2021年3月期、連結純利益で前期の5倍となったオイシックス・ラ・大地。巣ごもり需要を背景に、会員数、一人あたりの単価を伸ばし、最高益を記録した。「おうちご飯」のニーズの高まりを受け、ミールキット『Kit Oisix』は2021年4月には累計出荷数が8,000万食を突破した。いかにこのヒットにつながったのか。レシピを活用した新サービスや商品開発などを手がける森田佐和子さん(サービス進化室)に伺った。
新しい「おうちご飯」のカタチとして人気を博すミールキット『Kit Oisix』。2020年~2021年にかけ、おすすめのKitOisixを提案するKitOisix献立コースユーザーは前年同期比148%で22万人に。
コロナ禍においてフードデリバリーが普及するなど、大きく「食卓のあり方」が変化するなか、ミールキット『Kit Oisix』は、いかにユーザーに受け入れられたのか。
新サービス・商品開発を担う森田佐和子さんにお話を伺った。
「こういったコロナ禍で、できたて、アツアツのおかずとご飯が食べられるのって、とてもうれしいことですよね。もちろん、デリバリーも便利ですが、毎日だと飽きてしまうし、少し罪悪感もあったりして。そういったなか、おいしく食べられる『Kit Oisix』がみなさまに受け入れてもらえたのだと思います」
そこには、同サービスを展開する「オイシックス・ラ・大地」が大切にする、ユーザーによりそうスタンス、「体験」の価値提供がある。
「ちょっとしたことですが、『Kit Oisix』にはそれぞれのレシピカードが付いているのですが、裏面にそのレシピが再現出来るレシピをつけていて。後日、ご自身で食材を買って、料理をつくってもいい。その方のレパートリーが増えたらいいなと。その他にも、豆知識的な要素を入れたり、わかりやすい言葉、デザインにこだわったり。ただただ「時短で便利に」ではなく、「楽しみ」や「学び」、いろんな価値を届けたい。これを私たちは「プレミアム時短」と呼んでいます」
こういった『Kit Oisix』のスタンスは、ユーザーとの距離を近くする。
「お客様からの「再現レシピがあってうれしい」「ぜひ今度作ってみたいと思えた」という声をたくさんいただけています。日々の献立のレパートリーに悩む方ってすごく多いので、そこのお役に立てれば、きっと『Kit Oisix』のことも好きになってもらえるはず。そんな思いで日々、新しいサービスの企画に取り組んでいます」
あたらしい「食」を通じた体験の企画をしていく。食卓の時間を、よりあたたかいものに、より豊かな時間にしていく。「オイシックス・ラ・大地」で働く魅力に迫った。
森田佐和子
管理栄養士として病院での勤務を経て、2013年12月に旧オイシックスへ。使い切り量の食材とレシピがセットになったミールキット『Kit Oisix』のレシピ担当として、要件定義、企画、販売など、広く活動。顧客のお声に向き合い、改善を繰り返している。著書に、『朝ごはんのアイデア365日(誠文堂新光社)』などがある。
森田さんが所属するのは、新サービス・商品開発を担うサービス進化室。はじめに同部署が担う役割について伺うことができた。
「サービス進化室は「今ない新たなサービスをつくり、新たなファンをつくっていく」ことをミッションとする、社長直下の部署です。目指しているのは、サービスを5年後、10年後まで愛されるブランドにしていくこと。ですので、新しいサービス作りはもちろん、サービスをよりブラッシュアップもしていきます」
現在、各マネージャー、メンバーを含め、約30人が在籍。サービスごと、企画・プロジェクトごとに数名でチームを組む。サービス企画はもちろん、ブランド戦略なども取りまとめていく。
企画するところから、広めるところ、そして顧客の声を得て、さらに改善していくところまで、すべてが見通せることが大きなやりがいだと森田さんは言う。2020年夏にリリースされた、米国発のヴィーガンミールキット『Purple Carrot』を例に伺えた。
「日本にまだヴィーガンミールキットにおけるNo.1プレイヤーがいないなか、その市場でNo.1になり、パイオニアとして市場をつくっていく。こういった大きなミッションからスタートしたプロジェクトでした。私はレシピづくりを担当したのですが、当然、日本でヴィーガンを知ってもらう、広めるためのレシピ開発が必要。ヘルシーなほうがいいのか、食べごたえを重視するのか、みんなに食べてもらえるか、食材の調達担当や商品企画などと連携していきました」
もっといえば、撮影・レシピカード、販売ページなどもプロモーションの担当部署と連携。実際に、販売につながった数、購入したユーザー属性、購入ルート、味やミールキットとしての作りやすさの評価など、フィードバックを得ていける。
