2020年10月にマザーズに上場したカラダノート。子育て・ヘルスケアアプリで得た膨大な家族のデータを活かし、新規事業を次々と立ち上げている。新規事業の詳細、そしてその勝算とは。代表取締役の佐藤竜也さんに伺った。
「2008年の創業以来、子育て・ヘルスケアアプリを提供し、ユーザーデータを蓄積してきました。2020年に東証マザーズに上場。家族のデータ(ファミリーデータ)を軸としたエコシステムを構築していきます」
こう語ってくれたのが、カラダノート代表取締役の佐藤竜也さんだ。
実際、仕事探し、家探し、保険比較、宅配サービスなど、家族のデータを軸とした、プラットフォームビジネスに舵を切る。
「カラダノートが保有する、「家族のデータ」を元に、あらゆる領域でサービスを展開していく。少子高齢化で、社会保障費が膨らむ。そういった日本でも子育てしやすい環境を実現する。人々が子供を安心して育てられるプラットフォームをつくっていきます」
カラダノートの事業、そしてその志に迫った。
カラダノートでは3つの事業を展開している。育児・ヘルスケアアプリを提供する「家族サポート事業」、パーソナルデータを元に育児や生活に役立つサービスや企業をレコメンドしていく「データベースマーケティング事業」、自社が保有するマッチングの仕組みを外部にOEM提供することで企業のDXを推進していく「DX推進事業」だ。
まず、事業の強みから教えてください。
我々の強みは、出産前後の約半数(年間40万人程度)の家族データを保有していること。そして、それらのデータが非常に良質であることです。
具体的に言えば、プレママ向け情報提供アプリ、授乳記録アプリ、離乳食管理アプリなどで情報を取得しているので、非常に細かいセグメントごとのユーザーデータを持っている。とくに、各ユーザーの興味関心や、どういったものに、どれくらいの金額を使っているのかまで把握しています。
たとえば、妊娠中には保険の見直し、準備期間にはベビーカーなどの必要備品を揃えたりする方が多い。出産後には、幼児教育、家の住み替えなども検討される傾向が高い。
こうした、家族のライフイベントを起点としたデータを活用していこうと、家族生活周辺商材・サービスを扱う企業さまへの送客を行なっています。そして、2021年からは、自社でもデータを活用した新規事業を立ち上げています。
具体的には、どういった新規事業があるのでしょうか?
たとえば、2021年2月に立ち上げたのが、人材紹介事業『かぞくとキャリア』です。
これは、当社が保有するデータベースを利活用し、働きたい子育て世代と、人材を求めている企業とをマッチングさせることで、ライフステージに応じて変化する働き方を支援していくというものです。
現状として、多くの企業ではフルタイムで働ける人材を優先的に採用したい、という流れがありますが、我々はここを変えていきたいのです。
とくに、コロナ禍、リモートワークが急速に進みました。在宅でママさんたちができる業務は、コロナ前と比べても増えていっているはずなのです。
とはいえ、企業からすると、どういった業務を切り出していけばいいのか、わからないケースも多い。そこで、我々がコンサルティングしながら、リモートでも可能な業務を切り出していく。さらにいえば、従来からある「封入作業で1枚◎円」といった単純な業務というよりは、より個人の能力・スキルを活かせるような業務を積極的に生み出していきたいと考えています。
『かぞくとキャリア』のほかにも、子育て世代の住み替えニーズをサポートする新サービス『かぞくのおうち』、ユーザーの家計相談から保険商品の提案までを一気通貫して支援する『かぞくの保険』、赤ちゃんや小さなお子さんがいる家庭で顧客ニーズの高いウォーターサーバー宅配事業『カラダノートウォーター』も立ち上げています。
代表取締役 佐藤竜也
新卒では事業責任者としてモバイルSEO事業立ち上げを担う。ヘルスケア領域に興味を持ち、2008年にカラダノートを創業。プライベートでは、4人の子を持つ父親でもある。
これまで培ってきたデータを活用し、いかに収益化していくか。ここからが、正念場だと考えています。
通信幼児教育大手の事例でいえば、妊娠育児での雑誌などで圧倒的に集客力を持っているからこそ、自社の通信幼児教育への送客もスムーズにできる仕組みがある。このような“エコシステム”を、カラダノートでも構築していきます。
たとえば、住み替えで『かぞくとおうち』を利用してくれたユーザーが、『かぞくの保険』も利用してくれる。そんな構造をつくりたいのです。
お陰様で、既に「育児」の領域では、一定のエコシステムが機能し始めており、手応えを感じています。このまま、収益性も追求し、基盤を盤石にしていきます。
また、中高年のユーザーのデータも保有しているため、今後はそういった方々にも活用いただけるサービスを用意していきたいとも考えています。
「2021年から、東京女子医科大学と共同で、中高年層を対象にスマホの録音機能を活用した心疾患の早期発見をする取り組みを開始しています。「がん」に次いで死亡率の高い病気「心疾患」を早期発見できれば、医療費削減にもつながるはずです。 妊娠・育児世代へのサービスと並行して、いわゆるシニア層向けサービスも模索していく予定です」と代表の佐藤さん。
基盤を整えたその先には、どういったことを実現していくのでしょうか?
