地球温暖化をはじめ、世界各国で「気候変動対策」が喫緊の課題に。日本でも温室効果ガス排出の“実質ゼロ”を目指す「2050年カーボンニュートラル」が掲げられ、議論が高まっている。そういった中、急増する業務をDX化すべく「環境省」が、初の「副業デジタル人材」を一般公募へ。どういった課題をDXによって解決していこうと考えているのか。環境省 大臣官房総務課の小泉 真認 企画調査官にお話を伺った。
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2050年までに「温室効果ガス」排出、実質ゼロを目指して
2050年までに、温室効果ガスの排出を実質ゼロへ(*)
「2050年カーボンニュートラル」脱炭素社会の実現を目指す日本。「パリ協定に基づく成長戦略としての長期戦略」として重要政策に「地球温暖化対策」が位置づけられる。
「近年では、これまでの“気候変動”といった表現から、“気候危機”とまで言われるようになってきています。それほど、地球規模で大きな課題となっており、日本としても総力を挙げて取り組んでいくテーマ。環境省としても最重要ミッションの一つになっています。」
こう解説してくれたのが、環境省 大臣官房総務課の小泉 真認(こいずみ まみと)企画調査官だ。
「地球温暖化対策、気候変動対策というと“守り”にも聞こえますが、必ずしも経済成長を制約するものではありません。経済や社会の大きな変革、産業のあり方の転換を図ることで、あらたな成長の鍵となります。いかに“環境と成長と好循環”を実現していくか。2050年に向け、あと28年。これまで以上に議論が活発化しており、かつてないスピードで新たな政策が打ち出されています。」
そういったなかで、目の前の課題となっているのが、環境省内における業務増加だ。デジタルを活用した業務効率化プロジェクトが始動。同省初となる副業デジタル人材を一般公募する。一体どのような役割が期待されるのか、その詳細について見ていこう。
(*)「排出を全体としてゼロ」を意味する。二酸化炭素をはじめとする温室効果ガスの排出量から、海や森林などによる吸収量を差し引いた「実質ゼロ」を目指す。
持続可能な社会の実現を目指し、さまざまな取組を行う環境省。気候変動問題への対応の他にも、環境再生、廃棄物対策などの資源循環政策、生物多様性の保全や自然との共生、国立公園の活性化、安全・安心な暮らしの基盤となる水・大気環境の保全、化学物質管理対策などを所管する。
国会対応業務が1年で約2.3倍へ
省内における業務はさまざまだが、気候変動対策や生物多様性の保全といった様々な政策を企画立案して実行していく上で、避けて通れないものが「国会対応業務」だという。環境省の取組に注目が集まるにつれて国会関連の業務も急増しており、その対応は急務となっている。
「前提として、国会は国権の最高機関であり、その対応は省内において何よりも優先される重要業務の一つとなります。国会対応の例としてわかりやすいのが、NHKで中継される国会での質疑応答ですよね。主権者である国民を代表する国会議員の先生方から、環境省が取り組む政策への質疑があり、それに対して大臣から答弁が行われます。その答弁書の作成業務などがこの1年で急増しています。」
より具体的に、環境省全体の答弁作成の総数を昨年比で見ていくと、
・2020年 通常国会(150日間)…1047問
・2021年 通常国会(150日間)…2418問
と、約2.3倍もの件数となっている。この数字を見るだけでも、いかに国会、つまり日本の政策において「気候変動対策」をはじめとした環境政策が重要テーマとなっているかが伺える。
一般的にはあまり知られていない「国会答弁作成のプロセス」の一連の流れについても伺うことができた。
「国会答弁の大枠の流れですが、例えば環境委員会での質疑を翌日に控えている場合、事前に質問内容が通告されるのを待ちます。通告の内容をもとに、担当する部局が割り振られ、質問者への内容の確認などを経て、答弁書の原案が作成されます。さらに関係部局に意見をもらいつつ、調整を加えていく。答弁書が出来たら、大臣をはじめとした答弁者と答弁内容を確認し、完成した答弁書を渡して国会での質疑応答に臨む、といった流れです。」
