行政管理・評価、地方行政、情報通信、統計、消防・防災など、日本の行政の根幹を幅広く管轄する総務省。現在、同省では民間人材の積極的な採用を行なっている。今回は鉄鋼メーカーの生産技術職を経て2024年に総務省に入省し、統計局で働く細田憲弘さん(取材当時35歳)にお話を伺った。なぜ彼はキャリアチェンジを決意し、数ある官庁の中から総務省を選んだのか。そこには、「幅広いテーマに関われる環境で、公共の領域で社会に貢献したい」という思いがあった。
※画像内は、転職時の年齢となります。
前職時代は、大手鉄鋼メーカーで働いていた細田さん。まずは、転職を検討した経緯から伺った。
新卒で鉄鋼メーカーに入社し、工場の技術者として働いていました。最初の2年は大阪府、その後は福岡県へ転勤し、主に土木建築材料や鉄道用レールの製造に携わりました。安全かつ効率的な量産を目指して、製造工程の改善や製造設備の設計改良などをコツコツと積み重ねる仕事は、自分の性格に合っていたと感じます。生活の土台を支える製品に関われることも大きなやりがいがあり、特段の不満があったわけではありません。
ただ、担当プロジェクトがひと段落したタイミングで、ふとキャリアを見つめ直す時間が生まれました。子どもが小学校に上がってから生活環境を大きく変えるのは難しいと考え、「環境を変えるなら今なのではないか」と、転職を意識し始めました。
当時、公共性の高い仕事で社会貢献をしたいという思いは明確にあったものの、メーカーで設計などの技術系の分野を追求すべきか、あるいは全く別職種に挑戦すべきかまでは定まらず、幅広く検討していました。そうした中、エンのサイトを通じて総務省が募集していることを知りました。
民間企業への転職という選択肢もあったなか、総務省を選んだ決め手は何だったのか。
総務省の魅力は、公共の仕事のなかでも守備範囲が広いこと。当初は具体的な所管分野までイメージできていませんでした。しかし、応募フォームで志望分野を選択する際、消防、情報通信、統計など多岐にわたる選択肢を見て、総務省の業務内容を調べるうちに、「特定の分野に限らず多様な経験を積めそう」と、強く惹かれたことを覚えています。
当然、工場の技術者という前職とは環境が大きく変わるだろうなという不安はありつつも、「統計」の分野であれば、自身の理系のバックグラウンドを活かして馴染めるのではないか――。そんな期待を胸に、応募に至りました。
そして、最終的な入省の決め手は、選考を通じて出会った職員のみなさんの、仕事への向き合い方や、秘めた覚悟に触れたことでした。
面接では統計局の職員の方を含め、5人と対話する機会がありました。「修正の効かない統計結果を世に出すときは緊張しませんか」「自分の声が国の声になることに対し、どう向き合っていますか」など、率直に質問したところ、それに対する回答が今も深く心に残っています。
「我々は国民に正しい情報を届けなければならない。統計局は政策をつくる部署ではないが、政策の基礎となるデータを生み出している。自分たちが国の土台を支えているという自覚を持ち、日々向き合っている」と。
責務の重さを過度に強調するでも、気負うでもない。職員の方々の、プロとしての責任感や覚悟を垣間見たとき、素直に「かっこいいな」と感じました。自分もぜひこの人たちと一緒に働きたい。そう確信し、入省を決意しました。

細田憲弘さん
2016年に鉄鋼メーカーに入社。工場の技術者として従事。2024年1月に総務省へ入省し、統計局 統計調査部調査企画課 総括係に配属。その後、同年4月に統計調査部消費統計課 企画指導係、同年7月には総務省統計局 事業所情報管理課 審査発表係を経て、2026年4月より独立行政法人統計センターへ出向。現在は、独立行政法人の経営に係る業務に携わっている。この日は、政府統計の総合窓口・e-Statのキャラクター「eスタットリオ」のアイテムを持ってきてくれた。
総務省「統計局」とは
国や自治体が政策を立案する上で不可欠な基礎データを収集・集計し、統計として国民に公表する役割を担う。
統計局が所管する調査のフローは、まず統計局でどのような統計調査を行なうかを企画・設計し、各課が調査対象からデータを回収する。回収されたデータをもとに、独立行政法人統計センターにて結果表の作成・審査を行ない、最終的に公表できる形へと仕上げていく。
代表的な調査には、国勢調査や家計調査といった「世帯・個人」を対象とするもののほか、経済センサスやサービス産業動向調査といった「企業・事業所」を対象とするものがある。
こうして作成された統計は、人口動態や雇用、企業活動などの実態を把握する重要な基礎データとなる。GDP(国内総生産)をはじめとする経済指標の算出から、国・自治体の政策立案、さらには企業の経営判断に至るまで、幅広く活用されている。
