国会、裁判所、内閣のいずれにも属さず、独立した立場で国の財政を監督する「会計検査院(*)」。明治時代、大隈重信の提言により設立され、140年以上の歴史を誇る。そして2024年12月、新たな風として「デジタル推進(データ戦略担当)」「公認会計士(会計検査担当)」外部人材採用を実施へ。同募集に伴い、会計検査院の検査支援室室長である山本 剛資さんを取材した。会計検査院で働くことで得られるやりがい・キャリア、そして今回の募集にかける思いとは――。
(*)「会計検査院」https://www.jbaudit.go.jp/
会計検査院について
会計検査院は、国会、裁判所、内閣、いずれにも属することなく独立した立場で国の財政の監督を司る機関。大隈重信の提言により、1880年(明治13年)に太政官(内閣)に直属する独立の国家機関として誕生。岩倉使節団の一人でもあった山口尚芳(やまぐち・ますか)が初代の院長を務め、140年以上の歴史を誇る。
主な役割は、国の予算が適切かつ有効に執行されたか、監督・チェックすること。また、不適切な会計経理や行政運営などを指摘し、原因を究明した上で、各省庁や関連機関に改善を促す。そして、検査の結果を国会に報告し、日本の行財政活動の透明性及び健全性の向上に寄与していく。(日本国憲法第90条において、国の収入支出の決算は、すべて毎年会計検査院がこれを検査し、内閣は、次の年度に、その検査報告とともに、これを国会に提出することが義務付けられており、会計検査院の組織及び権限は、法律で定めている。)
検査は、大きく「在庁検査(在庁して検査対象機関から提出された書類やデータを検査)」と、「実地検査(事業の実施現場や検査対象機関の事務所などに出張して検査)」の2種類があり、国の収入支出の決算、政府関係機関・独立行政法人などの会計などの検査を実施する。現在、年間予算規模は約160億円、約1250人の職員のうち多くは調査官等として活動している。毎年度、国の予算執行などに関する検査結果を報告する「検査報告」を国会に提出。決算審査を国会で行う際の参考資料となる。
はじめに聞いたのは、今回の募集の背景について。なぜ、民間をはじめ、外部人材を広く募ることになったのか。
会計検査院として大きな変革期を迎えており、外部から新しい視点と専門的なスキルを取り入れることで検査をアップデートするために、今回の募集に至りました。社会全体が大きく変化していくなか、本院も新しい会計検査の仕組み、効果的な検査のためのインフラを構築し、日本全体の財政の監督をさらに強化していくことが重要と考えています。いかに今後、より国民から信頼される「透明性の高い行政」の実現に貢献していけるか。そのためにも専門知を外部から取り入れ、有意義な化学反応を必要としています。特に今回の配属先となるのは「検査支援室」という部署で、まさに「イノベーションに挑戦するチーム」です。ですので、ぜひ新たな仲間を迎えて、「積極的なアイデア提案」と「チームの一員としての協力」をいただき、課題に対し、柔軟に対応しつつ、新しい会計検査を共に切り拓いていきたいと考えています。
会計検査院 検査支援室 室長 山本 剛資
1981年生まれ。2006年入庁。厚生労働省、総務省、国土交通省の検査に携わる。この間、アメリカへの留学を経て、外務省のニューヨーク総領事館へ出向(コロナ禍を経験)。帰国後は組織の予算要求・執行を管理する会計課での総括業務を経て2023年より現職。新しい検査手法の開発を中心に、デジタルツールを活用して検査活動を前向きに支援するチームの長として仲間とともにイノベーションに挑戦している。
続いて聞けたのは「デジタル推進(データ戦略担当)」「公認会計士(会計検査担当)」それぞれに期待する役割とやりがいについて。
▼ デジタル推進(データ戦略担当)
近年、デジタル技術が急速に進化するなか、行政もその流れに遅れることなく対応しなければならない課題に直面しています。いかに政策運営や行政サービスをより効率的に、そして国民の皆様にとってより良くしていけるか。そのためにはデータの利活用が欠かせません。会計検査院でも、財政を監督する機関として、各省庁から集まるデータをもとに、効率や効果を検証し、不適切な点があれば迅速に改善へと結びつけていく、そういった新たな検査体制の必要性が高まっています。また、膨大なデータを扱う上で、データの戦略的活用も重要テーマとなっています。ぜひこういった部分の戦略立案、実践において力を貸していただきたいと考えています。
