経営大学院などの運営で知られるグロービス。個人向けサービスのほか、法人向けにも人材・組織開発のコンサルティングを行う。取材したのは法人部門でコンサルタントとして活躍する尾花宏之さん(30)だ。彼はメガバンク出身。「お金だけでなく、人・組織の課題でも経営者に並走したかった」と語る。グロービスに転職したのは26歳のとき。求めたのは「経営者の人材育成と組織開発における戦略パートナー」となれる環境だった。
グロービスについて
「経営に関するヒト・カネ・チエの生態系を創り、社会の創造と変革を行う」というビジョンを掲げる。このビジョンのもと、人材育成・組織開発を推進するグロービス経営大学院、法人事業、ベンチャー企業への投資・育成、出版、独自メディアの運営など多岐にわたる。
「もっと企業を成長させていくためには、資金面に加え、人・組織の経営課題を解決することが欠かせないと考えていました」
こう話してくれたのは、尾花宏之さん(30)。グロービスで人材組織変革コンサルタントとして働き、さらなる活躍が期待されている。
もともとメガバンクにて、融資業務を担当。経営者と経営課題を議論しながら、支援を行なってきた。
「もちろん銀行における役割として、資金の融資を行うことで成長支援・再建のお手伝いができる会社もあり、やりがいはありました。ただ、経営者の意識変革、人や組織の領域など、資金面だけでは解決できないところに経営課題の根本があることも多く、ジレンマがあったんですよね」
そのなかでも、なぜグロービスだったのか?
「とくに経営幹部への直接の提案、人・組織の領域においてコンサルティングをメインに行なえることが魅力でした。また、経営者の課題意識をお伺いした上で議論を始められるため、根本的な課題へのアプローチができること。ここなら、銀行時代に感じたジレンマが解消できると感じました。グロービスは、あくまで会社の経営を良くしていくために、人や組織から変えていくんだという一貫性を持っている。ここなら、自分のやりたいことが出来ると思いました」
彼が働いていたのはメガバンクのなかでも将来が期待されるキャリアだった。そのキャリアを捨ててでも求めた、グロービスの成長ステージとは?
尾花宏之(30)
メガバンクで企業への融資を担当。2015年にグロービスへ。現在、人材組織変革コンサルタントとして、大手企業を中心としたクライアントを担当。
前職のメガバンクでは、企業への融資業務を担当していた尾花さん。
「極端に言ってしまえば、銀行ができるのは主に「お金を貸す」こと。営業数字もあるので、比較的安全な企業の顕在化した資金需要を探すことが求められます。当時は、クライアントの融資以外の相談ごとなど必要以上に関わりすぎると、「余裕があるなら他の融資先を探してきなさい」といわれる。経営にとって重要なヒト・モノ・カネのひとつで、大切だと感じた「人」までは融資では変えることはできないんですよね」
そこには、ある企業の経営を救えなかった自身の体験がある。
「ある製造会社さんから、今厳しくて助けて欲しいと言われたんです。うちの銀行はメインバンクではなかったんですが、メインバンクに見離され、最後の頼みの綱としてうちに声がかかった形でした。大手の取引先からかなり厳しい価格交渉を受けていて、赤字体質。起死回生を狙うには、ビジネスモデルを改善していくほかありませんでした」
ただ、銀行で行える支援には限界があったと振り返る。
「なんとかできないかと通い詰め、社長の相談にも乗っていたのですが、結局何もできずその製造会社は倒産に追い込まれました。当時、周りからはあまり深入りするなとは言われてはいたものの、今でも自分が会社に入り込んでやれば何か出来ることがあったんじゃないかと。ショックでしたね…。銀行にできることには限界がある。中の人が根本的に変わっていかない限り、会社は良くなっていかないし、救うこともできないんだなと、強く思いました」
これが、人と組織を本気で変えることができる会社に行きたい、と思うようになった原体験となった。
そして彼が転職を決意し、軸としたのが「人や組織を変える」というコンサルティングだ。
