情報通信、行政制度、地方自治、消防など「国民の生活インフラ」を支える総務省。同省の総合職公募(課長補佐級・係長級)にあたり、総合広告代理店での営業職を経て、2022年9月に入省した久保田 圭祐さん (総務省総合通信基盤局 料金サービス課 接続制度第一係長)を取材した。なぜ、彼は次なるキャリアに総務省を選択したのか。そこには「仕組みづくりを通じ、地方を中心に顕在化する社会課題の解決に携わっていきたい」という思いがあった――。
もともと新卒入社した総合広告代理店にて営業として働いていた久保田さん。なぜ、総務省への転職を決めたのか。まずはその理由から話を聞くことができた。
前職の総合広告代理店でも、自治体や官公庁と連携し、広報やプロモーション活動に携わる機会があり、とてもやりがいがありました。ただ、広告会社だと取り組めるのは主に「コミュニケーション」における課題解決。より根本部分から課題を解決していきたい、そういった思いを抱くようにもなっていきました。
たとえば、自治体と伴走しつつ、観光地の活性化に取り組んだことがあったのですが、課題解決の方向性が既に提示されており、それに基づいて動く場面が少なくありませんでした。わかりやすいところだと、CMやデジタル広告などの施策や予算などはどうしても仕様書で大枠が定められていることが多い。もちろん仕様書の範囲内で工夫はできますが、そうではなく「仕様書を書く側」の立場、つまり政策をつくる立場で取り組む方が、地方を中心とした社会の課題解決につながる動きができるのではないか。そういったタイミングで、偶然知ったのが、総務省での経験者採用でした。特に総務省は、地方自治だけではなく、郵便制度やブロードバンドサービスにおいても日本全国にわたる仕組み、制度を主に担っている省でもあります。日本全国・地域との接点が多く、現場との関わりも深い。こういった点に惹かれ、総務省への入省を決めました。

久保田 圭祐 (総務省総合通信基盤局 料金サービス課 接続制度第一係長 )
大学院で社会学を学び、2018年に新卒で総合広告代理店に入社。民間企業・官公庁を得意先とする部門で営業職に従事した。TVCM制作やデジタル広告運用だけでなく、官公庁の国民運動の広報戦略立案・運用やBPO業務等を担当。その後、名古屋に転勤し、メーカーや地場企業を得意先とした広告営業に従事。2022年9月に経験者採用で総務省に入省。郵政行政部企画課において「郵便局等の公的地域基盤連携推進事業」を担当し、様々な社会課題について、郵便局のリソースを活用して課題解決を目指す実証事業に従事。2025年4月から現職。※2024年9月~2025年3月は育休取得
こうして2022年9月、総務省に入省した久保田さん。最初に「郵政行政部企画課」配属となり、そこで大きなやりがいを感じることができたと話す。
はじめに「郵政行政部企画課」に配属となったのですが、非常に印象に残る仕事に携わることができました。具体的には、全国にある郵便局を活用し、地域に根ざして社会課題の解決に資する取り組み、実証事業を行う予算事業を担当したのですが、特に印象に残っているのが、「郵便局でオンライン診療を受けられるようにする」といった取り組みです(※)。
もちろん、制度の運用見直し、自治体と利用者の費用負担の在り方の検討、オンライン診療に関する制度を管轄する厚生労働省との議論など、さまざまな調整はありましたが、最終的に事業化に至ることができました。何よりも現場の郵便局のみなさん、自治体の方々が「この地域を守っていきたい。そのためなら協力を惜しまない」と言ってくださり、その姿勢がとても心強かったですね。実際、この郵便局と連携したオンライン診療は、山口県周南市をはじめ、全国各地に広がりつつあり、大きな達成感、やりがいにつながりました。
また、オンライン診療だけでなく、郵便配達車両による水道検針事業(郵便車両に小型装置を取り付け、水道検診に活用するアイデアの実証)や、ドローンを使った荷物の運搬など、新しい技術に触れる機会も多くあったのですが、住民のみなさんの「新しい技術が導入され、この地域が明るくなるよ」と驚きながら喜んでくださった姿は今でも忘れられません。
(※)総務省を中心に郵便局でオンライン診療を提供していく取り組み
いわゆる「へき地」では少子高齢化が進行し、医療機関が近隣にないことも。高齢者自身、車を長距離運転し医療機関へ向かうことは、負担や危険も大きいなどの課題が顕在化している。また、医療資源に乏しい離島に居住する住民は、医療機関を受診するために本土の病院まで船で移動しなければならないなどの状況があった。島内に診療所が設置されている場合も、医師が非常勤となり、診療が限定される、休診となるケースが増加。医療サービスの提供が不安定となる傾向がある。こうした状況から「オンライン診療」活用が推進されているものの、スマホやパソコン操作に慣れない高齢者も多い。そこで総務省を中心に、常駐する職員がいる「郵便局」と連携する案が浮上。デジタル機器の操作に長け、高齢者と信頼関係がある職員が、遠方の医療機関、かかりつけ医とタブレット端末等を介して接続し、診療を受けられるなどの実証実験を実施した。(※職員は接続支援を郵便局職員が担うが、診療中はプライバシー保護の観点から見守りを行わない。郵便局内にテレワークブースのような防音設備を設置など工夫がされた。)
