刻一刻と変化する国際情勢、そして一年を通じて発生する自然災害への対応ーー。2020年に入り、さらに重要な役割を担う行政機関、その一つが防衛省だ。今回、防衛省の職員、初の公募にあたり「これからの防衛省」と「求められる人材」について防衛省大臣官房長 島田和久氏にお話を伺った。
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変化が激しく、不確実性が高まる時代。いかに日本の平和と安全を守るか。日本国民の平和な暮らしに寄与していくか。令和という新たな時代、防衛省の役割について防衛省大臣官房長 島田和久氏にお話を伺うことができた。
「日本は言うまでもなく、食料やエネルギーの多くを海外に依存し、経済の相互依存関係の中で、国を発展させてきました。そうした中、日本を取り巻く安全保障環境はダイナミックに変化し続けており、一国の平和は自国のみでは守れない。そういった時代になっています。つまり日本の平和は、世界の平和と密接不可分な関係といえます」
こういった世界の情勢を背景に、防衛省が担う役割とは。
「自国のみならず、世界の安定、世界の平和に貢献していく。そうすることで日本の平和、国民の幸せな暮らしにつながっていくと考えています。こういった前提をもとに、我々も仕事をしていかなければなりません」
そして、2020年1月に実施される中途採用職員の公募。新たな時代の幕開けにおける、「次世代人材」募集へ。これからの防衛省が担っていく役割、そして職員に求められる資質について伺った。
島田 和久|防衛省大臣官房長
神奈川県出身。慶應義塾大学法学部卒業後、旧防衛庁へ。防衛政策課長などを経て、2012年には「内閣総理大臣秘書官」となる。また2019年7月、「防衛省大臣官房長」に就任。著書に『日本の防衛法制(2008)』など。
国際社会のパワーバランスが複雑に変化している昨今。日本における「国防」のあり方、考え方は大きな変化が起こっている。既存の「秩序」は不確実なもの、と島田氏は解説してくれた。
「現在、世界の国々は、これまで直面したことのない安全保障環境に置かれていると言っていいでしょう。一例を挙げれば、従来、安全保障を考える上では陸・海・空といった物理的領域を念頭に置けばいい、というものでした。ただ、近年に入り、宇宙・サイバー・電磁波などの領域を押さえていくことも欠かせなくなりました」
諸外国がしのぎを削って“新たな時代の安全保障環境”を模索、挑戦する時代へ。
「不確実性が高まる中、どのような難局においても、我々は日本を守り続ける任務を果たさなければなりません。そのためには、これまでの常識に囚われていてはいけない。防衛省の職員一人一人が、柔軟な発想で様々な課題に取り組むことが、日本と世界の平和と安定に非常に大きな影響を及ぼすと捉えています」
これまでも多様な人材を求め、採用活動をしてきた防衛省。初の中途採用の公募について、こう続けてくれた。
「かつてないスピードで変化していく安全保障環境にしっかりと対応していく。そのため、これまで以上に防衛省を柔軟な組織にしていきたいと考えています。これまでの内部の育成に加え、社会人として多様なフィールドで活躍してきた人材を採用していく。それにより、変化を恐れず、様々な課題にチャレンジしていく力強い組織にしていく狙いがあります」
防衛省・自衛隊において重要な役割が「防衛出動」。加えてより身近なところでいえば「災害派遣」もその一つだろう。
「そもそも日本は非常に自然災害が多い国です。地震、噴火、そして夏から秋にかけて台風も必ず来ます。水害も多い。多くの人命、財産が被害にあってきました。その対応も我々の非常に大きな役割です」
例えば、大規模な地震があれば必ず被害は生じる。その場合も発生後、直ちに自衛隊は震源地へと向かう。行けば必ずそこに助けを求めている人々がいるからだ。
「これまでも、被災地の方々から「自衛隊の存在に大きな勇気をもらった」といった声を多くいただいています。我々にとっても非常にありがたいことですし、非常に誇りに感じています」
日本における自衛隊は、諸外国に類を見ないほど「自然災害対応」で高いレベルを有す。
「私の知る限り、現在、自然災害に対し防衛組織がこれだけ貢献している国は他にないと思います。従来は警察、消防、あるいは自治体が災害に対応し、手が足りなければ自衛隊が手伝うといった考え方でした。もちろん基本的な考え方は変わりません。しかし近年、自然災害が数多く発生する中、人々の命と暮らしを守るため、被害が生じてからではなく、生じる前から自衛隊が、先手先手で対応するという取り組みも進めています」
防衛省の公式Twitter(フォロワー数は約96万人)
自衛隊の創設は昭和29年7月1日だが、「自衛隊記念日」は11月1日となっている。夏場は台風の時期でもあることから、自然災害が比較的少ない11月に設定しているといった逸話もある。
ダイナミックに変化する国際情勢の中、世界の平和と安定に寄与していく。そのための取り組みとして防衛省ならではの動き方もあると伺えた。
「当然、国際社会において各国の外交当局同士でのやり取りが重要な役割を果たします。いわゆる外交です。他方で安全保障の世界においては国防当局同士での直接の意見交換、情報収集、信頼関係の構築・調整といった国防当局が担う「外交」と言えるものも存在しています」
かつては「何かが起きたら守る」だった国防の考え方。これは受け身な対応ともいえる。「そもそも何かが起きないようにする」という考え方へ。
「たとえば、河野大臣は頻繁に海外に出張し、各国要人との会談や視察を行なっています。また、日常的に各国の国防大臣などと電話でさまざまな意見交換・協議も実施しています。さらに局長レベル、課長レベル、担当レベルでも各国の国防当局と意思疎通を図っているのです。こういった積み重ねによって、お互いが何を考えているのか。何を懸念しているのか。どうしたいのか。誤解を無くし、話し合いを行なっていく。この取組は国際情勢の安定化にとって欠かせないものになっています」
そういった中、世界で「日本」がどう認識されているのか。島田氏個人が受ける印象についても語ってくれた。
「私自身、多くの国へ行き、様々な意見交換を行なってきました。あくまでも個人の印象ですが、日本という国は諸外国から非常に重視され、信頼されている。とくに「平和国家」であり、「非常に善良な国民」として認識されていると感じます。そのような国が、世界の平和や安定に貢献するため自ら積極的に役割を果たしていくのは、非常に意味のあることだと思います」
そして取材の最後に語ってくれたのが、防衛省で仕事をする、ということの意義について。自身の仕事観と共に伺えた。
「私は長い間、防衛省のさまざまな部署で仕事をしてきました。そのなかで防衛省・自衛隊の一員として日本中・世界中で活躍するさまざまな人と接することができました。痛切に思うのは、本当に高い志を持ち、「とにかく人のために尽くそう」「日本の平和のためにもっと貢献したい」と考える人が非常に多い組織だということ。私自身としても仕事を通じより多くの人々、国民の役に立ちたいと考えることができ、またそれが喜びとなっています」
日本をいかにして守るのか。未来に向けてどのような防衛力を設計していくか。防衛省が一義的に責任を負っていく分野だ。変化を続ける国際情勢の中、防衛省の一人一人の職員の責任は大きく、また、課題も複雑と言える。そのためにも、防衛省には多様なバックグラウンドを有する人材の力が、今、求められているーー。