掲載日:2026/02/19NEW更新日:2026/02/19
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経済産業省(以下、経産省)が、キャリア採用(社会人経験者採用)を実施へ。同募集に伴い、重工メーカー勤務を経て、2020年4月、当時29歳で経産省に入省、現在「排出量取引制度」設計に携わる中山 竜太郎さん(34)を取材した。なぜ、彼は経産省でのキャリアを選んだのか。そこには重工メーカー時代に抱いた「政策決定プロセスに携わっていきたい」という思いがあった――。
※画像内は転職当時の年齢となります。
「この潮流はどこから来るのか?」素朴な疑問が転職のきっかけに
前職、重工メーカーのR&D部門で約4年間勤務していた中山さん。なぜ経産省への転職を決めたのか。前職の仕事内容と、その背景から聞くことができた。
前職は、どのような装置・条件で製造すれば最も費用対効果が高くなるか、いわば「研究技術を量産化につなぐ」化学系の研究職として働いていました。仕事自体は楽しく取り組むことができていました。
そういった中、2010年代後半あたりから、後の「2050年 カーボンニュートラル宣言(*1)」へとつながる社会的な動きが活発化し、社内でもまさに「SDGs」の流れに沿うようなバイオマス燃料、航空部品の製造に関する研究などを担当しました。その時に湧いたのが、「そもそもこの大きな潮流はどこから来るのだろう」という想いでした。素朴な疑問ではあったのですが、自分の中では無視できない問いでもありました。企業の経営方針や事業活動の方向性は、一体何に影響されて決まっているのか。どれほどこの技術は社会に広がっていくのか。その全体像を見てみたい。こういった思いが日に日に強くなっていきました。
(*1)2050年 カーボンニュートラル宣言…2050年までに温室効果ガスの排出を全体としてゼロにする「2050年カーボンニュートラル」日本政府による宣言。CO2などの排出量から吸収・除去量を差し引いた合計を実質ゼロにする目標で、産業構造の転換と省エネ、再エネ推進が不可欠な取り組み。(参考)https://www.meti.go.jp/policy/energy_environment/global_warming/ggs/index.html
また、研究所では、主に社内の製造部門とのやりとりしかなく、どこか焦りのようなものもあったのかもしれません。自分の仕事は社会に対してどのような価値を生んでいるのか。より広い視点で世の中の動きや、その背景にある意思決定の過程が見える仕事がしたい。分析や提言に留まらず、社会のルールや方向性を決める、意思決定プロセスに直接関与したい。それらが実現できるのは、産業政策を所管する経産省しかない。そう考え、入省を決めました。転職した当時はちょうど29歳。30代目前という年齢的な意識もあり「20代のうちなら何とかなるだろう」という気持ちも、挑戦への後押しになりました。
中山 竜太郎|経産省 GXグループ 環境政策課 環境経済室 室長補佐
研究職から、経産省の職員へのキャリアチェンジについて
「私自身、研究職・理系のキャリアに対するこだわりは全くありませんでした。大学院で培った知識、前職までの経験は一度リセットし、全く新しい分野に挑戦する、そういったつもりで転職活動をしていたように思います。ただ、経産省の選考面接では“製造業に関連する政策に関心がある”といったことは伝えていました。というのも、製造業が抱える課題が多少は理解でき、現場の感覚がわかる、そこは強みだと考えました。また、これは入省後に知ったことですが、じつは経産省にも研究や理系の知識が必要とされるポストもたくさんあります。まさに私自身が現在担当している「CO2排出に関する制度設計」もその一つです。CO2の排出源の多くは工場であり、発生メカニズムを突き詰めれば化学反応に行きつきます。業種ごとに排出量の基準値の設定、技術的な議論が必要な場面で知識が活きることも。転職当時は“知識・経験を活かそう”という意識はありませんでしたが、偶然にもそれらが活きるポストに就くことができ、とても運がよかったと思っています。」
「制度設計」で、社会の新たなルールづくりを
こうして2020年4月に入省した中山さん。省エネルギー推進を経て、現在は「排出量取引制度(*2)」の設計を担当しているという。その仕事内容とやりがいとは。
2026年4月から本格始動する「排出量取引制度」の設計と、その方針を具体化していく政策担当を担っています。この制度は、言ってしまえば「炭素に値段をつける」というものであり、非常に大胆な政策だと思います。
(*2)排出量取引制度について・・・CO₂排出という環境負荷に「価格」を付け、企業の脱炭素に向けた投資を促すための仕組み。日本では、単なる「環境規制」ではなく、脱炭素を「新たな成長機会」へと繋げるための「産業政策」として位置づけられる。政府がより多くのエネルギーを使う企業などを対象に、CO₂を排出できる上限量として、いわゆるチケットのような「排出枠」を割り当て、各企業は実際の排出量をその枠内に収める義務を負う。この「排出枠」を企業間で売買できる。同取引を通じ、削減努力が直接的な経済的リターンに結びつくため、企業はより積極的に省エネ技術の導入、再生可能エネルギーへの転換といった投資を進めるインセンティブが得られる。社会全体で見れば、より少ないコストで効率的に削減できる企業がその役割を担うことになり、費用効率的な排出削減の実現を目指す。「企業の行動変容を促す市場メカニズム」を活用し、経済成長と脱炭素の両立を目指す、戦略的な取り組みとなる。(参考)https://www.meti.go.jp/policy/energy_environment/global_warming/ets.html
