明治42年(1909年)創業、長い歴史をもつ『講談社』。経理局で働く田中類さん(30)は変わったキャリアの持ち主だ。料理レシピ投稿・コミュニティサイトを運営するベンチャーを経て、講談社へ。なぜ、ベンチャーから大企業に飛び込んだのか。そこには経理として担っていきたい役割、叶えたい思いがあった。
田中類さん(30)さんが自身のキャリアについて本格的に考え出したのは、慶應義塾大学 法学部2年生のころ。
公認会計士資格を取得するために、予備校に通い、起きている時間のほとんどを勉強して過ごしていたという。専攻学部と異なる「会計」という道。きっかけをこう振り返る。
「友人に誘われたことがきっかけでした。将来のために資格やスキルを身に付けておこうと思って。ただ、その友人は早々にリタイアしてしまいました(笑)」
大学2年といえば、多くの学生がサークルやアルバイトなど、青春を謳歌している時期。それでもひとり、勉強をしつづけた理由とは何だったのか。そこにはシンプルでありながら、ブレない考え方があった。
「何事も“やる”と決めたことはやり通したい。しっかり筋道を立てて、計画通りに進めたい。そういった性格なんだと思います」
そして、大学4年生の11月。公認会計士の資格試験を見事一度で合格し、翌月からはすぐに監査法人で勤務しはじめた。
配属を希望したのは「IT業界」を担当するセクション。さらなる成長が見込め、新しい事業がどんどん生まれていく世界。ただ、仕事は決して華やかなものではなかった。
「財務諸表の数字を確認し、疑問があればアポを取って質問しに行く。何度も確認をしていく。仕事としては地道なものでした」
中立な立場で、問題があれば指摘をしていくこともある監査法人。企業の経理担当者によっては「現場のことも知らずに」と歓迎されないことがあったという。そのなかでも、田中さんは「数字を見る」という部分に仕事の醍醐味を感じるようになっていった。
監査法人での経験をこう振り返る。
「すごくたくさんのことを学ばせてもらった時期だと思います。たとえば、監査をしていくなか、財務諸表から会社ごとの特徴や経営方針が読み取れるようになるなど、とても楽しかったですね」
同時に、監査法人でのキャリアとしては3年目を迎えた頃、転機が訪れた。監査を担当していた少数精鋭のIT企業、そこでの働き方に衝撃を受けたという。
「たった数十人という規模で上場をしているIT企業の監査を担当していました。驚きましたね。すごく少ない人数で経理をまわしており、たった2~3人で上場企業の決算業務をすべて行なっていました。そういった優秀な人たちと触れ合うなかで、“自分もこうなりたい”と考えるようになりました」
そして飛び込んだのが、当時まだ従業員100人規模、料理レシピ投稿・コミュニティサイトを運営するベンチャー企業だった。
「入社したベンチャーには、当時3人目の経理担当者として入社しました。3か月に1度の決算をたった3人でこなす。想像していたとおり、本当に大変な仕事でした。ただ、同じ部署はもちろん、会社全体が優秀な人たちばかりで。そんな環境で仕事ができたのは、自分にとって大きな糧になりました。」
同時に田中さんは「ベンチャーで働くのは2年」と決めていたという。その真意とはー。
「じつは、もともとベンチャーで働くのは2年と決めていたんです。武者修行といってもいいかもしれません。そのあとは自分が人生を通じて、貢献したいと思える事業、“ここ”と思える会社で長く働きたいと考えていました」
次なるステップとして、会社が行っている事業を好きになれる、理念に共感できる、ここを重視したいと田中さんは考えていた。そういったなかで出会ったのが『講談社』だ。
「多くの人から愛されるコンテンツをつくり続け、歴史のある出版社って素直にすごいなと感じたんです。ひと通りのスキルを身に付けた自信があったので、今度は骨をうずめる覚悟で向き合っていける会社に入りたかった。そのとき『講談社』という会社が持つ歴史の重みに惹かれたんです」
歴史を踏まえながら、変革に貢献をしていく。ここは田中さんのような若い世代のメンバーに期待されることといってもいいだろう。
「テクノロジーが発達していくにつれ、コンテンツのあり方も変わっていきます。当然、会社の在り方も変化していくもの。その変化に合わせて、経理業務もルールややり方を変えていかなければなりません」
「いま私が担当しているのも、過去のやり方を踏まえながら、これからの時代にあった経理システムやフローを皆さんと一緒に考えていくというもの。これから先のもっと長い歴史を築いていくために、新しいことにも取り組んでいきたいと考えています」
田中さんは取材の最後に、自身が担っていきたい役割、仕事観について語ってくれた。
「じつは高校時代にサッカーをやっていたのですが、私は…ディフェンダーなんですよね(笑)。タイプ的にも守りをかためていく。主役を引き立てるのが好きなんだと思います。たとえば、会社をひとつのチームに例えると、経理の役割も守備を担うディフェンダー。守りがしっかりしていてこそ、攻めの選手たちが安心して仕掛けていける。だから、しっかりとチームを支えられる人になっていきたいです」