INTERVIEW
認定NPO法人CLACK(中高生向けデジタル教育・キャリア教育支援NPO)
困難を抱える子どもたちに、自走力と希望を。子どもの貧困問題にデジタル教育で挑む、29歳NPO代表の志
さまざまな困難を抱えた中高生向けの「デジタル教育」と「キャリア教育」に取り組む認定NPO法人CLACK。理事長である平井大輝さん(29)は「社会に飛び出していける、自走力を子どもたちが身につけられるようにしたい」と語る。なぜ、彼らはデジタル教育に着目するのか。どういった課題を解決していくのか。そしてその先に見据える未来とは――。
認定NPO法人CLACKの事業概要・特徴について
・中高生向けデジタル教育・キャリア教育に取り組む認定NPO法人(2018年設立)
・代表自身の貧困経験と学習支援経験で感じた「お金だけ援助しても貧困の連鎖から抜け出せない」「貧困の連鎖をなんとかしたい」という使命感から立ち上げられた
・「可能性を見つめる、助走。」を掲げ、困難を抱えた高校生が自ら人生を切り拓くための機会を提供する
・当初数名から始まった活動も累計100名近い社会人・大学生メンバーが関わっている(2024年12月時点)
・スキル習得支援、キャリア教育、そして多くの「関わり」のなかで自ら道を切り拓く力を養う
子どもたちが社会に飛び出していける「自走力」と「希望」を
なぜCLACKは「子どもの貧困問題」という社会課題に対し、高校生向けのデジタル教育といったテーマで挑むのか。その背景から平井さんに聞くことができた。
近年、子どもの貧困問題が注目されるようになり、「こども食堂」や「無料塾」「体験格差を無くすためのプロジェクト」など、さまざまな支援が広がってきましたよね。いわゆる衣食住、学習、居場所…それらの支援が広がってきたのはすばらしいこと。ただ、どうしても小中学生向けがメインのものが多く、そこから「困難を抱える高校生たち」が漏れてしまっている状況があり、何とかしたいと考えました。
日本での高校進学率は約98%と高く、実質的には義務教育に近いものと言えます。ですが、親の離婚、経済環境の変化、発達における特性や傾向、その他、自身や家族の病気など、厳しい環境で過ごしている高校生もいます。なんとか卒業できたとしても進学や就職ができず、社会からこぼれ落ちてしまうことも。その結果、闇バイトなどの犯罪に手を染めてしまったり、薬物依存症になってしまったりするケースがあります。
いかに「子どもとしての最後の時期」であり「社会に出る一歩手前」である高校時代を過ごすか、そこでスキルと自信を身につけられるか。社会に出て、人生を切り拓いていく「自走力」を身につけていく。それがCLACKとしての活動の根幹です。特にAIを含めたデジタルスキル、プログラミングは社会でも求められており、有用性が高い。若い世代はスマホネイティブ世代ですし、毎日のようにYouTubeやTikTokを見たり、ゲームに親しんでいたり、デジタルは身近なものになっています。そこから将来につながるスキルを身につけていく。そうすることで進学や就職ができなかった子どもたちが未来を切り拓く力につなげていけるように支援やサポートをしています。
CLACK の独自性「自走支援モデル」
「出会う」「学ぶ」「実践する」の3ステップから構成されているCLACK 独自の「自走支援モデル」(その3つのステップもさらに細かく段階分けがされている)。それらによって高校生が自立するために必要なスキル・考え方を培い、自走へとつなげていく。情報を届ける/自分事として捉えてもらう/通い続けてもらう/実践する、それらを一気通貫で支援しているのがCLACK最大の特徴である。
実際、CLACKではどういった子どもたちを支援しているのか。その具体例についても聞くことができた。
進路に影響を与えやすい高校1年生、2年生が多いですが、高校3年生もいます。たとえば、通信制高校に通っていた女の子を例にお伝えすると、彼女はもともと母子家庭だったのですが、さらに家庭でのトラブルも抱えていて、親元を離れ、一人暮らしをせざる得ない状況に。高校3年生でさらに1年留年することになり、CLACKでプログラミングを学ぶようになりました。そこからどんどんITに興味を持ち、専門学校に進み、2024年の春にIT企業のエンジニア職として内定をもらい、働き始めています。
