陸・海・空、そして宇宙から深海まで、多彩な事業領域を持つ総合重工業メーカー「川崎重工」。いかに社会課題解決を起点とする「事業創造」を加速させられるか。前例のない新規事業を創出し、市場が求めるソリューションを創り出す――そのミッションに挑む特命組織が、社長直轄プロジェクト本部だ。この壮大な挑戦の最前線に立つ人材のキャリア採用が行われている。どういった人材が求められるのか。同プロジェクトでこそ得られる働きがいとは。本部長である加賀谷博昭さんの特別インタビューをお届けする。
▼ 社長直轄プロジェクト本部について
「社長直轄プロジェクト本部」は事業企画総括部、管理部、ヘルスケア事業推進部、近未来モビリティ総括部、eワークビジネス総括部、PNT推進部、ソーシャルロボット事業戦略部 の7部門体制で、川崎重工全社横断の新規事業創出を加速するために2021年に設立された社長直下の専門組織。事業ポートフォリオはグループビジョン2030に沿い、「安全安心リモート社会」「近未来モビリティ」を中心に横断領域での新規事業創出を推進している。
▼ 川崎重工業のグループビジョン2030
川崎重工業のグループビジョン2030は、「つぎの社会へ、信頼のこたえを(Trustworthy Solutions for the Future)」を掲げ、社会課題を起点に価値を創出する将来像を示している。重点分野として「安全安心リモート社会」「近未来モビリティ」「エネルギー・環境ソリューション」を設定し、医療・防災・遠隔ロボット、無人・電動化輸送、水素などの脱炭素技術を通じ、安心な暮らしと持続可能な社会の実現を目指すとしている。
(参考)グループビジョン2030
https://www.khi.co.jp/corporate/vision/gv2030.html


現在キャリア採用が行われているのは、「社長直轄プロジェクト本部」の最前線に立つ次世代人材。そもそも同部署はどういった組織なのか。その概要・ミッションについて加賀谷さんに聞いた。
まず川崎重工では、2020年に「グループビジョン2030」を策定しています。そこでは「安全安心リモート社会」「近未来モビリティ」「エネルギー・環境ソリューション」という3分野への注力を掲げており、このビジョンの実現に向け、ビジネスモデル転換、そして事業創造を強力に推進しています。その象徴的な存在が、2021年1月に発足し、現在キャリア採用を行っている「社長直轄プロジェクト本部」です。その名の通り、社長直轄で、社会課題解決を起点とした「前例のない新規事業開発」に挑む特命組織となります。
同部署には非常にユニークな立ち上げ経緯がある。その発端はコロナ禍にあった――。
社長直轄プロジェクト本部の前身組織はまさにコロナ禍において誕生しました。発足当初の人数は約30名ほどでしたが、航空宇宙部門の出身者を中心にロボット部門、技術開発部門からもメンバーが加わり、全く経験のない「PCR検査事業」に挑んだことが、組織立ち上げの発端になります。
当時、コロナ禍において非常に大きなダメージを受けた「航空需要」をどう回復させるか、その大きなミッションに挑むことになったのですが、そこで着眼したのが、パンデミックという状況下で「現場で感染リスクを抱えながら業務にあたっている医療従事者をロボットの力で守ること」です。現場の声をつぶさに拾っていくと、「検体採取後の検査工程を自動化するニーズ」が非常に高いことがわかり、急遽開発したのが、人が介在せず、非接触で検査が完結できるシステムでした。コンテナの中に13台のロボットを並べ、唾液からウイルスを増幅させて検査するプロセスの自動化していくというもの。さらにそのシステムや機械を販売するのではなく、検査1回あたりで料金をいただく、という新たなビジネスモデルへの挑戦でもありました。
まさに当時から社長(橋本康彦氏)が提唱していた、サービスとして価値を提供する「コト売り」への転換を最初に形にしたものでもありました。この事業はかつてないほどのスピードで立ち上がり、感染症法上の分類が5類に移行するまで続きました。その間、空港での検査の他、東京都の陽性者数を把握するモニタリングでも、当社のロボットが活躍することに。同事業を通じて医療業界や厚生労働省との連携が生まれ、もともと得意としていた官公庁との折衝という当社の強みを活かす良い機会にもなりましたね。
そして、この事業で得た新たなつながりを足掛かりに、ヘルスケア分野をはじめ、様々な新規事業への模索にもつながっていきました。例えば、医療分野から派生した院内搬送ロボット、空の物流課題を解決する近未来モビリティ、そして2025年4月に新たに発足したのが「ソーシャルロボット事業戦略部」です。それぞれの領域で、事業創造を加速させていく。それらを牽引していくのが「社長直轄プロジェクト本部」です。

