INTERVIEW
宇宙ベンチャー「SPACE WALKER」

再使用できる「エコロケット」をビジネスに。宇宙ベンチャー「SPACE WALKER」の狙いと勝算

掲載日:2023/04/10更新日:2023/04/10
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再使用&クリーン燃料で宇宙を目指す「ECO ROCKET®(エコロケット)」。その研究・開発を行うSPACE WALKERが、環境配慮とビジネスの両立を目指す宇宙ベンチャーとして注目を集める。なぜ、彼らは「再使用」「クリーン燃料」を開発理念に掲げるのか。そして収益化は可能なのか。そもそも宇宙ビジネスの見通しとは。代表取締役CEO・眞鍋顕秀さんに同社のビジョンと共に伺った。

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「宇宙が、みんなのものになる。」

2030年、宇宙空間が当たり前に「移動・輸送」に使われていくーーそういった世界が現実味を帯びていくなか、日本発の宇宙ベンチャー「SPACE WALKER」に熱い視線が注がれている。彼らは「宇宙が、みんなのものになる。」をスローガンに掲げ、これまでのロケットとは全く異なるアプローチで宇宙を目指す。

・再使用できること
・クリーン燃料を使用すること

この2要件を満たすロケットを「ECO ROCKET®(エコロケット)」と定義。いわゆる「翼」のある再使用ロケット(有翼式再使用型サブオービタルスペースプレーン)の研究・開発に特化する。彼らが目指すのは2025年の実証実験、2027年の科学実験 / 衛星打上、そして2030年の準軌道宇宙飛行だ。

なぜ、再使用&クリーン燃料にこだわるのか。そもそも「宇宙」はビジネスとしてどういった可能性を秘めているのか。その中でも、どういったポジションを狙うのか。代表取締役CEO・眞鍋顕秀さんに伺った。

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眞鍋顕秀
株式会社SPACE WALKER 代表取締役CEO
一般社団法人 ニュースペース国際戦略研究所監事 公認会計士・税理士
2003年、慶應義塾大学経済学部経済学科卒業後、公認会計士試験に合格。大手監査法人に勤務法定監査・任意監査・IPOコンサルティング等に従事後、2012年にまほろ綜合会計事務所を開業。複数の事業展開を行ないつつ、起業支援・経営コンサルティングを実施。2017年12月、株式会社SPACE WALKERを共同設立。日本が数十年に渡って培ってきた有翼式の再使用ロケットの技術を結集し、2027年日本初の有人宇宙飛行を目指す。

「有翼式の再使用ロケット」が求められる時代へ

世界でも数少ない飛行機のような「有翼式の再使用ロケット」を開発していると伺いました。なぜ、同領域で事業展開されるのか、背景から伺ってもよろしいでしょうか。

いくつかの観点があるのですが、まずは独自の「有翼式の再使用ロケット技術」に強みを持つことが挙げられます。共同創業者であり、東京理科大学教授でもある取締役CTO・米本(浩一)自身、当時国家プロジェクトであった和製スペースシャトルの開発に川崎重工業時代に参画しておりました。そこから40年以上有翼式の再使用ロケットを研究し続け、事業化するためにSPACE WALKERを創業しました。

そして、近い将来、これまで主流だった「使い捨てロケット」から、様々なニーズに合わせた輸送システムが必要となり、「再使用」をベースにした民間発のロケットや宇宙関連サービスも当たり前になっていくと考えているからです。

わかりやすいところで言えば、イーロン・マスクをはじめ、ITサービス側から来たプレイヤーは「再使用ロケット」を志向しています。それは「飛ばした先のサービス」で収益を上げようとしているためです。いかに開発と打ち上げのコストを削減し、ビジネスにおけるレバレッジを効かせられるか、既にここが勝負になっています。

これまで、国家プロジェクトとして行われてきたような宇宙開発は、打ち上げられても年に数回。何千億円といった巨額な予算を投じて、優れた技術力を各国へ誇示する意味もありました。そのような背景もあり、最近まで必然的にロケットを開発して売り切る、レガシーなメーカー型のモデルという形になっていました。そして、その常識をイーロン・マスクやジェフ・ベゾスが大きく変えたと言っていいと思います。

宇宙は既に「実需」が見えているマーケット

そういった、いわゆる巨大な資本を持つプレイヤーが「宇宙」でのビジネスを狙っているなか、勝ち目はあるのでしょうか。

そういった意味でいうと、そもそも真正面から戦うつもりはありません。今まさにイーロン・マスクやジェフ・ベゾスなどの資本家が、地球の周りに大量に通信衛星を配備し、マーケットを作ってくれているという捉え方。これはITサービスの視点から、宇宙での「実需」が見えていることを意味します。つまり、今まさにできあがっていく市場のなかで、どの領域を取りにいくか、戦略次第だと考えています。

