日本全体におけるデジタル化推進を牽引するデジタル庁。同庁の行政人材採用(総合職職員採用)に伴い、戦略組織グループにて働く本吉 正宗さんを取材した。自身も中途で入庁した経緯を持つ本吉さん。なぜ、デジタル庁でのキャリアを選んだのか。そこには「誰かが日本を良くしてくれる、その“誰か”に自分がなりたい」という熱き思いがあった――。


前職、独立行政法人にて約10年間勤務をしていたという本吉さん。なぜ転職を考えたのか。そしてデジタル庁に入庁したのか。その経緯から話を聞くことができた。
大学卒業後、約10年間にわたり、独立行政法人でキャリアを積んできました。転職を意識し始めたのは、コロナ禍が全国的に広がった、2020年の春頃のことでした。社会活動が停滞し、多くの人が不安を抱える中、日本の「デジタル化の遅れ」がさまざまな場所で叫ばれるように。その実感は私自身にもありましたし、個人的にも「国この大きな変化の波、デジタル化に対応できなければ、未来が暗いものになってしまうかもしれない」という危機感がありました。
そんな折、政府から「デジタル庁をつくる」という宣言があり、心を動かされた自分がいました。情報システムはまさに「ものづくり」の世界。目に見えないロジック、曖昧な議論から生まれたアイデアを、実際に動く「形」にしていくもの。そういった仕事が性に合っていると感じていましたし、デジタル庁であれば、その特性を「国」というフィールドで活かせるのではないかと考えました。
そして掲げる政策やビジョンを見ていく中で「小手先の改善ではなく、日本のデジタル化に本当に必要なことを、覚悟を持ってやろうとしている」と強く感じました。何よりも、同じような問題意識を持っている人々が国の中枢にいる。さらに驚くべきスピードで実現しようとしている。その事実に胸が熱くなったことを覚えています。その圧倒的な熱量を感じ、自分の力をそこで試してみたい、社会全体を動かす歴史的な挑戦に参加したいと考え、デジタル庁への入庁を決めました。

本吉 正宗|デジタル庁 戦略・組織グループ 人事総括担当 兼 行政人材採用担当 参事官補佐
2011年に早稲田大学政治経済学部を卒業し、独立行政法人都市再生機構(UR都市機構)に新卒入社。約10年間の勤務後、経験者採用試験を経て、2022年4月にデジタル庁の第1期職員として入庁。情報連携基盤刷新チーム、大臣政務官秘書官、政府情報システムの統括監理等を経験し、2025年7月より現職。


こうして2022年4月にデジタル庁に入庁した本吉さん。そこで感じたのは、「圧倒的なダイナミズム」だったと振り返る。
まず入庁して最初にアサインされたのは、マイナンバーを使って行政機関が日々情報のやり取りを行うための「情報連携基盤を刷新する」というプロジェクトでした。
この大規模な開発にどれくらいの時間とコストがかかるのか。全て可視化し、プロジェクトを前に進めていく。そのための具体的なロードマップを描いていく。前職時代、かなり古くなった基幹システムの刷新検討も担当していたため、計画の立て方やリスクの洗い出しなど活かせた部分もありました。ただ、その規模は、国家規模ですのでダイナミックさは比較にならないものでした。そしてそれらが信じられないほどのスピードで進んでいく。ITの世界では、計画を細かく区切り、実行と検証を繰り返しながら柔軟に開発を進める手法を「アジャイル」と呼びますが、デジタル庁ではまさに日々あらゆる物事がアジャイルに進んでいく。その速度と変化への柔軟性は、これまでの組織では経験したことのない、デジタル庁ならではのものですし、今でもそこは変わっていないと思います。
もしかしたら、役所での手続きで住民票などの提出が不要になっていたり、待ち時間が減っていたり、実感している方もいるかもしれません。じつはそれらが実現されているのは、裏側で先の情報連携基盤が、各行政機関の情報をつなでいるからでもあります。国民の皆様が直接画面を操作するものではありませんが、国民生活の利便性向上につながっていくもの。最初にプロジェクトでそういったデジタル庁が目指していく本質的な役割に関わることができ、大きなやりがいありました。
その後、大臣政務官(大臣、副大臣に次ぐ政務三役の一人である)に1年間仕える「デジタル大臣政務官秘書官」、さらに「政府情報システム全体の統括管理」を担ってきた本吉さん。そこにはデジタル庁でこそ得られるやりがい、魅力があると語る。
「政務官秘書官」としての国会対応、政策調整などはまさに霞が関でしか担えない公務だと言えます。また、「政府情報システム全体の統括管理」もデジタル庁らしい仕事でした。各省庁がそれぞれ保有・運用する無数のシステムについて、デジタル庁が横串、一気通貫で管理していく。システムのプロではない各省庁の担当者に対しては伴走型で支援していく。各省庁が個別最適で進めてきたシステム開発を、国全体として効率的に、そして何よりも国民にとって便利なものにしていく。その司令塔として全省庁のシステムガバナンスを担う仕事は、大きな責任と、確かなやりがいを感じるものでした。そして現在、これまでの経験を活かしながら人事担当として、デジタル庁で働く行政人事(総合職職員)の採用、働く環境の整備、キャリアパスの設計などに携わっています。同領域でも新たな知見を得つつ、組織構築に挑むことに大きな意義を感じています。また、こういった多様な経験を積むことができる点も、デジタル庁で働く大きな魅力の一つだと思います。
やりがい・魅力の一方で、事前に知っておくべき厳しさについても率直にこう話をしてくれた。
特に国家規模の情報システムは、完成までに何年、時には10年以上かかります。例えるなら「駅伝のランナー」のような感覚かもしれません。つまり一人の人間が企画から運用の終わりまで関わり続けることはほとんどない、ということ。先ほどお話した「情報連携基盤」のプロジェクトも、私が担当したのは初期計画のフェーズで、その後の実行は後輩たちが引き継いでくれました。先日、その後輩から「無事にシステムが稼働を始めた」と聞いたときは、とても感慨深かったです。いかに前の人たちの想いや仕事を引き継ぎ、さらに発展させて次の人へバトンを渡すか。どこか一つでもリレーが途切れればプロジェクトは成功しません。その難しさと責任感こそ、この仕事の本質だと感じています。
また、入庁2年目で経験した「政務官秘書官」の仕事も、それまでの経験がほとんど通用しないものでした。連日国会に出入りし、膨大な国会答弁資料を読み込み、内容をチェックしていく。その内容に答弁が沿っているか、息を詰めて見守ります。国政の中心で、様々な分野の政策がどう連携し、どう動いていくのか、トップクラスの視点から俯瞰する。国という巨大な船がどのように舵を切り、どこへ向かうのかを、すぐ隣の操舵室から目の当たりにするような緊張感もありました。ただ、その分やりがいも大きく、国の政策が作られていく生々しい現場を間近で見られたのは、何物にも代えがたい経験です。また、本来、秘書官は決して入庁2年目の職員に任される仕事ではありませんが、挑戦させてもらうことができました。これもまた前例に囚われないデジタル庁らしい人事だったのかもしれません。結果として、私が初代として務めたそのポジションは引き継がれ、次の世代へのバトンとして定着しました。組織の礎を築く、もしその一助になったとすれば非常に嬉しいですね。

