INTERVIEW
特許庁|任期付特許審査官(審査官経験無し) 募集(2026年度入社)

化学メーカー勤務を経て「特許庁」へ。理系バックグラウンドを特許審査に活かすキャリア選択

掲載日:2025/09/24更新日:2025/09/24

特許、実用新案、意匠、商標の審査・登録、そして知的財産権に関する国際的な調整、普及啓発活動など日本の知的財産権制度を担う「特許庁」。2026年度に向けた「任期付特許審査官(審査官経験無し)」募集へ。同募集にあたり、化学メーカー勤務を経て中途入庁した特許審査官の特別インタビューをお届けする。

化学メーカー勤務時代に芽生えた「知的財産」への興味

中堅規模の化学メーカーに新卒入社し、研究開発職、経営企画職を経験後、なぜ、特許庁入庁に至ったのか。まずはその経緯から話を聞くことができた。

前職は、無機化学系の化学メーカーにて研究開発職を約3年間、経営企画職を約1年間経験しました。コロナ禍を経て外部環境、そして会社の方針が変化していく、そういったタイミングで転職を考えるようになりました。仕事を通じ、より自分を高めていきたいという思いもあり、特に興味を抱いたのが「知的財産」の領域です。

前職時代、知的財産部の部長と仕事をする機会があったのですが、そこで初めて「IPランドスケープ」という考え方、手法について知りました。たとえば、競合他社が保有する特許を分析した上で、その結果を事業戦略や経営への提言に活かすことを指すのですが、知的財産の新しい可能性を感じたきっかけになりました。研究開発職として働いていた時には、製造プロセスの改善などに携わっていたものの、特許出願に直接関わる業務は担っておらず、その重要性をあまり意識しておらず、経営企画部門での経験を通じ、専門的に携わっていきたいと考えました。

また、前職時代に痛感したのが、自分の知識不足です。化学は非常に裾野が広く、知識の蓄積が重要になります。その点、審査官の仕事は幅広い技術の知見に触れていくことができる。そういった点に魅力を感じました。

偶然にも特許庁の求人を応募締め切りの1週間前に見つけることができ、急いで応募したことを覚えています。そこから選考へと進み、改めて、知的財産のプロフェッショナルとしての経験が積めそうであったこと、幅広い科学技術の知見を得られそうであったことが決め手となり、入庁に至りました。

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大学卒業後、2017年4月に中堅化学メーカーに入社。研究開発職(約3年間)、経営企画職(約1年間)を経験。その後、2021年4月に特許庁に入庁。現職(特許審査官)に至る。

法律・技術への理解を深め、得ていく「成長実感」

続いて特許審査官としての仕事内容について聞くことができた。

一言でいえば特許の審査業務になるのですが、私はその中でもプラスチックのケミカルリサイクルや、半導体材料の発明など、いわゆる「高分子」分野を担当しています。わかりやすいところで半導体材料は、電波のロスを防ぐために良い材料を使う必要があり、AIの普及に伴い需要が増えています。出願が増えている分野もあり、重要視されている領域だと言えます。

具体的な業務内容としては、特許出願のあった発明が“特許要件”を満たしているか、検討していくというものです。たとえば、出願時より前に開示された技術文献を庁内DB、商用DBで調査して新規性・進歩性の判断を行なったり、記載要件の判断を行なったりしていきます。進歩性の判断においては、先行技術調査結果だけでなく、大学で学んだ知識、自分自身の研究・開発経験にも照らし、発明が容易か否かを判断していくこともあります。

前提として「既に知られた技術や、それに基づいて容易に発明し得た技術に特許権を与えるべきではない」という考え方があり、それに則った審査が求められます。特許権とは、自己の発明を他者が許可なく利用できないものとする権利です。企業、研究機関などが研究成果について特許権を得るために特許出願を行ないますが、たとえば、既に知られた発明に対して特許権が成立したり、権利範囲があいまいな特許権が成立したりしてしまうと、第三者の事業活動の妨げとなり、産業発展を阻害しかねません。そういった不備のある出願を拒絶することが「特許法」で定められており、特許出願に対し、まさにそのような拒絶の理由がないかを検討していく仕事となります。

特許審査において重視される
特許庁のミッション、ビジョン、バリューズ


ミッション(どのような社会を実現したいのか)
「知」が尊重され、一人ひとりが創造力を発揮したくなる社会を実現する

ビジョン (ミッションのために組織は何を成すのか)
産業財産権を通じて、
未来を拓く「知」が育まれ、新たな価値が生み出される
知財エコシステム*を協創することで、イノベーション*を促進する

