「ファッションレンタル」という新時代の市場を切り拓いてきたベンチャー『エアークローゼット』が躍進を続ける。わずか4年で『airCloset(エアークローゼット)』の会員数は15万人へ。2017年10月にはスマホ時代の“選ばないお買い物”としてスタイリング&購入体験を提供する『pickss(ピックス)』をリリース、『UNITED ARROWS』が独占参画して話題を呼んだ。同年11月には9.5億円を調達。“プロのスタイリストによるパーソナルスタイリング”を通じて感動体験を提供する。
事業を統括・指揮するのが、石川桂太さん(27)。もともと新卒で野村総合研究所(インド法人)へ入社。2015年当時、史上最年少のシニアコンサルタントとして活躍した経歴の持ち主だ。なぜ、彼は次の舞台に『airCloset』を選んだのか。そこには「市場とビジネスをつくる」という志があったー。
150名以上―。
これはエアークローゼット社が抱えるプロスタイリストの人数だ。
自分に合う洋服を、プロが毎回スタイリングしてくれる『airCloset』。しかも、手頃な価格の定額制。
こういった体験がユーザーの心を捉え、リリース前の事前登録では2万5000人だった会員数は4年で15万人へ。月額会員の満足度は90%を超え、特に30代・40代の働く女性を中心に支持を集めている。
さらに「レンタル」から「選ばない購買体験」へと事業を拡大。airClosetの運営で培ったパーソナルスタイリングの見知・ノウハウを活かして、プロのスタイリストが選んだお洋服を自宅で試着が出来るECプラットフォーム『pickss』をリリースし、大きな話題を呼んだ。(『UNITED ARROWS(ユナイテッドアローズ)』『nano・universe(ナノユニバース)』『ROPE'(ロペ)』など名だたるブランドも参画している)
その裏側にあるのが、同社独自の「パーソナルスタイリング」という強み。15万人以上のユーザー選好情報を分析、20万回以上に及ぶスタイリングの“データ”を武器とし、事業領域を拡大させている。
ユーザーへのスタイリング業務やデータ分析に活用する“スタイリング提供システム”を開発し、特許も取得。ユーザーごとのカルテを作り、随時更新する。
彼らが目指すのは、ユーザー選好と洋服のマッチング。そしてスタイリストの選定パターンの解析・仕組み化だ。市場開拓をするフェーズから、データ・マッチングシステムを活用した新たなビジネス・収益化のフェーズに入っているといっていいだろう。
新規事業を牽引するのが、社長室長の石川桂太さん(27)だ。
彼は慶應義塾大学在学中に会計士試験に合格。インド大手の会計士事務所でインターンを経て、そのまま野村総合研究所のインド法人に新卒入社したという変わった経歴の持ち主。
さらに付け加えると、当時、野村総合研究所の史上最年少のシニアコンサルタントに昇格し、活躍した実績も持つ。
その経歴からすれば、コンサルタントとしてはもちろん、さまざまな選択肢があったはず。なぜ彼はエアークローゼット社への参加を決めたのだろう。
「そもそも“儲かる”とわかりきっていてやるのは、つまらないと思ったんです。収益モデルをつくることが自分の仕事。“どう儲けていくか”を自分で考えてみたかった」
そう屈託のない表情、笑顔で語ってくれた石川さん。市場から自分たちでつくる。収益化を含めて戦略を練っていく。そこには熱い志、そして石川さんならではの仕事観があった。
「エアークローゼットの仕組みを知った時、直感的に面白いと思ったんですよね」
世界的にシェアリングエコノミーのビジネスがトレンドとなるなか、2014年というタイミング、ファッションの文脈でその概念を日本へ持ち込んだのが『airCloset』といっていいだろう。
「定額で洋服をレンタルするという文化や、生活そのものを根付かせることができると思いました。スタイリストの新たな雇用・役割も生まれるし、アパレルメーカーにとってもPRとなる。その新規性、マーケットを創りにいくモデルに興味を持ったんです。ただ新しいだけではダメ。収益は簡単にはつくれません。だからこそやる意味があると考えました」
こうして27歳という若さで事業責任者・統括を社長直下で担うことになった石川さん。そこには並々ならぬプレッシャーもあるはずだ。
ただ、彼は責任を負って仕事ができることに、やりがいを感じているようだった。
「性格的な問題だと思うのですが、まだ誰も歩いてない道を歩いていきたいんですよね」
そう語る表情は生き生きとしていた。大学時代には、いきなりインドへ飛び立った経験もある。
「選択をする時、あまり深くは考えていないんです。軸は成長できるかどうか。選ぶなら、できるだけリスクの大きな方。リスクが大きいほどリターンも大きいですから。特に20代のウチはどんどんリスクをとるべきだと思っています」
彼の社会人としての礎はインドで作られた。
「大学時代、インドの会計士事務所でインターンをできるチャンスがあって、勢いで申し込んだら“すぐ来い”って言われて。すぐに飛んだんです」
待っていたのは想像を越える環境。
「行ってみたら500人いるインド人スタッフの中、日本人は僕と上司の2人だけ。むちゃくちゃ大変でしたね。文化も商習慣も違う。英語の訛りもあって、言葉もほぼ通じませんでした」
会計書の読み方から交渉の仕方まで。見よう見まねでこなし、仕事をつくっていった。
「あの頃の経験があるから、並大抵の挑戦は大したことではないように感じるようになったのかもしれません」
インターンを経て、野村総合研究所インド法人に入社。立ち上げ1年目、唯一の新卒日本人として採用された。それも、現地法人の代表との会食機会に飛び込み、自らを売り込んだことがきっかけだった。
リスクを取る。直感を大切にして行動する―。コンサルタントのバックグラウンドを持つ石川さんに、仕事観について伺った。
「僕にとって仕事は、“人を幸せにする”ということだと考えています」
言われてみればあたり前なのだが、人に何か価値を提供できてこそ、はじめてビジネスは成立するもの。その結果、数字として返ってくる。彼にとっては、キャリアやスキルのために仕事があるわけではないのかもしれない。
日々あらゆる数字と向き合い、事業戦略を練り続けてきた彼だからこそ、その本質を突いた言葉と言えるのではないだろうか。彼のまなざしは、さらに多くの人々を幸せにしていくための事業へと向けられていた。