掲載日:2026/01/20NEW更新日:2026/01/20
求人掲載中
ロケット打上げのための宇宙港、北海道スペースポート「HOSPO(*)」ーーその運営を手掛けるSPACE COTAN社にてロケット打上げ射場の開発を担う森 裕紀さん(37)を取材した。「ロケット射場の開発だけではなく、宇宙関連企業誘致、そして地域の雇用創出も推進していく」と語る森さん。同社が目指す「宇宙版シリコンバレー」創出の構想とは。森さんのキャリア・入社経緯と共に話を聞いた。
(*) 北海道スペースポート「HOSPO」について
民間に開かれた商業宇宙港。これまで、日本のロケット打上げはJAXAなどの射場に限られ、民間需要や海外需要を受け止められる状況ではなかった。こうした中、政府は「宇宙基本計画」に基づき、2030年代前半に国内で年30回の打上げ実現を目標に掲げている。HOSPOは、民間に開かれた宇宙港としてその目標を支える先駆けとして位置付けられている。
宇宙港を核に、まだ見ぬ"宇宙のまち"をつくる
もともとはポスドク研究員として研究活動を経て、複数のIT関連企業でPM、開発・運用の経験を積んできた森さん。SPACE COTANへの志望動機から伺った。
SPACE COTANのビジネス、そしてビジョンや構想は、自分の仕事への価値観にマッチしており、非常に魅力的に感じ、入社を決めました。たとえば、中核事業は、ロケットの安全かつ効率的な打上げです。類似例として空港の運営事業者が挙げられますが、ロケット射場の運営主体という考え方は、まだ世の中に広くは知られていない新しい業態と言えます。
さらに、大樹町に宇宙版シリコンバレーを作っていく壮大な構想があります。ロケット射場を軸に、ロケットメーカーや部品メーカーなど関連企業を誘致して宇宙産業の裾野を広げて根付かせる。観光・教育といった非宇宙領域の企業・組織も巻き込み、国内外から観光客を呼び込んでいく。ひいては十勝地方の酪農、農業、漁業といった一次産業にも良い影響を波及させていく。この壮大なビジョンを、単なる夢物語ではなく、地域やJAXAと密に連携し、地に足をつけ戦略的に推進しています。
SPACE COTANが本社を置く北海道大樹町は、1980年代から地理的優位性を活かし「宇宙のまちづくり」を推進してきた歴史があり、同社はその構想を具現化する中心的な役割を担う。
改めて情報収集をしていくなかで、「まさに自分が求めているような環境があるのではないか」と確信が深まっていきました。誰かが作ったレールの上を行くよりも、ルールや組織が未整備な状態から、何かを形にしていくような仕事をしたい。そういう研究者気質の自分に合っているのではないか、と。
また、CEOやCTOと対話し、あらゆる点においてほとんど違和感がなく「この組織ならフィットできる」という直感もありました。他にも何社か選考は受けていたのですが、事業の魅力から地域文化まで総合的に判断し、最も納得感があったのが、SPACE COTANでしたし、当時の決断は間違っていなかったと今も確信しています。
森 裕紀|宇宙港開発グループ プロジェクトマネージャー、博士(理学)
大阪大学大学院で理論物理学を専攻し博士号(理学)を取得。ポスドク研究員での研究活動や海外滞在等を経て、IT/情報系企業に転身。AI/機械学習によるモデル開発を専門としつつ、データサイエンスやPM、開発・運用に関連する業務を幅広く遂行。その後、LiDARの研究開発や気象データ解析に携わり、2024年9月よりSPACE COTANに参画。
引用:https://hokkaidospaceport.com/about/
地域とともに、宇宙産業の広がりを創り出す
こうして2024年9月に入社した森さん。現在担っているミッションとやりがいについてこう語る。
私のメインミッションは、HOSPOで高頻度なロケット打上げを実現することです(*)。射場としてロケット打上げに必要な技術の研究開発もさることながら、高頻度打上げに向けて求められる機能・設備・運用プロセスに対して、どのようにスタッフを配置し、どんなタスクを任せるのか。1つ1つの要素を検討し関係性を紐解きながら、射場全体のオペレーションを俯瞰して設計しています。
(*)SPACE COTANでは早期にHOSPOから年間10回以上のロケット打上げを行なうことをマイルストーンとしており、その目標に向け、射場の整備を進めている。日本でのロケット打上げは、現状では年間最大6回程度。HOSPOで年間10回以上の打上げを実現するには、技術力と新たなスキームが必要とされる。
特に働くなかでやりがいに感じているのは、前例がないなか、既存の枠組みにとらわれず、全く新しいスキームやオペレーションをゼロから構築していけること。そして、自分たちの事業を通じて、大樹町に新たな仕事を生み出していくプロセスに直接関われるという点です。
