INTERVIEW
東京都 デジタルサービス局

音声AIの研究者から「東京都庁」職員に。技術を通じ、社会に貢献していくためのキャリア選択

掲載日:2025/06/16更新日:2025/06/16

東京都のDX推進を担う「東京都 デジタルサービス局」。2025年度「ICT職」の民間人材公募に伴い、特別インタビューをお届けする。今回お話を伺ったのは、2021年に入庁した佐藤 賢昭さん(37)。もともと民間企業にて「音声AI」における研究開発者として働いてきた佐藤さん。なぜ彼は東京都庁でのキャリアを選んだのか。そこには「技術を通じ、社会に貢献していきたい」という思いがあった――。

※組織名称は、配属当時のものです。また、職員の所属等は2025年5月時点の情報となります。

音声AIの研究者から「東京都庁」職員へ 

大学院卒業後、音声AIの研究開発に一貫して関わってきた佐藤さん。なぜ、研究者ではなく、都庁職員というキャリアを選んだのか。その経緯から話を聞くことができた。

入庁前は「音声AIの研究開発職」として、2社で働いてきました。いずれも「技術を通じ、社会に貢献していく」という部分にやりがいもありました。ただ、どうしても営利企業である以上、新しい技術や研究であっても「利益につながりづらい」「事業戦略的に発表ができない」といった場面があり、もどかしさを感じる場面も。そういったタイミングで知ったのが、東京都庁におけるICT職の公募でした。

そして、東京都をはじめ、自治体には「デジタルの知見を持つ人材」が圧倒的に足りていない状況を知るきっかけにもなりました。私の経験、知見が活かせるフィールドが公共分野にもあるかもしれない、貢献できることがあるではないかと考えました。じつは前職時代もさまざまな職種の社員向けにレクチャーを行ったり、プレゼンをしたり、いわゆる「橋渡し役」的な仕事も多くありました。そういった役割が好きでしたし、向いているかもしれない。それなら研究開発職に区切りをつけ、全く違った職種に就き、これまで接点がなかった方々と働きたい。新たな視点、価値観に触れていきたいと考え、応募に至りました。

公共分野の中でも、東京都を志望した理由について佐藤さんはこう語る。

東京都はICT関連の予算規模が大きく、大規模なデジタル推進に向けて取り組んでいけると考えました。特に惹かれたのが、宮坂副知事による「都政のデジタル化、変革を推進していく」という力強いメッセージです。デジタル技術を活用し、新しい価値を生み出していく。ICTを活用して職員の業務効率向上を図っていく。そして、何よりも都民一人ひとりの生活をより豊かにしていく。そういったミッションに共感し、貢献していきたいと考え、入庁を決めました。

tokyo_digital_05

佐藤 賢昭|東京都 デジタルサービス局デジタル基盤部
大学・大学院で工学を専攻後、2013年より民間企業2社にて音声AIの研究開発に従事。2021年に東京都入庁。その後、教育庁総務部デジタル推進課にてシステム開発やデジタル基盤の担当として4年間勤務。2025年より現職。デジタルサービス局デジタル基盤部にて生成AI分野を担当する。

職員が、より創造的な仕事に取り組める基盤づくりを

教育庁での業務などを経て、現在はデジタルサービス局デジタル基盤部にて「生成AI担当」として働く佐藤さん。その業務概要とは――。

現在は、デジタルサービス局デジタル基盤部にて「生成AI担当」として働いています。主なミッションは、都庁内における生成AI利活用を推進していくというものです。生成AIによって業務効率化を図り、職員がより創造的な仕事に取り組めるようにする。そういった基盤づくりを進めているところです。

実績につながってきているものとしては、都庁でよくある業務ですが、規程チェック業務などの、人が大量の文章を読み、特定のルールに関する記述を探し出す業務です。  既定のデータをあらかじめ読み込ませておき、生成AIによって情報抽出できるようにする。そうすることで1時間ほどかかっていた業務を10秒ほどに短縮できるようなケースも出てきました。また、「生成AIで問い合わせ対応用のチャットアプリを作りたい」などの要望も多いため、これに対応したアプリの開発も進めています。もちろん、いずれも始まったばかりの取り組みですし、まだ一部の部署向けの検証しか実施できていません。今後さらに各局・各課へのヒアリングを進め、現場の課題を見つけ、最適なソリューションで解決をしていきたいですし、ゆくゆくは都庁全体に展開していければと考えています。

東京都入庁後、佐藤さんが担当してきた業務について

▼2021年度
【都立学校庶務事務システム(休暇申請システム)の開発】

「東京都内における学校教員の休暇申請」を紙運用から改善。「都立学校庶務事務システム」新規開発、導入を実施へ。

▼2023年度
【ファイルサーバーの管理/調査統計システムの運用・保守】

学校向けのアンケートを実施するための調査統計システムの利用・保守を担当。

▼2024年度
【TAIMS(東京都職員用PC)の運用保守・TAIMS更改の支援】
教育庁に対するTAIMSの配備や保守 、TAIMSの更改(三層ネットワーク分離の緩和)に関する業務を担当。

