「ひっ迫する母子保健領域の業務をAIで効率化していく。NECとしても新たな分野を切り開いています」こう語るのが川上葵さん(28)。日本電気(以下、NEC)で新規サービス企画に携わる人物だ。前職は大手印刷会社でプロジェクトマネージャーをしていた彼女はなぜNECに転職したのか。そこには、「ITに特化した会社で働きたい。暮らしに身近な行政サービスをアップデートしていきたい」という思いがあった。
前職の大手印刷会社では、官公庁向けの営業、新規事業を推進するプロジェクトマネジメントを経験してきた川上さん。その転職の動機とは。
前職も官公庁向けの業務に携わるなかで、やりがいは感じていました。職種転換をしてからは、官公庁のBPO事務局の設計を経験。事務局を立ち上げ、円滑な運営をするために、様々なアプリケーションにふれ、自分でも実際に簡単なコードを書いたりすることも増えました。すると、事務局の皆さんから「お陰様で作業がラクになりました」といった言葉をもらうことが増えてきて。それがとても嬉しかったんですよね。次第に自分のなかで「もっとITを学んでみたい」という気持ちが芽生え、環境を変えてみようかなと考えるようになりました。
転職活動をするなかでは、職種は特に絞らず、ITに特化した仕事ができる会社であること、そして官公庁に関われることを重視して見ていました。そうしたなかで、たまたまNECからのスカウトメールを受け取りました。
最終的にNECの決め手はなんだったのか。
人事の方とやりとりをさせていただくなかで、官公庁向けのITサービス事業企画の募集もあると知り、「ここなら今までの経験を活かしつつも新たな挑戦の機会がありそう」と思ったことが大きな決め手でした。
もともと、NECについて深くは知らなかったものの「技術力がある会社」というイメージは持っていました。きっと自分の全然知らない技術に触れられるだろうな、というワクワク感もありましたし、それを活用して官公庁における既存のやり方に革新を起こせるかもしれないと思うと非常に魅力的だなと思ったんです。
また、選考もとてもスピーディーに進めていただき、「自分を必要としてくれているのかな」と思えたこともポイントでした。ぜひここで働きたいと思い、入社しました。
2019年、新卒で大手印刷会社に入社。営業として、行政サービスのデジタルシフトや観光事業支援に係る企画・実証・実装支援を担当。その後、新規事業推進本部に異動し、官公庁向けのBPOの業務設計を担当。 BPO事務局構築に関わる要件定義から導入・運用支援まで一貫して担当。2023年4月にNECへ中途入社。
現在、サービス開発グループに所属する川上さん。そのチームのミッション、取組み概要とは。
NECは長年にわたって各自治体と信頼を築き、行政サービスに関わるシステムを提供しています。そのなかで蓄積してきた膨大なデータを、蓄積してきたノウハウや顧客ニーズをもとに新たなサービスを構築していく。これが、私たちサービス開発グループのミッションです。
そのなかでも、特にNECとして注目している領域の1つが、母子保健分野です。2023年4月に「こども家庭庁」が発足したことに伴い、今後、母子保健分野であらゆる政策が動いていくと予想されるため、私たちのチームでも、こども事業を立ち上げることになりました。
進めていく中では、NPO法人、子育て経験者など、あらゆる方々へのインタビューを実施し、それらの情報を集約したうえでチーム内で事業アイデア出しをしていきました。その数、全部で150以上。そのなかからお客さまからの共感の得られるものを絞っていきました。
具体的には、どのようなプロジェクトがあるのか。
現在、私たちが取り組んでいるのが、妊娠前から地域住民をサポートしていける行政サービス・仕組みの構築です。
もともと行政では、妊娠届などの「届け出書類が提出されてから対応する」が大原則。ただ、この進め方では、子どもを望んでいてもさまざまな理由で子どもを持つことができない人たちは取り残されたまま。そこで、妊娠前の段階から行政としてサービスを提供できないか、と考えたのです。