我々が目指しているのは、世の中に対して「子育てしやすい環境になりましたか?」と問うた時に、「イエス」と言っていただける世界をつくることです。
そのためには、自社だけではできることには限りがあるため、他の企業とタッグを組みながら取り組んでいこうと考えています。
その手段の1つが、弊社がもつ「パーソナルデータを元に、育児や生活に役立つサービスや企業をレコメンドしていく」仕組み自体を、他社に展開していくことです。
そこで、2021年5月から金融機関向けにデータマッチングの仕組みをOEMで導入していただけるようにしはじめました。
金融機関などでは、法人・個人の膨大なデータを持っているものの、これまでは十分なデータ利活用が進んでいませんでした。ここに、我々の仕組みを活用いただくことにより、「営業の効率化」になるうえ、新たな収益機会を創出していただける。もちろん、そのために子育ての応援をする必要がある。そうなれば、きっと社会はより良い方向に進んでいくはずです。
もう1つ、2022年2月には、中部電力と資本業務提携もいたしました。
中部電力では、もともと、保育園児から高校生までを主な対象に、「きずなネット」というアプリを通して防犯、防災、進路支援、学び、子育て支援情報などを行なっていました。今回の提携は、中部電力にとっては我々のデータマッチングの仕組みを活用できるようになると同時に、我々にとっても妊娠・出産期だけでなく、教育、進学を含め、高校卒業までの子育て世代の悩みに寄り添える状態になりました。今後、両アプリを通じて子育て支援をするサービスやコンテンツの拡充に向けた検討、ライフイベントマーケティングを行っていきます。
こうした企業との連携を考えるようになった理由は、点ではなく面で勝負していかなければ子育てしやすい世の中をつくっていくことは難しいと感じたからです。
私は長年、妊娠育児支援のアプリを開発してきましたが、アプリで子育てをDXするだけでは「子育てしやすくなった」とは言ってもらえなかった。10年前に比べれば、圧倒的に利便性を向上させることができた自負はあります。ただ、10年前に赤ちゃんを育てていた人がその時と比べて育児をしている訳ではないため、子育てが、よりよくなったかはわからない。「子育てしやすくなった」と感じてもらえるくらいでないと意味がないなと。
だからこそ、我々の保有するデータを提供しながら、企業を巻き込んでいく。これにより、結果的に世の中全体にインパクトを与え、最短スピードで子育てしやすい社会の実現に近づけていきたいと考えています。
上場しているからこそ、その信用から、金融機関を経由して様々な企業との接点が持ちやすいのも魅力の1つ。中部電力との資本業務提携も、その事例の1つだという。
最後に佐藤さんの、この仕事の原動力となっているものはなんでしょうか?
事業としても個人としても、「後世に良い社会を残したい」。この気持ちが原動力です。
僕には子供が四人いるのですが、彼ら・彼女らが30歳、60歳になったとき、社会の構成、情勢はどうなっているんだろう?とよく考えるんです。
現状、高齢化によって社会保障費が増大し、医療費が増える一方。こうした不安があると、若者は子供を育てにくい。仮に、この負のスパイラルが続いてしまうと、50年後には人口は3~4割減少するという予測もある。そうなれば、日本の世界におけるポジションも小さくなり、生活がしにくくなる可能性もあります。
だからこそ、彼らのためにも、「子育てしやすい、未来は明るい。子供を増やしていこう」と思える社会を今からつくっていかなければならない。そういった、いち親としての気持ちは、僕にとってはかなり大きな原動力になっています。
子どものことを想いながら、どんな事業、ビジネスがあったらいいのか考え、このビジネスをしている、といっても過言ではありません。
掲げている理想は大きいですが、まずはデータビジネスでの送客支援、データに基づいた自社の新規事業を確実に軌道に乗せて収益をあげていくことが最優先です。まだ始まったばかりで改善余地も大きい部分が多い。なおかつ上場企業ゆえ、「絶対成功しなければならない」という、良い意味でのプレッシャーもある。そういった「ヒリヒリするような環境の中で、旗を振っていきたい」そう思える方と、ぜひ一緒に事業をつくっていけたら嬉しいです。