ソフトウェアテストを自動化するBtoB SaaS「Autify(オーティファイ)」が目覚ましい成長を遂げている。ローンチされたのは、2019年10月。詳細の数字は非公開だが、海外からの受注もあるなど、急速に導入企業数を伸ばす。ソフトウェアテスト自動化は、開発現場の負を解決へと導けるのか。CEOの近澤さんに、お話を伺った。
「企業はソフトウェアテストにIT予算の3分の1を投じています。その市場はグローバルで120兆円を超える規模になる」
こう語ってくれたのが、オーティファイ代表取締役の近澤良さん。続けて、ソフトウェアテストの実情について、こう解説する。
「今、ほとんどのテストは "人の手” によって行なわれています。たとえば、SNSを開発した場合、『ログインできるか』『自分のフィードに投稿が反映されるか』などの検証項目が、EXCELにまとめられる。その何百何千にも及ぶ項目の一つひとつが、手作業で確認されています」
こうした中、多くの企業で進められているのが「テスト自動化」だ。ただ、そこにも大きな壁がある。
「テスト自動化には、『トップにアクセスする』『ユーザー名・パスワードを入力する』など、一つひとつの操作を自動で実行するためのコードを書く必要があります。つまり、コードを書ける人じゃないとできません。開発のリソースも足りない中、ここに人員を割くのは非常に難しいですよね」
もう一つ、近年の開発手法の変化が自動化をより困難にしている。
「世の中の開発手法はアジャイルに移っている。毎週、また毎日のようにアップデートされ、UIや仕様が早いスパンで変わっています。自動化するプログラムを組んでも、こうした小さな変更がある度にコードを書き換える必要がある。このメンテナンスコストが自動化の進まない原因になっています」
近澤 良
日本、シンガポール、アメリカにて10年以上ソフトウェア開発に従事。2016年、オーティファイをアメリカで創業。2019年2月、アメリカのトップアクセラレーター『Alchemist Accelerator(アルケミスト・アクセラレーター)』を日本人として初めて卒業した。
オーティファイが提供するのが、ソフトウェアテストを自動化するBtoB SaaS『Autify』。画期的なのが、「コードを書かなくてもテストの自動化ができる」点だ。
「『Autify』であれば、エンジニア以外でも自動化をすることができる。実際にお客様でも、コードを書かないテスターやプロジェクトマネージャーの方にご利用いただいています」
さらに『Autify』がユニークなのが、AIによってテストコードが自動で改善されていくこと。そのため、テストのメンテナンスコストを大幅に削減することができる。
「人の手によるものと比較して、コストは2分の1から3分の1ほどに下げられる。またこれまで人が1日かかっていたものが、10分に短縮できることもあります」
2019年10月のローンチから、導入企業数は急速な右肩上がりを続ける。顧客企業の業種や業態、企業規模などもさまざまだという。
「Webアプリケーションの操作は、極端に言えばクリック、入力くらいしかない。やってることって実はそんなに変わらないんですよね。だからこそ、『Autify』はどういった企業の案件であっても対応できるんです」
さらにこう続けた。
「以前、お客様から全てのテストケースをもらって分析したことがありました。そうすると、6割~8割が自動化できることがわかった。つまり、機械でできることをこれだけ人がやってしまっているんですよね。私たちはこうした単純作業から多くの人を開放したい。人がもっと人にしかできない、創造的な仕事ができる世界をつくりたいと思っています」
近澤さんが『Autify』の前身となるプロダクトを構想したのは、2018年。サンフランシスコのAlchemist Accelerator(*)に参加していたときのことだった。
(*)アメリカのトップアクセラレータの1つ。約6ヶ月に渡り、B2Bスタートアップ起業家向けの教育プログラムが実施される。2019年2月、日本人起業家が創業したスタートアップとして、初めてオーティファイが卒業した。
「100社を超える会社を営業して回ったのですが…1つも売れることはありませんでした」
転機となったのが、3ヶ月が経ったころ。商談の内容を書き留めたノートを見返したという。
「企業がどこに困っているのか、ノートに書いた内容を抜き出してみました。表にまとめて、何回言及されたかソートして。そうすると、ほとんど全員が同じこと言っていることがわかったんです」
それが「自動化するためのエンジニアリソースが足りない」「自動化のメンテナンスが大変」の2つだった。
「この2つを解決できれば、相当スケールするプロダクトになる」
そして、その日のうちに『Autify』の企画をプレゼン資料にまとめ、デモのムービーを用意。次の日の商談に臨んだ。
「即決で買います、と。企画書だけで実際のプロダクトもない。その中で、『これだったら買います』と言ってもらえた。今までとは明らかに違う手応えがありましたね」
そしてそれから1ヶ月間で、数件の年間契約を受注したという。
「企業が求めているのは、今まさに"燃えている火”を消す方法なんですよね。その課題を解決できるプロダクトであれば、お金を出してくれる。エンジニアが足りず、テストの自動化が進められない、これを解決できるプロダクトは世界でもほとんどありません。だからこそ、『Autify』には大きな可能性があると思っているんです」
そして取材最後、伺えたのが近澤さん自身の仕事観、そして「これから」について。
「ぼくは生きてる限り、見られる世界をできる限り見たいんです。たとえば、できなかったことができるようになれば、世界は違って見える。『Autify』はそういった可能性を広げるプロダクトだと思っています。人がもっと創造的な仕事ができれば、世界はもっと違ったものになるはず。ただ純粋に、その世界を見てみたいんですよね」
笑顔でそう語ってくれた近澤さん。その目はまっすぐと未来に見据えられていた。