日本経済新聞社にて記者を5年経験。MBA取得後、国土交通省を経て、PwCコンサルティングに入社したS.Fさん(32)。なぜ、彼女はコンサルタントとしてキャリアを選んだのだろう。そしてなぜ “ PwCコンサルティング ” だったのか。そこにあったのは、最前線で社会課題を解決し、目の前にいる人々の役に立ちたいという意志だった―。
世界有数のプロフェッショナル・サービス・ファームとして知られるPwC。世界158カ国、23万人を超えるプロフェッショナルが在籍する。
その中において、コンサルティング部門である、PwCコンサルティング合同会社が提供しているのは総合的なコンサルティングサービス。企業の経営戦略策定から業務改革、そしてITを有効に活用した改革、さらには行政と連携した社会課題の解決まで、その領域は多岐に及ぶ。
今回取材したのが、同社で活躍するコンサルタント(シニアアソシエイト)であるS.Fさん(32)。じつは彼女、異端ともいえるキャリアの持ち主だ。
早稲田大学を卒業後、日本経済新聞社に入社。金融機関から地方公共団体、地場産業まで幅広くカバーする記者として5年間働いた後に、台湾大学大学院に進学。MBAを取得した。さらに国土交通省を経て、PwCコンサルティングに入社している。
これまでのキャリアについて彼女はこう振り返ってくれた。
「必ずしも明確なキャリアビジョンがあったわけではありません。ただ、より強く関心が持てる道を選択することで、多くのターニングポイントが訪れました。変化し続けるということは、常に前進のための一歩だと捉えています」
彼女がPwCコンサルティングを選んだ理由、その一つが社会課題を解決する最前線に立ちたいという思い。彼女の物語から、これからの時代に活躍していくためのヒントが見えてきた―。
ファーストキャリアを日本経済新聞社でスタートさせた彼女。当時入社5年目、仕事は順調。充実した日々を送っていたと振り返る。
ただ、27歳を迎えるタイミングで、それまで考えもしなかった関心が出てきたという。
「当時私は地方支局で地場産業を担当していたため、地域の中小企業を取材することが多くありました。特に経営者の方々にお話を伺う機会が頻繁にあったのです」
そこで目の当たりにしたのが、地方の零細企業・中小企業の経営者が抱えている課題。
「取材で “ 今後、どのようにしていきたいですか? ” と聞くと、なかなか経営者のみなさんから答えが返ってこないんですよね。 “ …逆にどうしたら良いと思いますか? ” と質問されることも多くありました。経営が立ち行かないなど困っている方もいた。それに答えられない状況に葛藤を抱くようになっていました」
もちろん答えられるだけの経験もなかったが、新聞社は常に中立。第三者としての立場を貫かなければならなかった。
「目の前に課題がある。そこに応えていきたい。記者とは違うキャリアを歩んでいきたいと考えるようになっていました。当時27歳。キャリアチェンジのために動くなら今しかないと考えました」
こうして別の道を模索することになった彼女。選択肢のひとつにあったのが、コンサルティングファームでコンサルタントとして働くというものだった。
「誰かの助けになりたい。そう考えた時、コンサルタントとしてのキャリアが選択肢にありました。ただ、記者からコンサルタントへのキャリアチェンジは難しい。転職活動は上手くいきませんでした」
そして思い切った行動に出る。会社には告げず、自ら勉強し、海外の大学院を受験。見事合格を果たした。それは、大学院を卒業する「2年後」のキャリアチェンジを見据えた選択だった。
「マスコミに勤めていては得られない肩書きがあった方がいい。そう考え、MBAを取得するための進学という道を選びました」
こうして台湾大学に進学した彼女。台湾を選んだのは、住みやすさ、学費の安さ、独学で習得した中国語力…すべて鑑みた結果だったそうだ。
この大学院時代の経験も、彼女のキャリアの可能性を広げる時間となっていった。MBA取得を果たしたことはもちろん、個人活動を続けていたのだ。新聞記者時代のネットワークをもとに、地方自治体から依頼を受け、調査業務受託。そしてこれが次のターニングポイントとなった。
▼PwCコンサルティング|グローバル人材育成について
世界的に展開するクライアントと日々対峙する同社では、海外とのコミュニケーションは日常的。国際感覚を持ち、海外でも臆することなく発言し行動できる人材育成のための育成プログラムを提供する。オフィスにはPwCの海外法人のスタッフも多く在籍するのも特徴。さらに海外経験が積めるフィールドも増やす予定だ。
折しも訪日外国人旅客数が1,000万人を超えた頃だった。台湾から日本の地方を訪れる人たちの調査を通じて「地方自治・創生などの社会課題に対し、行政サイドから関わる」というキャリアの選択肢が生まれたのだ。驚くべきことに、在学中に国家公務員試験を1回で合格。1.5%という倍率を突破し、国土交通省に入省した。
