INTERVIEW
2023年度 茨城県立校「校長公募」開始へ

電通クリエーターが、公立校の「校長先生」に! 学校教育にクリエーティブの力で起こすイノベーション

掲載日:2022/08/29更新日:2023/06/22
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茨城県「校長公募」への応募を経て、茨城県立水海道第一高校・附属中の副校長に着任した福田崇さん(2023年度に校長着任予定)。電通にてクリエーティブ・ディレクターとしてキャリアを築き、2022年4月より同校に出向。4年間の任期付き校長先生として働く。彼はなぜ学校教育の世界を目指したのか。そこには「日本の未来のために教育を変えたい」といった熱い志があった――。(※記載内容は、2022年8月時点のものです)

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日本の未来のために、学校教育を変えたい

もともと電通で20年以上のキャリアを築いてきたと伺いました。なぜ、学校教育の世界を目指されたのでしょうか?

現在、小学1年生の子どもがいるのですが、その存在は大きかったかもしれません。子どもたち、そして日本の未来について考えるなか、教育こそが重要だと考えるようになりました。

この国は、真剣に未来をつくらないと終わってしまう。そういった危機感があり、まさに教育現場はその課題と正面から向き合える場です。少子高齢社会を迎えている日本は、まさに瀬戸際。そういったなか、未来のために、どんな教育が必要なのか。僕自身は教育の世界標準化、未来化こそ、やっていくべきだと考えています。

子どもがインターナショナルスクールに通っていることもあるのですが、多様な人たちと多様なコミュニケーションを図ることで、視野が広がっていく姿を目の当たりにしています。もちろん旧来の日本の学校教育にもいいところはたくさんありますが、グローバルを前提とした生き方は無視できない時代。それゆえ、いままさに日本の教育も世界標準を目指す大きな変化の渦中にあります。そういった取り組みを知るなかで、自身も当事者として携わりたいと考えるようになりました。

じつは電通時代から、未来の教育について考え、活動する任意団体を立ち上げていて。「教育ガラガラポン」というプロジェクトなのですが、フォーラムへの参加、オンラインイベントの開催、教育関連のネットワーク構築などを行うことができました。

ただ、活動するなかで感じたのが「リアルな教育現場を知らずに、僕は一体何が語れるのか」というジレンマ。教育現場で当事者として働ける環境がないか。そんな時に知人から教えてもらったのが茨城県の「校長公募」でした。

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水海道第一高等学校・附属中学校 副校長 福田 崇 ※2023年度、校長着任予定
1972年生まれ。開成高校、東京大学を経て1996年株式会社電通に入社。カンヌライオンズ国際クリエイティビティ・フェスティバル2015 プロモ&アクティベーション部門審査員を歴任。長期にわたるブランドコミュニケーションを得意とし、SEIKOホールディングス、UR賃貸住宅などのブランドづくりを担当。 2021年、銀座和光の3.11メモリアルディスプレイで広告電通賞アウトドア部門最高賞、日本空間デザイン賞金賞受賞。2022年4月より水海道第一高等学校・附属中学校 副校長に着任。2023年度より同校校長に着任予定。

「在籍出向で校長先生として働く」という選択肢

ちなみに他の都道府県でも、民間人材の校長公募は行われていますが、なぜ、茨城県だったのでしょうか?

決め手になったのは、在籍出向という形態で働けること。当然、他の都道府県の公募もチェックしていたのですが、どうしても専業でなければならず、断念していました。

本業のキャリアを大切にするか、教育に携わる夢を叶えるか。どちらかだけを選ぶことは僕にとってすごく難しい問題で。26年間電通で働き、2021年にも大きな広告賞を受賞するなど、まだまだクリエーティビティは錆びついていない。トップクリエイターとして活躍できる自信もある(笑)僕にとってクリエーティブ・ディレクターは天職だと感じています。

一方でクリエーターは常に新しいチャレンジを求める生き物でもありますよね。その挑戦が僕にとって「教育」であり。この2つをどうすれば諦めずに済むか。それが出向して働くという選択だったのです。

茨城県での選考が進むなか、教育委員会の方々、知事とも面談させていただいたのですが、出向に対しても非常にポジティブで。「なんて先進的な県なんだろう」と率直に感じましたね。電通側も上司や役員、人事が快く送り出してくれて、もう感謝しかないですね。

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これまで経験のなかった学校教育という世界で働く上でも「仕事は自ら創るべきで、与えられるべきでない。」という電通時代の教えが活きていると語る福田さん。

生徒たちに好評。現役クリエーターによる「特別授業」を企画

着任から3ヶ月ほどですが、どんな取り組みをしているのでしょうか?

