情報通信、行政制度、地方自治、消防など「国民の生活インフラ」を支える総務省。同省での総合職募集(課長補佐級・係長級)にあたり、特別インタビューをお届けする。今回取材したのは、証券会社で約15年にわたりキャリアを積み、総務省へと入省した萩原一博さん(※)。民間出身から課長補佐職を経て企画官へ。多様な社会課題の解決に挑む、萩原さんの活躍を追った。
(※)デジタル庁 戦略・組織グループ調査・企画班企画官(2025年7月より総務省からデジタル庁に出向中)


前職、証券会社で約15年間勤務していたという萩原さん。初めに前職の業務内容、転職を考えるようになった経緯から話を聞いた。
前職の証券会社では、支店でのリテール営業を経て、顧客への情報提供を行う本社業務、さらに企画部署での計数管理業務などの経験をしてきました。M&Aや株式上場等を扱うホールセール営業部門全体の収益目標、費用計画の策定・管理など経営の一端を担う重要ミッションを担っており、非常にやりがいのある仕事でした。
一方で、在籍中に大きな組織変革が何度かあり、事業の方向性、業務の進め方が大幅に変わっていくという経験をしました。そうした中で抱くようになったのが、会社全体に貢献しているという自負は持ちつつも、自身の業務が最終的にどのような価値に繋がっているのかという葛藤でした。自社の利益や社内評価ももちろん重要ですが、それ以上に社会への貢献をダイレクトに実感できる環境で、影響範囲の大きな仕事をしていきたい。その思いが強くなり、転職を考えるようになりました。
さまざまな転職先候補がある中、なぜ、国家公務員、とりわけ総務省を選んだのだろう。
まず国家公務員を選んだ理由として、前職時代から公共政策に対して大きな関心を持っていました。お客様に対し、税制改正や政府の経済対策など公的な情報提供を行う業務に携わっていたこともあり、国の政策が個人の生活や資産、企業経営などに与える影響の大きさを肌で感じていました。
その中でも総務省を選んだのは、まさに広く「国民の生活インフラ」を支えていく省であり、国家や国民生活に直結する仕事ができると考えたからです。ここであれば社会に対し、より直接的で大きなインパクトを与えられるのではないか。その可能性と影響範囲の大きさに惹かれ、総務省への入省を決めました。

萩原一博|デジタル庁 戦略・組織グループ調査・企画班企画官(2025年7月より総務省からデジタル庁に出向中)
2005年、国内大手の証券会社に入社し、支店での個人営業を経て、本社にて営業支援の情報提供業務や法人部門の企画業務に従事。2020年、経験者採用にて総務省へ入省。総合通信基盤局にて消費者行政を担当し、スマートフォンでの閲覧を念頭に置いた特設啓発サイトの立ち上げを主導。従来の画一的な情報発信から脱却し、利用者の視点に立った新たな広報の形を実現した。2021年、データセンターや海底ケーブルの地方分散を目的とした基金事業の創設に尽力。当時、省内では前例の少なかった法律に基づかない基金の設置に貢献し、その後の総務省における予算事業のモデルケースとなる礎を築いた。2022年より部局の総括担当として、省内外の関係各所との意見調整や折衝を担い、部局長の傍らで組織運営に携わり、大局的な視点や管理職としての意思決定プロセスを学び、同時に省内に幅広い人的ネットワークを構築。2025年7月、デジタル庁へ出向、現在に至る。


こうして2020年に総務省へと入省した萩原さん。特に印象に残っている業務と、そこで感じたやりがいとは。
特に印象に残っているのは、入省2年目で携わったデータセンターや海底ケーブルの地方分散を促進するための基金事業の創設です。
日本のインターネット通信を支えるデジタルインフラのうち、国際海底ケーブルが陸揚げされるのは千葉県の房総半島であり、データセンターが密集する東京圏に集中しているのが現状です。その問題点は、大規模災害に対して脆弱であることでした。実際に、東日本大震災ではほとんどの国際海底ケーブルが切断され、通信途絶のリスクがありました。この国家的課題の解決を目指し、かつ経済安全保障の観点から強靭なデジタルインフラを構築するため、地方分散を推進していく。これらを事業の根幹の目的とした、非常に重要なミッションでした。まず、同事業の推進において障壁となっていたのが、国の予算が原則として「予算単年度主義」であること。データセンターのような巨大な建造物は、計画から完成までに複数年を要するため、「単年度で使い切らなければならない通常の予算」では、効果的な支援が極めて困難です。そこで総務省としておよそ前例のなかった「法律に基づかない基金」を新たに設置するという大胆な案を打ち出しました。誰もやったことがない挑戦だからこそ、あらゆる角度からその必要性、正当性を綿密に示し、関係各所と慎重に調整を重ねていきました。このような新しい枠組み作りを仕掛けることに大きな責任とやりがいを感じました。
もちろん、この壮大なプロジェクトは、私一人の力では到底成し遂げられませんでした。恥ずかしながら着任当時は「データセンターが何たるか」さえ正確には理解していない素人でした。ただ、役職や年齢関係なく、上司や同僚が自身の持つ知見を惜しみなく提供し、全面的に協力をしてくれたことは今でも鮮明に覚えています。そもそもなぜ今、地方分散が必要不可欠なのか。どのような計画で、どれほどの効果が見込めるのか。そして、なぜそのために巨額の予算が必要なのか。データセンター事業者や通信事業者の方々とも精力的に意見交換を重ね、他部局からも知見を借り、まさに省内の様々な専門家を巻き込んでプロジェクトを推進していきました。それぞれの専門性を活かし、知恵を出し合い、まさに「ワンチーム」として一丸となって取り組んだからこそ、この大型予算事業が認められたのだと確信しています。この経験を通じて得られた達成感、そして共に困難を乗り越えた仲間との絆は公務員人生における大きな財産となっています。
そして2025年7月からは課長補佐職を経て「企画官」としてデジタル庁へ出向している萩原さん。そこでのミッションとは。
主にデジタル庁では、日本のDX化の羅針盤となる国家戦略である「デジタル社会の実現に向けた重点計画」の策定をミッションとして担っています。デジタル庁は、職員の半数以上を民間企業出身者が占めており、その他にも地方自治体、他省庁からの出向者など極めて多様なバックグラウンドを持つ人材が集う組織でもあります。当然、価値観や仕事の進め方も様々。一つのチームとしてベクトルを合わせることには、総務省時代とは異なる難しさがあります。ただ、それもまた自身のマネジメント能力を試され、成長できる貴重な機会だと前向きに捉えています。総務省で一度固まりかけた視野が、また大きく広がるような感覚がありますね。ここで得られる多様な経験、そして人脈も、今後のキャリアにおける財産になっていくと確信しています。

