掲載日:2026/05/29NEW更新日:2026/05/29
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経済産業省(以下、経産省)が、キャリア採用(社会人経験者採用)を実施へ。同募集に伴い、保護観察官、メーカーでの人事職を経て、2024年7月に経産省に入省し、脱炭素に向けた取り組み等を担当してきた下村 奈央さんを取材した。なぜ、彼女は経産省でのキャリアを選んだのか。そこには学生時代から一貫して抱き続けてきた、仕事を通じて誰かの「居場所」を作っていきたいという思いがあった――。
※画像内は、転職時の年齢となります。
誰かの「居場所」が作れるような仕事を
大学にて臨床心理学を専攻後、主に仙台を担当する保護観察官として働いた経験を持つ下村さん。その後、切削工具メーカーでの人事職を経て経産省へ。これまでの経歴、そして経産省入省の理由から話を聞いた。
もともと「誰かの居場所を作る、あるいはそれを後押しできる仕事がしたい」といった思いがあり、大学卒業後、保護観察官として5年ほど勤務しました。主な業務は、保護観察処分や仮釈放になり、仙台の各地域に戻って暮らす方々の社会復帰の支援でした。
同時に、結婚等プライベートでの環境変化もあり、民間企業へと転職することに。特に、誰かの「居場所」を作っていく、「人」と向きあっていく、といった視点から人事職として切削工具メーカーに入社しました。従業員100名規模、東京都内の会社だったのですが、給与計算や採用業務等さまざまな業務を経験することができました。また、民間企業で働くことで、利益を追求し、事業を継続していく重要性も深く実感できたように思います。
一方で、少しずつ経験を重ねていく中で、どうしても仕事の範囲が「人事」という括りで限定されてしまうもどかしさもありました。もちろん、人事職のプロフェッショナルを目指す道もあったのかもしれませんが、知見をより広げていきたい、様々な業務を経験していきたいという思いがありました。
そうした中、あらためて検討をしたのが国家公務員として働く選択肢です。「国」というフィールドでの仕事は、全ての国民を対象とするもの。ある意味、最も広い視点で物事を見ることができるのではないか。「国」でしかできない仕事がしたい。そう考え転職を決めました。
中央省庁にもさまざまあるが、その中でもなぜ経産省だったのだろう。
これまで「誰かの居場所を作ること」を仕事選びの軸にしてきましたが、様々な場面で感じたのが、そもそも日本の経済が上向きにならなければ、個々人への支援もなかなか行き渡らない、という現実でした。犯罪や非行をした方々の働き口不足にせよ、中小企業の採用にせよ、経済が成長し、雇用状況が安定しなければ、根本的な改善には至りません。それであれば、産業政策を担う経産省で働き、経済の「土台を作る」という部分に貢献していきたいと考えました。もう一つ、これまで携わったことのない領域、業務に挑戦していく上で、年齢的にも、キャリア的にも良いタイミングだと捉え、経産省への入省を決意しました。
下村 奈央|資源エネルギー庁省エネルギー・新エネルギー部 新エネルギー課 制度専門職(※取材当時)
新たな技術開発を後押し、社会に広めていく
こうして2024年7月に経産省に入省した下村さん。入省後、携わってきた仕事内容とやりがいについて話を聞いた。
入省から2年間は、資源エネルギー庁の燃料環境適合利用推進課にて、脱炭素に向けた取り組みに注力しました。具体的には、地球温暖化対策の切り札の一つとして注目される「CCUS(*1)」の推進、その中でも回収したCO2をコンクリートや化学品、燃料等に再利用する「カーボンリサイクル」の技術開発と社会実装の後押しに携わってきました。
ミッションは、どうすれば社会で広く「カーボンリサイクル」の技術を使ってもらえるようにできるか、その道筋をつけていくこと。たとえば、年度予算確保のために議論を重ね、ロジックを組み立て、説明資料等に落とし込んでいく等も行いました。また、その後、確保した予算をもとに国立の研究開発法人である「NEDO(*2)」を通じ、技術開発に取り組む企業、大学の支援等にも携わりました。予算の執行自体は「NEDO」が主体となりますが、事業者へのヒアリングに同席することも多かったですね。どのくらい研究開発が進捗しているか。どういった課題を現場では抱えているのか。直接聞き取ることで、次の政策立案につなげていくことも重要な役割の一つでした。
(1*)CCUS(Carbon dioxide Capture, Utilization and Storage)
