今日からはじめるCI/CD ─ CircleCI + Deployerでテストとデプロイを自動化しよう!【休日個人開発】
プライベートでも何か作りたい! そんなときの「今日からはじめる休日個人開発」シリーズ、今回はテストやデプロイをGitHubと連携し、自動化させてCI/CDに対応します。
皆さん、プライベートで何か開発していますか? 「何か作りたい」という気持ちはあるものの、いまひとつ何から始めたらいいのか分からず、動けないままの人も多いと思います。
そんな皆さんのために、「仕事以外にも休日に個人で気軽に何かを作ってみよう!」という企画の第3回です。第1回で用意した開発環境と、第2回で作成した画像を加工するツールを用いて、テストとデプロイの自動化を行います。
これまでの休日個人開発シリーズでは、Webアプリケーションを動作させる本番環境にログインし、動作しているファイルを直接修正して開発を行っていました。しかし、Web上でサービスを公開した場合、本番で動作しているファイルをいきなり修正するべきではありません。ローカルの開発環境などできちんと動作確認し、テストが実施されたアプリケーションのみを本番に反映してください。
そこで、ファイル一式をGitHubで管理し、ローカル環境で開発したものが、自動でテストされ、本番のサーバに反映される環境が構築できれば便利で安全です。
この記事では、次の2つを実現します。
- GitHubでPull Requestを投げたら、自動的にテストが実行されて、その結果が確認できる
- Pull Requestの確認が完了して、テストに成功するソースコードが
master
ブランチへマージされたタイミングで、デプロイが自動的にされる
いわゆる、CI/CD(継続的インテグレーション/継続的デリバリ、Continuous Integration/Continuous Delivery)を実現させることがゴールです。
開発環境の確認
第1回から使用している開発環境をそのまま利用する場合には、まずサーバ内のパッケージを最新にしておきましょう。
コラム:開発環境を最新の状態にする
環境を構築してから時間が経っている方は、脆弱性対策のため、次の手順で最新の状態にしましょう。
$ sudo yum update
カーネル関連のアップデートが含まれている場合は、OSを再起動して、更新した内容を反映させます。
$ sudo reboot
また、今回の記事で使用する設定ファイルなどは、第2回の記事のサンプルソースコードと同じリポジトリにも追加しています。
先ほどゴールとして挙げたように、今回はファイルをGitHubで管理していることが前提になりますが、このサンプルのリポジトリを自身のGitHubアカウントにフォークして編集し、記事の内容を試すこともできます(もちろん第2回までのファイルを自身でGitHubにプッシュしてもかまいません)。
GitのインストールやGitHubのアカウント取得などについては「今日からはじめるGitHub」の記事を参考にしてください。
デプロイ先のサーバとしては、第2回まで使用してきた開発環境のWebサーバが使用できます。デプロイ先のディレクトリを新しく用意する場合は、あらかじめ権限設定をしておきましょう。
$ sudo mkdir 【デプロイ先のディレクトリ】 $ sudo chmod 777 【デプロイ先のディレクトリ】
Deployerを使ってデプロイを効率化
CI/CDに利用する便利なツールは世の中でたくさん開発され、フリーで利用できるものも数多く存在します。どのツールにもそれぞれ利点と欠点があり、かつ時代の流れもあって「これを使えば間違いない!」と言えるツールはなかなか存在しません。
実際には自分が使いたいものではなく、企業によって、サービスによって、プロジェクトによって、既に使われているツールがあり、それを利用しなければならない状況が多いでしょう。
そのため、何かのツールのエキスパートになるのではなく、CI/CDがどのようなものなのかを理解して、臨機応変にツールを使いこなせるスキルを身に着けることが大切です。その上で、よく使うツールのエキスパートになることはもちろん有意義なことではあります。
今回は、ツールの使い方そのものを理解するコストを下げるため、導入コストが比較的低いDeployerを利用してみます。
DeployerはPHPで開発されているツールで、手軽に使えることが利点ですが、細かいことをやりたければ他のツールに劣るという特徴もあります。また、現在も次のリポジトリで開発が進行中です。
Pulse ・ deployphp/deployer ・ GitHub
Deployerのダウンロード
開発環境にDeployerをダウンロードします。ここではPHPのバージョンによって、ダウンロードするバージョンを調整することがポイントです。
PHP 7系の場合
利用しているPHPが7系の場合、最新のDeployerを利用可能です(2018年3月1日現在でバージョン6.0.5)。
$ curl -LO https://deployer.org/deployer.phar
PHP 5/6系の場合
利用しているPHPが5系や6系の場合、それぞれのPHPに対応したDeployerのバージョンを明記してダウンロードする必要があります。広く利用されているPHP 5系では、次の表がそれぞれサポートされている最新バージョンです(2018年3月1日現在)。
PHP | Deployer |
---|---|
PHP 5.6 | Deployer 4.3.1 |
PHP 5.5 | Deployer 3.3.0 |
PHP 5.4 | Deployer 3.0.11 |
各バージョンのpharファイルのダウンロード先は以下を参照してください。
