デジタル庁における「総合職(行政人材)」中途採用にあたり、 2022年4月に同庁に入庁した仲田 尚人さん(戦略・組織グループ 統括官付参事官付参事官補佐)を取材した。前職はメガバンクにて8年間勤務し、新たな金融サービスやシステムの企画開発を担当してきた仲田さん。なぜ、銀行勤務を経てデジタル庁への入庁を決めたのか。その理由とデジタル庁でこそ得られる経験・やりがいについて話を聞いた。


前職、メガバンクで8年間勤務していた仲田さん。転職を考えた背景、そして、デジタル庁入庁の理由から話を聞くことができた。
前職では、いわゆる「フィンテック」という言葉が使われ始めた時代から新たな金融サービスやシステムの企画開発に携わり、約6年間の業務を経て、不遜ですが、銀行内にてよく相談を受ける存在として働くことができ、自らの業務は円滑に処理できていたように思います。そのため「働きやすさ」はあったものの、どこか時間を持て余す感覚があり、私はほとんど趣味がない人間ですので(笑)、趣味のように仕事へ没頭する環境で働きたいと考えるようになりました。また、月並みな表現とは思いますが、年齢を重ねるにつれ、仕事の価値観が給料の多寡よりも、自らの知見をより多くの人々のために活かすということへ変化し、転職活動を行うことにしました。
様々な転職先の候補があるなか、なぜ、中央省庁、そしてデジタル庁だったのだろう。
前提として、銀行員時代に、銀行業界の代表として、又、中央省庁が進めたい事柄に先行して取り組んでいる実務担当者として、中央省庁との意見交換を行っていたことから、国家公務員の業務をイメージし易かったことがあります。また、前述の「自らの知見をより多くの人々のために活かす」という視点からも、中央省庁の業務を意識しました。この例として、例えば、金融業界では、犯罪収益移転防止法の改正により、オンラインで完結可能な本人確認方法が整備されたことで、数多くの新サービスが生まれるきっかけになりました。これを目の当たりにしたため、中央省庁が法制度というツールを最大限活用すると、各業界の発展に寄与して「より多くの人々のために活かす」ことになると確信しました。
中央省庁の中でもデジタル庁を選んだ理由ですが、デジタル庁設立後の初回の行政人材募集タイミングと合うこと、そして何より、「新しいサービスやシステムの企画開発」という私の知見が、デジタル庁のどのグループ(他省庁でいうところの「局」)でも重宝される「政府全体のIT実装」のための知見として直接活かせるのではないかと考えたためです。
もちろん他省庁でも、企画開発の知見を活かすことができますが、活かせる「局」が限定されてしまう印象があり、転職の上で、長期的には管理職や幹部まで目指すことを考えると、どの「局」でも活かすことができるデジタル庁に決めました。

仲田 尚人|デジタル庁 戦略・組織グループ 統括官付参事官付参事官補佐
メガバンクに8年間在籍。法人営業にて銀行の三大業務を経験した後は、一貫して、新しいサービスやシステムの企画開発に従事。金融業務、プロジェクトマネジメント、予算運営、ID認証技術の活用及び銀行業界内の政治的調整といった幅広い知見を培った。その後、2022年4月、デジタル庁に入庁し、3年間にわたり、マイナンバーと預貯金口座に関する法制度(預貯金二法)の運用担当として、金融業界と、ガイドラインや契約条件の調整等を主導。そのうちの1年間はWeb3.0研究会事務局も兼任し、ブロックチェーン技術がもたらす影響についての検討会を運営。直近の約8か月間は、総務国会担当及び大臣政務官秘書官として、政務官へのタイムリーな情報提供を通じた意思決定サポート等を通じて、デジタル庁の組織運営の一端に携わっている。