例えば、SPACE WALKERと同じくSpaceXは「再使用」を行っています。大型ロケットの「逆噴射型」で機体を垂直離着陸する方法です。一方で、私たちが開発しているのは有翼式の小型ロケット。つまり「翼」がついており、飛行機と同じように滑走路に戻ってくる「スペースプレーン」モデル。そのため、水平離着陸を可能にし、機体が破損するリスクが低く、再使用に適していると考えられています。

前述を前提条件として、ビジネス戦略の話をするならば、SpaceXは「大型バス」で、私たちが開発する小型ロケットは「タクシー」みたいなもの。「大型バス」はみんなで一箇所に集合し、同じ目的地を目指していく。一方で「タクシー」は数名のためのチャーター便です。行きたいタイミングで、行きたい場所にタイムリーに送り届けていく。「大型バス」と「タクシー」と同じように、宇宙でもビジネスとして共存していけるはずです。

いずれにしても、陸海空と同じように、宇宙は経済圏として活用されていくことはほぼ間違いありません。誰もが、自由に宇宙を往来していく。そのなかで「有翼式の再使用ロケット」は持続可能な宇宙輸送手段として選ばれる存在になっていく。いわゆる「チャーター便」領域のシェアトップを狙っていければと考えています。

それだけ可能性のあるマーケットに対し、国内大手のメーカーは、なぜ、再使用できる小型ロケットの開発に参入しないのでしょうか。

これは個人的な考えですが、やはり市場がどうなるかわからない、そこに対するリスクが取れない、というのが大きな理由だと思います。大手メーカーが手掛けるのは、国家プロジェクトとして行う宇宙開発がメイン。国からオーダーを受け、納品するメーカー型モデルです。納品さえすれば大きな収益になります。しかし、宇宙の民間マーケットは、今後本当に立ち上がるか未知ですし、機体の開発に着手しても本当にそれが実現できるかわかりません。さらにITサービス出身のプレイヤーたちが「再使用」を前提に、レバレッジをかけたビジネスで勝負をしている。そういったなか、わざわざ開発費をつぎ込み、リスクを取るような意思決定は難しいのではないかと思います。

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東京からNYまで「約40分」で移動可能に

今後のビジョン、事業上のマイルストーンについても伺わせてください。

最終的には、宇宙空間を当たり前に利活用していくこと。2030年代後半から40年代にかけ、宇宙輸送とP2P輸送*の実現を一つのゴール設定として置いています。

*P2P輸送は、point-to-pointの略で、宇宙空間を経由した、地上の二地点間高速輸送のこと。

宇宙輸送とは、地球と国際宇宙ステーションや、月・火星との行き来、輸送など、オービタル軌道上の輸送サービスのイメージです。また、P2P輸送が実現すれば、宇宙空間を利用して、東京からニューヨークまで約40分で移動が可能になります。もっと言えば、世界中どこでも1時間半以内に行き来できるようになります。もちろん国際法を整備し、国同士の連携、協力が必要となるため、そう簡単には進まないと思いますが、働きかけ含めてやっていければと考えています。

そこにたどり着く上で、2020年代に行うのが、自国の上空、宇宙で完結するサブオービタルです。まず商用機としてオートパイロットで、すなわち無人機で衛星打ち上げを目指すのが第一ステップ。そして無人機で実績を積み重ね、有人でサブオービタルの宇宙飛行を実現させていく予定です。

ちなみに「宇宙旅行」なども、より身近になるイメージでしょうか。

どの時間軸で捉えるかによりますが、いわゆる「宇宙に行くこと」だけを目的とした旅行はそこまで広まらないと考えています。というのも、旅行は「行った先で何をするか」のほうが大切ですよね。私たちが考えているのは、インフラである交通手段=モビリティとしてのロケットです。なので、実現すれば、その先の「目的」はあとから生まれていく、といった考え方で開発を進めています。

例えば、大航海時代でたとえると、船が発明され、そこから未開の地で香辛料を発見したり、ゴールドラッシュのように金が発見されたり、さまざまな「目的」が生まれました。おそらく宇宙でも同じことが起こっていくでしょう。宇宙が経済圏になれば、そこに行くための交通手段が必要ですし、そこで暮らす上で必要なサービスやインフラがどんどん整っていく。例えば、衛星修理のため、宇宙に単身赴任しているお父さんのもとを子どもが訪ね、数泊するような未来があるかもしれません。そうなった時にやはり求められるのは「再使用できるロケット」だと思っています。

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宇宙以外にもビジネスのフィールドを広げていく

ただ、そういった世界になるまでに、まだしばらく時間がかかるかと思います。それまではどのように事業を成り立たせていくのでしょうか。

ロケットは、自動車と同じように総合技術の上に成り立っています。一つずつ要素技術を分解していくと、他領域でも充分活用できる技術がある。ですので、宇宙以外にもビジネスのフィールドを広げ、マネタイズを行っていければと考えています。

例えば、脱炭素化の課題に対するアプローチとして「複合材タンク事業」をスタートさせています。新しい次世代のエネルギー革命に対しても、私たちが開発した複合材タンクは有効に使えるもの。具体的には、水素社会の実現が期待されていますが、課題となっているのが、水素をどのようにコストを抑えて輸送するのか。一般的には高圧ガスや極低温液体として運びます。その両方に対して、複合材タンクで対応できる企業は、国内では弊社だけではないかと思います。

