INTERVIEW
独立行政法人 経済産業研究所(RIETI)|政策分析専門官

経済学 × データ分析を通じ、国を動かす「経済産業政策」に貢献する――元日銀職員がRIETIで抱く志

掲載日:2025/04/10更新日:2025/04/10
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独立行政法人 経済産業研究所(以下、RIETI/リエティ)が「政策分析専門官」の中途採用を実施する。同募集に伴い、日本銀行での勤務を経てRIETIに入所し、政策分析専門官として働く細井 奎吾さん(27)を取材した。なぜ、彼はRIETIへの入所を決意したのか。そのキャリア選択の裏側には「経済学的な研究・分析を通じ、日本の経済産業政策に貢献していきたい」という思いがあった――。

「経済学の研究・分析を仕事にしていく」というキャリア選択

新卒で日本銀行に入行し、地域経済分析、金融機関の経営モニタリング業務などを担当していた細井さん。なぜ、彼は転職を考え、そしてRIETIへと入所したのか。その経緯から話を聞くことができた。

もともと学生時代に経済学、特にデータを用いた実証分析を学び、仕事でもそうした研究・分析に携わっていきたい、より専門的なキャリアを築いていきたいといった思いを強く抱くようになりました。

もちろん、前職でも研究・分析を担う専門的な部署はありました。ですが、そこで働けるのは当然ながら限られた行員のみ。また、大規模な組織で異動も多く、専門的なキャリアを築く難易度は非常に高いものでもありました。そのため「一度仕事を辞め、大学院に進学し、学び直したほうがいいのかもしれない」という考えも。まさにちょうど同じタイミングで見つけたのが、RIETIの「政策分析専門官」の募集でした。

特に惹かれたのは、データを活用し、社会問題を客観的に明らかにし、それを基に政策立案を支援していくといった部分でした。論文執筆などを通じて知見を深めつつ、政策現場でデータを活用し、具体的な成果を生み出していく。実証分析を通じ、社会に貢献していく。そういった経験はRIETIでしかできないもの。さらに、大きな決め手となったのが、「政策のデパート」とも称される経済産業省の方々や、第一線で活躍する経済学の研究者の方々と共に働けるという点です。RIETIで働くことで、知識、キャリアの面でも大きな刺激が得られるのではないか、専門性の高いキャリアにつながっていくのではないか、そういった思いがあり、入所を決めました。

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「学生時代、データを用いて社会現象を分析していく経済学に強い興味を持ち、RやPythonといった実証分析で使うプログラミング言語を自発的に学んでいました。」と話をしてくれた細井さん。「特に大学時代の恩師の影響は大きかったです。その方は“データで、長時間労働がメンタルヘルスに与える影響を明らかにする”という研究を行なっており、その研究結果は政策担当者を中心に世間から大きく注目され、感銘を受けました。私自身も近い道を志すなか、RIETIでの選考面接では森川正之先生をはじめ、経済学における専門的知見を持つ方々とお話ができ、とても感動したことを覚えています。」

実証分析で、経済産業省の「EBPM」を支援していく

RIETIにおける「政策分析専門官」とは、どういった役割を担っていくポジションなのか。その詳細について聞いた。

私が携わっているのは、経済産業省が推進するエビデンスに基づく政策立案「EBPM(※)」支援業務です。たとえば、経済産業省における政策担当者や研究者の方と打ち合わせを重ねながら、分析方針について意見を交わし、取得可能なデータやモニタリングすべき項目についての提言、アドバイスなどを行なっていきます。

特に、大規模な事業であればあるほど、どのような効果が期待されるのか、どのような効果が得られたのか、説明責任を果たす必要があります。時には政策に対するさまざまな批判に対し、データを基に回答していくことも求められます。ですので、政策立案時に根拠となるデータを示すことはもちろん、必要に応じた実証分析、事業効果の発現経路を整理した資料・ロジックモデルの作成、モニタリングなど、その後の事業の見直しにもつながるような支援業務を担っています。