こうして2022年4月、デジタル庁に入庁した仲田さん。入庁後の約3年半の間に預貯金二法担当、Web3.0研究会事務局、総務国会担当、大臣政務官秘書官と多岐にわたる業務を担当してきた。入庁後に得られた経験、やりがいについてこう話をしてくれた。
転職時に軸としていた「自らの知見をより多くの人々のために活かす」という目標は、入庁後早々に求められました。特にデジタル庁での業務を通じて、「業務の幅」と「責任」が大きく広がったと思います。
例えば、預貯金二法(※)の運用担当では、銀行だけでなく、信用金庫、信用組合及び農漁協系統金融機関等を含めた全国1,200程度の金融機関への「義務付け規定」を、具体的な業務工程に落とし込む必要がありました。「義務付け」が金融業界にもたらす影響は大きく、顧客折衝担当、事務処理担当及びシステム改修担当等、それぞれの持ち場の方々の実態がどうなるかを可能な限り整理しながら、緊張感を持って調整しました。各法制度や予算等の制約下、どんなに知恵を出しても金融機関の方々に負担が残ることを知りながらお願いしなければならない、この調整は、自らの「業務の幅」と「責任」の大きさを痛感しました。相手方を動かす『決め手』になるのは、理論や権限等ではなく、どれだけ相手の立場を理解した上での提案(依頼)であるかというアナログな面だと思います。
(※)ここでいう「預貯金二法」とは、マイナンバーと預貯金口座に関する2つの法制度のこと。
・公金受取口座登録制度 (参考)https://www.digital.go.jp/policies/account_registration
・預貯金口座付番制度 (参考)https://www.digital.go.jp/policies/numbering-on-accounts
また、国家公務員ならではの業務として、私見ですが、「予算」「国会」及び「法案」の三つがあると考えており、一つ目の「予算」としては、前述の預貯金二法にて、国と金融機関との情報連携の『ハブ』となる預金保険機構への交付金や、金融機関への業務委託費という多様な予算運営に携わりました。また、二つ目の「国会」としては、総務国会担当及び大臣政務官秘書官にて、国会の委員会や政党の政調部会等に随行すると共に、後者の一部は、その内容案の企画・調整に携わることができました。三つ目の「法案」についてはまだ経験がありませんので、今後、デジタル庁でキャリアを重ね、管理職を目指していく過程でぜひ貢献したいと考えています。
特に二つ目の「国会」については、入庁前は、テレビの向こう側のどこか自分とは違う世界のように感じていましたが、中央省庁の政策を以って、複雑で困難さを増すわが国の課題解決をしていく上での極めて重要なものだと肌感覚を持って理解できるようになりました。これは、良い意味で事前の想定を裏切られた、デジタル庁での業務だと思います。
さらに、デジタル庁ならではの魅力について「民間出身の専門人材が数多く在籍している点」を仲田さんは挙げる。
デジタル庁には、民間出身の専門人材と行政人材が概ね同じ割合で在籍しており、業務を共に行うという、その他の中央省庁には無い魅力があります。例えば、「広報・コミュニケーション担当」であるマスコミや広告代理店等にて活躍されていた方々には、SNS/ポスター、記事/動画といった様々な情報発信のコンテンツ作成において、一般の行政人材では到底できない編集やアドバイスをしていただいています。このように、同じ志を持つ優秀な専門人材と協働できることは、大変恵まれた『働きやすい』職場であるだけでなく、さらに重要なことである「国民の皆さんに、目にしていただき、良い政策だねと共感していただくこと」の実現につなげていけると考えています。また、情報発信だけではなく「国民の皆さんにどれだけ目にしていただいたか、どれだけ共感していただいたか」等のデータ集計や分析についても、デジタル庁の専門人材である「データエンジニア」や「マーケティングプランナー」の方々と協働することができるため、中央省庁としての『責任』を果たしていく上での理想的な環境だと考えています。