加賀谷博昭 川崎重工業 社長直轄プロジェクト本部 本部長1992年に入社後、技術開発本部に配属。2013年3月には神戸大学にて工学博士号を取得。
その後、同本部にて水素チェーン開発センター 安全規格・システム開発室長(2015年4月)、技術企画推進センター システム開発企画部長(2019年2月)などを歴任。2020年4月に理事に就任し、技術企画推進センター副センター長と技術企画部長を兼務。2022年4月には役員に就任し、技術開発本部 副本部長として、システム技術開発センター長および技術企画推進センター長を兼任。2025年4月より、3代目となる社長直轄プロジェクト本部の本部長として現職に至る。


今回の公募における注力領域の一つである「ソーシャルロボット事業戦略部」。その概要について話を聞くことができた。
まず、川崎重工において「ヒューマノイドロボット」の研究開発自体は、2015年頃から始まっています。当時の該当部門を率いていたのも現社長であり、アカデミアから「倒れても壊れない、万が一壊れても修理しやすい ヒューマノイドが作れないか」という相談をきっかけに実社会で真に活躍することを目指し、国際ロボット展では2017年から毎回アップデートされた機体が展示されてきました。
そして、大きな転機になったのがAIの登場です。もともとロボットは、専門知識を持つエンジニアが緻密なプログラムを組まなければ、正確に動かすことができない、非常に難しい分野でもありました。ですが、AIの登場によっていわゆるローコード、ノーコードでの制御も可能となり、一気に注目を集めることとなりましたよね。私自身もロボット開発に携わってきましたが、今までは開発のあり方そのものが大きく変化していくと感じていますし、全く違った種類のエンジニアが必要とされることも実感しています。10年、20年先だと思っていた未来が、AIによって一気に数年単位にまで縮まっていく。こういった背景から「ヒューマノイドを本格的にビジネスの観点で捉え直そう」といった機運が高まり、「ソーシャルロボット事業戦略部」が立ち上がりました。
主にどういった用途、方向性のロボット開発、その事業化を目指すのか。その概略についても聞くことができた。
「ソーシャルロボット」という名前の通り、単に人間の仕事を代替させるのではなく、「人間と共生し、暮らしを共にする」というコンセプトを掲げています。そして、私たちが目指すのは、きちんと社会実装され、人の役に立つロボットです。そのため、ビジネスを成立させていくことも念頭に置いています。まずは、どういう場面でロボットが本当に必要とされているのか、そもそも二足歩行である必要があるのか、といった根本的な議論からスタートしているところです。もちろん究極的には、「人間の形をしたロボット」がまるで人間のように動き、良きパートナーになっていく、そういった未来は目指すべき一つのゴールだと思っています。一方で、どうすればロボットが身の回りで当たり前に動いている世界を早期に実現できるのか。社会に受け入れられる存在になり得るのか。そういった視点を重視し、必ずしも二足歩行にこだわらず、あらゆる可能性を探っている段階です。
具体的な用途としては、まず災害救助などが挙げられます。人が立ち入れない危険な場所での作業を代替できれば、人命を守ることにもつながるでしょう。こうした用途であれば、価値を見出してもらえる市場があるはずです。
また、ここ数年で人手不足の問題も急速に深刻化しました。以前から人口減少に対する代替手段としてロボットは注目されていましたが、いよいよ喫緊の課題となっています。例えば、都心ではビルを建てても清掃や警備の人員が集まらず、飲食店ではアルバイトが見つからない、介護や医療の現場では看護師不足で経営が成り立たない、といった話が日常的に聞かれるようになりました。ほんの数年前まで未来の話だと思われていたことが、今や目の前の課題となっています。こうした深刻な人手不足を解決する手段としても、ソーシャルロボットへの期待は非常に高まっています。もちろんAIによって対話能力は向上したものの、人の意図を汲み取って自律的に動くためには、依然として多くの課題が残されています。人と共に生活する世界の実現は、技術的なハードルがまだ高い。それだけの価値を提供できるロボットの開発、そして事業創出を目指していければと思います。

キャリア採用に注力している背景について「様々な分野の知見・経験が融合したドリームチームで、イノベーションを起こしたいと考えています。それが本部門でキャリア採用を積極的に進めている理由です。」と話をしてくれた加賀谷さん。「現在、当本部の従業員は約120名ですが、そのうち約4割がキャリア入社の方々です。これは全社的に見てもかなり多い比率と言えます。例えば、テレビ局、家電メーカー、旅行代理店、建設・設備会社…様々な業種・業態の出身者、多様なバックグラウンドを持つメンバーが活躍しています。今後「人間中心のロボティクス」を実現するためにも多様な経験や視点を持つ方々を求めています。」