※参考「郵便局におけるオンライン診療について」厚生労働省
https://www.mhlw.go.jp/content/10800000/001314399.pdf

やりがいの一方で、事前に知っておくといい「厳しさ」について、「制度や運用を見直す際、専門的な議論も重ねていきます。今まで携わってこなかった領域でも、深い理解が求められるため、インプットする力は非常に重要です。」と話をしてくれた久保田さん。「以前在籍していた郵政行政部企画課にせよ、現在の総合通信基盤局料金サービス課にせよ、部署が変わると求められる知識や知っておくべき前提が全く異なります。ニュースや新聞に目を通すことはもちろん、事業者、専門家、地域の人々との会話から課題や情報を拾い上げていく。社会全体の仕組みや制度、そして課題について理解を深め、アンテナを張ることが欠かせないと感じています。」
その後、半年の育休期間(2024年9月~2025年3月)を経て、現在、総合通信基盤局料金サービス課に在籍する久保田さん。その業務内容と、今後の目標とは――。
今や生活インフラの一つとしても数えられるようになったインターネット回線を、「仕組み」の面から事業者間の競争を促し、高品質なサービスを適正な価格であらゆる地域の方が使えるように制度を整えていく、それが総合通信基盤局料金サービス課における役割の一つだと言えます。その中でも私が担当しているのは、インターネット回線の月額利用料に深く関わる業務です。たとえば、固定インターネット回線の月額利用料にも深く関わるNTT東西の「接続料」や、インターネット接続サービス提供事業者にとってのルールにもなり得るNTT東西の「接続約款」に関する許認可などを担っています。そういった許認可はNTT東西、事業者、さらに有識者、それぞれの立場や意見を踏まえ、合意形成を図る重要な役割を担います。このような調整も「国」という立場でこそできるものです。以前の予算事業から、監督・規制する立場へと役割は変わりましたが、共通するのは立場の異なる人たちの「現場の声」を大切にしていくこと。ここはこれからも大切にしていければと思います。
また、民間企業が提供していくものが「商品・サービス」だとすると、国は何を提供していく存在なのか。私は、公平性を担保し、人々の生活基盤を支えるための制度や法律、あるいは社会全体が円滑に機能するための枠組みを整備し、提供していくことが、国の役割だと考えています。世の中を動かす上で欠かせない、つまり、社会の「仕組みづくり」こそが、国家公務員として働く醍醐味だと思います。
なぜ、久保田さんは、社会の「仕組みづくり」に目を向けるのか。最後に仕事への思いと併せて聞くことができた。
もともと「まちづくり」に興味を持ったのは、高校生の頃だったように思います。私の出身は青森県なのですが、当時、東北新幹線が新青森まで延伸したのですが、「首都圏への移住が進み、人口減少に拍車がかかるのではないか」「観光客は増えるだろうが、受け入れ態勢や対応が不十分ではないか」とネガティブなニュースも多く、不思議に感じていて。私は「せっかくのチャンスだからこそ有効に活かしたい」と、「まちづくり」の活動をしたり、大学院でも研究を行なったりしてきました。じつは現在もまちづくり活動は続けており、地元である青森に戻ることも多いです。ですので、いつの間にか「地方の社会課題解決」をテーマに生きるようになりましたし、それそのものが私にとっての「仕事」であり、「キャリア」の軸になっています。
そして、よく「地方は課題の先進地」と言われますが、現場で感じるのは、その場しのぎの対策だと、課題の根本はなかなか解決していかないということ。いかに課題の本質を見極め、実効性のある制度や枠組みを構築できるか。それをしっかりと課題解決につながるよう、社会に実装していけるか。もちろん国家公務員は「国のために働く」というのが使命ですが、人口減少でいえば、その影響を真正面から受けるのは「地方」でもあります。そういった地方を含む日本全国津々浦々に目を向け、加速度的に人が減っていく中で、できることをやっていきたいですね。その地域で暮らしたいと思う人たちが、不自由なく生活を続けられる基盤を整え、地域が持続可能な形で存続し、豊かに暮らしていけるように本質的なアプローチをしていく。そういった「仕組みづくり」に、これからも貢献し、取り組んでいきたいと思います。