ここでは前述したようにPHP 5.4.16に対応したバージョン3.0.11をダウンロードします。
$ curl -LO https://deployer.org/releases/v3.0.11/deployer.phar
なお、PHP 5系で最新のDeployerをダウンロードすると、利用時に以下のようなエラーが発生します。
$ dep Upgrade to php7 Deployer 5.x supports only php7 and above. If you want to use older php version use Deployer 4.x
また、最新のDeployerでは設定項目などが変更されている場合があります。公式サイトのドキュメントを参照してください。
Deployerを配置する
pharファイルのダウンロードが完了したら、depコマンドでDeployerが実行されるように配置します。
$ sudo mv deployer.phar /usr/local/bin/dep $ chmod +x /usr/local/bin/dep
Deployerの実行テスト
depコマンドでDeployerを試してみます。以下のページも参考にしてください。
次のコマンドで、Deployerのタスクなどを定義する設定ファイルのひな形を生成することができます。
$ dep init
また、設定ファイルはコマンドを利用せず、deploy.php
というファイル名で直接手動で用意することも可能です。
まず、Deployerの挙動を確認するために、deploy.php
を以下のようにしてみます。
<?php task('test', function () { writeln('Hello world'); });
この記述では、Hello worldと表示するtestタスクを定義しています。これを実行してみます。
$ dep test ? Executing task test Hello world ? Ok
問題なくDeployerが動作することが確認できました。
次は、GitHubからソースコードをデプロイできるdeploy.php
を記述してみましょう。
デプロイ用の設定
上記のテストでタスク(task
)を直接定義しましたが、Deployerには便利なレシピがあります。ここではComposerレシピ(recipe/composer.php
)を利用します。
デプロイ先のホスト情報をproduction
として定義し、付随する情報をいくつか設定します。【……】としている箇所を、各自の環境に合わせて記述してください。
<?php require 'recipe/composer.php'; // デプロイ先 server('production', '【デプロイ先のホスト名 or IP】', 【SSH接続先ポート番号】) ->user('【ユーザー名】') ->identityFile() ->forwardAgent() ->env('deploy_path', '【デプロイ先のディレクトリ】'); set('ssh_type', 'native'); // リポジトリ set('repository', '【GitHubのクローン元】');
これでデプロイ用の設定は準備完了です。
次に、これがCircleCI上で自動的に実行されるように連携させていきます。このdeploy.php
ファイルはGitHub上で、リポジトリ直下(第2回で作成したindex.php
などと同じ場所)に置いておいてください。
CircleCIを使ってテストやデプロイを自動化
続いて、GitHubのPull Requestをフックにし、テストやデプロイを自動化させてみます。
Pull Requestを投げたら自動的にテストを実行、Pull Requestの確認が完了してmaster
ブランチへマージされたタイミングでデプロイが自動的にされるようにします。
今回は、CircleCIを用います。これはCircle Internet Services, Inc.が運営する継続的インテグレーションのサービスで、1コンテナであれば無料で利用可能です。
CircleCIのアカウント作成
CircleCIにアクセスし、「Sign Up」を選択します。
「Sign Up with GitHub」を選択します。
GitHubアカウントにログインし、CircleCIに権限を付与します。
以下のような画面が表示されたら成功です。
次に、「Projects」から、連携したいリポジトリの「Setup project」を選択します。
以下のような画面が表示されるので、Operating Systemは[Linux]、Languageは[PHP]を選択します。
続く手順が「Next Steps」に記されていますが、今回は先にSSH鍵のFingerprintの値をYAMLファイル(config.yml
)に記載したいため、手順を入れ替えて、先に「Start building」を押してください。この段階ではまだ設定が完了していないためエラーになります。
デプロイ用のSSH鍵
CircleCI + Deployerでデプロイする際のSSH鍵を用意・登録します。
デプロイ用にパスフレーズなしの鍵を作成しましょう。公開鍵はデプロイ先のホストで、接続に利用するユーザーの.ssh/authorized_keys
に追記しておきます。
鍵の作成に関しては、「今日からはじめるGitHub」の記事の「SSHの鍵を取得する」のセクションを参考にしてください。
ProjectsのSettingsにある[SSH Permissions]で[Add SSH Key]をクリックしてSSHの秘密鍵を登録します。