得られる経験・やりがいの一方で、ミスマッチをしないためにも知っておくべき厳しさ、求められることについて仲田さんはこう話をしてくれた。
総合職(行政人材)は、「求める人材」として「困難な課題を解決できる論理的な思考力、判断力、表現力その他総合的な能力を有する者」であるとよく書かれます。総合職(行政人材)は、わが国で求められる政策の在り方を広く庁内外と協議し、法令案に落とし込み国会等によるご審議を受け、予算や人材等を確保し、民間企業等の現場実務に落とし込み、その状況を確認して更なる改善を行っていくものです。
つまり、幅広い知見を備えて多くの関係者の矢面に立って調整をしますので、特定の分野のみに関心があり、それを究めたいという志向が強い場合は、自らに求められる期待とのミスマッチが生じるかもしれません。前述した、行政人材の働き方の全てに興味を持って取り組むことができるか。その姿勢は常に問われることになります。
また、行政人材の働き方をまっとうするには、徹底した当事者意識から得られる「熟考」の姿勢も重要であると考えています。政策の関係者からは、往々にて、正反対と思えるご意見が出てきます。「自分がこの政策で少しでも日本を良くするんだ」という熱い当事者意識を胸に、それぞれの意見や事柄がなぜそうなるのか、徹底的に調べ上げて、最善の策を考え抜くことが本質だと確信しています。
蛇足かもしれませんが、民間企業と国とでは明確に異なる点があります。民間企業は、自らのサービスを好きになってくれる特定の顧客層(ファン)を対象とし、そのサービスを究めることでも十分な社会的貢献をすることができます。他方、多くの法律が特定の国民ではなく全ての国民が対象になるように、一般的に中央省庁は、中央省庁が特定の国民を対象とし、その政策のみを究めることでは十分とされません。だからこそ、行政人材として働く私たちも、自らが得意/好きという働き方だけでは不十分になる危険性に注意し、想定していなかった意見や事柄を無視するのではなく、それらにも粘り強く向き合うことが重要な姿勢であると思います。

取材後半に聞いたのは、仲田さん自身の「今後の目標」について。
二軸あるのですが、第一に、人々の大切な資産である「お金・情報」を守ることに貢献していきたいということです。前職である銀行員時代にて、「海外留学を頑張っている自慢の孫に生活費を送るため、複雑な国外送金の手続きを終えられた時の幸せそうなお客様」や「自社の従業員だけでなく取引先の従業員の生活のことまでを考え、私財を投げ打っても事業を続けようとされる中小企業の社長様」といった、多くの人々の、資産にまつわる切実な思いに触れたことは、一生忘れられない原体験です。フィールドとしてはメガバンクから中央省庁へ変わりましたが、人々の大切な資産を守りたい、又、資産が奪われるような事案や仕組みは本当に防がなければならないという考えは全く変わらず、今後は、デジタル庁の政策にて貢献していくことを目標にしています。
第二に、将来的にはデジタル庁の管理職や幹部を任されるようになるため、前述の、国家公務員ならではの業務のうち未経験である「法案」業務に携わり、重責を担うことができる知見を備えた人材になることを目標にしています。

仲田さんから応募を検討されている方へのメッセージ
デジタル庁における「行政人材」採用と「民間専門人材」採用について
はじめに、両採用の共通点をご紹介します。デジタル庁は、あらゆる分野のDXを推進していること、官民融合の組織であり政策のデザイン、周知及び改善等において民間企業の良いところを取り入れていることから、その他の省庁に比べて、民間企業で培った知見を基に転職後の間もないころから活躍をはじめ、その後も当該知見を活かせる場面が多いと思います。ついては、民間企業から行政機関への転職だからといって臆することはなく、これまでの知見等をアピールいただくのがよいと思います。
次に、私見ですが、民間企業からデジタル庁への転職の場合は、「業務の幅を広げることに重きを置くか」又は「自らの知見を究めることに重きを置くか」によって、「行政人材」採用又は「民間専門人材」採用を選択されるのが良いと思います。私自身は、大規模なシステム開発におけるプロジェクトマネージャーの知見を有しているところ、正直にいうと、デジタル庁への転職にて役職、慣れ親しんだ風土及び人脈が変わることを理由に、当該知見を究めることにはあまり繋がらないと考えました。転職の目的が、自らの知見は軸足にしつつも、民間業界を業界の外から牽引したいという、民から官へ業務の幅を広げることにあったため、民間専門人材ではなく行政人材を選択しました。あくまでも一つの視点ですが、選択の参考としていただければと思います。



