経済産業省「中途採用」公募にあたり、2022年4月に経済産業省に入省した安田有作さん(製造産業局 生活製品課 係長)を取材した。もともと地方自治体の県庁職員として働き、経済産業省へ。なぜ、彼は数多くある省庁のなかでも経産省を次なるキャリアに選んだのか。そこには「前例がないことに取り組む経産省で働きたい。社会にとって前向きな仕事をしていきたい」という思いがあった――。(※所属は取材時点のものです)
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まずは前職の仕事内容と転職を考えたきっかけから伺ってもよろしいでしょうか。
地方自治体の県庁で働いていたのですが、結婚し、子どもが産まれるタイミングもあり、妻が働く東京へと引っ越しをすることになりました。もともと「誰かの役に立つ仕事がしたい」と県庁職員になった経緯もあり、公務員としての仕事は続けたいと考えていて、同時に「せっかく東京で働くのであれば、国の仕事に携わりたい」と考えました。県での業務は、どうしても国で決められた方針に従いその執行を行うことが多く、少なからず制約もありました。より自由度を持って、政策形成に関わりたいという思いがあり、国家公務員に絞り、転職先を探し始めました。
国家公務員として働く上で、さまざまな選択肢があったと思いますが、なぜ、経産省だったのでしょうか。
これは私の勝手なイメージですが、「経産省は新しいことにも前向き省庁だから、きっと自分に合っているだろう」と思いました。経産省が担っている分野は広いですし、比較的規制も少なく、前向きな仕事が多くあるのではないかと。県庁時代、さまざまな仕事に取り組みましたが、特に自分に合っていると感じたのが、商工関係の部署でした。事業者や商工会議所などの団体と連携し、前向きに成長していく中小企業に伴走支援する仕事にやりがいも感じました。国単位でもそういった支援に携わりたいと考え、経産省への入省を決めました。
一般職係長級採用 安田有作(39)/製造産業局 生活製品課 係長
名古屋大学法学部法律・政治学科卒業後、早稲田大学大学院法学研究科を修了。岐阜県庁へ入庁し、県土整備部や商工労働部商工政策課を経験。その後、東京2020オリンピック・パラリンピック大会組織委員会への出向も経験。岐阜県健康福祉部感染症対策推進課でコロナ対応に従事した後、 2022年4月、経済産業省へ入省し中小企業庁事業環境部企画課の企画調整係長を務める。 2023年7月、経産省製造産業局生活製品課皮革係長に就任。現在に至る。
実際、入省後に感じた印象についても伺わせてください。
そうですね。「新しいことに挑戦ができる」といった点は、イメージ通りだったように思います。もちろん専門性の高い知識・スキルを持つ職員も多く働いているため、一概には言えませんが、個人的には「どんどん新しいことに挑戦していくことが好き」という職員が多い印象があります。実際、新しい政策が次々と立案され、実行されていくのも経産省の特徴かもしれません。特に驚いたのが、そのスピード感です。決断がとにかく早い。私が言うのもおこがましいですが、職員のみなさんは非常に優秀で、砕けた言い方をすると、「話が早い」。豊富な知識、経験、そして視野の広さがあり、付いていくのがやっとですね。
また、良い意味でイメージと違ったところは、子育て世代への理解がある、同世代の職員も多く活躍していることかもしれません。もちろん業務量は決して少ないとは言えませんが、今まさに組織改革に取り組んでおり、テレワーク、勤務地の選択など、思っていたよりも子育てへの支援があり、家庭の事情にも柔軟に対応ができています。特に男性でも、育休を取る職員も増えているのは大きく変化しているところ。キーポジションで活躍する同年代、子育て世代の職員の方々もおり、それぞれの状況を大切にしながら働けるようになってきていると思います。
