世界屈指の「クルマのまち」としても知られる愛知県豊田市。日本における「ものづくり中枢都市」であると同時に、森林や河川、田園が広がる「豊かな緑の街」といった特徴を併せ持つ。今回同市にて初となる副業人材・CDO(Chief Digital Officer)補佐官の公募が実施される。公募に至った背景、入職者に期待する役割とは――。豊田市 総務部CDO・棚田祐司さんにお話を伺った。
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愛知県豊田市について
心地よい毎日のために無駄を抑え、そして無理なく実行できる、人間と環境が様々な方法で融合した社会を。こうした「ミライのフツー」をキャッチコピーに街づくりを行なう愛知県豊田市。2019年における製造品出荷額は15兆3570億円と全国第1位、日本を代表する工業都市。トヨタ自動車の企業城下町であり、「クルマのまち」としても知られている。世界をリードするものづくり中枢都市であると同時に、多くは森林や河川、田園が広がる豊かな緑の街としての顔も持っている。多様なライフスタイルを選択できる、満足度の高い都市として、さらなる成長を目指している。
「ミライのフツー」をつくる、革新的な街として
まずは今回の公募プロジェクトにおける概要から伺わせてください。
今回の公募では「CDO補佐官」を求めており、豊田市のデジタル化・DX(デジタルトランスフォーメーション)を共に推進していく方を求めています。2020年度、豊田市役所内に「情報戦略課」を設置し、職員全体の意識も少しずつ変化し、新たな取り組みにつながり始めています。この4年目を迎えたこのタイミングで、民間から新たに「CDO補佐官」に参画いただき、より変革のスピードを早めたい考えです。
特に期待している役割について教えてください。
豊田市では「ミライのフツー」を掲げており、ぜひ、1つでも多くの「ミライのフツー」となるような行政サービスの実装に力を貸していただきたいです。その上で非常に重要になるのが、「市や地域が抱える課題」を正しく設定すること。デジタルはあくまで手段に過ぎません。デジタル技術を時勢に応じて取り入れ、どういった市民・地域・企業・市役所の課題を解決していくか。デジタルでステークホルダーをつなぎ、新たな行政サービス・組織・プロセスを創り出すことができるか。そして、常に将来を見据え、より市民の皆さまが暮らしを楽しめる新たな価値を生み出していけるか。ぜひ最上流から初期メンバーとして共に手掛けていければと思います。
(豊田市役所 東庁舎)市役所全体としてDXを推進できるよう、全ての所属に1名以上「デジタル化推進員」を配置しているという豊田市。副市長がトップとなるデジタル化推進本部を設け、副部長ポジションの方に「デジタル化推進本部員」として入るといった体制からもその本気度が伺える。「各部局でどのような街をつくっていきたいのか、現状なにが課題なのか、それぞれが考え、自律的に変革を担う体制にしています。こうしたDX推進の要になるのが、情報戦略課です。現在ここでは私を含め、7名の体制で業務に当たっています」と棚田さん。
「市民サービスの向上」と「職員の負担軽減」を
より具体的にはどういった業務に携わるのでしょうか。
大きくDXのテーマとして「市民サービスの向上」「職員の負担軽減」を掲げており、そこに対して共にアプローチしていければと考えています。
まず市民サービスの向上でいえば「行かない・書かない・待たない窓口」を「スマート窓口」と定義し、その実現を推進しています。いちいち市役所の窓口まで足を運んでいただかなくても、対応できることはないか。窓口で長時間お待ちいただくケースを少なくできないか。主に公的な申請・手続きなどを「紙」から「デジタル」に置き換えており、一緒に利便性の高い市民サービスにつなげていければと思います。現在検討している例でいうと、ちょっとしたことを気軽に相談できるオンラインの相談窓口があります。まずはここで相談ができ、より深く職員とのコミュニケーションが必要な案件は、窓口で直接ご支援する。それらの情報を市役所全体で共有、相談案件・データを分析し、新たな行政支援につなげていく。どんなお困りごとが増えているか。本当に必要な支援は何か。そこに予算と人が付くようにデジタルを活用したい考えです。また、直近でいえば、2023年5月からマイナンバーカードにおいて、スマホでの個人認証機能の実装も始まります。豊田市としてもそういった「課題解決の手段」が増えるなか、課題設定や打ち手に対して意見をいただければと思っています。
もう一つ「職員の負担軽減」も、重要なテーマとして置いています。すでに業務改善のためのシステム導入などは進めているものの、まだまだ課題も多いのが現状です。例えば、デジタル活用のためには、そもそも紙からPCへのデータ入力が必要ですが、ミスがないように分厚いマニュアルが用いられていたり、目視での二重三重のチェックが行われていたりするケースもあります。そういった業務やフローを可視化し、一部自動化するなども可能なはずです。当然、デジタルにおける知見を持つ職員ばかりではありません。まずはどういった困りごとがあるのか。市役所全体の声を拾い上げ、紐解きつつ、新たな取り組みにつなげていく。市役所全体のDXを推進し、共に組織全体として底上げしていければと考えています。
