福岡を拠点に、IoTを活用した「無人コンパクトホテル」を展開するスタートアップHosty。今回取材したのが、同社でCHO(Chief Human resource Officer)を務める織井敬太郎さん(26)。もともと電通の人事として働いた後、24歳で同社へ。「日本発のグローバルホテルブランドをつくる」彼らの挑戦に迫った。
Hostyについて
2015年6月設立。2017年12月、創業当初、手がけていた民泊代行事業のノウハウを活用し、無人コンパクトホテル『mizuka』第一号を福岡でリリース。2年足らずで、客室数を14施設126部屋へ拡大した(2019年8月28日時点)。2019年4月にはKDDIと業務提携を締結。近く、東京への進出も予定される。
2018年、訪日外国人数は3000万人を突破。国家として観光立国の方針が示され、2030年には2015年比で約3倍となる、6000万人が目標として掲げられる。
同時に社会的な課題となっているのが、ホテルをはじめとする宿泊施設の不足だ。実際に、2020年の東京オリンピック開催時の8月には、最大1万3700室が不足するというデータも(*1)。インバウンド需要の受け皿として注目された「民泊」も法規制がネックとなり、期待されたほどの広がりが見られないという見方もある。
こうした中、新たな宿泊施設の選択肢として注目を集めているのが、Hostyが展開する無人コンパクトホテル『mizuka』だ。
mizukaとは
都心型の「コンパクトホテル」。宿泊に適したエリアにおける商業施設の賃貸物件を、客室としてリノベーション。スマートロックやタブレットなどIoT技術でホテルを無人化し、リーズナブルな宿泊料金で提供する。メインターゲットとする海外観光客の嗜好に合わせた、おしゃれな内装も特徴の一つ。Booking.com、Hotels.comなど、海外ホテルの予約サイトでも高いクチコミ評価を獲得する。
『mizuka』宿泊者の7割は外国人観光客。その客室稼働率は80%以上を誇る(全国平均61.7% *2)。相場の半値ほど(※)という価格優位性で多くの需要を取り込む。
「今、世界全体で旅行者は増えています。たとえば、経済成長を遂げる、東南アジアなどの新興国の人たちも海外旅行に目を向けはじめました。ただ、まだまだ経済的な理由から日本は旅行先として十分に需要を取り込めていない。私たちは”宿泊料”を下げ、経済的な間口を広げることで、海外からより多くの観光客を取り込みたいと考えています」
こう語ってくれたのが、Hostyで人事責任者を務める織井敬太郎さん(26)。さらに彼らの視線はその先に向けられている。
「ファッション業界と同様に、ホテルもこれから高級帯、低価格帯の2極化がさらに進んでいくと考えています。だからこそ、私たちがそのゲームチェンジャーになっていきたい。目指すのは、ホテル版『ZARA』。『mizuka』を、ホテルのグローバルブランドにしていきたい」
(※)福岡市における宿泊料金の相場は1人あたり7000~8000円程度のところ、3500円~5000円という価格帯で提供している。
織井敬太郎(26)
慶應義塾大学卒業後、電通に入社。人事担当として、新卒採用や人材育成の業務全域に携わる。イベントへの単独登壇では同社最年少でのプレゼンターを経験した。2017年10月にHostyへ転職。『mizuka』の事業立ち上げを手がける。現在、人事責任者として、社内の人事制度設計などに取り組んでいる。
『mizuka』のビジネスモデルを語る上で欠かせないのが、そのデータドリブンなサービス志向だと言えるだろう。
事実、彼らは一般的にホテル開業までに必要とされる2年という期間を、2ヶ月に短縮。同時多発的に展開するホテルのデータを元に、短いスパンでアップデートを手がけている。
「たとえば、同じ4人部屋だとしても、部屋ごとで売り上げに差が出てくるんですよね。シングルベッドが4つあるのか、ダブルベッドが2つなのか。リビングスペースが何平米あるのか。1cm、10cmという単位で見ていく。プロジェクトの途中でも、新たに得られたデータから図面を書き換えることもあります」
こうして手がけてきたホテルの数は、14施設126部屋へ(2019年8月28日時点)。ここで培ってきたノウハウが同社の最大の強みだと言えるだろう。
