「カップヌードル」、「日清焼そばU.F.O.」、「日清カレーメシ」……数々の大ヒット商品を世に送り出してきた日清食品。2025年、マーケティング部での採用強化のタイミングに、今回は「日清カレーメシ」をはじめとする「日清のカップメシ」シリーズのブランドマネージャーを務める中村圭佑さん(39)を取材。「日清カレーメシ」における事例をもとに、日清食品でマーケターとして働く魅力に迫る。
「日清カレーメシ」といえば、「信じて混ぜろ。信じて混ぜれば、美味しいカレー」というフレーズと、インパクト絶大なCMを思い浮かべる人は多いだろう。
その後も、2024年にはボカロP・すりぃの「中毒性のチュウ」とのコラボCM、大人気アニメ「ぼっち・ざ・ろっく!」とのコラボキャンペーンを実施するなど、毎度話題をかっさらう。
こうしたプロモーション施策はもちろん、商品開発、資材調達、販売戦略など全てに関わり、ブランドの全てに責任を負うのが、日清食品の「マーケティング部」だ。
今回は、同部署にて、「日清カレーメシ」をはじめとするカップメシシリーズのブランドマネージャーを務める中村圭佑さんにお話を伺った。
「創業者の安藤百福が残した『仕事を戯れ化せよ』という言葉にあるように、日清食品は「Creativeであれ!」「Uniqueであれ!」「Happyにしろ!」「Globalにいけ!」という4つの思考を大切にしている会社です。マーケティングにおいても、データはもちろん、おもしろい、という直感を信じ抜きアウトプットしていく。そして、それを可能にする仕組みがあります」
「日清カレーメシ」における事例をふまえ、ヒット連発のマーケティング部の舞台裏に迫る。
日清食品のマーケティング組織について
◆ブランドごとに存在する、9つのグループ
1グループあたり、数名~二桁近い規模で構成される。売上・マーケティング施策の手数が多いほど大所帯に。
◆マーケティング部の「人」
新卒入社とキャリア入社の割合は、6:4。キャリア入社者のバックグラウンドは、食品飲料業界を中心に日用品、電機メーカーなどモノづくりに携わってきた方など。
◆キャリアステップ
2~3年おきにマーケティング部内異動があり、さまざまなブランドを経験していく。
職階としては、「メンバー」→「主任」→「マネージャー」→「ブランドマネージャー」→「部長」。
年間300品以上の新製品を生み出す日清食品。ヒットをとばし続けられる背景には、どういった秘密があるのか。
私は前職も食品メーカーでマーケターをしていたのですが、そんな私から見ても、意思決定のプロセスはシンプル、かつ早い。職階に関係なく、「これは」という企画を思いついたら、すぐに提案・実行できる環境がある。自分のやりたい施策を、より多く形にしていける環境があると言えます。
具体的なフローでいうと、その最たる例はプロモーション企画の場合です。メンバーが「カレーメシでこんなことをこれくらいの予算でやりたい」とアイデアを思いついたら、それをブランドマネージャーにまず提案し、問題がなければ準備の上、週1回行なわれる社長との「定例会議(職階問わずマーケティング部員全員参加可)」で議題にあげます。そこで社長からフィードバックをもらい、チームで改めて話し合った上で、実施に向けて準備を進めていく、こうしたシンプルな流れになっています。
なお、商品開発の場合は味づくりやパッケージデザイン制作のほか、安全性の検証なども必要になるため、当然もう少し時間はかかります。
意思決定のプロセスがシンプルなので、スピーディーに物事が決まっていきます。そこでの判断基準は、「消費者にとって魅力的なものができているかどうか」です。様々な根回しや社内外の意見の調整のような、消費者と無関係の本質的ではない部分に使う時間は少ないですね。
2008年新卒で食品メーカーに入社し、大型新規商品のマーケティングを担当。2017年に日清食品へ入社。袋麺のロングセラーブランド「日清のラーメン屋さん」のリニューアル、3食入り袋麺の新ブランド「日清これ絶対うまいやつ♪」の立ち上げを経験。2022年3月に社内公募制度でブランドマネージャーに。「お椀で食べる」シリーズを経て、2023年3月から「日清カレーメシ」をはじめとする「日清のカップメシ」シリーズを担当する。
採用されるアイデアは、どういった基準で決まっていくのか。
もちろん、消費者の声などデータも見ていますが、一方でそれと同じくらい「感覚」をものすごく大事にしている。当たり障りのないことを、当たり障りのない表現で伝えても、なにもおもしろくないし、誰にも伝わらない。だから、まじめにふざける。これが“日清食品らしさ”であり、マーケターとして最もやりがいを感じられる部分だと思います。
たとえば、私が担当する「日清カレーメシ」で言えば、2024年から商品パッケージに「カレーメシくんがまぜてみた!30秒→最高にウマイ!60秒→無駄にウマイ!300秒→オレがオレじゃなくなる。」という表記を入れています。
「日清カレーメシ」はしっかりまぜることでドロっと濃厚なカレーができあがるのですが、それまでパッケージには「グルグルとかきまぜる」としか書いていませんでした。まぜ時間を明示していなかったので、一部の消費者からは「カレーメシってこんなにシャバシャバなの?」という不安の声が定期的にあがっていました。