「ヴィーガンへの意識が変わった、おいしかった、という声もあり、すごくうれしかったですね。ただ、それでおわりではありません。この方向性でヴィーガン市場をリードしていけるのか。シビアに俯瞰しながら、全員で意識を共有していきます」
日本のヴィーガン市場拡大を狙い、2020年夏より米国発のヴィーガンミールキット『Purple Carrot』の取り扱いを開始。リリース後、「『Purple Carrot』をきっかけにOisixを始めた」「ヴィーガンは食べたことがなかったけど試してみたら美味しかった」といった反響も。今後は、ヴィーガンによる「環境負荷の低減」、「サステナブルな暮らしの実現」といった切り口でもPRを推進していく予定。会社としても、「サステナブル」をキーワードとしたブランディングに向けて、今後施策を講じていく。
そして「オイシックス・ラ・大地」全体で、もっとも大切にしているのが、顧客の声だ。
「いずれのサービスでも、使っていただいたお客様のアンケートをすごく大切にしています。その手触り感も仕事のやりがいになっています。オンラインのサービス、新型コロナの影響もあり、リアルでお客様にお話を伺う機会は少ない。でも、だからこそ、オンラインやアンケートで、リアルな声をたくさん集めて、サービスに反映しています。余談ですが、「オイシックス」という社名も、じつはお客様の声で決めていて(笑)社長も新型コロナ前にはよくお客様のお家にお邪魔して、冷蔵庫の中も見せてもらうといったリサーチもしていたほど」
商品満足度アンケートでは2000件の回答に目を通すこともあるという。
「全てに目を通しています。併せてユーザーインタビューも月10人~20人くらい実施しています」
そのなかでも、とくに心に残ったエピソードを伺うことができた。
「お客様に頂いた声で、すごく印象に残っているものがあって。ここ数年、冬の時期に、かんたんに味噌づくり体験できる「味噌作りKit Oisix」を販売しているのですが、親子で楽しんでくださる方も多くて。あるお客様から「普段仕事ですごく毎日バタバタしてて、子どもに食育ができてないと思っていたけど、この『Kit Oisix』のおかげで、すごくいい体験を子どもにさせてあげられました」といただけた。もう胸がいっぱいでしたね。日本の大事な食文化にも、少し貢献できたところがあったかもしれない。お役に立ててよかった、頑張った甲斐があったなと思いました」
そして最後に伺えたのが、森田さん自身の仕事への思いについて。
「もともと前職は病院で管理栄養士をしていました。その仕事も患者さんが残さず食べてくれた時など嬉しく、やりがいもありました。ただ、どうしても届けられる人たちは限られているし、私が貢献していける範囲も限られたものでした。そんな時に『Kit Oisix』のサービスを大きくするためのメンバーを募集する求人に出会いました。2013年だったので、今ほどの規模ではありませんでしたが、「レシピと食材が一緒になっていて、かんたんに美味しいごはんがたべられるミールキット」に心が惹かれました。ほぼ直感に近かった(笑)家庭の食で役立つレシピ作りに関われる。日本中のお客様にお届けできる献立が作りたい、と」
管理栄養士から、インターネットを主軸とするベンチャーへ。不安はなかったのだろうか。
「不安よりも新しいことに挑戦できるわくわくのほうが大きかったです。実際、入社してみたら、食に関するバックグラウンドを持つ人ばかりではなく、広告代理店、コンサルティング会社、IT企業など、いろいろなメンバーがいて、そこもすごく刺激になりました」
自社で「食」のサービスを、一気通貫で手がけていく。より柔軟にPDCAをまわし、心から喜んでもらえるサービスへとつなげていく。
「どんどん新しいミッションに挑戦させてもらえるのが、すごく楽しいですね。同じ「ミールキット開発」だとしても、目的や規模感は変わる。入社当初、KitOisixコースの会員数は3000人ほどでしたが2021年は22万人に。会社も変化し、自分もそこに負けないように変化し、成長できる。その実感もうれしいですね」
入社から8年。仕事のやりがいは増す一方だと森田さんは笑顔で答えてくれた。
「「もっと上手くなりたい」「もっとわかるようになりたい」「もっとお客様に喜んでもらいたい」、そういう気持ちが、原動力になっているように感じます。私は仕事を「ただお金をもらうためのもの」にはしたくない。自分も成長を楽しみながら、仕事を通して人とか世の中の役に立っていきたい。それがオイシックス・ラ・大地なら叶えていけると思います」