「もしかすると、無人でホテルを運営することは他の企業でもできるかもしれません。ただ、ホテル用途につくられていない賃貸物件を、いかにホテルとして利益を最大化するのか。そのノウハウは一朝一夕で得られるものじゃない。ここは私たちならではの部分だと思っています」
リリースから2年、彼らは新たなフェーズへ。目前に控える東京進出、さらにその先の全国展開も見据えられる。これからどのような勝負を仕掛けていくのか。
「一つは圧倒的なスピードでホテルをつくり、他社が追従できないまでの規模に早く拡大させること。ここから数年間が勝負だと考えています」
「とはいえ、何より大切なことはゲストに対して『mizuka』だからこそできる、特別なエクスペリエンスを提供することだと考えています。どれだけ優れたビジネスモデルがあろうとも、ゲストが笑顔になってくれなければ意味がない。ゲストに心の底から満足してもらえるようなサービスを届けることに、全社を挙げて取り組みたいと考えています」
織井さんは新卒で電通に入社。人事として、新卒採用や人材育成の業務全域に携わっていた。なぜ、超大手企業でのキャリアを捨て、転職という決断を下したのか。
「単純な話ですが、人生のミッションを改めて考えたときに、必要なプロセスが電通の外にあると気づいたからです。電通には優秀な人がたくさんいて、いろいろなチャレンジもさせてもらえました。働く上ですごく恵まれた環境だったと思います。ただ、当時の自分が経験したいことは、より経営に近いところで組織を0から創ることでした。自分の描く人生に直結する場所に時間を投資したいと思っていたら、新しい出会いが生まれ、この考えが加速していったことを覚えています」
そして彼が次の舞台として選んだのが、当時3~4名ほどのスタートアップHostyだった。
「そこには、めちゃくちゃ大きな夢を持ったCEOの山口がいて、一緒に夢を追いかけている仲間がいた。それを信じて様々な形で投資をしてくださる方々もいました。ビジネスとしてはどうなるかわからない。もしかしたら明日つぶれてしまうかもしれない。だからこそ、すさまじい責任の中で、死ぬ気で仕事に没頭できる環境がある。この先にどんな世界、そして自分が待っているのか、見てみたいと思ったんです」
「私たちがつくりたいのが、ホテルを起点に街全体で多様なサービスを受けられる“Hotel as a servise(HaaS)”の世界です。たとえば、『mizuka』に泊まったお客様が提携するコワーキングスペースを自由に利用できたり、飲食店で割引などのサービスを受けられたり。新しい宿泊体験をつくり、感動を生み出していきたいですね」将来の展望をこう語ってくれた織井さん。
そして取材終盤、伺えたのがこの先のビジョンについて。
「いつか、『mizuka』をグローバルなホテルブランドにしたいんです。というのも、海外資本のホテルは日本に多く入ってきているのに、海外で成功している日本のホテルブランドってなぜかまだ生まれていないんですよね。おもてなしとか、海外からも評価される文化を持っている日本だからこそ、届けられるサービスがあるはず。世界中で “日本のホテルと言えば『mizuka』” だと言われるような世界をつくりたいですね」
そしてこう続けてくれた。
「その道の途中で、”ユニコーン”と呼ばれる自分たちを見てみたい。青臭いと言われてしまうかもしれないんですけど、頭の中でずっと描き続けている絵があって。それが一緒に夢に向かって歩んでくれた仲間たちと、肩を組んで笑いながら、泣きながら感動を分かち合っている一枚。きっとこうしたことを成し遂げたとき、その絵は現実になるんじゃないかと思っています」
(*1)タイプ別、市区町村別にみたホテル客室不足の試算ーみずほリポート
https://www.mizuho-ri.co.jp/publication/research/pdf/report/report18-1029.pdf
(*2)「無人コンパクトホテル」という新しい選択肢を世の中へ。ホテル業界に革命を起こします。ーWANTEDLY
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