【システム構築のアドバイス】
新たにシステムを構築する際、機能要件やシステム設計全般に関するアドバイス等を実施。安全性の高いシステム構築を支援し、基本的な部分から専門的な部分まで幅広くアドバイス等を実施。

▼2025年度
【生成AIの普及・活用支援】

民間で培ったAIの知識を活かし、生成AIの担当として配属。Microsoftが提供する生成AI「Copilot」を都庁内で普及させる取り組みを実施。

【職員への教育・支援】
生成AIを活用し、業務を効率化する方法を職員に教育・支援。

【生成AIアプリの開発支援】
各局の個別業務に特化した生成AIアプリの開発を支援。例えば、対象局の規程に基づいた質問に答えられるチャットアプリを開発するためのプラットフォームを提供。このプラットフォームを活用することで、各局が生成AIアプリをスムーズに開発できるよう支援している。

続いて聞けたのが、仕事のやりがいについて。

東京都庁には予算も含め、先進的なプロジェクトを推進できる土台があります。仕組みづくりから挑戦できる、それがやりがいですね。まだまだ「レガシーな環境が残っている」とも言えますが、私自身はさまざまな課題があるからこそ、改善余地があり、挑戦しがいのあるフィールドだと捉えています。各プロジェクトを通じ、知らなかった業界、業務の知識も得られますし、仕組みについて学べる点がとてもおもしろいと思います。

例えば、入都1年目は教育庁に配属となり、学校の教員のみなさんが使う「休暇申請システム」の新規開発に携わったのですが、教育現場の実情や教員のみなさんの働き方について知る、とても貴重な経験となりました。もともと都立学校において教員のみなさんが休暇取得したい場合、事前の「紙申請」が必須だったのですが、「システム申請」に置き換えるというもの。当初は「なぜわざわざ紙の申請が必要なのだろう」と疑問だったのですが、さまざまな事情、経緯、紙で行うからこその利点も知ることができました。もともと研究職だったこともありますが、そういった「知らなかったことが明らかになっていく楽しさ」も日々感じられています。もちろん異動や出向が多いということはありますが、「次はこういうことを学べる」と前向きに捉えることで楽しみながら働ける環境だと思います。

tokyo_digital_01

やりがいの一方で、ミスマッチしないためにも知っておくといい「厳しさ」ついて「新たなシステムや仕組みを取り入れることは決して簡単ではありません。その点は事前に知っておいてもいいかもしれません。」と話をしてくれた佐藤さん。「例えば、学校における休暇申請システムも『紙のほうが柔軟に内容修正できるし、人とのコミュニケーションも取りやすい』という意見もありました。もちろん、紙にも良い面はあります。それらをしっかり理解した上で『システム化することで、自宅からパソコンで申請ができる』『規程に反した状態での休暇入力ができないようになっており、事務担当によるルールチェックが不要になる』などメリットを丁寧に説明し、理解を得ていきました。利用者が不安に感じる点をきちんと把握し、粘り強く解消し、向き合っていく。そういった姿勢は大事だと思います。何よりも東京都庁で働く職員みなさんに共通しているのは「都民の生活を良くしていきたい」という思い。熱心に、そして主体的に行動できる方が本当に多いです。そういった信念、意義を忘れず、忍耐強く向き合う姿勢は求められると思います。」

未来のために、小さな「一歩」を着実に

そして取材後半に聞けたのが、佐藤さんの「今後の目標」について。

まずは、現在携わっている生成AIプラットフォーム開発などを通じ、都庁内での生成AI利活用を前へと進めていきたいです。できれば利用率など何らかの数字として見える成果につなげていければと考えています。少し大きな視点で言えば、今後、世の中的にも教育や福祉をはじめ、さまざまな分野でAI活用は進んでいくはず。そういった時に東京都として率先して取り組んでおくことで、他の自治体にも参考にしてもらえるような事例が生まれるといいなと思います。また、国際的にも成果がアピールできれば、海外の主要都市からも東京都が注目してもらえるかもしれません。そういった存在に近づいていけるよう、貢献していきたいです。

そして最後に聞けたのが、仕事に対する価値観について。佐藤さんにとっての「仕事」とは一体どういったものなのだろう。

仕事とは、たとえ「小さな一歩」であっても、一人ひとりが何らかの課題を解決し、社会全体を少しずつ良くしていく取り組みだと思っています。もしかしたら研究分野にも近い考え方なのかもしれませんが、先人たちの「小さな一歩」の積み重ねがあり、そこに新たな提案が加わることで、社会全体が変わり、進歩していくものですよね。都庁をはじめ公務員の仕事も、プロジェクトや業務を引き継ぎながら、課題を一つずつ解決し、できるだけ多くの人たちが使いやすい「仕組み」を少しずつ作っていくもの。その一員として役割を果たすためには、自分自身が課題について深く理解すること、解決すべき手段について情報を得ること、学び続けることが欠かせません。そういった「成長過程を楽しむ姿勢」を大切にしながら、これからも「小さな一歩」を積み重ね、多くの人の役に立つ仕組みづくりに貢献していきたいと思います。

tokyo_digital_03
この記事を読んだ人におすすめの記事
最近ご覧になった求人に基づいたおすすめの求人
若手ハイキャリアのスカウト転職