実際に食べたことがある方はご存知かもしれませんが、「日清カレーメシ」は、お湯を入れて5分経ってフタをはがした瞬間は、まだ茶色くもなってない状態で、数回まぜただけだとまだサラサラなんですよね。不安になるのも当然です。そこで、初めて食べる方にも、安心して理想のおいしさを味わっていただけるように、「まぜ時間の目安」を伝えることにしました。
ちなみに、開発部門を含めて、推奨しているまぜ時間は30秒。60秒まぜてもルゥの粘度が上がってさらにドロっとしたカレーになり、ちゃんとおいしく食べていただけます。ただ、5分を超えてくると、粘性が上がりすぎて温度も下がってしまうため、“理想的なおいしさ”ではなくなってしまうんです。
とはいえ、社長との定例会議でも、ストレートに「30秒まぜてね」だけでは面白くないね、と。ではどう表現するか。あるメンバーが思いついたのが、「30秒→最高にウマイ!60秒→無駄にウマイ!300秒→オレがオレじゃなくなる。」という表現でした。これくらいふざけたほうが、“日清食品らしい”のではないかと社長に提案したとき、頷かれていたのを覚えています。
「日清食品らしさ」は細部まで宿る。「カレーメシくんがまぜてみた!」の表記は2024年から。
「ちゃんとしたカレー」というコピーも、メンバーのアイデアから生まれたもの。「冷静に考えると、普通カレー商品を売るときに『ちゃんとしたカレー』とは言わないと思うんです。ただ、「日清カレーメシ」の調査をしていて、食べたことのない方々から『お湯で作るなんて、シャバシャバなカレー汁ができるのでは?そもそも具は入ってるの?』といった不安の声が挙がりました。でも、出来上がりのシズルを見るとそうした不安が自己解決されることもわかりました。それなら、シズルがある画に加えて『ちゃんとしたカレー』と堂々と言ってしまおう、と。今はブランドサイトや販促物にも、全てこのコピーを入れています」
一方で、マーケターとして働くうえで「厳しさ」となりうる点についても伺った。
毎週の定例会議は、様々なマーケ施策の方向性を決定する重要な場です。なので、定例会議に案件をあげる際には、「この内容で世の中に出して本当に大丈夫か」という緊張感は常に持っています。だからこそ、毎週の定例会議までに、しっかりと内容を整えていく。修正すべき指摘をもらったら、改善し、翌週の定例にまたもっていく。なかには、そのスピーディーな進行を「大変」と感じる方もいるかもしれませんね。
ただ個人的には、メンバー時代から、「大変/しんどい」と思ったことはあまりなくて。毎週、クリエイティブな発想力や論理的な思考力を鍛えられる場があること、自分の考えを社長に直接提案できる場があるというのは、非常に貴重だなという思いの方が強かったですね。
それこそ、「企画のコンセプトと具体的なアウトプットがズレているのでは?」「企画内容が分かりやすく伝わるものになっていない」といった鋭い指摘もときにはもらいます。ただ、そうした問いかけや視点の1つひとつが、ブランドマネージャーとなった今も活きていると思いますし、ほかの人たちのプレゼンを見て伝え方を学べる部分も大きい。若手マーケターにとっては、成長環境があるといえると思います。
日清食品で働く魅力の1つを、「食品の中でも利用頻度が高く、かつSNSとの馴染みが良く消費者の反応が見えやすい」点を挙げてくれた。「私たちが扱う即席麺、即席ライスは1食完結。『カレーメシ、初めて食べたけどめっちゃウマい』といったように、消費者もブランドを固有名詞で話題にしてくれる。これは素材や調味料などを扱うメーカーとの大きな違いと言えるかもしれません。また、キャンペーンを打つと『カレーメシが推しとコラボしてくれて嬉しい』といった反応も。実施した施策をきっかけにユーザーがひとり増え、「日清カレーメシ」のおいしさに気づいてくれた瞬間を目の当たりにするたび、マーケターとしてモチベーションが上がります」
ブランドマネージャーから見た、「日清カレーメシ」の現在地と、今後のブランド戦略について。
「日清カレーメシ」は、まさに今大きな変革期を迎えています。
というのも、「日清カレーメシ」は2014年の発売当初から、主に若者層、より具体的に言えば、新しいものを面白がって受け入れてくれる人々をターゲットに、CMなどでもかなり尖ったコミュニケーションをしてきました。
お陰様で2021年度には市場規模(市場価格ベース)で100億円を超えて、2024年度は同160億円を突破する見込み。200億円も目前というところまで迫ってきています。とはいえ、1年以内に「日清カレーメシ」を食べたことがある方はまだ1割程度。いわゆる“イノベーター”“アーリーアダプター”には届けられたと考えていますが、食べたことのない方のほうがまだ圧倒的に多い状況です。
そのため、今後はブランドを、“マイナー”から“メジャー”な存在に引き上げていきたい。2025年は、“メジャー化元年”といってもいい。メインターゲットが若者であることは変わりませんが、コミュニケーションの仕方は少しチューニングしていきたいと考えています。
そして、ゆくゆくは「日清カレーメシ」をはじめとするカップメシを、カップ麺と同じぐらい身近で生活に欠かせない存在にしていきたい。日清食品は「完全メシ」シリーズに代表されるような新しい食文化の創造に取り組んでいるので、私としても、新しい食文化の創造に貢献していければと思います。