同制度を通じた主な目的は「脱炭素と経済成長の両立」、つまり脱炭素分野への投資を促していくことです。どれだけ企業に「投資をしていこう」と感じてもらえる水準の基準設定ができるか。チケット(排出枠)を過剰に配れば、企業の投資意欲は削がれ、厳しすぎれば経済活動を阻害しかねません。特に業種ごとにどのような基準(ベンチマーク)で「排出枠」を割り当てるか、企業の国際競争力にも関わる話であり、公平性と実効性の両立が求められるため、産業界の専門家たちと技術的な議論を重ね、慎重にルールを策定していきました。発電セクターでいえば、電力の安定供給も重視されるなか、省内の関係部署と連携し、同制度以外の政策も含め、どこでバランスを取るべきか、常に議論を重ねてきたところでもあります。
様々な検討事項があり、いかにバランスを取るか。ある意味「複雑なパズル」を解くような難しさはありますが、日本ではまだ前例がほとんどなく、まさに手探りで進める新しい挑戦です。もっと言えば、この制度は2026年4月から、本格的に始動するもの。制度は「つくって終わり」ではなく、社会実装され、運用されてこそ意味があります。あくまでも私の場合ですが、設計から運用まで責任を持って関わることができており、そこに大きなやりがいを感じています。
やりがいの一方で、そこには「厳しさ」もあると中山さんは率直に話す。
いかに政策を具体的に実現していくか。国の政策は影響範囲が広く、いわば「一対多」のコミュニケーションが基本となり、同時に公平性を保つという大きな責任が伴います。その職務遂行の上で特に重要となるのが「調整力」です。入省時、採用担当の方から「調整力が大事」と聞いていましたが、正直、当時はあまりピンと来ていませんでした。ですが、実際に働く中で、その重要性を痛いほど思い知らされました。対象となるのは製造業やエネルギー関連企業など約400社の企業、そして約20の業界団体に及びます。その全ての方々と対話を重ねていく。こちらからの提案に対する反応もさまざまで、これまであまり経産省と接点を持ったことのない業界の方々だと前提が共有されていないため、関係構築からスタートし、粘り強い対話が必要となる場面も。そして、より重要なのが、新しい制度を定着させていくことです。今回の仕組みは複雑なため、設計段階以上に丁寧なコミュニケーションが求められます。いかに国の方針をご理解いただき、円滑に運用が進められるか。まさにここからの取り組みとして力を入れていくところです。
前職経験が活きている場面について「同じ技術分野出身のエンジニアの方とお話することもあり、親近感を持っていただけることもあります。」と中山さん。「ただ、制度について「そういった対応は難しい」との声をいただくことも。物理的に不可能なのか。変化に対する心理的なハードル、前例がないことへの慎重な姿勢からくるのか。その違いは冷静に見極め、根気強く対話していくことも重要な役割となります。」
根拠に基づき、揺るぎない政策の推進を
そして取材後半に聞けたのが、今後の目標について。
改めてですが、まずは「排出量取引制度」の制度理解促進、そして活用推進にしっかりと取り組んでいきます。国際情勢が不安定な中で「脱炭素」という長期的な目標を掲げる難しさはありますが、将来が不確実だからこそ、国として「予見可能性」を示す重みが増していると捉えています。そもそも、なぜ、この取り組みが必要なのか。根拠を積み重ねて説明を尽くし、将来に向けた事業計画を立てる拠りどころとなる、そういった揺るぎない政策として進めていければと思います。私自身、入省してから間もなく「2050年 カーボンニュートラル宣言」が発表され、政府が方針を打ち出すことで企業行動が大きく変わっていく、その事実を目の当たりにしました。現在も多くの企業が「2050年カーボンニュートラル」を前提とした事業計画や研究開発計画を立てています。こういった経験を通し、肌で感じたのが「揺るぎない政策」への信頼です。企業が安心して未来へ投資するための土台となる、そういった政策としてしっかりと推進していければと考えています。
また、中長期、個人的な目標としては、エネルギー・環境分野以外の領域への理解を深めていきたいと考えています。エネルギー問題もそれ単独で動いているわけではなく、貿易をはじめ多様な経済活動と密接に関連しています。そういった領域への理解が深まれば、より精度の高い政策立案ができるようになるはず。私はメーカーのR&D部門出身で、現場感などミクロがわかる強みは活かしつつ、今後はよりマクロな視点を養い、様々な領域をつなげ、物事を考えられるようになっていければと思います。
最後に、中山さんにとっての「仕事」とは一体どういったものなのだろう。
私にとって仕事は、「社会との接点」そのものだと捉えています。これはもしかしたら、前職で「社会との距離が遠い」と感じていたことの裏返しでもあるかもしれません。特に経産省は所管する業界が多岐にわたり、仕事を通じて「社会との接点」が格段に増えたように思います。また、仕事をする上で、できるだけ「物事の全体像」を捉えていきたい、という思いもあります。もともと大学院時代に研究していたのが、「工場全体の生産性最適化」でした。工場は多くの装置がつながり、成り立っていますが、たった一つの装置だけを改善する「局所最適」では、かえって他の工程でボトルネックが生まれてしまう。そうではなく、「全体を良くすること」をミッションとし、それぞれの関係性を深く理解した上での「全体最適」に貢献していきたい。そういった思いも今後の仕事で叶えていければと思います。