特にどういった技術を反映したものなのでしょうか。

私たちが開発する複合材タンクは世界トップレベルに軽い。しかも他の金属タンクに劣らない強度を誇っています。ロケットは機体が1キロ軽くなるだけで、数億円といったコストが削減できる世界なので、当然地上でもその技術は応用できます。例えば、飛行機、船舶、医療用のボンベなど多様なニーズに応えられるものとなっています。

さらにその他の技術においても独自に開発している技術があります。日本が誇る自動車のような総合技術だからこそ、多様な産業に展開し、ビジネス上の強みにできると考えています。

いずれにしても、宇宙開発というゴールをぶらさずに進んでいくために、収益化をどう図れるか。ビジネスモデル構築においても1からPDCAを回し、実行できる。夢やロマンだけでなく、現実的な道筋を立て、挑戦しながらゴールを目指しているのも私たちの特徴だと思います。

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SPACE WALKERが手掛ける「ECO ROCKET®」はクリーン燃料にもこだわっていくという。「燃料にしても、現在だと化石燃料、毒性のある燃料を使用されるケースが多いのですが、パートナー企業と連携し、畜産糞尿由来の液化バイオメタン燃料を開発しており、環境に優しいバイオ燃料での打ち上げを目指しています」と眞鍋さんは語る。

自らの手で「歴史」をつくる。次世代にバトンをわたす

今、このタイミングでSPACE WALKERに入社することで得られる醍醐味、おもしろさについて教えてください。

「歴史」を自分の手でつくる、その実感がダイレクトに得られることだと思います。私たちが行っているのは、インフラであるモビリティ側の事業開発です。どういった世界観をつくっていくのか。宇宙を舞台にしたビジネス展開、もっと言えば歴史の入り口を考え、つくり込むことができます。地上のビジネスはほとんど開拓し尽くされているといっていい。ですが、宇宙はほとんどが未開の地。ゼロから自分の手でビジネスを考えていきたい人にとって、これほどおもしろい領域はないはずです。

もともと眞鍋さんご自身、大手監査法人のご出身、その後、起業もされていたと拝見しました。なぜ、次なる挑戦が宇宙ベンチャーだったのでしょうか。

人生をかけてでもやる価値がある、2016年に米本と出会い、そう確信したからです。何より衝撃を受けたのが、宇宙には敵がいないこと。宇宙を目指す仲間であり、多くの人たちが心から挑戦を応援してくれる。あらためて世界中のプレイヤー、そして事業をリサーチしたのですが、知れば知るほど「これは時代が変わる節目だ」と思いましたし、疑う余地はなかったですね。

さらに、米本自身、何十年も一つの研究・開発を続け、ようやくそれらが実り始めていたタイミングでもありました。現在、パートナーシップを組んでいる大手メーカーや機関も、もともと米本が川崎重工業や大学でコンソーシアムを組み、それが受け継がれて今があります。

これほど夢があり、ビジネスとして可能性もある。そして、素晴らしいエンジニアリングのチームもある。一般的な経営コンサルタントや会計士はいくらでもいますが、歴史が変わる節目に立てる公認会計士はほとんどいないはず。そこに立たせてもらえるなら、自分がやれる範囲までやってみようと考えました。

最後に、ご自身の仕事観についても伺わせてください。眞鍋さんにとっての仕事とはどういったものでしょうか。

次の世代にどうバトンをわたしていくか。ある種、組み込まれた人類進化のためのプログラムを忠実に遂行していく。そういったイメージに近いかもしれません。少しオカルト的な話で話題にもなっていましたが、「もしかしたら人間は、宇宙人に作られた高度な生体AIなのではないか」といった説がありますよね。じつはかなり信憑性がある気もしていて(笑)そうでもなければ、なぜ、人間はそこまでの危険を冒し、未開の地を開拓し続けているのか、理由がつかないですよね。仮にそういったプログラムが組み込まれているとするなら、私たちの代でどこまで進化させられるか。次にバトンを渡せるか。それが私の興味であり、仕事だと思っています。

せいぜい今生きている人たちの世代で行けるのは月、がんばっても火星くらいまででしょう。ただ、宇宙は遥か遠くまで広がっている。まず地球を突破し「宇宙」を当たり前にするところまで、私たち現代人がやっておく。その先、どこを目指すかは、次の世代の人たちががんばればいい。じつはジェフ・ベゾスがどこかの講演会でこういったことを言っていて、すごく共感したんですよね。

正直、私自身が生きている間に火星にまでビジネスを持っていけるか?と言われたら、難しいと思います。ただ、生きている間に、地球に近い500キロから700キロくらいは人類の経済圏になっているはず。その時、どういったビジネスが実現できるか。その経済圏にどう人が留まるフックをつくれるか。ある意味、ここが自分自身の挑戦。そして、少しでもいい形で次の世代にバトンをわたしていければと思っています。

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