すごく好評な企画でいうと、現役の電通クリエーターによる特別授業「電通クリエーティブ・スクール」ですね。例えば、第1回は「面白いことには価値がある」というテーマで開催しました。終わったあと、生徒たちの目がキラキラと輝いていて。まさに自分が仕掛けたかったこと。

仕事に対して「嫌なこと」というイメージを持っている生徒もいるなか、自分が面白いと思えるものをつくり、生きる道を見せてあげる。現役クリエーターたちが仕掛けた「面白い仕事」の話をしてもらいました。狙い通り、生徒たちの食いつきはすごく良かったですね。

実は、はじめ13名しか参加希望者がいなかったのですが、校内放送で呼びかけたり、部活顧問の先生が生徒を後押ししてくれたり、70名もの生徒たちが参加してくれました。ちなみに校内放送での呼びかけは、教頭先生のアイデア。第1回の評判を聞きつけ、第2回は140名もの生徒に参加してもらうことができました。

その他でいうと、この1年間は校長着任のための準備期間という位置づけでもあります。現在の校長先生の補佐的業務を行いつつ、教頭先生にも実務について教えてもらっているところ。今後、関係していく多くの方とも接点を持たせていただきつつ、果たすべき役割や責任、やるべき仕事について毎日学んでいるところです。

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「電通クリエーティブ・スクール」に加え、さまざまな特別授業を企画しているという福田さん。2022年7月15日には「副校長と世界のすごい広告を観よう!CannesLIONS2022レポート」を行い、多くの生徒が参加した。

学校運営に活かされる、クリエーティブの力

一見すると「広告業界」と「学校教育」は遠いもののように思うのですが、共通する部分はあるのでしょうか。

僕のなかではむしろ一直線上にあるものだと思っています。どうすれば企業や人々の目を「未来」に向けてもらえるか。そのためにどんな工夫ができるか。教育はまさにその最前線です。

校長先生は、その学校のブランドの一部であり、そして決定者でもある。生徒たちの「目」を未来に向ける、そんな工夫やトライアルが現場でいろいろとできるわけです。電通時代に比べても、スピーディーに取り組みや企画が形にできていると思います。

この少子化の時代において、公立校だとしても、存在価値を感じてもらえなければ、畳むしかなくなってしまう。どんな姿勢、どんな内容で教育に向き合うか。どんな考えで、どんなアクションをするのか。それを、どう発信し、記憶してもらうか。志望校として選んでもらうか。これらをすべてデザインしていく。ブランドが持つ「人格」を引き出し、時につくっていく。まさにクリエーティブ・ディレクションそのものです。

福田さんが主導して作成した、茨城県立水海道第一高等学校 学校紹介PV (YouTubeより)「ちょうど学校のプロモーションビデオを制作したのですが、企業のCMづくりと同じ。また、塾で行われる学校説明会での説明はプレゼンと同じ。志望校に選んでもらう大切なPR活動だったりします。学校のスポークスマンも担っていますが、まだまだできること、やらなければいけないことがたくさんある状況です」と福田さん。

最後に、福田さんが実現していきたいことについて伺わせてください。

いかに生徒たちに、新しい視点を持ってもらえるか。刺激を与えられるか。足りないところは先生たちに手伝ってもらいながら、一緒につくり上げていく。これが僕のやりたいことであり、役割だと思っています。

具体的に課題だと感じているのは、生徒たちが主体的に学べる機会、場を十分にはつくれていないことです。学校で過ごす時間のほとんどは授業と部活。つまり、その多くが「与えられたことをこなすだけの時間」になってしまっています。

学習指導要領には「主体的・対話的で深い学び」といった内容の記載がありますが、そのための時間、精神的な余裕、機会、サポートする組織がありません。どうにかここをこじ開け、授業・部活に次ぐ「第三の教育の柱」をつくりたい。先生たち、生徒たちが自走し、学びが生まれる仕組みをつくっていければと思っています。

そんな持続的な「仕組み」がつくれれば、「水海道一高・附属中」は新しいイメージをまとい、僕が去った後も多くの人に記憶され続けるはず。そんな新たなブランドをつくっていければと思います。

最後に、この4年間で教育においてもクリエーティブな発想、アプローチが有効だと証明したい。構想でしかありませんが、クリエーティブが機能する仕組みがつくれれば、全国の学校にも横展開できると考えています。例えば、現在、文部科学省は先進的な理数教育を実施する高等学校等を「スーパーサイエンスハイスクール」として認定していますよね。いずれはそのクリエーティブ版、「スーパークリエーティブハイスクール」をつくっていきたい。これが僕の密かな野望であり、志です。

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