「公務員も “課題を認識し解決の方法を見出す” という意味では民間と同じ。そう考え、国土交通省で働くことにしたんです。その時の仕事もとても充実しており、やり甲斐がありました。私が担当していたのは特別会計の歳入部門。当時、日本に28か所ある国管理空港の着陸料の策定に携わっていくというものでした。着陸料についてエアライン側に丁寧に説明していくという仕事。たとえば、初年度の就航に関し、1年間全額無料にするといったキャンペーンを推進していく。そうすることによって発着便数を増やすことができ、地方の空港に多くの人が呼び込めます」
当時、着陸料のほか、航空機に搭載する燃料にかける税金の税率も担当していたため、日本を代表する大企業でさえ扱えないような桁違いの金額、大規模な歳入を、限られた人員でカバーしていた。スケールの大きな仕事にやりがいを見出してたが、同時に葛藤も抱えるようになっていたそうだ。
「国土交通省では約2年勤務し、充実していました。ただ、 “私が生きていくのは霞ヶ関ではない” といった思いもあって。扱う予算も大きく、重要な決定に携わっていく。当然、プロジェクトに携わる人も多く、決裁は一瞬でしたが、意思決定に時間がかかるものもありました。裁量とスピード感のある仕事をしていきたい。目の前にいる顔の見える人々の役に立っていきたいと考えるようになりました」
こうして、新聞記者時代から抱いていた「コンサルタントになる道」を、もう一度歩み始めることになっていった。
ここで気になるのが、数多あるコンサルティング会社のなかで、なぜPwCコンサルティングだったのか?ということ。重要視したのが、組織としての風通し、カルチャーだった。
「面接官の中に女性がいて、自社についてありのままについて話をしてもらうことができました。とても自然体だったんですよね。質問したことに全て誠実な答えがもらえた。そのフラットさが許容されるカルチャーがあると感じることができました。」
そこには、 “やりたいことにこだわり過ぎない” という考え方もあったそうだ。
「正直、携われるプロジェクトや案件にあまりこだわりはありませんでした。もう31歳になっていましたし、誰かに何かを求めるのではなく、ほしいなら結果を残し、自分で作っていけばいい。ポジションも同じ」
優秀なコンサルタントに共通するのも、もしかしたら “順応性” といってもいいのかもしれない。
「たとえば、特定業界に対して詳しいスペシャリストであっても、スキル的にはジェネラリストであることが求められていくケースも多い。それが優秀なコンサルタントの条件だと考えています。砕いて言うならば、食わず嫌いせず、素早くキャッチアップし、順応していく。私自身はまだまだこれからですが、大事にしたい考えです」
入社1年が経とうとしている現在。入社前とのギャップはほとんどないという。
「特に “人” に対して、信頼を置くことができています。自立的に動ける人間に対し、意見が尊重される。柔軟性のある対応を、それぞれが考え、実行していく。そう考えると与えられることを待っている受け身な方はマッチしないかもしれません」
プロフェッショナルが有機的につながり、主体的にアクションを起こしていく。これがPwCで活躍するための条件といってもいいだろう。
▼PwCコンサルティング|キャリアパスについて
職域ごとに求められる役割が明確化されているPwC。アソシエイト、シニアアソシエイトなど若手はコンサルタントに必要となる業務スキルとテクノロジースキルをバランスよく身に付け、専門性を磨くことが期待される。その後、マネージャーになると、プロジェクト全体の管理やクライアントとの関係構築など、高いマネジメント能力が要求される。マネジメント領域だけでなく、業務(戦略)のスペシャリストやテクノロジーのスペシャリストなどのキャリアパスが用意され、どの方向に進むかを社員自らが選択できる。
そして取材は終盤へ。彼女が仕事で大切にしてきたことについて伺うことができた。
「どのような仕事においても、誰かがいてくれてこそ完成するものだと捉えています。私一人では何もできません。だからこそ、相手のことを最大限尊重していく」
心がけてきたのは、常に誠実であるということ。
「適切なタイミングとコミュニケーションで依頼する。感謝を伝える。誠心誠意、対応をしていく。本当に基本的なことですが、忘れずにいたいんですよね」
他者との関わりを大切にしたいと語ってくれた彼女。最後に伺えたのは、 “あなたにとっての仕事とは何か?” という問いへの答えだ。
「私にとって仕事は、相手に良い影響を与え、私も影響されていくこと。お互いが変化していけるものなのかもしれません」
“変化” は彼女のキャリアにとっても重要なキーワードだ。
「変化することは前進すること。変わらないことは、置き去りになっていくことと同じだと思っています。前例にとらわれず、初めてのことをやっていく。そうすることでいつも人生のターニングポイントに巡り会えたと思っています。私自身、前例がない方を好むタイプでもありました。それに伴うリスクは、意外と楽しんでいるのかもしれません」
そう語る彼女の表情は、充実感に満ちていた。そして今、PwCコンサルティングにて2017年7月に立ち上がった公共事業部に所属している。契約形態や手続きなど含め、社内で取り扱った事がない案件も多いそうだ。「前例がない」を好む彼女の挑戦は、これからも続いていくだろう―。