誰もが安全・安心に暮らせる公正・公平な社会の実現を――法秩序の維持や国民の権利擁護を担う法務省が「総合職相当職員」「一般職相当職員」「法曹有資格者」における中途採用を実施する。今回は7部署/採用予定人数10名以上の大規模採用となる。同募集にあたり、民間の医療機関を経て法務省へと入省した名倉聡史さん(37)*を取材した。名倉さんが語る、法務省でこそ得られる働きがいとは――。
*法務省保護局更生保護振興課地域連携・社会復帰支援室地域連携推進係長
■法務省について
日本の中央行政機関の一つである法務省。基本法制の維持・整備や法秩序の維持、人権の擁護、出入国管理業務などを所管する。その目的は、誰もが安全・安心に暮らせる公正・公平な社会の実現である。この目的を達成するため、法務省には大臣官房のほか民事局、刑事局、矯正局、保護局、人権擁護局、訟務局が設置されているほか、出入国在留管理庁、公安調査庁といった外局などが設置されている。また、検察庁、法務局、刑務所・少年院、保護観察所、公安調査局、地方出入国在留管理局といった「現場」の機関を全国各地に数多く有しており、合計5万人以上の法務省職員が働いている。施策の企画立案などを担う本省と、国民一人一人に向き合って施策を実行する現場の機関が、一体となって法務省の行政(法務行政)を推進している。
■募集職種について
(1)総合職相当職員
・矯正局課長補佐/係長級職員(矯正局)
・保護局課長補佐/係長級職員(保護局)
・公安調査庁課長補佐/係長級職員(公安調査庁)
・出入国在留管理庁課長補佐級職員(出入国在留管理庁)
(2)一般職相当職員
・大臣官房施設課係長級職員(大臣官房施設課)
(3)法曹有資格者
・任期付職員(訟務局)
・検事(大臣官房人事課)
今回、大規模な中途採用を実施する法務省。同募集にあたり、民間出身の職員である名倉聡史さんに話を聞いた。そもそもなぜ彼は転職を考えるようになったのだろう。
前職時代にあった焦燥感、伸び悩みは大きな理由の一つでした。前職は医療機関において臨床心理士として働いていたのですが、その職場において同じ職種で働く人はいませんでした。医師の指示のもと、心理検査・心理面接を行うのですが、自ら精一杯学び、日々患者さまと向き合っていくものの、「この面接方法で果たして良いのだろうか」「よりよい検査結果の活用方法はないのか」と考えるようになっていきました。また、このまま10年、20年とキャリアを重ねた先に、どういった自分になっていけるのか。どうしてもロールモデルやビジョンを描きづらく、続けていくイメージがつきにくくなってしまったのも事実です。学びの機会を日常的に得られる環境で働くことはできないか。視野を広げられる仕事ができないか。そう考え、転職を意識するようになりました。
なぜ、次なるフィールドに法務省を選んだのだろう。
臨床心理士としてのバックグラウンドを活かしながら、新しい挑戦がしたい。そういった時に法務省が一つの選択肢となると考えました。というのも、大学や大学院時代の知人が法務省で働いていたこともあり、「司法」は身近に感じる領域でもありました。もちろん、前職は「現場での対人援助職」に興味があり志した道でもあったため、とても迷いましたし、後ろ髪を引かれる思いはありました。ただ、法務省の採用選考が進んでいくなかで、専門的処遇プログラムの効果検証など、これまでの医療現場で得た知見を社会全体に還元し、さらにまた別の現場で活かしていけるのではないか。これまで現場で感じてきた課題に、よりダイナミックなアプローチができるのではないか。そういった思いが確信に変わり、法務省への入省を決めました。
名倉 聡史(37)法務省保護局更生保護振興課地域連携・社会復帰支援室地域連携推進係長
徳島大学大学院総合科学教育部臨床心理学科修了。民間医療機関において、心理検査(知能検査等)や心理面接などに従事。その後、法務省保護局更生保護振興課地域連携・社会復帰支援室地域連携推進係長(現職) へ。「官庁訪問で先輩職員から、保護観察対象者とのやり取りや背中を押す働きかけ、地域のボランティアである保護司の心温まるエピソードを聞くことができ、温かみと人情味を感じました。官公庁で働く方には、勝手にドライなイメージを持っていたのですが、人と向き合った上でそれぞれの制度があると実感できました。」
こうして2013年に法務省へと入省した名倉さん。北海道での保護観察官、東京少年鑑別所での鑑別技官等を経て、現在は法務省の本省にて働く。その仕事のやりがいについて聞くことができた。
「現場」と本省での「制度づくり」それぞれで多岐にわたる経験ができ、視野を広げていくことができます。そういった部分に非常に大きなやりがいを感じています。たとえば、私の場合は、入省後まもなく北海道に所在する釧路保護観察所で保護観察官として働いていたのですが、地理的にも、制度的にも、やはり東京と同じような保護観察がしにくいという現場の状況を肌で感じることができました。また、都会と比べて社会資源が必ずしも十分とは言いがたいなか、いかに地方で保護観察を行っていくべきかという課題に触れられたことも非常に貴重な経験となりました。