入省前の応募・選考について「正直に言って不安もありましたが、それを大きく上回る魅力がありました。」と語ってくれた本吉さん。「私が応募した時点で、デジタル庁はまだ準備中。限られた情報のなか、自ら仮説を立て、デジタル庁がやろうとしていること、そこでチャレンジしたいことについて熟考し、選考に臨みました。選考面接は、デジタル庁発足から約2ヶ月後のまさに立ち上げフェーズ。例えるなら「真っ白いキャンバス」のような状態です。そこに自身の手で未来の絵を描く。今もまさにその延長線上にあります。いかにデジタル庁という組織の絵を自分たちで描き、文化を創り上げていくか。この意識は、組織が大きくなった今も、常に私の根幹にはありますし、同じ想いを共有する職員は非常に多いはずです。」


そして取材後半に聞けたのが、本吉さんが「仕事を通じて実現していきたいこと」について。
これは私個人の見解となりますが、デジタル庁が究極的に目指すべきは「デジタル庁がなくても、社会の隅々でデジタル化が自律的に進んでいく世界」の実現だと思っています。各省庁も、自治体も、そして国民一人ひとりが、特別な意識をせずともデジタルの恩恵を享受し、それを活用して新しい価値を生み出している。そういった社会が理想だと考えています。ただ、そのような世界が今日明日に来ることはありません。だからこそ、自分の力でその理想の世界に一歩でも近づきたい。「デジタル庁がなくても、もう十分だよね」と誰もが思える社会の実現に向け、自分の力と時間を注いでいきたいです。
その上で、自分自身のキャリアを考えると、まだまだ政策立案や法律に関する知見が足りていないため、さらに深く勉強していきたいです。そのためにもまずは同僚たちと一緒に手を動かし、現場での経験を通じ、今やるべきことを一つひとつ着実に実行していく。そして、最終的にはこのデジタル庁を、ひいては日本社会全体をリードしていく、そんな人材を目指していければと思います。
最後に、本吉さんにとっての「仕事」とは一体どういったものか――。
私にとって仕事は、人生における多くの時間を費やすものだからこそ、「人生を懸けるに値する、価値あるもの」ですし、そういうものにしていきたいです。日本を取り巻く課題は山積していますが、その多くを、つい「誰かが何とかしてくれる。きっと良くしてくれる」と考えてしまいがちです。私自身もそう思ってしまう瞬間があります。けれども、本来その「誰か」になることは、自分にもできるはずですし、その「誰か」として課題に向き合うことが、国家公務員として働くということなのだと思います。その一人として、この国の変化に関わっていきたい。そういった自分自身が「価値がある」と感じられる仕事ができるよう、これからも日本のデジタル化推進に向き合っていければと思います。

本吉さんから応募を検討している方へのメッセージ
「デジタル庁では、多様なバックグラウンドを持つ人材が活躍しています。ぜひ知っていただきたいのが、私のようないわゆる「行政人材(総合職職員)」も多く在籍しているということ。これはゼネラリストとしての役割が期待されるポジションでもあります。主に携わっていくのは、省庁間の調整・交渉、新しいサービスに関する法律整備、複雑な国会対応などです。また、デジタル庁の仕事について国民の皆様にご理解いただき、納得していただきながら進めていく、対外的な説明も大切な役割となります。技術や知見を活かしつつ、多様な意見を統合し、国全体の仕組みを変えるようなプロジェクトの中心に立つことができます。もちろんシステエンジニアやデータサイエンティストなど特定の専門性を持つ「民間専門人材」も多く在籍しています。そういった意味で、デジタル庁は多様なスキルセットを持つ人材が互いに手を取り合い、協働する「総合的な政策実現機関」だと言えます。ぜひこのダイナミックな環境でご自身のキャリアを活かしていただければ幸いです。また、このデジタル庁には「デジタルの力で、この国の課題を何とかする」という志を抱く仲間が多く集まっています。自らの手で社会をより良く変えていきたい、より良い未来を創っていきたい、そういった想いを持つ方は、ぜひデジタル庁の門をたたいていただけると嬉しいです。」