続いて聞けたのが、社長直轄プロジェクト本部で働く魅力について。
社長直轄プロジェクト本部で働く魅力は、川崎重工が持つ様々な知見や資産を組み合わせ、社会課題解決型の事業をゼロから創出できること、そのものにあると思います。組織はまだ120人程度の規模なので、部門間の風通しも良く、上下関係を気にせず活発に議論できる雰囲気も魅力と言えます。自主的に動き、横のネットワークを築いていく、そういったメンバーがすぐ近くにいる環境は、大きな刺激になるでしょう。特に大企業の中でも、社内ベンチャーのように起業に近い経験ができるチャンスがあります。実際に、そうした魅力に惹かれて異動してくる社員も多く、優秀な人材の活躍のフィールドになっているようにも感じます。
また、この「社長直轄プロジェクト本部」では、エンドユーザー、お客様と直接対話を重視しています。まさに「PCR検査事業」で挑んだように、現場で困りごとを聞き、最適なソリューションを直接提案していくことができます。いかにお客様が気づいていないような課題を発見し、ソリューションを提案していけるか。ここに重点を置くため、非常に上流のプロセスを経験できます。大企業の中で、これほどダイナミックな経験ができる場所は、他にはなかなか無いと自負しています。加えてソーシャルロボット事業でいえば、まだマーケットが存在しない、まさに「これから」の領域です。ソーシャルロボットは、そもそもビジネスとして成立するのか、誰がこのサービスにお金を払ってくれるのか、という根本的な問いから始めなければなりません。その価値がまだ誰にもわかりません。もちろん壁も大きなものですが、そこに挑むからこその面白さがあります。自分たちでマーケットを創造し、価値を定義していく。これは、他では決して味わえない醍醐味になるはずです。
最後に、加賀谷さん自身の仕事への価値観についても聞くことができた。加賀谷さんにとっての「仕事」とは一体どういったものなのだろう。
私にとって仕事とは、非常にシンプルですが、自分の実行したことに対し、お客様から褒めていただくこと、喜んでいただくことだと思っています。その期待に応えるために、もっと工夫しようとアイデアが湧いてきますし、難易度の高い技術的な挑戦もできます。それらがお客様に届き、お互いがハッピーになる。その循環を常に意識してきました。だからこそ「決まったことをこなす」のではなく、どうすれば相手に喜んでもらえるか、考え尽くし、喜ばれた対価として給料をいただく。それが仕事の本質なのではないかと考えています。そういった意味でも「社会実装」という言葉の根底にあるのは、結局、いかに人を喜ばせるか、ということに尽きるのだと思っています。技術を何のために使うのか。それは、社会を良くするためであり、目の前にいる一人ひとりの役に立つためです。大袈裟にいえば、利他の心と言えるのかもしれませんが、結局、突き詰めればそこにたどり着くもの。その本質を忘れずに、これからも新たな挑戦を続けていきたいです。

加賀谷さんに聞く「求める人物像」と「応募者へのメッセージ」
社長直轄プロジェクト本部は、もともとエンジニア中心だったチームに、マーケティングや事業企画など多様な経験を持つ人材を外部からも集めて発足した組織です。そのため、エンジニアだけでなく、事業開発を牽引するリーダー、AIの専門家、そして事業目線で物事を考えられるメンバーも必要としています。
私たちは、特定の経験を持つ方というよりも、未経験の領域にも臆することなく飛び込んでいけるチャレンジ精神旺盛な方を求めています。例えば、ソーシャルロボットのような変化の速い市場では、失敗を恐れずスピード感をもって挑戦し、職務領域にとらわれずに行動することが不可欠となります。実際にチームには現場を深く理解するため、自ら介護士の資格を取得したメンバーもいます。やはり現場を経験した人の言葉には、リアリティと説得力があります。このように自律的に目的を持って動けるかどうか、この組織では輝けるか。そのあたりは選考時のポイントになると考えています。
最後にメッセージとしては、まず川崎重工が誇る技術資産を活かし、社会課題解決という大きなテーマに挑んでいく、ここは非常に大きなやりがいになるはずです。自分の仕事が社会を動かす、という確かな手応えが得られる環境があります。また、現場で使われ、人の暮らしを支える「本物の価値」を生み出していくことができます。ぜひ、未来を創る仲間として、あなたの挑戦を心から歓迎します。共に社会に新しい選択肢を届けていきましょう。