2023年10月現在、製造産業局生活製品課皮革係長として働く安田さん。皮革産業の再興をミッションに公務に取り組む。「これまで重要な産業セクター、地域経済の支柱の一つでもあった日本の皮革産業ですが、合成皮革製品の台頭、外国製の高級ブランドとの競合により、厳しい状況に置かれています。また、産業全体に対するイメージ向上も課題です。皮革は畜肉生産の副産物、食肉の消費から生じる余剰部分から生産されており、資源の有効活用、サステナビリティ、環境負荷軽減にも貢献しています。どのようにメイドインジャパンの付加価値の高い製品を開発し、国内外に広められるか。さらに産業全体のイメージ向上が図れるか。産業そのものの再興に向け、知恵を出し合って取り組んでいます。」
入省後、とくにやりがいを感じた仕事があれば教えてください。
今春まで、中小企業庁事業環境部企画課で企画調整係長として働いていたのですが、そこで携わった「パートナーシップ構築宣言*」の推進は、印象に残っている仕事の一つです。
*パートナーシップ構築宣言…サプライチェーン全体の付加価値向上、大企業と中小企業の共存共栄を目指し、発注者側の立場から代表者の名前で宣言するもの。 企業側が宣言するメリットとして、補助金加点や税制優遇に加え、社会的責任、環境・人権に対する配慮をPRする機会となる点も挙げられる。 https://www.biz-partnership.jp/
担当となった当初は、6000社程度の宣言数でしたが、在任中の1年3か月で約3万社に増やすことができました。宣言をどう盛り上げていくかという点で、経済産業大臣賞の新設、シンポジウムの開催、SDGSアクションプランへの掲載、調査の実施…各方面からご意見をいただき、知恵を出し合いながら、思いつくことは全て取り組み、宣言数の拡大、実効性の向上に努めていきました。
かなり自由度高く取り組めたのでしょうか。
そうですね。誰も正解がわからないので、自由度高く取り組めたと思います。言い換えれば、予算の取得から椅子並べまで何でもやりました(笑)。さらに、予算やスケジュールも限られているなかでゼロから企画したので、正直「本当に結果につながるだろうか」と緊張しながら進めた記憶があります。その結果、 試行錯誤しながら世に打ち出すことができ、製造局に異動した今も話題に上がる場面に遭遇することが多々あります。拡大や認知度向上に汗をかいた制度が、人権や環境、価格転嫁など企業が取り組むべき運動として広がっていることを実感できるのは非常に嬉しいですし、尽力した甲斐があったなと感じています。
やりがいに加えて、ミスマッチをしないためにも事前に知っておいたほうがいい「厳しさ」について、「携わる政策に対し、自分の仕事として誇りをもって取り組むことが大切だと思います。」と語ってくれた安田さん。「自由度高く、政策立案ができる反面、説明責任が伴います。省内だけでなく、外部の関係者にも自信と説得力を持って説明ができなければ、途中で気持ちが折れてしまうこともあります。自信と根拠を持って取り組むことができれば、困難な局面に遭遇しても、楽しみながら乗り越えることができるはずです。」
最後に、安田さんにとっての「仕事」とはどういったものか、伺ってもよろしいでしょうか。
もちろん仕事は生活のために行うものでもありますが、個人的にはやはり、人のためになりたい、役に立っていきたいという気持ちが強くあります。特に公務員の仕事は、採算が見込めない、利益が出ないものもあります。ただ、「国民の生活を豊かにする」という目的のために働ける。ここにやりがいを感じています。
その「社会や人のために働いていきたい」といった価値観はどこで培われたのでしょうか。
もしかすると、大学在学中から世界40カ国を旅してまわったことが影響しているかもしれません。言葉にするのは恥ずかしいですが、さまざまな国を見ていくうちに、「やっぱり日本が好きだ」と気がつくことができました。いつか日本の役に立つことがしたいと考えるようになったきっかけかもしれません。そして地方公務員として働くなかで、社会の構造をより良く変えられるのではないかという思いが芽生え、国家公務員という今につながります。新しいことを提案し、実行し、社会に貢献していく。同じような志を持つ方々とぜひ一緒にその循環を経産省で創っていければと思います。