約85%の市民が「定住したい」と回答する奈良県 生駒市が「地方自治の新たなカタチ」として注目されている。推進しているのが、市民がついつい参加したくなるまちづくり「自治体3.0」。生駒市長 小紫雅史さんのクリエイティブな発想に迫った。
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市民みんなで「まちづくり」に参加し、地域を盛り上げていく。
そんな地方自治のモデルケースとして、今、奈良県 生駒市に熱い視線が注がれている。
・小さい子どもも参加OKのにぎやかな音楽コンサート
・お寺や自治会館で行う、お年寄りの体操教室
・市民エネルギー団体の運営
(市民出資で公共施設の屋根に太陽光パネルを張り、売電収益を還元)
・ビールやワイン、落語やコンサートも楽しめる「夜の図書館」 etc
いずれも市民が自発的に企画し、行政と共に運営しているものだ。
「もちろん、市でなければできないことは市が全力でやります。ただ、市民のみなさんにはまちづくりに対して受け身になってほしくない。自分たちで、自分たちの住む地域の未来をつくる。その楽しさを知ってほしい」
やさしい笑顔でこう語ってくれたのが、市長である小紫雅史さん。
「自分で住む街のことですからね。自分たちで企画したり、プロデュースしたりすると愛着が湧きますし、住み続けたくなりますよね。市役所は御用聞きではなく、応援し、併走していく存在でありたい」
市役所はいわば市民の応援団。さしずめ市長は応援団長といったところか。トップである小紫さんの考え、そして生駒市として推し進める変革を追った。
小紫雅史/1974年生まれ、兵庫県出身。1997年に一橋大学法学部卒業後、環境庁(現 環境省)に入庁。2002年より米国シラキュース大学マックスウェル行政大学院行政経営学部に留学し、翌年MPA(行政経営学修士)取得。2004年には米国ワシントンDCの日本国大使館などで勤務した後、2011年に公募にて生駒市副市長に就任。2015年4月の市長選で初当選。現職に至る。
「さっきまで市民のみなさんとバーベキューしてきたんですよ。もし煙のにおいがついていたらすみません(笑)」
場を和ませるように語ってくれた生駒市長の小紫さん。
平日のスキマ時間にも市民と交流を図る。そこには「現場主義」を大切にする小紫さんの人柄が垣間見えた。
「市民のみなさんが本当に困っていることは何か。どの市長にも負けないぐらい現場で話を聞かせてもらっている自負はあります。ただ、何でもかんでも市を頼って“やってくれ”は違うと思っています」
市役所の職員にも繰り返し伝えているメッセージが「あくまでも伴走者になる」ということ。とくに力を入れているのは、市民を集めたワークショップだ。
「定期的に開催している市民ワークショップでは、アイデアを出したあと、アイデアごとに分かれた4~5人のグループでその実施方法について話し合い、発表してもらっています」
ユニークなのがアイデアを出して終わりではなく、参加した市民がアイデアを「実行」するまで市が徹底してバックアップしていくということ。
「いい案がたくさん出てくるんです。なので私から「ぜひやってくださいよ」とお願いする。とくに言い出しっぺの方にリーダーになってもらいたいんです。全力で応援しますし、場合によってはお金も出します。皆さん「えらいことなった。市長も人使いが荒いわ(笑)」と言いながらも、どこか嬉しそうに最終的にはやってくださいますね」
市民から「プロジェクトリーダー」を発掘し、市民活動を活発化させていく。
生駒市のワークショップは単なるアイデア出しの場ではなく、「人材発掘」「プロジェクトの具体化」の場なのだ。
「住みやすい市をつくっていく上で「医療費が安い」とか「子育て世代に補助金を出す」とか、いろいろあるとは思います。できることはやったらいい。ただ、自分で企画し、関わる「場」が増えることはもっと大切。そういった「場」があれば生駒市に住み続けたいと思ってくれるはずですよね」
生駒市における自治のコンセプトは“市民が行政とともに汗をかけるまち”。市民のまちづくりへのコミットを促していくという。約85%の市民が「定住したい」とアンケートにて回答(*1)。ダイヤモンド社による「本当に魅力ある市区町村ランキング・ベスト5【関西編】」では奈良県内で1位(*2)に。まちづくりを推進する小紫市長。
とくにお年寄りを巻き込んだ「体操教室」のプロジェクトはユニークだ。
「体操教室ですが、現在では参加者より、ボランティアのほうが多くなりました(笑)お寺や自治会館などスペースを借り、80教室以上で展開しています」
「おもしろかったのが、「私は体操なんてムリ」と言っていた70歳くらいのおばあちゃん。80歳の先輩の頑張る姿に刺激されて、気づいたら誰よりも張り切って教室に来るようになったんですよ」