具体的に、私自身が一部携わった事業でいうと「グリーンイノベーション基金」があります。これは、たとえば、二酸化炭素(CO2)排出量を減らす技術を開発するなど、長期的に経営課題として取り組み、大きなインパクトをもたすと考えられる企業・機関・団体に対し、助成を行なう事業です。必要性は広く理解されているものの、当然「どれほどの資金が必要となるのか」「2050年カーボンニュートラルに向けた具体的な目標を達成できるのか」といった部分は説明が求められます。また、仮にシミュレーション通りに進捗しなかった場合、他のプロジェクトに資金を回すなど、事業の見直しができるか、といった点も重要なポイントです。もちろんRIETIがそういった仕組み自体を構築するわけではありませんが、その領域においてどういった研究開発が進んでいくのか整理をしたり、データでインパクトを示したり、経済学的な視点からさまざまな助言を行ないつつ、結果にズレが生じないようにし、正確性を保っていく。そういった部分が我々の主なミッションとなります。

※EBPMとは?
政策目的を明確化し、合理的根拠(エビデンス)に基づいて政策を企画する手法であり、限られた予算や資源の中で統計を正確に分析し効果的な政策を選択することを指す。2017年以降、政府の「骨太の方針」に毎年掲げられ、今後もその重要性が増すと予想されている。このような状況を受け、RIETI では2022年4月1日に「RIETI EBPMセンター」を設立。内外の研究者や政策当局と連携し、データに基づく事後検証型の政策評価に加え、グリーン化など官民連携による大規模プロジェクトの経済効果の事前評価や必要なデータ・デザインの基本構想を提示する。これにより、EBPMの進化を図り、「単年度主義、透明性、公平性」だけに焦点を当てた従来の政策評価を超えた視点で、経済政策や産業政策の高度化を目指す中核的な政策研究機関としての役割を担う。
(参照)https://www.rieti.go.jp/jp/about/activities/22040101/

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業務内容について「政策立案時に有用な研究論文や情報を取りまとめたWebサイト(EBPMポータルサイト)の企画・運営にも携わっています。」と補足をしてくれた細井さん。「経済産業省の政策担当者が忙しい中でも、必要な論文や情報を効率的にアクセスできることを理想として掲げています。たとえば、論文の結果を3~4行のポイントでまとめたり、要約にデータの年代や重要なポイントを盛り込んだり、さまざまな工夫をしているところです。一方で、政策立案に際し、有用性を見出すことが難しい論文が多かったり、適切な論文を探し出す難易度が高かったり、さまざまな課題があるのも事実です。一つひとつ調査、改善をしながら、より有用性の高いものを目指していければと考えています。」

分析結果が「政策の根拠」となるやりがい

続いて聞けたのは、RIETIでこそ得られる「仕事のやりがい」について。

関わった案件、実証分析の結果が、政策の根拠となることもあります。それらが経済産業省の政策説明資料の一部に使用されるなどした時は、大きなやりがいを感じます。また、直近では、経済産業省とデータをやり取りする際に必要な「秘密保持誓約書のひな形」を作成したのですが、大きな達成感が得られた仕事でもありました。一見すると地味ですし、一つの書類に過ぎないようにも思えますが、今後、経済産業省とより密にデータをやり取りしていく上で大きな一歩になったと考えています。まだまだ「政府が保有する貴重な政策データを活用して分析を行なう」といった仕組みそのものが整っていないなか、双方のさまざまな方々の協力を得て実現できたものでもありました。その誓約書が活用され、さまざまなデータ活用の事例、今まさに進めている政策担当者の支援のケースにつながることを期待しています。いかに迅速な分析に対応できるようにするか。政策担当者支援につなげていくか。この新たな取り組みのために、制度の変更につなげていけるか、非常に難易度は高いですが、意義深いプロジェクトに携わることができていると感じています。また、経済産業省から出向し、RIETIで勤務している上司の仕事の進め方、その手腕を間近で見ることもでき、学びが多く、とても貴重な経験にもなりました。

さらに、RIETIで働く大きな魅力について、細井さんはこう語る。

RIETIはその名の通り「研究所」でもあります。直近でいえば、EBPM推進のために迅速で簡易的な分析が求められることも多いですが、より高度な分析、厳密なものを求められるケースも少なくありません。もっといえば、長らく「論文執筆」をはじめ、従来の研究活動を通じ、経済産業省を支援してきた歴史があります。継続して研究に力を入れていますし、その活動は続いていくものです。たとえば、政策分析専門官でありつつ、査読付きジャーナルに論文をいくつも掲載している方もいますし、まさに私自身も博士号を持つ研究者と共同で「政府による大規模投資が、地域の労働市場やイノベーションにどのような影響を与えるのか」というテーマで研究に取り組んでいるところ。RIETIでしか取り扱うことのできないビッグデータにアクセスができたり、活用できたり、研究や分析が好きな私にとっては非常に大きな魅力となっています。