まだ検討段階のため、具体的な部分はまさにこれからつめていく形にはなりますが、たとえば、自治体の基幹システムに蓄積されているデータをもとに、行政側が妊娠を希望する人たちに向けて、理想的な運動量・栄養面で注意したいポイントなどのアドバイスをできるようにしていく。行政として、より手厚いサポートをできるようにしていければ、子育て世代が安心して住める町というブランディングにつながるかもしれませんし、もっと言えば、少子化対策、地域の存続といった社会課題の解決にもつなげていけるかもしれません。
とはいえ、足下をみれば、子育て過程の支援を行なう現場では、業務が逼迫している状況があります。まずは、これまで手書きで行っていた記録業務をAIを活用して業務効率化していく、といった取り組みから着手している段階です。未来の行政サービスを提供していくための基盤づくりを着々と進めています。
仕事におけるやりがいとは。
まだサービスになってないものを提案していく0→1の仕事。想像以上に大変であると同時に、それ以上の面白さも感じており、やりがいにつながっています。
官公庁向けのITサービス事業を企画するまでには膨大な時間をかけてインタビューや調査をした上でつくっているものの、いざ提案してみると「他の自治体での事例があれば導入したい」と断られることのほうが多いんです。正直、何度も心が折れそうになりました。ただ、粘り強く提案を続けた結果、「いいですね、私たちも課題だと思ってたんです、一緒にやりましょう」といってくださるお客様と出会うことができたときは、本当に嬉しくて。「自分たちの仮説は間違いではなかったんだ」と感極まってしまいました。
NECで働く魅力として、「社内のプロの知見にすぐにアクセスできる点」を挙げてくれた。「昨年、ある団体での人事関連事業のプロポーザルの際には、社内の人事コンサルチームに支援をいただきながら提案書を作成し、プレゼンにも同席いただきました。エンゲージメントの研究をされている専門家もおり、その方々の知見がなければ成立しなかったのではないかと思います。社内にそうした専門家が多く在籍しており支援を受けることができる。ここはNECの強みの一つだと思います」
続いて、今後の目標について。
まずは今つくっているものをとにかく世に出し、いろんな人に使っていただく。これに尽きると思います。
サービスを企画していくうえでは、一人よがりのものづくりはしたくないと思っているんです。世の中のニーズを正しくキャッチして形にできる人になりたい。自分の手掛けた事業がきっかけで、自分の住む地域の職員の方々や利用者が、少しでも快適になるようなサービスをつくることが理想だなと考えています。
私個人の価値観で言えば、あまり「社会のために」といった大きなことを考えているタイプではありません。基本的には「自分」が主語。「自分が住む地域」など、自分の手の届く範囲の人々が 少しでもよくなればいいなと思い、日々働いているように思います。
前職から官公庁の仕事に関わるなかで感じていることですが、行政サービスとは「自分の暮らし」に1番近いもの。だから、官公庁に対してアプローチしアップデートすることができれば、自分や身近な人の「生きづらさ」を多少なりとも減らしていくことができるのではないかと思うんです。
最後に、川上さんにとって仕事とは。
仕事とは、自分でも思ってもみなかった世界を見せてくれる、意外性のあるものだなと捉えています。私の経験上、最初はあまり気が進まなくても、やってみたら意外と面白かったということがすごく多いんですよね。前職時代も、自分の希望で異動したわけではありませんでしたが、異動があったからこそ「新しいことに取り組んでいくことって楽しいな」と自分の新たな一面を発見したり、「もっとできることを増やしたいな」という気持ちが湧いてきたりしたんです。逆に、ある程度予想ができることをしていると、あまり発見はないのかなとも思っています。だから私としては、たとえ困難な局面を前にしたとしても「これを乗り越えた先には新たな扉が開くかもしれない」と前向きに捉えて挑戦していきたい。これからもそういった気持ちを大事にして、働いていきたいですね。