2022年2月に100周年を迎え、パーパスとして「すこやかな毎⽇、ゆたかな人生」を掲げた江崎グリコ。パーパス実現に向けて23年度からは組織も大幅に変更。商品カテゴリーの垣根を超えた新たな価値創造に注力していく。こうしたなかマーケター募集を強化していくにあたり、今回は『プッチンプリン』の担当マーケターである佐川茉里奈さんにお話を伺った。
【江崎グリコの新組織体制】
「すこやかな毎⽇、ゆたかな人生」の実現に向けて、2023年1月に組織体制を一新。従来、「アイス」、「洋生菓子」など商品カテゴリ―ごとに組織が分かれていたが、今回の組織変更に伴い、健康イノベーション事業本部、乳業事業部、グローバルブランド事業部、栄養菓子・補食事業部のように価値を起点に再編。たとえば、アイスで言えば、『SUNAO』など適正糖質を謳うブランドは「健康イノベーション事業本部」、『牧場しぼり』など乳のおいしさと健康価値を届けるブランドは「乳業事業部」の管轄となった。
【江崎グリコにおけるマーケターの特長】
一人のマーケターが、担当するブランドの戦略立案からプロモーションまで、マーケティングに関わる全ての業務をリードしていく形の組織。マーケターは自身の立てた戦略に基づき、コンシューマーリサーチ、デザイン、コミュニケーション、プロモーションなどの専門部署を巻き込みながら企画を推進する。
前職の仕事内容と、転職のきっかけを教えてください。
前職は、食品メーカーの宣伝部として主力ブランドのコミュニケーション全般を担当していました。ブランドが抱える課題に対して、市場や競合の分析を行い、課題解決のポイントを見極める。こうした部分をリードして進めていく面白さはありました。
ただ、ブランドの商品そのものを企画する部署、販促を企画して実行している部署、役割が完全に分かれていたため、各部署で共通認識を持つことが難しく連携がうまくいかない歯がゆさも感じていて。マーケターとしてもっとブランド育成の根幹から関わっていきたいと考えたとき、ブランドに紐づく形で戦略立案から商品の企画開発、販促コミュニケーションなど全般が見ることができる、いわゆるブランドマネージャー型の組織の方が自分に合っているのではないかと思い転職を考えました。
ブランドマネージャー型の組織でいうと他にも選択肢はありそうですが、なぜ江崎グリコだったのでしょうか?
大前提として「食に携わる仕事」にこだわりがありました。というのも幼少期に阪神大震災を経験し、水の配給をもらいに行ったり、火を使えず食べられる物が限られて大変だったことを今でも覚えていて。子どもながらに生きるうえで「食」は不可欠なものだと痛感しました。転職活動当初は食だけでなく「消費財」に広げてブランドマネージャー型組織の会社を広く見ていたのですが、やはり「食」に関わり続けたいな、と。
そう考えたとき、「食」の領域かつブランドマネージャー型の組織形態をとる会社で、当時たまたま募集をしていたのが江崎グリコでした。
1社目の食品メーカーはわりと保守的な会社だったのですが、そこにいた私から見ると江崎グリコはロングセラーブランドだけでなく『アーモンド効果』や『SUNAO』など新たなブランドも次々と生み出していて。食を通じた社会貢献はもちろん、チャレンジングな環境で自分の成長も両立できるのではないかと考え、転職を決めました。
佐川 茉里奈
2011年、新卒で即席麺などを扱う食品メーカーに入社し、宣伝部にてブランドのコミュニケーション戦略立案・実行に従事。2018年に江崎グリコに中途入社。入社後は『BifiXヨーグルト』のブランド戦略立案やサブブランドであるフルーツタイプの商品企画開発を担当。産休・育休を経て2021年5月に職場復帰し、現在は乳業事業部マーケティング部乳飲料マーケティンググループにて『プッチンプリン』のブランド戦略立案や基幹品の商品企画開発を担当。
『プッチンプリン』を担当されていると。ずばり江崎グリコで働く魅力はなんだとおもいますか?