重要なことは、あくまでも「データの利活用はきっかけ」ということです。専門知識を有する各検査課の職員と連携し、会計検査院全体のデジタルに対する「考え方」をアップデートしていきたい。まだまだ「紙」ベースの業務が主軸となっているなか、これまでの伝統には敬意を払いつつも、データ分析やAIを駆使した新たな検査体制を構築していく。そういった業務を担う一員になっていただけることに期待しています。
やりがいとしては、デジタル技術を駆使し、政策や行政サービスの変革に寄与していくことができることが挙げられます。また、幅広い検査対象を検査することを通じて、独立した立場から、社会全体のデジタル変革を見据えた検査の推進・発展に貢献ができます。こういった部分は、他の官公庁や民間企業では得難い貴重な経験となるでしょう。キャリアの側面からも、国家機関においてデータ分析やAI、デジタルスキルを実践で発揮し、それぞれの能力を磨ける環境だと思います。ぜひ、本院での経験を活かし、将来のキャリアパスとしてデジタルやデータ領域においてさらなるステップアップを目指していただければと思います。
▼ 公認会計士(会計検査担当)
検査部局にて調査官として、独立行政法人や政府が出資している会社等の運営状況、財務書類等の検査に取り組んでいただければと考えています。ぜひ、公認会計士としての専門的な知識・経験を活かし、財政の監督に貢献いただきたいです。ぜひ検査先で生じている事象や課題に対し、問題意識を持ち、検査に当たっていただければと思います。
また、多岐にわたる部署からの検査に関する相談に対し、公認会計士としての専門的知識・経験を活用した支援にも期待しています。実際に、検査を通して省庁等が実施している事業の現場や実態を見ていただく予定です。検査の対象は国政全般に関するものであり、業務のフィールドが非常に広いことも特徴です。これまで公認会計士として培ってきた知識や経験の幅をさらに広げていただく機会になるはずです。
出典:「会計検査院ウェブサイト」https://www.jbaudit.go.jp/movie/index.html
公認会計士(会計検査担当)においては実地検査があり、泊まりの出張もあるという。「実地検査に従事していただくため、頻度は高くありませんが、最長5日間(月~金)の国内出張もあります。このあたりは認識にギャップがないよう、事前に知っておいていただければと思います。」と山本さん。
それぞれのポジションに共通するやりがいについて「国における財政の監督の一端を担っていけること」と山本さんは話す。
会計検査院は決して「検査をして終わり」ではありません。国の財政を監督し、不適切な点があれば迅速に改善に結びつくよう各省庁に処置を要求します。政策の改善に貢献できる点が、大きなやりがいです。「検査を通じて国が動く」。この経験は、会計検査院でこそ得られるものです。
また、昨今、不適切な支出が注目を集めることも多いですが、そういった場面における関与や対処について、知見や経験を得られる環境でもあります。私個人としては「国の政策が変わる瞬間に立ち会う経験ができること」こそ、会計検査院で働く一番の魅力だと思います。デジタル推進にせよ、会計士にせよ、「国の政策を支える重要なプロジェクト」に携わる経験は必ずや「引き出し」となりますし、将来のキャリアにおいて貴重な財産になると信じています。
もう一つ、民間企業と大きく違うのは、利益ではなく、公益を第一に追求するといった点です。規模感も大きく異なります。ぜひ、パブリックマインドを発揮いただき、社会全体に貢献していく、国全体を俯瞰する醍醐味を感じていただければと思います。
会計検査院でのキャリアを長く積んできた山本さん。ご自身のなかで特に印象に残っている仕事とは――。