Hostnameを空欄にした場合は、このリポジトリのデプロイ先すべてでこの鍵が利用されます。今回は空欄にし、Private Keyのみ入力します。
パスフレーズありの鍵の場合、エラーによって保存ができない仕組みのようなので、保存ができないときはパスフレーズを指定していないかどうかを確認してみると良いでしょう。また、「-----BEGIN RSA PRIVATE KEY-----」「-----END RSA PRIVATE KEY-----」の行もすべて貼り付ける必要があるので注意しましょう。
保存ができたら以下のような表示になります。Fingerprintの値は後ほど利用します。
CircleCIの設定ファイルを用意
GitHubの対象リポジトリに.circleci/config.yml
を用意し、CircleCIに実行させたい挙動を記載していきます。
ファイルの全体は以下の通りです。【……】としている箇所を、各自の環境に合わせて記述してください。
# PHP CircleCI 2.0 configuration file # # Check https://circleci.com/docs/2.0/language-php/ for more details # version: 2 jobs: build-job: docker: - image: centos:7 working_directory: ~/repo steps: - checkout # Download and cache dependencies - restore_cache: keys: - v1-dependencies-{{ checksum "composer.json" }} # fallback to using the latest cache if no exact match is found - v1-dependencies- # install make - run: yum -y install make # install git - run: yum -y install git # install php - run: yum -y install php-pear php-devel gcc ImageMagick ImageMagick-devel ImageMagick-perl # install composer - run: php -r "copy('https://getcomposer.org/installer', 'composer-setup.php');" - run: php composer-setup.php --filename=composer - run: ./composer install -n --prefer-dist # install Imagick - run: pecl install imagick - run: echo "extension=imagick.so" >> /etc/php.ini - save_cache: paths: - ./vendor key: v1-dependencies-{{ checksum "composer.json" }} # run tests! - run: ./vendor/bin/phpunit # deployer deploy-job: docker: - image: centos:7 steps: - checkout - add_ssh_keys: fingerprints: - "【先程SSH鍵を登録した際に表示されていたFingerprint】" - run: echo "User 【ユーザー名】" >> $HOME/.ssh/config - run: echo "ForwardAgent yes" >> $HOME/.ssh/config - run: yum -y install php-pear php-devel - run: curl -LO https://deployer.org/releases/v3.0.11/deployer.phar - run: mv deployer.phar dep - run: chmod +x ./dep - run: ./dep deploy production workflows: version: 2 build-deploy: jobs: - build-job - deploy-job: requires: - build-job filters: branches: only: master
設定ファイルの記載内容の詳細
記載内容でお決まりの部分以外を順に説明していきます。
version: 2
これはCircleCI 2.0を利用することを意味しています。
docker: - image: centos:7
ここでは、テストを実行するDockerのイメージを指定しています。CircleCIでもPHP実行環境は用意されていますが、そのイメージで利用されているOSはUbuntuであるため、今回はCentOSのDockerイメージを指定しました。テストを実行させる際に利用したい環境を適宜指定しましょう。