1つは、ブランド育成の根幹から関われている手応えがあることです。まずブランドの大きな戦略を立案して、売上目標を達成するための商品企画やプロモーションを立案・実行していく。さらに中長期的な視点も踏まえ、新たな市場を創造するための戦略立案・企画開発も並行して進めています。まさに求めていた環境がありました。
そして何より、会社として想像以上に「新たな価値創出」に比重を置いているため、本当にお客様にとって価値になることに向き合えることです。
正直、入社前は何かのブランドを担当して売上をあげていくためのマーケティング施策を企画するといった、いわゆる一般的なマーケティング業務を想像していたので、ここは良い意味でギャップでしたね。
2023年1月からは組織が再編されたと伺いました。マーケターとしてはどういった変化があるのでしょう?
はい。2023年1月からはパーパスの実現に向けて組織としても再編され、商品カテゴリーの垣根を越え、より価値起点での商品企画開発をしていく環境に体制が変わりました。同時に、マーケターにも固定概念にとらわれずチャレンジしていくマインドが求められるようになっていると感じています。
私が担当している『プッチンプリン』で言えば、2020年3月に『植物生まれのプッチンプリン』を発売しています。もともとは乳や卵のアレルギーを持つお子様やご家族にもプリンを楽しんでもらいたいという思いから生まれた商品ですが、この商品が持つポテンシャルはそこだけに留まりません。
最近では宗教や信条だけでなく、自分の身体の調子を整えたいと植物性の食品を選択される方も増えている。そういった方々にも『植物生まれのプッチンプリン』を手にとっていただく方法を考えることは新たな価値創出につながると思っています。中長期的な戦略の立案とともに商品の抜本的な見直しも含めて、商品やコミュニケーションにおける新たなアプローチを模索しているところです。
また、既存品の育成だけではなく、世の中にない新たな価値を提供する商品やサービスの提供を行なっていくこともマーケターの重要な使命だと思います。
私の場合で言えば、『プッチンプリン』のことだけを考えていればいいわけではありません。乳のおいしさと健康価値を届けるにはどうしたらいいのかを、事業部全体、カテゴリー横断で考えていくことがミッション。固定概念にとらわれずに新しいチャレンジをしていきたいですし、これからの最も求められてることの1つだと思います。
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— プッチンプリン【公式】 (@glico_PPPR) April 5, 2022
4月4日~リニューアル🍮🍃
\#植物生まれのプッチンプリン は、
今回新たに「豆乳クリーム」を加えて
やさしい甘さの中にコクをUP!
さらに国産大豆を使用した豆乳へ変更!
素材のおいしさを感じる味わいに仕上げました!#新プッチンプリン食べてみた で
感想教えてね★https://t.co/dgF7k7I5Fd pic.twitter.com/OeQlU8S9iF
卵・乳などの動物性原料を使用せずに作った『植物生まれのプッチンプリン』。その開発の裏側を伺えた。「実は『プッチンできる』ことは簡単そうに見えて非常に難しく、少し配合を変えるとうまくいかなくなってしまう繊細なものなんです。とはいえ『プッチンできる』ことが他社製品との絶対的な違いであり、楽しさであり美味しさでもある。これは関係チームの中での共通認識です。『植物生まれのプッチンプリン』も、『プッチンできる』というコアの要素を担保しながら、いかに卵と乳を使わずにつくり、新しさや価値を届けていけるかを常に考えていて。時代が変わってもお客様に楽しくおいしい商品を届けていくうえでは挑戦の連続。だからこそ、卵・乳アレルギーを持つ子が『みんなと一緒にプリンを食べられて嬉しかった』とか動物性原料をとれない方からも食べられた喜びの声を寄せていただいたときはやりがいもひとしお。自分の仕事は社会的に意味があると実感できます」
「世の中にない価値を提供する」うえで、日頃から取り組まれていることがあれば教えてください。
マーケターに限らない話ですが、良いインプットなくして良いアウトプットは出せません。私たちの組織でも、インプットの量と質を高めていく点には特に力を入れていますね。
最近でいえば、業務とは別に、自主的に気になる企業や会いたい人にアポをとって実際に話を聞きにいくフィールドワークも始めています。
例えば、乳業事業部として「どうすれば乳というビジネスをサステナブルに提供し続けることができるか」といったお題を決めて、循環型酪農に取り組む企業を見学させてもらう。あるいはサステナビリティの取り組みに力を入れている企業の方々にお話を聞きに行く。
