物流情報プラットフォーム「MOVO(ムーボ)」を展開する、Hacobu。物流業界における電話・FAXなどのやり取りをデジタルに置き換え、現場の生産性向上を目指す。そのビジネスの可能性、彼らが目指す世界について、同社COOの坂田優さんにお話を伺った。
「物流危機」が叫ばれる日本。物流情報プラットフォーム「MOVO」はその危機を救う、救世主となるかもしれない。
MOVOがターゲットとするのは、10兆円超の市場規模を持つ「企業間物流」。文字通り企業から企業へ荷物を運び、サプライチェーンをつなぐ物流業界の中枢だ。その状況について、Hacobu COOの坂田優さんはこう解説する。
「企業間物流には非常に多くのステークホルダーが関わっていて。トラックを持つ運送会社をはじめ、メーカー、小売企業、卸売業の会社など、業界・業種は多岐に渡る。ただこうした複雑な構造にありながら、その間のほとんど全てのやり取りが電話やFAXで行なわれています」
さらにこう続ける。
「ドライバーをはじめ、倉庫・物流拠点で働く人材不足は深刻化する一方です。その一方で、物流センターではトラックが今どこにいるのか、何時に到着するのか把握できず、荷物の積み下ろしに何時間もドライバーが待機させられてしまうといった現状がある。現場で働く人たちにとっても、大きな負担となっています」
MOVOで提供されるのが、物流業界に向けたSaaS型ソリューション。アナログな物流情報のやり取りをデジタルに置き換え、現場の生産性を向上する。
彼らが目指すのは、物流に携わる情報がデジタルにやり取りされ、「運ぶが最適化された世界」だーー。
MOVO
物流情報プラットフォーム。SaaS型のアプリケーションとして、待機時間によりトラックを効率的に稼働させられない、トラックが手配しにくい、トラックの位置を把握できない、などの問題にソリューションを提供する。物流企業をはじめ、アスクル、ビックカメラなどの小売企業、ユニリーバ、グリコなどのメーカーが導入している。
坂田優
新卒で野村證券に入社。金融法人向けの営業を担当した後、債券の発行などによる資金調達業務やキャッシュマネジメントプロジェクトを経験。その後、A.T.カーニーで通信・メディア・テクノロジー 、金融領域における事業戦略策定、業務改革プロジェクトなどに従事する。2016年1月に創業期メンバーとしてHacobuに入社し、COOに就任。
「MOVOはただ目の前の課題を解決するだけではありません。企業の物流への意識が変わる。ここが重要な部分だと捉えています」
一例として、大手EC事業者における事例について語ってくれた。
「このお客様の物流センターでは、荷物の積み下ろしにかかるドライバーの待機時間が課題となっていました。『もう納品したくありません』。ドライバーからはこうした声もあったと言います」
そこで導入したのが、MOVOのトラック予約・受付サービス。これによりトラックの待機時間は、平均42分から12分にまで短縮したという。
「さらに大きかったのは、物流センター自体の生産性をいかに向上させるか、ここに目を向けるきっかけとなったことでした。たとえば、工場でモノをつくるときも、原材料を適切な量で適切なタイミングに投入するなど、生産性を最大限に高めるために改善をしていますよね。物流においても同じことだと、マインドを変えることができたんです」
この背景には、在庫管理等のシステムが拠点ごとに異なる、物流センターの実情もあると言える。
「物流センターの多くが、個々の拠点では最適化して改善している。ただ、拠点を横断してデータが共有されないため、どこの生産性が高くてどこが悪いかなどは把握できていません。このお客様もそれは同じで。そうした中、MOVOの導入によって、すべての拠点のデータを横串で見られるようになった。効率の良いオペレーションを他の拠点にも展開するなど、全体として底上げする取り組みもはじまっています」
MOVOによって、物流業界におけるデジタル化を推し進めるHacobu。彼らの視線は、さらにその先に向けられる。
「どういったモノが、どこで、どのような車両によって納品されるのか、出荷されるのか。アプリケーションの利用ユーザーのデータは全て、MOVOのプラットフォームに蓄積される。こうしたデータを分析すれば、トラックや倉庫といったリソースのシェアリングで、より最適な物流の仕組みを構築できます」
すでにその取り組みは進められている。一つが、データにもとづく共同配送に向けた動きだ。
「ある物流拠点に納品をしている事業者の方たちは、どこから出荷しているのか。その拠点を網羅的に全てマッピングする。そうすれば、この辺りの地域はまとめて荷物を運んだ方が効率的だ、といったことがひと目でわかります。たとえば、バイヤー側で車両を手配してまとめて取りに行く、などの手段も考えられるようになりますよね」
年々トラックの積載率は低下の一途をたどり、今や「50%を下回る」といったデータも。いかに限られた資産を有効活用できるかは、重要な課題となっている。
「これまで共同配送は、物流担当者どうしが直接話し合うことでしか実現しませんでした。ただデータを見れば、もっと臨機応変に事業者同士がつながり、配送すべきだということがわかる。事業者としても別々にトラックを手配するより、コストを抑えて運ぶことができます」
そして2019年9月、彼らが発表したのがMOVO上で物流ビッグデータを蓄積・利活用し、物流課題を解決する構想「Sharing Logistics Platform®(シェアリング・ロジスティクス・プラットフォーム)」だ。すでにアスクル、大和ハウス工業、三井不動産、日野自動車やSony Innovation Fundなどの多業種企業が参画している。
「サプライチェーンには、数多くのステークホルダーが関わっています。だからこそ、限られた企業だけで変えようとしてもあまり意味がないんですよね。私たちは物流業界に携わる全ての事業者を巻き込んで、次世代の物流システムをつくっていきたい。これは業界の利害関係やしきたりにとらわれない、私たちだからこそできることだと思っています」
「MOVOの導入拠点数を、現在の2,000拠点から30,000拠点へ」
2023年までの目標を、Hacobuはこう据える。その真意とは。
「物流情報の1割がMOVO上でやり取りされる。ここではじめて、物流ビッグデータの活用が見えてくると考えています。2023年には、こうした物流情報におけるデジタル化の基盤を確立する。ここがまず私たちが目指すところです」
さらに、その先に見据えられる構想について伺えた。
「インターネットと同じように、リアルなモノがやり取りされる。そんな世界がつくれたらいいなと思っているんです。たとえば、インターネットって、パケットという小さな単位に分けて送られていて、最終的にパソコンで一つのモノとして表示されればOKという考え方。物流でも同じように、運べるトラックの隙間に荷物をどんどん入れて、最終的に目的地に全てがまとまって届けばいい。そうすれば、今よりもっと早く、もっと手軽に、コストをかけずにモノが運べるはずですよね」
「ただ、これも物流情報がちゃんとデジタル化されて、やっと考えられること。そのためにも、まずはいかにMOVOをユーザーに広げていくか。ここに全力を注ぎたいと思っています」
そして最後に伺えたのは、坂田さんにとっての仕事とは。
「本来の自分を発見し、自分を成長させられる手段が仕事だと思っているんですよね。企業や社会を変えるために自分には何ができるのか、何が必要なのか。それを考え続けた先に、成長した自分が待っている。それは人生において、最高に幸せな瞬間だと思っています」