一見するとシンプルにも見える工程だが、それぞれですりあわせや決裁が発生し、さらに全ての発言は国会の議事録として記録されるため、正確性も求められる。これらが非常に短い期間で行われる。答弁作成に時間がかかってしまった場合、委員会が開かれる直前に国会内で大臣に説明を行うこともある。
「そもそもの答弁書、参考資料の作成だけでなく、割り振り調整や作業の進捗管理も含めて非常に負荷が高いものとなっています。答弁の件数が多ければ多いほど、どうしても手間・コストがかかってしまう。これは国会対応の一例ですが、まずはこの国会答弁作成プロセスを効率化したいと考えています。ドラスティックにプロセス、やり方を見直す必要性があり、そのためにはデジタルの活用も不可欠です。」
こういった「国会対応業務」が効率化されれば、当然、新たな政策の企画立案のための時間の創出にもつながっていく。
「ぜひ、我々では思いもつかなかったようなアプローチを提案し、共に実行していただければと考えています。この効率化が進むことで、省内全体に新たな政策を企画立案していくための時間が捻出できます。考える時間が増えた分だけ「2050年 カーボンニュートラル」といった非常に高い目標の実現にも直結していく。ここにも大きなやりがいがあるはずです。」
一つひとつの業務プロセスの理解が、プロジェクト成功の鍵
今回の一般公募は民間出身者も歓迎される。一体どういった役割、動きが期待されるのか。より詳細な部分についても伺うことができた。
「例えば、これまで答弁の作成、確認、決裁は、Word、Excel PDF、対面、電話、メールを利用してきたのですが、これをクラウド型のビジネスアプリケーションに置き換えていくなど、わかりやすくデジタル化できる部分だと思います。一方で単にツールを導入しても、職員が使いこなせなければ全く意味がありません。環境省には約2000名の職員がおり、省内のどの部署でも国会対応をすることになるので、実運用まで考え、プロジェクトを進めることが重要だと思います。」
当然、民間企業のようにはいかない部分もあるだろう。
「民間企業で経験を積まれた方からすると、省内での業務プロセスは、一見無駄に思えることも少なくないかもしれません。本当に無駄なケースもあると思いますが、なぜ、そういった工程を踏んでいるのか、背景から知っていただくと重要な意味を持つケースもあります。例えば、責任の所在を明確にし、正しい情報を答弁する上で欠かせないもの、また、合理的ではないにしても、行政機関としては変えられない部分もあるかもしれません。そういったなかでも、環境省の一員として、内部からよく観察していただき、馴染み、深く理解いただきながら、実現可能な取組を推進していくことがプロジェクト成功の鍵となるはずです。」
総務課のメンバーたちと小泉さん。4名チームで国会答弁作成における割り振りや調整業務を担当する。
環境省で成功例をつくり、霞が関全体に展開を
そして最後に伺えたのが、同プロジェクトの先に見据える部分について。国会対応業務のDX化は、霞が関全体の課題でもある。そういったなか、ケーススタディを展開させたいと小泉さんは語る。
「国会対応業務に関しては、どの省庁でも同じ課題を抱えています。それぞれの省庁が試行錯誤するなか、もし今回の環境省の取組がうまくいけば、デジタル活用や効率化の事例、ノウハウを他の省庁にも展開することで、霞が関全体でより改革が進んでいくはずです。当然、新たなツール一つとっても、霞が関の中でユーザーが多ければ多いほどブラッシュアップされていくはずですので、ぜひ連携しながら進めていければと考えています」
また、今回の国会対応業務のDX化は、期間を定めたプロジェクトを想定しており、その後の展開ついても視野に入れている。
「今回は国会答弁作成のプロセス改善、業務効率化を例にお話しましたが、国会対応に限らず、環境省でデジタル人材が活躍できるフィールドは非常に広く、多様な業務があります。気候変動対策だけではなく、環境再生、廃棄物対策、生物多様性の保全・自然との共生、国立公園の活性化、水・大気環境の保全、化学物質管理…と、環境省では安全・安心な暮らしの基盤を支えています。今回のプロジェクトを皮切りに、例えば気候変動対策のような個別分野の政策立案プロセスの効率化にも広がりを持って取り組めるチームにしていきたい。そうすれば、環境省にとってより大きなインパクトへとつなげていける。今回入省される方のキャリアにとっても、今後の可能性を広げる上でプラスの経験となるはずです。」