現在、本省での「制度づくり」に従事していますが、その検討に当たって、「この制度・仕組みは地方でどれだけ実現可能性があるか」「地方への配慮が足りているか」という視点につながっているように思います。また、現場勤務を通じ、この制度は実際にどういった方の役に立つのか、どのくらいニーズがあるのかなど、現行制度の運用状況や課題にじかに接することができるため、本省での業務により強い使命感を持つことができているように思います。保護観察官として働いた経験は、他省庁や外部の方への行政説明の際の説得力にもつながりますし、地に足をつけた施策立案ができる強みになっていると思います。
また、法務省では、再犯防止に関する体制づくりなど社会全体に働き掛けるスケールの大きな仕事ができます。これは民間ではできない仕事だと感じています。民間の医療機関で働いている時は、どうしても目の前にいる患者さまが抱えている困りごとを聴き、より良い生活を送れるよう個別に働きかけることがメインでした。他方で、たとえば、入院が長期化し、その後の退院先が見つからない人や、病状が改善しても働き口や日中の居場所がない人に対しては、個別の働き掛けだけではどうしても限界があり、「社会の受入れ体制がより充実すれば、退院して自ら暮らしていける人もいるのに」ともどかしく思うこともありました。そういった点で、まさに今起きている問題に、仕組みづくりの面からも挑むことができる。ここが一番大きな働きがいだと感じています。
「地方での勤務もあり、そこではやはり現場での適応力が求められると思います。このあたりは入省前に知っておくとギャップが少ないかもしれません。」と話をしてくれた名倉さん。「もちろん予算業務などで繁忙期もありますが、常識的な範囲で業務が行われており、省内全体で働き方改革も進んでいます。テレワークや早出・遅出勤務も活用できますし、私も3歳になる娘がいるのですが、男性職員を含め育児をしながら働いている職員もおり、育児に対して理解のある方が多いですね。家庭の状況などにも配慮をしてもらえる環境だと思います。」
そして伺えたのが、名倉さん自身が「仕事を通じて実現していきたいこと」について。
現在、法務省保護局において、更生保護行政に携わっているのですが、「罪を犯した人たちの立ち直りを支え、再犯を防ぐ」というミッションに向き合っています。このような話をすると「なぜ、わざわざ犯罪者の立ち直りを支える必要があるのか」と疑問を持たれる方もいるかもしれません。ただ、犯罪をした人が刑務所に収容された場合であっても、いずれ刑期を終え、地域社会に戻ってきます。その後、犯罪を繰り返してしまっては意味がありません。さらに、新たな被害者を生むことになってしまう。そのため、罪を犯した人が、自分の犯した罪を深く反省し、地域社会の中で安定した生活を送れるように指導や支援を行うことで再犯を防ぎ、そのことが、ひいては犯罪から社会を守り、安全・安心な社会を築いていくことにつながるのだと考えています。
保護観察対象者が再犯をせず、社会の中で立ち直っていくために必要な支援とは何か。「負のサイクル」を断ち切っていくために何ができるか。たとえば、住まいや頼れる親族がいない人に宿泊場所の提供などを行う更生保護施設の体制を整備すること、仕事のない人が仕事を見つけたり、あるいは福祉的支援を必要とする人が必要な支援を受け続けられるよう寄り添い型の事業を展開することなどがその一例だと言えます。そのために、必要な予算を要求し、法律や省令などを見直して制度を変えるなど国としての取組に加え、民間団体や地方公共団体、企業の方々など、地域の力を引き出しつつ、“息の長い”支援のバトンをつないでいく。その結果として、使命である「誰もが安全・安心に暮らせる公正・公平な社会の実現」を目指していければと思います。
そして最後に聞けたのが、名倉さん自身の価値観について。彼にとって「仕事」とはどういったものなのか。
仕事とは「想像した以上に、自分の視野を広げてくれるもの」だと思います。たとえば、本省勤務において、最初に取り組んだのは、予算要求業務だったのですが、要求資料の作成に当たっては、金額等に間違いがあってはいけないので、何度も誤りがないか緻密に確認するなどの作業を行いました。前職で携わってきた領域とはかけ離れた仕事でもあり、当初は「自分にできるだろうか」という不安の方が大きかったです。ただ、いざやってみると「緻密に突き詰めてやることが自分の性に合っていた」と感じることができました。新たな業務を体験することで、自分の新たな一面に気づかせてもらえる。法務省で異動するたびに、まるで転職するように、学び直すことができます。もちろん、周りの方々に支えていただいて、ステップを踏みながら「できること」の発見につながっていく。仕事を通し、視野を広げたり、新たな自分を発見したりすることができたのも、その時々でお世話になった先輩や上司、同僚、保護司や関係機関の方々のおかげだと感じています。そういう意味では、今後は、これまでお世話になった方々に恩返しをするような気持ちで、業務に当たっていきたいと考えています。