杖がないと歩けなかった人が、杖なしで元気に外出できるようになったケースもあったという。
「さらに発見だったのが「ここで米とか野菜を売ってくれへんの?」などの声が多かったこと。買い物支援がとても大きな課題になっていたんですね。そこで農家さんとつないであげて、体操教室の後に朝採れ野菜の直売会を行うようになりました」
そして動き出したのが、体操教室を進化させた「まちのよろずや」100拠点構想だ。
「拠点を100まで増やして「よろずや」にしたい。健康体操はもちろんのこと、育てた野菜を売ってもいい。お茶を飲みながら雑談したり、落語やギターなどの文化活動をしたり。作り手と受け手の境界線がなくなるほうがいいんです。家で眠っている本や余っている日用品を持ってきて売ってもいい。子どもたちが売り子になって、フリーマーケット体験をするのもおもしろい。おばちゃんたちが「子どもら見といたるわ」となったら、お母さんも助かりますよね。家から生ごみを持ってきて堆肥化したら、ごみを減らしつつ、農家さんにあげたり、公園の緑化にも使えます」
市長室に飾られていた、子どもたちとの交流でもらった市長への寄せ書き。そこには「楽しかった」「また一緒に遊びたい」など、かわいらしい字でメッセージが綴られている。
少しずつ外国人観光客も訪れるようになってきた生駒市。決して全国的に知られた観光名所があるわけではない。ここにも彼らのアイデアが光る。
「レトロな旅館があるのですが、市内のICT関係者のグループが支援して試しに英語のホームページを作ってみたんです。すると外国人観光客からどんどん予約が入った。そして「2週間滞在予定だが、ノープランです」と(笑)。そこから観光客にも話を聞きながら、生駒ならではの観光プランをつくりました。通り一遍ではなく、浴衣の着付け体験を企画したり、浴衣でお寺の参道を歩いたり、地元の人とBBQしたり。この件をきっかけに、その旅館が「生駒市の外国人向け観光案内所」の役割を果たすようになりました」
「一番、驚いたのは、外国人観光客を街の文房具屋に連れて行ったら「匠の技だ!」と文房具に感動してもらえたこと。国宝や重要文化財はもちろんですが、我々にしたら当たり前の光景でも外国の方にはすごく楽しんでもらえるんだ、と。日本は理容・美容の技術も世界トップクラスですし、ICTの活用など発信を工夫すれば、どのまちも観光地になれる時代です」
「いま、とくに団塊世代が定年退職し、大量に地域に帰ってきています。ただ、何をやっているかといえば、一日中図書館で時間を潰したりしている。これはすごくもったいないですよね」
そういった人たちの中には、名だたる大企業や官公庁出身の管理職経験者も多いそうだ。そういった方々に提案するのが「地元ならではのビジネス」への参加。
「たとえば、生駒市では空き家対策も急務となっています。たとえば、民泊として活用していく道も模索していますが、オーナーが足りません。地元の人がオーナーになり、ビジネススキルをいかして、地元の専業主婦や学生と面白い民泊経営、観光コンテンツづくりなどを進めてくれたらすごく心強いですよね」
そして終盤、小紫さんが目指す「これからの市役所」についても伺うことができた。
「極端にいえば、僕が市長ではなくなったあとも自走できる強い組織にしたいんです。なので、僕の知らないところで勝手にプロジェクトが発足したり、事業者さんとの連携がどんどん進む方が理想です」
「まちづくり同様、市役所としても常識に囚われないカタチを模索します。たとえば、「行政」だけでまちづくりに取り組むのではなく「まちづくり会社」のような組織が市民や事業者主導で立ち上がり、どんどんまちの課題をビジネスベースで取り組んでもらうのもいいのかもしれません。そのための資金を集めるまちのCFOのような人も不可欠ですね」
果敢に新たな取り組みを推し進める中では当然、大きな壁と向き合うことも多いだろう。小紫さんの「原動力」とは。
「本当にいい仕事に就かせてもらって感謝やな…と思うのは、素晴らしい人と出会った時。土日も街に飛び出して交流しているのですが「市長、土日もなくて大変やな」とか「忙しいな」と声をかけられたりして。「むしろ土日にパワーもろてます」とお伝えしています。何より、まちのために自ら率先して動いてくれる市民のみなさんと会うと、仕事が楽しくなるんですよ。そういう人たちを、もっともっと増やしていきたいですね。そうすれば、僕が出かけていける場所も増えますし(笑)」
人と人との関わり合いを見つめ、生きがいを創出していく。生駒市の追求する「まちづくり」は、まだ始まったばかりだ。
(*1)定住意向率84.7% 市民に愛されるベッドタウンから始まる「自治体3.0」
https://nativ.media/5512/
(*2)本当に魅力ある市区町村ランキング・ベスト5【関西編】
https://diamond.jp/articles/-/212969?page=5