2017年末から、盛り上がりを見せる「バーチャルYouTuber」。2018年5月、サイバーエージェントグループCyberZは同事業に参入。バーチャルYouTuber事業に特化した新会社CyberVを立ち上げた。ビジネスとしての可能性、そしてその先に描く未来とは?代表取締役社長である兵頭陽さん(29)に伺った。
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特別連載【FUTURE】
ドローンやVR、キャッシュレス化、仮想通貨・ブロックチェーン技術…目まぐるしく変化する時代において、それぞれの企業が未来に向けて仕掛ける新規事業・サービスに焦点をあてていく特集連載です。日本を代表する大手企業からベンチャーまで。イノベーティブなプロジェクトのリーダーを取材し、事業の狙い&ビジョンに迫ります。
サイバーエージェントグループが、「バーチャルYouTuber」事業をスタートさせるーーそんなニュースが飛び込んできたのが2018年4月のこと。一体なぜ「バーチャルYouTuber」なのか。
その狙いについて、CyberV代表取締役社長である兵頭陽さんは、こう語る。
「リアルとバーチャルの境界が溶け合っている、それがこれからくるトレンドだと捉えています。たとえば今、YouTubeやTikTokなどによって、誰もが当たり前に自己表現できる時代になっていますよね。ただ、顔を出したくない人にとっては表現の幅が非常に狭く限られている。こうした人たちの中にも、表現への意欲や才能を持つ人はたくさんいます」
つまりバーチャルキャラクターが表現や人の可能性を広げ、新しいエンターテイメントが生まれていく、ということだ。
兵頭 陽
2013年、サイバーエージェント入社。CyberZに所属し、アカウントプランナーとしてスマートフォン向け広告マーケティングに従事する。その後、同部署内でアメリカおよびアジア領域を中心に、海外における広告マーケティング事業の責任者となる。現在、バーチャルYouTuber事業を手がける「CyberV」にて代表取締役社長を務める。
「非常におもしろいと思うのは、バーチャルYouTuberのシステムを使えば、バーチャルキャラクターを、意思を持って動かすことができること。ARを使ってイベントやライブステージなどリアルの場にキャラクターを存在させられます」
今後の市場についてこう分析する。
「技術革新が進み、バーチャルYouTuberの活躍の幅はリアルにも広がっていきます」
バーチャルYouTuber/Vtuberとは?
主に2D、3DCGで作成されたキャラクターのYouTuberのこと。音声や動作は、配信者である人間によって演じられる。モーションセンサーや画像認識システムとキャラクターが連動しているため、リアルの人間が話し、動くことでキャラクターも動く。まるでバーチャル上で生きているかのように振る舞いながら、リアルタイムで視聴者とコミュニケーションを取ることも可能だ。
CyberVが手掛けた 世界初?!のバーチャルYouTuber同士によるeスポーツ大会「RAGE バーチャルYouTuber GRAND PRIX ~2018 Summer~」(eSportsイベント”RAGE 2018 Summer”にて)
バーチャルYouTuberは、立ち上がって間もない市場。マネタイズについてはどのように考えているのだろうか。
「まだまだ投資のフェーズというのが正直なところです。その中でもまずは市場を広げ、プレイヤーを増やすことに専念していく。直近で手がけている事業としては、バーチャルYouTuberの制作や運用。加えて、バーチャルYouTuberとして活動する方のサポートです」
ここで主な収益モデルとして考えているのは、以下の2つだ。
・動画プラットフォームでの配信による広告収入
・月額課金型のスポンサードチャンネルなどによるサブスクリプションモデル
彼らの戦略は「人材の発掘」からキャラクター制作、そしてプロデュース・メディア露出までの一気通貫で仕掛けるというもの。さらに配信者たちへ「動画の配信システム支援」も行なっていく。
もうひとつ注目したいのが、グローバルを見据えた展開。
「アニメなどの日本のコンテンツは海外で高い人気を得ています。アニメ化、漫画化、グッズ展開など含めて、海外市場にも大きなビジネスチャンスとポテンシャルを感じています」
CyberVは、専門学校向けにバーチャルYouTuber開発育成特別プログラムを提供。声優選定から、ストーリー設計、3Dモデリング、動画編集まで一貫した研修を実施する。
ビジネスとしてどのようにスケールさせていくか。その展望の一つとして伺えたのが、いかにバーチャルYouTuberに「活躍の場」を提供できるかということ。
「バーチャルYouTuberがタレントや芸能人と変わらない立場で活躍する。キャラクターとしての価値が高まれば、そういったビジネス展開もできると考えています。つい最近でもワイドショーにバーチャルYouTuberがコメンテーターとして出演し、Twitterをはじめ大きな話題となりましたよね。その他、訪日観光大使に選ばれたり、BSで冠番組を持ったり、写真集を出したりしているキャラクターもいます」
CyberVとしても、すでに新たな動きがスタートしている。
「すでに番組出演だったり、専門学校の授業の講師だったり、進めているプロジェクトも少なくありません。たとえば、サイバーエージェントグループが運営する『AbemaTV』などで番組MC、ニュースキャスターをバーチャルYouTuberが担当する、CyberZが提供する『OPENREC.tv』でeスポーツ大会の実況や解説を開始する、そんな未来もあるかもしれません。グループ全体のサービスとしてシナジーを生み出していける。グループ全体の“バーチャルYouTuber事業”として捉えていく。ここは思い切った意思決定やチャレンジの幅が広げられる部分だと思います」
取材終盤、伺えたのが兵頭さんが考える「バーチャルYouTuber」の未来について。
「たとえば、現実世界にバーチャルキャラクターが存在していることに、違和感がなくなることもあり得るかもしれません。テレビのひな壇はもちろん、学校の講師や接客スタッフなどキャラクターと普通にコミュニケーションを取っている。こうした世界を想像するだけでワクワクしてくるんですよね」
前例のないビジネス。だからこそアイデアやアプローチの方法に制限はない。
「今まさに、伝統工芸とか、浮世絵とか、教育とか、バーチャルと融合しておもしろい掛け合わせを考えている最中なんですよ。普通に想像がつくことをしてもつまらないし、企業としてやる意味がない。私たちサイバーエージェントグループだからこそできる仕掛けを考えていきたいですね」
バーチャルYouTuber、その新領域の事業を仕掛けているメンバーのバックグラウンドもユニークだ。
「そもそも“バーチャルYouTuber”そのものが新しいので経験者っていない。広告業界出身だったり、アパレル、金融業界だったり。あとはダーツのプロ選手もいて(笑)共通しているのは“新しいものを創りたい”、“挑戦したい”という想い。さまざまな領域のプロフェッショナルが集まることで、新しい世界を作っていく。すごく刺激的ですよね」
自由な発想でバーチャルによる未来をデザインしていく。兵頭さんの言葉には、熱い思いが込められていた。