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やりがいの一方で、事前に知っておくべき厳しさについて、「研究のみを第一に考え、アカデミックな世界に深く浸っていきたい、そういった方にとって職務内容が合わない場面もあるかもしれません。」と細井さん。「研究のみを行なうわけではなく、やはり政策に近い立場で専門知識を役立てていく、ニーズに応えることが求められます。たとえば、研究であればより1年、2年とかかるような厳密な分析も必要ですが、さまざまな制約があるなかで簡易な可視化、シミュレーションなど柔軟な提案が求められる場面も少なくありません。また、EBPM支援、特に政策担当者の支援は、RIETIでもスタートしたばかりの取り組みです。従来の所内ルールや文化、考え方もあるなか、いかに関連部署に説明・調整し、進めていけるか。関係者に協力を得るための謙虚な姿勢、説得していく力、協力を得ていく工夫が求められます。そうした努力、取り組みに応えてくれるのもRIETIの懐の深さ、魅力だと思っています。」

経済学の研究・分析を、社会に役立てていくために

そして細井さん自身が「仕事を通じて実現していきたいこと」とは――。

私自身の能力や知見を高めることはもちろん、体制や仕組みの構築も含め、政策立案や意思決定につながる「迅速な分析」に対応できるようにしていきたいです。政策の現場では、毎年度の予算要求があったり、市場環境やグローバルの激しい競争があったり、柔軟性やスピードが求められるものになってきているように感じています。いかに政策担当者の意思決定につながる分析を、タイムリーに提供できるか。ここがポイントになっていくことは間違いありません。一方で、研究所として支援していく以上、アカデミックな視点、正確性、信頼が問われていくもの。もっといえば、時間をかけて実施した厳密な分析こそが、政策が批判にさらされた時の反論や説得の材料になることもあります。それらを両立する難易度は決して低くありませんが、押し引き、バランスを考え、進めていければと思っています。

また、私自身のスキルや知見が不足していることも強く感じているところです。ですので、RIETIでのさらなる経験、そして、働きながら通うのですが、この4月に進学した夜間大学院での学びや研究を通じ、より成長していきたい。仕事と学業、その両立は簡単ではないと思いますが、理解をいただき、快く大学院進学に送り出してくれたRIETIにもしっかり貢献できるよう、良いシナジーにつなげていければと思います。

最後に、細井さんにとって「仕事」とはどういったものなのか――。

データや分析を通じ、物事を前に進めていく、その力を提供していくことだと捉えています。根拠がなく着地点が見つからない、感情や感覚では解決できない、そういった問題の解決を支えていく、そういった力がデータや分析にはあるはずです。もちろん、研究や分析の領域では、自分が突き詰めたいテーマもありますが、それだけではなく、政策担当者をはじめ、ステークホルダーと関わりつつ、研究成果を社会に役立てていきたい。そのため、研究と政策支援の両軸をこれからも大切にしていきたいと思います。

転職者がホンネで語る!応募者へのメッセージ

私のように潜在的に「将来、修士や博士など研究に近い領域でスキルを得たい」「いつかは研究者やリサーチャーといった高い専門性を活かせるキャリアを歩みたい」と考えている方は一定数いるのではないでしょうか。一方で、例えば研究者を目指すために長期間、学問一本に専念するという選択は、金銭面やメンタル面でリスクもあるため、早期に諦めてしまう方も多いと感じています。そういった方には「RIETIという道もある」ということをぜひお伝えしたいです。私自身も新卒の就職活動時には、「経済学やデータ分析のスキルを活かせる職業は何か」「そうしたスキルを活かすなら研究者を目指すしかないのだろうか」という点に悩み、卒業後はすぐに就職するという道を選んだ一人でした。ただ、高い専門性を活かせるキャリアを歩む道も諦めきれませんでした。そういったなか、学んだこと、研究したこと、分析したことを、世の中に循環させ、自らが望む専門性を高められる環境をRIETIで見つけることができました。RIETIは懐が広く、そういった支援もしてもらえる環境だと私自身は感じています。また、データ分析のための技術や環境構築など、民間のほうがよりも進んでいることも多い。ですので、これから民間をはじめ、外部の経験・知見を取り入れいくことがより重要となっていくはずです。ぜひこの機会にさまざまな方から応募いただければうれしいです。


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