その他にも先端テクノロジー活用も模索し、取り組んでいるという棚田さん。「例えばメタバースをはじめ、バーチャル空間を活用した取り組みも現在議論を進めているところです。ただ、これも手段に過ぎないので、そもそも何を解決するためにメタバースを取り入れるのか。どのように活用していくのか。議論しているところ。ぜひ知識や知見をお借りしたいと考えています」
組織を動かし、新たなサイクルを生み出していく
豊田市の情報戦略課で働くやりがいについて教えてください。
まず、今回、豊田市として副業で民間人材の方に加わっていただくのは初めての試み。現状の把握から課題設定、企画、プロジェクトの実行まで、初期メンバーとして携わっていただける。ここは大きなやりがいになると思います。
一つ一つ前例を積み上げることで、組織が変わり、より良い市民サービスにつながっていく。街全体の変革に貢献していける。そうした変革のサイクルを自分たちで作り出していけますし、実際にどう変化していくか、検証しながら見届けられるのも醍醐味になるはずです。
豊田市は森林7割・都市部3割と、日本の縮図とも言える都市構造をしていることもあり、課題の多くは全国の自治体で共通しているもの。あくまで一例ですが、外国人の方々が多く住むなかで、どう窓口業務をスムーズに行うか。多様な方々が快適に生活できる街をいかにつくっていくか。このあたりも試行錯誤を繰り返しています。そういった工夫や取り組み一つとっても、全国あらゆる自治体で参考にしてもらえるようなロールモデルをつくっていきたい。もっといえば、民間企業の方々との共創も推し進め、豊田市発の新たな街づくりのモデルをつくっていこうとしています。そこにイチから携わっていただきますので、ここでの経験、知見、実績は今後、さまざまな自治体で活かせるものになるはずです。
より活躍をするために事前に知っておいたほうがいい厳しさ、持っておいてほしい心構えなどがあれば教えてください。
民間出身の方ですと、どうしても自治体や官公庁における仕事の進め方、スピード感にもどかしさを感じる場面はあるかもしれません。まずは、その進め方を把握していただくところがスタートになると思います。慣れていただきつつ、改善していける部分に関しては、ぜひ積極的に意見をいただければと考えています。
もう一つ、情報戦略課でいえば、調整が非常に多いと言えます。それぞれの職員、課にはさまざまな事情がありますし、組織や仕組みを変えるためには大きなパワーが必要になるでしょう。ただ、より良い市民サービスを実現したいという考えは同じ。直接話をし、現場を知ることで解決の手立てが見つかることも往々にしてあります。現状を変えたいというそれぞれの想いに寄り添い、全体として歩みを進めていく。丁寧に対話を重ねながら、どうしたらより良い方向に変えられるのか。一緒に悩み、知恵を出し、解決に伴走していく。もちろん私も情報戦略課のメンバーもサポートしますので、こういった地道な部分も含め一緒に乗り越えていければと思います。
活躍するための資質について「自治体をなんとかしたいといった熱意、パッションが何よりも重要だと思っています」と答えてくれた棚田さん(下中央)。「大きな課題を解決するためには、大きなパワーや長い時間が必要になることも。それでも、いかに最後まで走り切れるか。ぜひ熱意を持った方に来ていただければと思います。その上で、豊田市でどんなことを実現したいのか。これまでの経験を踏まえ、聞かせていただけるとうれしいです」
「豊田市でこれを成し遂げた」と誇れる仕事を
最後に棚田さんご自身の「志」について伺わせてください。仕事を通じ、何を実現していきたいと考えていますか。
日本や地域、人のためになることを実現する。誰かがどこかで現在、そして将来、喜んでくれるであろう仕事がしたい。そう考えています。どうすれば、住みやすく、働きやすく、楽しめる街に近づけるか。市民の方々が「住んでいて良かった」、周りからも「良い街だ」と思っていただける街にしていきたいです。それをどうすれば実現できるのか考え、具体的な取り組みにつなげていくのが私の役目だと考えています。
私自身、総務省に入省後、自治体で働くことを希望し、現在出向という形で豊田市のCDOとして働いているのですが、この選択も「自治体の変革こそ、日本を変える近道」だと考えたから。日本を変える旗振り役は、国が担っていると思うのですが、いくら旗を振っても、誰もついてこなければ、永遠にゴールには辿り着きません。そうであれば、市町村の現場で直接変化を起こす仕事に携わりたい。そこからボトムアップで日本を変えていきたいと考えています。豊田市にはそのための新しいチャレンジができる環境があると思っています。ですので、ぜひ新しく加わる方にもチャレンジしてほしいですし、「豊田市でこれをやったのは私です」と誇れる取り組みを実現していただければと思います。