工場や発電所等から排出されるCO2を回収し、有効活用(Utilization)または地下へ貯留(Storage)することで、大気中への排出を抑える技術の総称。経産省および資源エネルギー庁では、CCUを「回収したCO2を燃料や化学品、建材等へ再利用する技術」と位置づけ、CCS(Carbon Capture and Storage:回収・貯留)と並ぶ重要施策として推進。従来の脱炭素政策では「CO2排出を減らす」ことが主眼とされてきたが、鉄鋼、化学、セメント、石油精製等、製造工程上どうしてもCO2排出を避けにくい「削減困難産業(Hard-to-Abate)」の存在から、排出後のCO2を有効活用する方向へ政策が拡張されている。
(*2)NEDO(国立研究開発法人 新エネルギー・産業技術総合開発機構)
経産省所管の日本最大級の公的研究開発マネジメント機関。日本の産業競争力強化とエネルギー・環境問題の解決を目的に、先端技術の研究開発支援や実証事業を担う。
(参考)「CCUSについて」https://www.env.go.jp/earth/ccs/about-ccus.html
「NEDOについて」https://www.nedo.go.jp/introducing/
特にやりがいを感じたのは、支援している事業がメディアに取り上げられた時です。もちろん、非常に難易度の高い研究開発なので一筋縄ではいかないのですが、それでも「将来期待される技術」として紹介され、多くの方に知っていただけた時はとても嬉しかったです。そもそも「カーボンリサイクル」といった概念もまだあまり知られていないもの。それらが少しずつ広まり、社会に必要なものだと認知されていく。未来に向けて種を蒔き、少しずつ育っていく。こういった実感が得られるのは、経産省で働く醍醐味だと思います。
やりがいの一方で知っておくべき厳しさについて「スピードを求められる仕事が多くあること。」と率直に話をしてくれた下村さん。「また、それぞれの担当領域を持つのですが、そこに関しては誰よりも自分が詳しい、という状態が求められます。たとえば、私もまだまだ出来ていないことが多いですが、担当領域のことであれば上層部やステークホルダーからの質問にも即答できることが理想ですよね。もちろんそのためには周辺情報を知っておく必要もあります。具体的には「カーボンリサイクル」一つをとってもGXの周辺知識、化石燃料への理解、環境価値を可視化する仕組み等、広範な情報にアンテナを張っておく。私自身これまで全く知見のなかった領域なので、日々のインプットや勉強が欠かせません。」
生活の「土台」となる、エネルギーの安定供給に貢献を
そして取材後半に聞いたのが、今後の目標について。
現在、資源エネルギー庁でエネルギー政策に携わっていますが、エネルギーの安定供給は、全ての人々の生活の土台になるもの。まずはそれらの政策にしっかり貢献していきたいです。また、仕事を通じて「誰かの居場所を作りたい」という想いは一貫しており、これからも大切にしていければと考えています。エネルギー政策も、広い意味での「居場所作り」に寄与していくものだと捉えています。
なぜ、下村さんは「誰かの居場所を作る」という軸を大切にするようになったのだろう。そのきっかけについても聞くことができた。
もともと大学時代に臨床心理学を専攻していたのですが、精神疾患で入院した方々の中には社会復帰する際に「居場所がない」と悩むケースが少なくないと知りました。そしてそうなってしまう原因は必ずしも本人にあるわけではありません。何よりも当事者だけでは解決ができないことがほとんどです。どうすれば「居場所がほしい」という想いが叶うような環境を作ることができるか。それが今の考え方や価値観にもつながっているのだと思います。
最後に、下村さんにとって「仕事」とは一体どういったものなのだろう。
私にとって「仕事」とは、自分を成長させてくれるかけがえのない機会、場所、そして時間だと思っています。特に経産省に入ってからは、日々知識不足を痛感しており、もっと学びたい、より成長したいと強く思うようになりました。日々のインプットや勉強はとても大変ではあるのですが、エネルギー分野の知識が身につくにつれて、これまでとは全く違った視点でニュースを読み解けるようになったり、世の中の仕組みが見えるようになったりします。その「世界」が広がっていく感覚は非常に楽しいです。学び、成長し、視野を広げる。その自己成長が、巡り巡って日本の経済を支え、誰かの「居場所」を作ることにつながっていく。そういった政策を一つでも多く実現していきたいです。そして周りには心から尊敬でき、ロールモデルとなるような上司や同僚がたくさんいます。彼らのような視点や思考力、考え方を身につけたいですし、いつか自分も誰かのロールモデルになっていけたらいいなと思っています。