もう一人ご紹介すると、人との関わり、コミュニケーションがとても苦手な男の子だったのですが、大阪のIT企業に就職が決まった子もいました。中学生の時にいじめにあい、誰も友達がおらず、一人では電車にも乗れないという子でした。彼は高校2年生の時に来てくれて、企業や団体のホームページをつくる「クエスト(*)」の最初の生徒としてやり遂げてくれて、その後、専門学校に進学しました。クラスメイトからは課題等の相談を受けるようになり、それがきっかけで友達もでき、自信を持つようになっていきました。その他にも、専門学校内のアプリコンテストで入賞したり、企業でインターンシップをするなど、半年に1回ぐらい報告に来てくれました。彼は結果的に複数社から内定をもらい、そのうちの1社に就職ができました。こういった子たちのようにCLACKで学びつつ、IT業界に興味を持ち、専門学校に進む子は比較的多いですね。また、生徒として支援を受ける側だった子が、自らの経験を踏まえ、CLACKのスタッフとして働いてくれる子もいます。
(*)「クエスト」について
CLACKとしてWebサイト・システム開発を受託後、高校生たちに一部業務を委託し、「実践の場」を提供する事業。学んだ技術を活かしつつ、高校生が「自らの力で稼ぐ」を体験し、少しずつ社会で通用するIT人材としてステップアップできる場をつくっていく。団体内のフルタイム社員の中にもプログラマーやSE、Webディレクター出身のメンバーが増加。高校生の意欲とスキルを高めるノウハウを活かし、同事業の拡大を図っていく。(参考)https://quest.clack.ne.jp/
平井大輝(29)|認定NPO法人CLACK 理事長
大阪府立北野高等学校を経て、大阪府立大学工学域を卒業。両親の自営業の廃業と離婚により、相対的貧困下で中高時代を過ごす。2018年(大学休学中)、経済的に困難を抱える高校生にプログラミング教育とキャリア教育を提供するCLACKを設立(2019年 法人設立)。大学卒業後も専業で理事長を務め、2023年2月、CLACKは認定NPO法人へ。自身の経験を基に、「経済的困難を抱える高校生」が自らの力で未来を切り拓くための「自走支援」の提供、次世代ロールモデル育成を目指す。シチズンオブザイヤー2021、イノベーシスト大賞2023、FORBES JAPAN 30 UNDER 30 2023を受賞
学校でも、塾でもない。だから、まっすぐに子どもと向き合える
CLACKとして取り組む「高校生向け支援」は、NPOとして運営するからこそできることが多く、やりがいも大きいと平井さんは話す。
そもそも「たとえ良い無料支援があったとしても、高校生たちに知ってもらえない」という大きな課題があります。困難を抱えている高校生たちであれば、なおさらです。その点、NPOとして活動することで学校、行政、その他の機関やNPOと連携しやすく、リーチがしやすい。もちろんまだまだ十分ではありませんが、営利企業に比べて動きやすいのは間違いありません。
何よりも、私たちは学校でも、塾でもありません。だからこそ、まっすぐ子どもたちに向き合うことができます。保護者の目を気にする必要はなく、大学進学のための受験勉強を教えるわけでもありません。やはり営利企業だと収益追求が事業のゴールになることも多く、純粋に「子どもたちのため」を追求しづらくなるような歪みが出てしまうケースも少なくない。その点、NPOだからこそ、その子にとって必要なプログラムや支援を純度高く提供できますし、そこにこだわってきました。たとえば、CLACKはデジタルに特化していますが、必ずしもそれが全てではありません。デジタルが合わなければ、別のことをやってもいい。別の支援団体や機関につなぐ役割など、プラスになる支援もしていける。ここはCLACKとしても大切にしているスタンスです。