2024年1月に入省以来、統計局で働く細田さん。その「仕事のやりがい」について、家計調査の業務を例に語ってくれた。
統計業務は「データの取扱いが中心」と思われがちですが、実際には組織の垣根を越えた連携が不可欠です。統計調査は、都道府県・市区町村の職員や外部委託先の民間企業など、多くの関係者の協力があって初めて成り立ちます。みなさんと1つのチームとしてプロジェクトを推進する感覚があり、非常に刺激的でやりがいがあります。
私のミッションは「家計調査の回収状況改善」でした。毎月の実施から回収に至るフローが円滑に進むよう、各地の担当者と連携し、信頼関係を築くことを何よりも意識していました。
月に数日は電話から手を離さず、各地の状況を詳細に把握し、伴走していきました。地道な対話を積み重ねることで回収状況が改善したケースも多くあります。現場担当者の困りごとを解決していくことは、自分ひとりの仕事を効率化するよりも遥かに効果が大きく、学びになりました。
技術職から事務系職種へと転身した細田さんだが、「前職時代から大切にしていた“現場の声を聞く”ことは、今も大いに活きています」と語る。
前職時代、工場でトラブルが起きた際には、現象や数値データだけを見ていても本当の原因は突き止められないことが殆どでした。必ず現場に足を運び、人の声を聞くことが大切だと教えられてきました。その姿勢は、今の仕事でも変わりません。
例えば、あるエリアで調査の回収状況が急激に悪化した際、「どうかしましたか?」とお電話すると、例えば「担当者は私1人で、他の業務と兼務しており、手が回らない。周りに相談できる人もいない」「ベテランが退職し、引継ぎ内容を把握できないまま担当になったので調査員にどう指導してよいかわからない」といった実情が見えてきます。
エリアごとに状況は千差万別であり、それぞれのボトルネックを突き止め、個別に対処していくことが重要です。電話やメールで参考事例を共有してアドバイスしたり、時には担当者を励ましたりと、現場の実務を粘り強く支援していきました。
また、精神論かもしれませんが、前職の先輩から学んだ「絶対に諦めず、全力を尽くす」という姿勢も財産です。工場の操業停止を回避する、もしくは最小限に留めるために今何ができるかを常に考え抜く。そうした泥臭く取り組む姿勢は体に染み付いており、今の仕事にも強く活きていると実感しています。

一貫して「公共のために」という思いを語ってくれた細田さん。なぜこれほどまでに「公共の事業」にこだわるのか。
大学1年生の時に、仙台で東日本大震災を経験しました。地震の発生直後は自分のことで精一杯で気にする余裕がありませんでしたが、数ヶ月後に被災地の現場を目の当たりにしたとき、当たり前に感じていた公共サービスの重要性を痛感しました。
公共サービスや施策は、生活の土台を支えるゆえに、普段は意識されにくい存在です。ただ、その「当たり前」は、多くの人々の仕事の結晶であることを思い知りました。以来、人々の生活に継続的に貢献できるサービスに携わりたいと強く思うようになりました。
前職で関わった土木・建築材料も、現在の公的統計も、公共性の高さでは共通しています。自分にできる役割をしっかり果たし、これからも人々の「当たり前」を維持し、向上させていきたいです。
最後に、日々働く中で大切にしていることについて尋ねた。
大切にしているのは、「結果」よりも「プロセス」に重きを置くことです。仕事も私生活も、基本的に最終的な「結果」をコントロールすることはできません。ただ、そこに至るまでの日々の過ごし方や、人との関わり方という「プロセス」は、自分自身でコントロールし、改善していくことができます。
自分の行動を積み重ね、プロセスを丁寧に回していけば、最初から100点満点とはいかずとも、70点、80点には近づけられる。時間はかかっても、継続して取り組めば、いずれは完璧に近づいていくと信じています。
そして、継続的に取り組むことが大切だからこそ、過程そのものを楽しむことも大切にしています。
私の好きな言葉に、「我以外皆我師(われいがいみなわがし)」があります。どのような仕事であっても、サービスを作る者と受ける者が存在し、決して一人では完結しません。関わるすべての人を師と捉え、対話を通じて学び続けることが必要です。
そう考えると、仕事には終わりがなく、学びの対象となる人々も無限に広がっていきます。結果だけではなく、そうした他者との関わりそのものを学びと捉えることで、「仕事」に向き合う時間は自然と充実したものになっていくはず。これからも、他者に学び、楽しむ気持ちを忘れず、一歩ずつ着実に取り組んでいきたいです。


