"という熱意を持った人、実際に起業に移す人は、実はたくさんいる。ただ通常のビジネスでも難しい上、それがソーシャルビジネスとなるとハードルは相当に高くなります」
事業企画やマーケティング、ブランディング、PR、経理などのノウハウや、資金がないゆえに途中でつまずく起業家も少なくない。
「悔しいじゃないですか、それって。シンプルに考えて社会の損失とも言えるし、いつまで経っても世界は変わらない。社会を変えたいという志をもつ起業家が、一刻も早く、かつ持続的に社会問題を解決するために何ができるのか。突き詰めた結果が、このプラットフォームという形態でした」
「ソーシャルビジネスという選択肢を一人でも多くの人に伝えていきたい」と語ってくれた鈴木さん。2019年10月5日(土)には『ジャパンソーシャルビジネスサミット』(*1)を開催(東京ミッドタウン日比谷)。イベントをはじめ、情報発信にも力を入れている。
(*1)第二回JAPANソーシャルビジネスサミット│https://academy.borderless-japan.com/jsbs2/
では実際に、どういったインパクトを生み出しているのか。鈴木さんは、ある若手起業家の話をしてくれた。
「日本で暮らす「難民」の問題に目をつけた青山という起業家がいます。あまり知られていないかもしれませんが、日本に逃げてきた難民の方っていっぱいいて。なおかつ、日本の社会に溶け込めず、孤立した生活を送る人も少なくない」
非正規雇用で不安定な状況に置かれる人。日本語が分からない中、社会に溶け込めない人ーーそういった人たちを、いかにビジネスに巻き込んでいくのか。
「彼は、「People Port」(*2)というパソコンのリユース・リサイクルの事業を立ち上げました。そこで難民の彼らを正社員として雇って。工場はあえてガラス張りに、外を歩いている人からも彼らの頑張りが見えるようにしたんです。事業開始後、現場でのオペレーションを徹底的につくり込んでいく。同時に、プランナー達と何回も壁打ちしながらマーケティングプランを練っていって。商品、チャネル、プロモーション、何度も何度も修正を繰り返しながら、事業の「勝ちスジ」を探し続けました。」
「つい先日、一つの壁になっている"黒字化"を達成したことで、起業家本人も自信がついたみたいです。最近会った時も、バックアップしてくれる仲間への感謝の気持ちと共に、"もっと事業を伸ばして、より多くの人を迎え入れたい"と、意気込んでいました。」
いまでは、工場に立ち寄って世間話をしていく人や、学校帰りに遊びに来る小学生の姿も見えるようになったという。
「難民の "経済的貧困" と "精神的孤独" を解消するという、ソーシャルインパクトを、しっかり生み出し始めています。修正を積み重ねることで必ず事業は立ちあがる。その後も、社会起業家が視座を高めながら、いかにインパクトを拡げていくか。この両方が重要なんです」
鈴木さんはそう語ってくれた。
(*2)ピープルポート|企業のパソコン処分で参加する子どもの教育支援
https://peopleport.jp/
最後に伺えたのが、鈴木さん自身の考えについて。
「極論かもしれませんが…たとえば生産効率だけで考えたら"僻地の農村部で小規模農家さん相手にビジネスをやる"とか、そういう発想にならないと思うんです。でも効率=利益追求だけで考えるのって、おかしいと思いませんか?カネの方が大事で、人が置いていかれている社会。そこに取り残される人たちが出てくるなら、誰かがいまの社会を変えていかなければ」
その言葉からは、使命感にも似た志を感じた。そして鈴木さんは取材をこう締めくくってくれた。
「世界中に苦しんでいる人がいるのに、それを外からのんびり眺めている場合じゃない。みんなで苦しさを分け合うんじゃなくて、幸せになれることが、当たり前ですが一番いいですよね。少しでもいい社会を未来へ残していくために、自分たちにできることをやる。一人でも多くの仲間を巻き込んでいく。だから僕らが率先して動くだけ。ただそれだけなんです」