また、この約6年間運営をするなか、さまざまな形で関わり、応援してくださる企業や機関、団体も増えてきました。たとえば、子どもたちがプログラミングを学ぶために使用するパソコンは、日本を代表するさまざまな企業から累計で1200台以上のパソコンを寄贈いただいています。また、インターン、ボランティア、プロボノなど優秀な人たちがたくさん関わってくれるようにもなりました。多くの「ヒト・モノ・カネ」のリソースを少しずつ組み合わせれば、自分ではお金を払えない子どもたちのために、チャンスをつくっていける。さらに大きな可能性が見えてきていますし、長期的な目線で支援の輪を広げ、社会課題に直接アプローチしていけるのが醍醐味だと思います。
「クエスト事業に対する企業の関心が高まっています。」と話をしてくれた平井さん。「近年、ESG投資やパーパスの実現など社会貢献活動に力を入れる企業も多い印象です。いかに持続可能な社会にしていくか。バトンを次世代につなげていくか。広報的なメリットも含め、「寄付は難しいが発注であれば可能」というケースも増えてきました。たとえば、世界的なテクノロジー企業がキャンペーンページの発注を検討いただくなど月3~4件ほど案件として進捗しています。」
見据えるのは2040年。「新たな市場をつくる」挑戦を
そして2025年、未来に向けた事業拡大のフェーズへ。
今回の公募プロジェクト・人材採用の背景にもつながりますが、まずはCLACKとして蓄積してきた「自走支援ステップ」のノウハウやナレッジを活用し、高校生向け支援事業を拡大させていきます。この6年で年間約200人を支援できる規模になったのですが、5年後には10倍の年間2000人以上に届けられる体制にしていく予定です。
また、約1年前に開始した受託開発・制作を担う事業「クエスト」も着実に実績が生まれており、本格的に拡大させていきます。特にこの領域は世界的にも「インパクトハイヤリング/ソーシング(*)」として、新たな市場として注目されています。日本ではまだまだ少ないですが、その市場をつくっていく、リーディングカンパニーになることが目標です。
日本全体でいえば、2040年人手不足が深刻化すると言われており、AIやロボットを活用した自動化、移民の受け入れ、高齢者の活躍などが話題ですが、10~20代で困難を抱えている若者やシングルマザーに対し、インパクトハイヤリング/ソーシングの市場をつくることができれば、私たちの試算上は100万人の労働人口の輩出につながるのではないかと考えています。仕事を発注する企業側も、発注方法があることを知り、意識が高まっていくはず。そういった時に「発注を受ける側」として、そこに応えていくスキルを身につけてもらってマッチングする。新たに業界を作るぐらいの気持ちで大きなインパクトを目指す。難易度は高いですが、これほどおもしろい挑戦はなかなか無いと思います。
(*)インパクトハイヤリング/ソーシングとは「従来の採用ルートでは雇用機会がなかった層(シングルマザー、難民等)を雇用していく」取り組みを指す。(※デロイト・トーマツ社 『インパクト雇用で実現する人的資本経営~企業価値向上に不可欠な人的投資~』参照 https://www2.deloitte.com/jp/ja/pages/about-deloitte/articles/dtc/impact-hiring-sourcing.html)
マイノリティ層の仕事創出で、「日本の働き手不足」解消へ
取材後半に聞いたのは「ここからのCLACK」で働くやりがい、そして得られる経験・キャリアについて。
CLACKを立ち上げてから約6年間、非営利だからこそ、純度の高い「困難を抱える子どもたちのための事業」を展開してきた自負があります。この基盤を活かしつつ、ここから先の5年間で支援人数を10倍規模にしていく。0から1のフェーズが終わり、ここから1から10のフェーズに挑戦していく。その中心メンバーとして働けるのは今だけですし、大きな意義とやりがいを感じていただけるはずです。また、「事業で社会にインパクトを与えていきたい」と考える方はいますが、どのような仕事、事業で実現していくかまだまだ選択肢が少ないように思います。その点、CLACKであれば、直接的に課題に関わり、事業によるインパクトを体感できる環境です。実際、CLACKでの経験を経て、自ら事業を立ち上げるメンバーも複数名出てきており、私たちとしてもソーシャルアントレプレナーを多く輩出していけるような存在になっていきたいです。