バリューズ(ビジョンのために職員はどのような指針で行動・判断するのか)
透明性をもって、公正、公平に実務を行なう
ユーザーの立場で考える
前例にこだわらず、改善を続ける
新たな技術・知識を常に学び取り入れ、プロフェッショナルとして主体的に行動する
多様な個性を尊重し、かけ合わせ、お互いを高め合う
特許庁全体の視野に立つ

* 知財エコシステムとは、知的財産を創造し、保護し、活用する循環を示す知的創造サイクルの概念に加え、そこから生まれる知的財産を基に、人々が互いに、また、社会に対して好影響を及ぼし、自律的に新たな関係が構築され、新たな「知」が育まれ、新たな価値が生み出される、いわば知的財産の生態系を指します。

* イノベーションとは、技術革新に限らず、新しいビジネスモデルや社会の仕組みの創出などを含む広義のイノベーションを指します。
(参照)https://www.jpo.go.jp/introduction/tokkyo_mvv.html

仕事で感じるやりがい、その魅力についてこう話をしてくれた。

特許法の理解を深め、新たな技術の知識を得た上で審査に活かせるなど、自分の成長が実感できた時は達成感に近いものがあります。また、出願人との意見交換会やアンケートを通じ、審査への肯定的な意見をいただいた時は嬉しいです。

当然、日常の審査業務で、納得できるところまで検討・先行技術調査を行ない、自分なりに最高の品質のものを提供すべく臨んでいます。ですが、やはり本当に質の高い仕事ができているのか、独善的な判断になっていないか、不安は常に付きまとうものです。だからこそ「自分の判断が間違っていない」といった裏付けを得た時には、安心すると同時に手応えを感じられる仕事でもあると思います。

また、研修が非常に充実していますし、審査経験が豊富な上司や先輩から的確な指導を得ることができ、仮に知財の知識に自信がなくてもしっかりと学べる環境です。何よりも産業を支える科学技術について幅広い知見が得られる点は大きな魅力です。特に私の担当である高分子の分野では、包装材、自動車部材といった身近な製品にとどまらず、様々な用途での応用例に触れることができます。たとえば、製薬の分野では、薬を体内の狙った部位に輸送するために、薬の有効成分を包み込んで患部に到着するまで保護することができる高分子化合物の開発がなされていますし、他にも材料の分野では、自己修復性ポリマーゲルといって、一度切断しても切断面を接触させることで再度結合させることができる、新規な高分子材料も開発されており、とにかく高分子の技術開発は多様な側面から行なわれています。私は入庁してから高分子分野の知識を本格的に学び始めたのですが、今ではある程度技術的な面白さが理解できるようになり、こういった場面でも成長実感が得られているように思います。

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やりがいの一方の「厳しさ」として「審査官に昇任するためにはペーパーテストが週1回、8週間続く研修があります。通常の業務をしながら、特許法や知的財産に関する法律を学ぶ必要があり、かなりの勉強量が求められます。そういった点は、人によっては厳しいと感じるかもしれません。また、審査業務では長時間デスクに座って、とにかく大量の活字を読み込むため、忍耐力が必要です。自分の審査内容が、特許出願人や競合他社の命運も左右するため、責任が重く、質の高さを追求する根気も求められます。」

「審査の屋台骨を支えていく存在」を目指して

最後に「今後の目標」とは――。

審査官は、審査のスペシャリストとしてのポジションだと言えます。ですので、当然ではありますが、特許法と担当分野に対する理解を深め、日々の業務を通じて、より良い審査ができるようになっていきたいです。当然、出願人から厳しい意見をいただくこともありますが、日本における特許審査は全体的に高い評価を受けており、その評価に貢献し、特許庁の審査の屋台骨を支えられる立場になっていければと思います。また、特許審査の仕事では、技術や特許の変遷を理解し、それを次世代につなげていくことも重要だと考えています。AIなど新しい技術が登場し、特許制度にもさまざまな影響を与えていく中、変化に対応しつつも、特許審査の本質的な部分は変わらないはずです。いかに先人たちが積み上げてきた知識や経験から学び、次につなげていくことができるか。次世代に自分の知識や経験を継承していく、そういった存在になれるよう、これからも研鑽を続けていきたいと思います。

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