非常に印象に残っているのは、やはり国の予算が本来の目的とは異なる形で使用されていたケースです。本来であれば、該当省庁の内部監査や担当部局において課題を発見・修正するのが望ましいですし、そのように各組織も尽力していらっしゃいます。しかし、自組織の行動を内部で指摘し、正していくのには限界があります。そういった時にこそ、会計検査院として指摘し、意見を伝えていく。自分たちだけでは気づきにくい事象に対し光を当て、より良い政策を生み出すきっかけを作る存在でもあります。これまで慣習的に続いてきた取り組みが「変わる」起点となることも少なくありません。
もちろん、会計検査院が全ての課題を解決できるわけではありません。当然、検査は細かい対応も多く、必ずしも歓迎される場面ばかりではありません。ですが、「独立した組織だからこそ言えることがある」という強い思いを持ちつつ、現場で尽力されている方々に寄り添いつつ検査を行うことで、組織の行動に影響を与えていく。それはつまり、国が変わっていくときに、その変化に伴走ができる。ここは私自身が感じる大きなやりがいです。同時に、検査には大きな影響力があるからこそ、常にプロフェッショナルとしての仕事を心がけていくことも重要だと考えています。
やりがいの一方で、応募くださる方のニーズとミスマッチしないためにも「知っておくべき厳しさ」についても話をしてくれた山本さん。「たとえば、長い歴史のなかで、ずっと「紙ベース」で行なってきた業務を、デジタルに移行するためには段階的なアプローチが必要です。外部で成功したやり方でも、急に実行できるわけではありません。いかに伝統とデジタルを組み合わせられるか。どうデータ駆動型手法に導くか。これまでの伝統を知る方々を巻き込むための柔軟な思考と交渉力、コミュニケーション能力が必要とされます。これは会計士の方においても共通します。限られた期間内で、今、何を進めるべきか。長い視点で、一歩ずつ取り組むことも重要です。困難に直面しても諦めず、失敗を恐れずに挑戦をし続ける。前向きな姿勢で限られた期間内で納得のいく成果を達成する。そういったことを念頭に置き、仕事に取り組んでいただければと思います。」
最後に、山本さんから、応募者へのメッセージをもらうことができた。
会計検査院は今まさに進化しようとしています。ぜひ共に変革を推進していきましょう。これまでの伝統と新たな知見を融合させて、検査院の歴史を一緒に作っていければ嬉しく思います。自身の問題意識やアイデアがきっかけとなり、大きな指摘につながることも多々あります。ですので、チームメンバーと意見を交わしながら、組織、そして国を動かすような仕事に貢献できるよう、共に手掛けていければと思います。
今、私たちのなかにあるのは変革への強い意思です。特にデジタル領域でいえば、「紙をベース」といった考えを前提にしている業務も現状ではあります。もちろん、紙だからこそできる業務の大事さもよくわかります。一方で、本当に紙でしかできないのか、違う角度から光を当てて、変えていく必要もあります。数十年先に紙をベースとしていたらそれこそ会計検査院は時代に取り残されてしまうかもしれません。そういった事態に陥らないためにも、今が転換期であり、デジタルの強みを生かし、変わる絶好のチャンスだと捉えています。この重要な時期に、新たな仕組みづくりやインフラ構築に関わっていただけることを期待しています。新しいことにチャレンジしたい方、問題解決に積極的な方、そして公のために全力を尽くせる方には、やりがいと成長の機会が存分にあります。ここでの経験は、キャリアを豊かにするだけでなく、日本社会全体に貢献する、大きな意義があります。ぜひ、デジタル技術・専門知識を駆使し、日本の財政監督の一端を担い、国民から信頼される透明性の高い政策運営、行財政サービスの実現に貢献していきましょう。
山本さんに聞く「選考のポイント」について
面接では「これまでの経験をどのように活かして行政改革に貢献できるか」という点について、具体的な例を交え、伺いたいと考えています。また、「チームで協力してプロジェクトを成功させた経験」や「困難に直面した際の対処法」などの質問をすることも多いです。それは、ご自身の経験、専門的知識に加え、コミュニケーション能力、課題解決力を重視しているためです。そして、自分とは異なる意見があるなかでも、いかにチームとしての合意を形成し、それに基づき動いていけるか、そこに力を発揮していただけるかを重視しています。ぜひ過去の経験や取組みを含め、さまざまな側面からお話をさせていただければと思います。
会計検査院 検査支援室 室長 山本 剛資