例えば今は、まっさらな土地に電気や水道などインフラを整備する段階なので、地域の工事会社に協力をお願いしています。今後、ロケット工場などを建設するフェーズになれば、さらに多くの建設工事関連企業に協力をお願いしていくことになります。事業のフェーズに応じて、多様な地域企業を巻き込んで進めていくので、その都度、そこには新たな仕事が生まれていくと言えるわけです。
SPACE COTANが描く、北海道スペースポートシティのイメージ。左上のロケットがある射場を核とし、時計回りに漁業、酪農、農業、教育施設、観光・アクティビティ施設が一体となったまちをつくっていく。2024年1月にはJAXAの「宇宙戦略基金」に採択され、次世代射場の技術開発を推進。また、2025年10月には三井物産と基本合意書を締結するなど、民間主導で構想の実現に向け着実に前進している。
大樹町は一次産業が中心ですが、酪農や農業においても後継者不足や若者の人口流出といった深刻な問題を抱えています。こうした中で、この町に新たに宇宙産業を根付かせ、雇用を創出していくことは、非常に社会的意義があると考えています。北海道に生まれた、あるいはこれから生まれてくる子どもたちにとっても、「このまちには宇宙の仕事がある」と思えることは、1つの希望となるはずです。
私自身、仕事をするなかでは地域のみなさんと話す機会も多いのですが、町の将来を真剣に考え「なんとかしなければ」という強い思いを持つ方々にも多く出会います。そういった方々からいただく激励の言葉や、親身に協力していただけることは、私たちとしても非常に嬉しく、大きなモチベーションにもつながります。
そして、なにより事業の壮大さも大きな魅力の1つです。これほどのスケールの事業に関われる機会は、日本中を探してもほとんどないでしょう。
私たちの仕事は、未来のインフラを創ることです。現状は大樹町と二人三脚で取り組んできていますが、将来的には北海道や国をはじめより多くのプレイヤーを巻き込むプロジェクトにしていく必要があります。そのために、宇宙関連企業はもちろん、多様な業種業界の非宇宙関連企業も誘致し、宇宙産業の関係人口を増やし広げていく。これもまた、私たちに課された重要な使命だと捉えています。
やりがいの一方で、難しさについてこう話してくれた。
「宇宙」という言葉は、まだ身近に感じられない方も多いと思います。特に、私たちが整備している射場は住民の方が直接利用する施設ではないため、宇宙産業がもたらす地域への具体的なメリットを、丁寧にお伝えするように努めています。例えば、農業分野ではすでに衛星データ活用が進んでおり、トラクターの自動運転などで省力化に貢献できます。また、衛星から良好な漁場をモニタリングするようなアイディアもあります。こうした地域の目線に立った対話を、これからも大切にしていきたいです。
森さんの転職前後での働きがいの変化を示すグラフ。
世界に誇る「アジアのハブ宇宙港」へ
そして取材後半に聞けたのは、今後の目標について。
まずは射場を完成させることが当面の目標です。私たちは早期にHOSPOから年間10回以上の打上げを行う目標を掲げていますが、世界の動向に目を向けると、決して悠長なことは言っていられない状況です。
例えばアメリカでは年間100回を超える打上が行われており、すでに桁違いの差が生まれています。さらに、世界的な打上げ需要は年々伸びています。日本の宇宙産業を発展させていくためには、年間10回以上はあくまで通過点。将来的には国内・海外のロケットを問わず、より高頻度に打ち上げられる体制を整えていきたいです。そうして、世界との差を少しでも縮め、アジアのハブ宇宙港として確立させることに貢献していきたいです。
最後に、森さんの仕事との向き合い方とはーー。
これまでのキャリアを振り返ると、常に自分のその時々の気持ちに素直に向き合ってきました。
年齢やキャリアのステージによって関心の対象が変わるのは自然なこと。都度、自分が何にやりがいを感じるのか、何に意義を感じるのかを見つめ直すことで、それを軸に仕事の環境を選択してきました。
私のやりがいの源泉は、形のないものを練り上げ、自分が納得できる形に創り上げていく、そのプロセス自体にあります。だからこそ、いわゆる0→1に挑むSPACE COTANの仕事は、自分の時間を投じて向き合う価値があると感じています。
今は射場の整備が私のミッションですが、事業フェーズが進めば役割も変化するでしょう。その都度、新たな課題を見出し、自分なりに解釈し、実行に移していく。そうした挑戦をいかなるときにも経験できる環境がここにはあります。これからも、自分が心から納得し、前を見据えられる仕事に真摯に取り組んでいきたいです。