年齢的には26歳。複数のキャリアの選択肢があるなかで、なぜグロービスだったのか。
グロービスでは、1人が多様な業種のクライアントを担当するため、幅広い知見を得ることが可能。経営の幹部層と近い距離で商談ができ、会社の方向性を左右するようなダイナミックな仕事ができる環境がある。
そのなかでも、尾花さんが最も魅力に感じたのは、人・組織への考え方だった。
「転職活動をするなかでは、人・組織の領域でビジネスを行う競合他社も採用面接を受けていましたが、人を育てる・組織を育てるということが、経営とは切り離されている印象をうけた会社もありました。ただ、グロービスは、面接を通じて5人以上の現役社員の方とお話しする中で、経営と人・組織を結びつけて考えるということが伝わってきたんです」
「また、社員の方はみなさん、人や組織を良くしたいというこだわりを持った優秀な人が集まっているなと。僕も、人と組織を変えることに本気で取り組める場所を探していたので、そういった志をもった人と働けるというのも魅力でした」
グロービスの選考は、コンサル業界でもユニークなことで知られる。入社後のミスマッチを防ぐ目的から、選考の段階から4~5名の現役社員との対話が設けられる。ちなみに、自分と同じくらいの年齢の社員と話したい、こんな仕事をしている社員と話したいといったオーダーも可能。尾花さんは、「すごくたくさんの社員さんと話せたので、入社後のギャップはなかったです」と語る。
入社そうそう壁にぶちあたった。
夜な夜なつくり、自分なりに自信を持って提案したプレゼンが大失敗に終わってしまったと振り返る。
「先方からズバっと、『プロフェッショナルとして、あなたはうちの会社のことをどういうふうに思い、どういうふうにしたらいいと思っているのか。私たちは一般論ではなく、あなたの自論が聞きたい』そう言われてしまったんです。そのとき、無意識に自分の中でお客さんと向き合うことを避けていたなと気づいたんです。企業側に主導権を委ねるような内容。私の提案は主体者としての意識、経営を左右する提案をしていく覚悟が圧倒的に足りていなかったんです」
「逃げ」が見透かされた、瞬間だった。
「自分の提案が会社の方向性を決めるかもしれない。正面から議論をする覚悟があるか。そう問われているようでした。これでは理想には程遠いと痛感しました。そこからとにかく社内外の人に相談して知見を得て、議論を重ねて「自論」を持てるまで考え抜くようになりました」
こうしてグロービスに入社して4年。大手企業の人事担当者からは「尾花さんは、本当にうちのことを親身になって考えてくれている」と評価され、過去の受講者からは「尾花さんが担当してくれたクラスでのアイディアが、おかげで今、こんなプロジェクトが立ち上がっていますよ」と嬉しい報告が舞い込むまでとなった。
そして、話は今後の展望へ。
「やっぱりこれからも、そこで働く人たちの可能性を開花させたい、可能性を生み出したい、そしてその会社をよくしていきたい、というのが私の夢なんです。
その上で、経営者にとっての戦略を実行できる組織になるための相談を一番にかけたくなるようなパートナーでありたい。そして、今後会社を担うような個人の方々が、もう一段上の可能性を自分の中で見出せる、そんな機会を作れるメンター的な存在でありたいなと思っています」
最後に伺えたのが、何が尾花さんをこんなにも突き動かすのかについて。
「実は、銀行に行く前、ビジネスを立ち上げたことがあって。学生の頃から日本の中ではあまりにも仕事を楽しめていない社会人の方って多いなというのが問題意識としてありました。
本当はやりたいことがあるのに、家庭もあるしといった理由から今の職場でお金を稼ぐためだけに働いている…というような方から悩み相談を聞いているうち、「夢を掴んで欲しい」というのが自分の夢になったんです。僕の中では、根本の「人が前向きな気持ちで自分のやりたいことに本気で向き合えるサポートをしたい」という思いは、ずっと変わらないんです。一歩一歩、前に進んでいる、っていう感じです」
そう語ってくれた彼の眼差しは、未来を見据えていた。