そして最後に平井さんが「仕事を通じて実現したいこと」について聞くことができた。そこには自身の原体験、そして「志」があった――。
個人的に強く思うのは、「親ガチャ」という言葉を死語にしていきたい。子どもたちは生まれてくる家庭や親を選ぶことができません。それによって進学できない、就職できない、人生を切り拓いていけないといった状況を無くしたい。そのためにも、現在活躍できていないマイノリティ層に、いい仕事をたくさんつくっていきたいです。その結果、闇バイトや犯罪に手を染める人たちが減るかもしれない。それが私自身がやりたいことです。
もっといえば「現在活躍できていない層」への仕事の創出は、日本が抱える人手不足の解消にもつながっていくと考えています。特に2040年には1100万人の人手不足(*)が深刻な課題となるとされており、「ホワイトカラーの仕事がなくなる」など議論はされていますが、いわゆる下位層についての議論はほとんどされていません。そこに対する教育の機会を増やし、就労につなげていく。ここに本気で取り組むことは「日本を底上げしていくこと」になりますし、次の時代に事業として残していきたいです。
(*)参考『リクルートワークス研究所』https://recruit-holdings.com/ja/blog/post_20230926_0001/
もともとは私自身、中高生の頃に親の自営業が廃業し、離婚したのですが、そこからみるみるうちに経済的に苦しくなっていって。また、大学時代にボランティアで出会った中高生たちが困難を抱えていたこともあり、「なんとかしたい」とはじめたのがCLACKでした。同時に、取り組むなかでさまざまな人たちと出会い、構造的な課題にも目が向くようになりました。ゲーム理論の概念で、誰かが勝つと必ず誰かが負けるしかない「ゼロサムゲーム」という言葉がありますが、個人的にはそういった社会にはしたくないんですよね。そうではなく、誰かが勝ったら、みんなに利益がある「プラスサムゲーム」にしていきたい。どうすればWin-Loseではなく、Win-Winの関係を増やしていけるか。誰かのがんばりで、みんながハッピーになる、そんな社会をCLACKで目指していきたいです。
最後に、私の仕事観でいえば、自分の中で「命を燃やして生きている」と感じられる瞬間が好きですし、そういった仕事をしていきたいです。まさにCLACKでは好きな仲間たちと、同じ志に向かい進んでいるところ。私自身、フィクションのキャラが好きなのですが、仲間たちと困難を乗り越えながら冒険していくのが好き。そんな風に、さらに多くの仲間たちと、より大きな社会的なインパクトを生み出していければと思います。
平井さんに聞く「求める人物像」について
今回「プロジェクトマネージャー」「Webエンジニア」「事業開発」3ポジションでの公募を行ないます。全職種で共通して求めるのは「粘り強さ」や「胆力」です。よく「タフでクレバーな人材」といった表現をするのですが、子どもたち向けの学習支援は、経済合理性が働きにくい領域。「頭」だけではなく、手と足をフル回転させ、大きな理想を掲げながら実行していく力が求められます。たとえば、いかにして困難を抱えた高校生にリーチしていくか、企業にタフな交渉をしていくか。単純な利害やビジネス上のメリットだけでは成果に結びつきません。泥臭いアクションを積み重ねて、関係構築を進めたり、さまざまなアプローチで多くの人を巻き込む力が求められます。同時に法律や制度などの知識を蓄えていく必要もあり、そういったインプットとアウトプットの両方を楽しめる方にぜひご応募いただければと思います。また、前職の業界などは問いません。実際活躍しているメンバーもさまざまな業界出身者で構成されています。共通しているのは、自身に原体験があったり、社会課題への関心があること。そのあたりも面接でぜひお聞かせください。
認定NPO法人CLACK 理事長 平井 大輝