北は知床から、南は石垣・西表まで。日本全国34箇所にある「国立公園」。古来より日本人の生活は「自然」と共にあった。その影響は信仰や文化にも色濃い。「じつは外国人観光客にも、日本文化と自然はとても注目されているんです」こう語ってくれたのが、環境省で国立公園利用推進を担う中島尚子さん。いま求められているのが、国立公園の運営・利用促進を図る「志を持った日本版の自然保護官たち」だーー。
「国立公園」
その歴史を紐解くと昭和初期に遡る。
アメリカに倣い、自然保護を図るための国立公園の運営をスタートさせた日本。ただ、そのあり方には特徴があるという。
環境省(自然環境局 国立公園課) 国立公園利用推進室長、中島尚子さんはこう解説してくれた。
「これだけ限られた土地で、国立公園が34箇所もある国はないと思います。亜熱帯から亜寒帯まで、飛行機を使えば数時間で移動できる。生物の種も多種多様です」
さらに諸外国が運営する国立公園と大きな違いある。
「特に日本では、個人所有の土地も国立公園として保護対象になっているケースが多くあります。つまり「自然」と「生活圏」が一体となっているということ。自然景観によって培われた文化が、生活と密接に関係しています」
つまり、環境省として取り組む「国立公園利用推進」は、自然保護と同時に、文化・地域活性化の意味も含まれている。
そして2020年、政府として推し進めるのが「国立公園 満喫プロジェクト」だ。
「観光立国を掲げる政府方針として2020年内にインバウンド(訪日外国人)4000万人を掲げています。そのうちの1000万人に国立公園へと来てもらう。これが「国立公園 満喫プロジェクト」です。このプロジェクトに共感し、推進していける仲間を探しています」
国立公園の運営・利用促進を通じ、日本の自然、そして文化を守っていく。その仕事の魅力と、求められる資質について伺った。
中島尚子|自然環境局 国立公園課 国立公園利用推進室 室長
入省後、自然環境局野生生物課、地球環境局研究調査室、北関東地区国立公園・野生生物事務所、生物多様性センター、自然環境計画課などに勤務。途中2児を設け、3ヶ月半と1年間の産休・育休を取得した。2015年12月、自然環境局 自然環境整備課 温泉地保護利用推進室長。2019年7月より国立公園課 国立公園利用推進室長として任にあたる。
国立公園の運営・利用促進を図っていく。
中島さんは特に「満喫プロジェクト」における取り組みを例に挙げてくれた。
「わかりやすいところでいえば、自然が楽しめるグランピングの誘致、温泉・自然景観が楽しめるツアーの企画・運営なども挙げられます。とくに外国人観光客のみなさんの人気を集めているのが、その土地土地に暮らす人々とのふれあいです」
思わぬところに、観光の「宝」もあるそうだ。
「たとえば、阿寒摩周国立公園では、自然と寄り添って生きてきたアイヌの生活や文化に触れることもできます。また、ユニークなところでは、伊勢志摩の海女さんとのふれあい体験ツアー。新鮮な海の幸を使った手作り料理も楽しめますよ」
暮らしや信仰、文化・歴史的背景と同時に自然を体験していく。ここに魅力を感じる外国人観光客の方は多い。
「こういった"新たな日本の魅力”を掘り起こし、伝えていくのも私たちの大切な役割のひとつなのです」
阿蘇くじゅう国立公園
続いて伺えたのが、現在働く職員たちについて。多岐にわたるバックグラウンドを持つメンバーが集っているそうだ。
「利用関係では、たとえば自然ガイドをされていた方。また、地方銀行に勤められていた方もいれば、旅行・リゾート業界にいた方も。バックグラウンドはさまざまです。ただ、共通しているのは「自然が好きで携わりたい」という部分。山、海が好きな方、生態学、林学、農学を専攻されていた方などもいます。その他、施設整備に携わる方は土木業界出身の方、希少種保全については、研究職などを経て来られた方もいますね」
じつは中島さん自身、「大好きな自然に携われることがやりがいとなる」と入省した一人。
「私は神戸出身なのですが、もともと山や植物が好きで、よく六甲山にもハイキングへ行っていました。大学時代は植物学を専攻し、自然保護などに携わる仕事に就きたい、と。ちょうど大学に入る頃に、海外では一般的になっていた「国立公園の管理官(自然保護官)=レンジャー」という仕事を知ったんです。日本でも「環境庁(当時)初の女性レンジャー誕生」というニュースを目にして。私も日本版の自然保護官になりたいという思いから入省しました」
「省として立ち上がったのは2001年。他の省庁と比べると環境省はまだまだ若い組織です」と語ってくれた中島さん。若手職員もフラットに議論に参加し、意見を発信できる風土があるそうだ。
当然だが、「自然が好きで携わりたい」と考えるだけでは活躍は難しい。求められる能力・資質についても伺えた。
「自然以上に人と触れ合っていく仕事でもあります。人間が好きかどうかも、大切な資質です。たとえば、自然を守る・文化を守るといっても、そもそも何のために守るのか。自治体、観光協会、民間企業、協議会…さまざまな方に理解をしてもらわないと施策は全く進みません。自然を後世に残すと考えるならば「実行」まで担う。調整業務、合意形成は多くの場面で求められます」
そして地方勤務も多い仕事。いかに「地域」の魅力を掘り起こし、伝えていけるのかも、大きな役割だ。
これは日本版の自然保護官=レンジャーといえるかもしれない。
「その地域の歴史や文化的な背景を含め、我が事のように愛し、貢献していく。そういった方が増えてほしいですね。そうすることによって、人口減少が著しい地方も元気になっていくはず。「人」のチカラがあってこそ、本当の意味での地方創生、地域活性化につながると考えています」
そして最後に伺えたのが、自身がどのような思いで仕事に取り組んでいるのか。中島さん自身にとっての仕事とはーー。
「生きる上で、仕事というのは「生」そのもの、欠かせないものですよね。もちろん自分が望む仕事につけるかどうかは人それぞれです。ただ、どのような仕事であっても、仕事の中にやりがいを見つけることは可能です。それは、さまざまな価値観、感性を持つ人と出会い、接することで育まれていくもの。「社会とつながること」で存在意義を見出していく。これが私にとっての仕事だと捉えています」
社会の中で、いかに自分を「生かしていく」のか。
「社会に対して自分が何を貢献できるのか。まだまだ私も考えながら生きています」
自然、そして文化を広く守り、後世へ。中島さんのまなざしは、豊かな自然と共にある日本の未来に向けられていた。