# install make - run: yum -y install make # install git - run: yum -y install git # install php - run: yum -y install php-pear php-devel gcc ImageMagick ImageMagick-devel ImageMagick-perl # install composer - run: php -r "copy('https://getcomposer.org/installer', 'composer-setup.php');" - run: php composer-setup.php --filename=composer - run: ./composer install -n --prefer-dist # install Imagick - run: pecl install imagick - run: echo "extension=imagick.so" >> /etc/php.ini
この部分では、第1回と第2回で用意した環境と同じになるよう、必要なパッケージのインストールを行っています。
# run tests! - run: ./vendor/bin/phpunit
この部分でテストが実施されます。
# deployer deploy-job: docker: - image: centos:7 steps: - checkout - add_ssh_keys: fingerprints: - "【先程SSH鍵を登録した際に表示されていたFingerprint】" - run: echo "User 【ユーザー名】" >> $HOME/.ssh/config - run: echo "ForwardAgent yes" >> $HOME/.ssh/config - run: yum -y install php-pear php-devel - run: curl -LO https://deployer.org/releases/v3.0.11/deployer.phar - run: mv deployer.phar dep - run: chmod +x ./dep - run: ./dep deploy production
ここは、Deployerでデプロイするための記述です。Docker上のCentOS 7にDeployerをインストールし、実行させています。
ポイントはadd_ssh_keys
で、先程CircleCIに登録したSSHの秘密鍵をFingerprintの値を用いて呼び出しています。そして、SSH接続に必要な設定を.ssh/config
に記載することにより、CircleCIからデプロイ先への接続を可能にしています。
この部分を置き換えれば、Deployerではないツールとの連携も可能です。
workflows: version: 2 build-deploy: jobs: - build-job - deploy-job: requires: - build-job filters: branches: only: master
ここで、テストを実行するbuild-job
と、デプロイを実行するdeploy-job
のフローを制御しています。build-job
は共通で実行され、ブランチがmaster
の場合のみ、build-job
の実行後にdeploy-job
を実行するように指定しています。
これにより、Pull Requestを作成したタイミングや、新しいコミットを追加プッシュした際にbuild-job
が実行されて、テストを自動実行します。
自動テストと自動デプロイの実行
設定後にPull Requestを作成すると、以下のようにCircleCIのジョブへのリンクが追加されます。
テストが完了し、すべてのテストに成功すると以下のような表示になります。Pull Requestをレビューする際には、このテスト結果も確認するようにしましょう。テストに失敗していれば、そもそもPull Requestに出された修正内容に問題があるはずなので、確認してもらうようにコメントします。
CircleCIにてジョブの実行結果の詳細を確認できます。ジョブが失敗した際には、このページでどのステップでエラーが発生したのかを確認していくことになります。
Pull Requestをマージした際にはmaster
ブランチへの変更になるため、build-job
とdeploy-job
が実行されます。
deploy-job
が成功すればDeployerで指定されたデプロイ先に、GitHub上へプッシュしてあるソースが反映されます。
デプロイ先を確認すると、以下のようなディレクトリが反映されているはずです。
current
はreleases
内の最新版ソースへのシンボリックリンクです。リリース時に反映させたい内容がこのcurrent
です。releases
はデフォルトの設定では過去3バージョン分のソースが保存されます。shared
はリリースする度に入れ替わるreleases
とは異なり、ログファイルなどずっと保持されるファイルを保持する際に利用するものです。
今回の実装例ではこのDeployerによるディレクトリ構成のままなので、Webアプリケーションとして公開できる適切なURLから、シンボリックリンクを使ってcurrent
にアクセスできるように調整しましょう。
おわりに
今回は、DeployerとCircleCIを例にCI/CD対応を行いました。各ツールの仕様はそれぞれ異なるので、ドキュメントを読んだり試行錯誤は必要になります。しかし、それはCI/CDに限らず新しいものを試す際には常に必要になることです。CI/CDがどのようなものなのかを知っておけば、ツールが変わったとしても対応はできるでしょう。
世の中には便利なツールが大量に存在し、日々新しいものも誕生しています。新しいものに恐れず、気軽に試してみるマインドも大切なので、いろいろ挑戦していきましょう。
執筆者プロフィール
池田健人(いけだ・けんと) @ikenyal
編集:薄井千春(ZINE)