全社としても、同じ志を持つ企業や外部パートナーとの協業によって、健康価値の提供やサステナビリティの実現などにも取り組んでいこうというスタンスです。そのため、マーケターとしても「何かタッグを組めないか」といったことは頭の片隅で常に考えています。
やるべきこと・やりたいことが多過ぎるために、たまに自分の首がしまりそうになることもあります(笑)ですが非常に刺激的な環境に身を置けていると感じています。定期的にインプットを得て、チームに共有してアウトプットする。そのサイクルを回していくことで新たな価値創出につなげていければと思っています。
価値起点の商品開発の事例として『SUNAO』の事例で解説してくれた。「『どんなアイスをつくろうか?』ではなく『糖質を気にする方にも美味しく健康を届けるなら最適な商品形態とは何か?』という発想の順序になるイメージです。『SUNAO』は間食からスタートしていますが、食事でも展開していこうということでパスタも販売している。こうした商品カテゴリーの垣根を超えた展開を、あらゆる事業部でも進めていこうとしています」
一方で、入社前に知っておいた方がいいことがあれば教えてください。
1つは、自身のアイデアを必ずしもすぐに実現できるわけではない、という点です。
会社として「すこやかな毎⽇、ゆたかな人生」というパーパス実現していくためには、その場しのぎの打ち手や小手先のリニューアルは意味がないと考えているためです。時間と労力をかけてでも、お客様にとって真に価値となるものを追求していくスタンス。企画実現までの道のりはそう簡単ではありません。
定期的に社員が新たなアイデアをエントリーできる機会があるのですが、そこでは「本当にお客様の価値になるのか」「江崎グリコがやる意味があるのか」「事業としての成長性はあるか」といった観点でかなり厳しく審議されます。大きく3つのステップの審査をクリアして初めて企画実現への道が開けます。
また、江崎グリコのマーケターは戦略立案、企画、販促まで担当業務が幅広いのが特長です。商品を店舗に置いてもらいお客様の手にとってもらうためには、販促のキャンペーン企画はもちろん、商談資料も全て自分で作成しなければなりません。マルチタスクを高速で処理していく力が求められます。「商品企画だけをやりたい」といったスペシャリスト志向の方は、もしかするとミスマッチが起こるかもしれないですね。逆に、私のように自分でブランドを育て届けていくために全ての工程に関わりたいタイプの方にとっては非常に勉強になる環境だと思います。
商品化までは大きく3つのフェーズがある。「まずフェーズ1では価値設計で、やりたいことが本当に意味があると認められて初めて具体化していくことができます。フェーズ2では、具体化した企画が実際に消費者に受容されるか確認し、商品企画設計を上程します。そしてフェーズ3は、お客様に届けていくための販促コミュニケーションや収益性を含めた事業計画全体を提示し、発売の意思決定を行います」
今後、実現していきたいことがあれば教えてください。
単に「このプリンが美味しい」といったことではなくて、その先にある何かしら社会課題を解決するような価値を提供していきたいです。
江崎グリコには「コンシューマーリサーチ」と呼ばれる、お客様の動向はもちろん世の中の課題をキャッチアップする専門部署があって。たとえば、高齢者や若い女性、低所得者層の栄養不足など食に関わる問題もあれば、スマホなどの普及によって生まれるデジタルによる心身の苦痛“デジタルペイン”など、食以外の問題に関しても広く網羅した情報をマーケターに共有してくれています。
こうした社会課題を解決するために、食のアプローチだけにとらわれることなく広く考えていきたい。自分たち自身も困りごとを抱える方々に会いに行くといった活動もしていますので、そういった方々を助けられるような価値、商品・サービスを世に出していきたいですね。
佐川さんにとって、仕事とは?
月並みかもしれませんが、私にとって仕事とは一言でいえば「生きがい」です。マーケターの仕事は、自分がこの社会に存在している意義を示す手段だと思っています。プライベートでは2020年に子どもが生まれたのですが、自分の子にも「自分の親は社会にいいことをしてる人間なんだ」と思ってもらいたいし、そうした姿を示していきたい。食という領域にしばられず、「社会をよりよくしていくこと」に貢献していきたいですね。
一児の母でもあり、在宅勤務やフレックスを活用しながら育児と仕事を両立する佐川さん。仕事への向き合い方への変化についても触れてくれた。「子どもが生まれてから、食品が何の素材からできてるのか、食べるとどうなるのかなどが気になるようになって。商品の裏面を確認するようになりました。江崎グリコとしてもパーパスに紐づく商品を提供していこうとしているので、そういった感覚は仕事にも通ずると思っていて。完全に仕事と家庭を切り分けると言うよりは、うまく仕事と家庭でシナジーを生みながら働けていますね」