やりがいの一方で知っておくべき厳しさについて「自分が関わった政策が、総理大臣や担当大臣の言葉として発信され、それによって世論が形成されていく。その影響力の大きさ、プレッシャーは良くも悪くも民間企業の比ではありません。」と真摯に話をしてくれた萩原さん。「また、役所の仕事では曖昧な表現は決して許されず、非常に高いレベルの日本語能力と論理的な文章構成力が求められます。「なんとなくニュアンスが伝わればいい」という考えは通用せず、法案の一言一句から日々の報告書・メールに至るまで、正確無比な言葉選びが不可欠です。加えて、国会対応や記者会見への備えなど、突発的な業務が発生することも珍しくありません。こうした他律的な業務負荷を自身の成長のための「学び」と捉えることも重要です。最後に、国家公務員の仕事の本質は「調整」にあると私は考えています。一つの政策を動かすためには事業者、有識者、関係省庁、省内の他部署といった無数のステークホルダーと対話し、コンセンサスを形成し、粘り強く案件を進めていきます。この地道で複雑なコミュニケーション、合意形成のプロセスを厭わないことも重要な資質だと考えています。」


そして取材後半に聞けたのが、仕事に向き合う原動力と今後の目標について。
何よりも「社会をより良くする」という目的のために仕事ができている、その実感こそが私の原動力となっています。もちろん、現時点で私が担当している業務範囲は、国家全体から見れば微々たるものに過ぎません。だからこそ、総務省、そして現在の出向先であるデジタル庁での多様な経験を通じ、国家公務員としての根幹をなす「調整能力」を一層高めるとともに、特定の分野における「専門性」も深く磨いていきたいです。その自己の成長の先に、より大きな社会課題の解決にアプローチできる人材になることが目標です。
また、民間時代に培った金融の知識、常に株主や市場を意識する企業サイドのマインドといった視点は、私ならではの強みであると自負しています。この民間企業出身という経歴を、決してビハインドではなく、組織に新たな価値をもたらす力に変えていく。そして、私の後に続いてこの道を目指す経験者採用で入省する職員のロールモデルとして、道を切り拓いていく存在になっていければと思っています。そのためにも、まずは目の前の仕事を一つひとつ丁寧かつ誠実に対応し、組織からの信頼を着実に積み重ねていくことを大切にしたいです。
最後に、萩原さんにとっての「仕事」とは――。
私にとって仕事は、自己満足や独善に陥らず、真に誰かの役に立つこと、「ニーズに応えること」であると定義しています。例えば、「組織人」としては、自分に与えられたポジションや職責そのものを「組織からのニーズ」であると捉え、組織が自分に何を求めているのかを常に意識し、その期待に応えるべく行動していく。それが「国家公務員」としてならば、国民や事業者の皆様が何を求め、何に困っているのか、顔の見えない人々の生活や仕事を想像し、そのニーズを深く考察することが、優れた政策につながると考えています。そして、そういったニーズは、しばしば互いに相反することがあります。わかりやすい例だと、産業界の「データの利活用を推進したい」というニーズと、国民の「個人情報を厳格に保護したい」というニーズがあった場合、どう応えていくか。どちらか一方が絶対的に正しいというものではありません。だからこそ、全てのステークホルダーと真摯に対話し、それぞれの立場や主張を深く理解し、対立する利害を調整しながら、社会全体にとっての最適解を見つけ出していく。それこそが、私たち国家公務員に課せられた最も重要かつ困難な役割です。
そのようにして手掛けた政策が5年後、10年後、あるいはそれ以上先に、社会にどのような結果をもたらすのか。壮大で、時に果てしない問いですが、成果がすぐには見えないからこそ、あらゆる可能性を考慮し、真剣に、深く考え抜く。そういった姿勢で、これからも国家公務員としての役割、仕事に向き合い続けていければと思います。


