INTERVIEW
Goodpatch|デザインストラテジスト

デザイン会社初の上場「Goodpatch」で挑む、企業の新規事業支援。事業構想からクライアントのビジネスを成功に導く

掲載日:2021/04/05更新日:2021/09/02

2020年6月上場後、ファンドの立ち上げやSDGsを志す団体/企業へのデザイン無償支援などを立て続けに発表したGoodpatch。新規事業立ち上げ、プロダクトのUI/UX改善など、戦略策定~グロースフェーズまで一気通貫で手がけるグローバルデザインカンパニーだ。東京・ベルリン・ミュンヘンに拠点を置き、「デザインの力でビジネスを前進させる」ことを目指す。今回お話を伺ったのは、総合電機メーカー、デロイトを経てGoodpatchに入社した伊澤和宏さん(32)。約束されたキャリア、戦略フェーズのコンサルに関わってきた彼は、なぜ、Goodpatchを選んだのか?そこには「デザイン先攻の会社で手応えを得られる事業支援をしたい」という想いがあった。

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デザインの力でビジネスを前進させる。唯一無二のデザインカンパニー「Goodpatch」の躍進

デザインの力でビジネスを前進させる――。

Goodpatchは東京・ベルリン・ミュンヘンに拠点を置く、グローバルデザインカンパニーだ。新規事業立ち上げ、プロダクトのUI/UX改善など、戦略策定~グロースフェーズまで一気通貫で手がける。

2020年6月、いわゆるデザイン専業として国内初と言われる上場を果たしたGoodpatch。ファンドの立ち上げ、サントリー食品インターナショナル(株)のヘルスケアアプリSUNTORY+の0→1のアイデア創出からプロダクト開発/グロース、プロモーション支援などで注目を集める。いわゆる「納品して完了」の受託ではなく、事業のグロースまで並走し続けるのが彼らの強みだ。

事業は「デザインパートナー事業」「デザインプラットフォーム事業」の2軸を展開。これまで「デザイン」は暗黙知的、感覚的に捉えられてきた領域だ。そういった「暗黙知」「属人化」にメスを入れ、ナレッジ、方法論、アプローチを体系化。組織で循環させ、持続可能なビジネスのソリューションとして提供していく。

さらにいえば、自社で独自にプロトタイピングツール『Prott』、2020年4月にはテレワーク環境でのクラウド型ワークスペース『Strap』をリリース。

UI/UXを含む「体験価値」のデザイン、DX推進で必要とされるデザインのプロセスにもインパクトを与えている。

こういったGoodpatchにおいて、2019年10月に入社し、デザインストラテジストチーム*の一員として活躍する伊澤和宏さん(32)にお話を伺うことができた。

もともとデロイトにてビジネスデザイナーとして働いてきた伊澤さん。スタートアップや大企業の新規事業創出を支援してきた。なぜ、Goodpatchに入社したのだろう。

「事業やサービスを通じて実現したい"ありたい未来"を描き、その未来を実現するための道筋を設計する。高速でプロセスを回し、アイデアの価値を検証する。こういったGoodpatchだからこその「広義のデザイン」を提供していきたいと考えました」

市場が成熟していくと、事業・サービスは機能面での差別化が難しく、コモディティ化していく。どこが差別化、競合優位性となるのか。UI/UXはもとより、伊澤さんが語る「広義のデザイン」を本質的な価値として提供していける。それはGoodpatchが唯一無二たる所以でもある。

より具体的なケース、伊澤さんが携わったプロジェクトをもとに、Goodpatchで働く魅力に迫っていこう。

*デザインストラテジストチーム…2019年に立ち上がった総勢12名の特命チーム。世界レベルのプロダクトとユーザー体験を生み出す環境をつくるために、クライアントやユーザーと密接に関わりながら働くポジション。デザインするプロダクトが定まっていない不明瞭な段階で、様々な戦略を駆使してデザインに取り組んでいく。クライアントの組織においてさまざまなレベルの変化を起こしていくために、変革と生産の両方の役割を担っていく。

goodpatchデザインストラテジスト伊澤和宏さんの横顔

プロフィール:伊澤和宏さん(32)
東北芸術工科大学 プロダクトデザイン学科を卒業後、2011年新卒で大手電機メーカー「山形カシオ」に入社。新規事業創出メンバーとして主に意匠的なデザインを担当。2015年に中国系家電メーカー「ハイアール」へ転職し、企画・デザインを担当。日本企業の事業創出支援のために3社目は大手コンサルファーム「デロイト」に転職。ビジネスデザイナーとして、メーカー、通信、不動産業界など幅広い業界の案件を担当。2019年10月よりGoodpatchへ。デザインストラテジストとして活躍。担当プロジェクトに、法人向け健康経営支援サービス『SUNTORY+(サントリープラス)』他。

コンサルタント時代に感じたジレンマ

大学でプロダクトデザインを学び、大手電機メーカー「山形カシオ」、中国系家電メーカー「ハイアール」と、プロダクトデザイナーとしてのキャリアを歩んできた伊澤さん。

前職となる3社目で、いわゆるデザイナーから「ビジネスデザイナー」にキャリアチチェンジし、「デロイト」に入社した。そこにあったのは「危機意識」だという。

「2社目の中国系家電メーカーであるハイアールは、デザイナーが商品企画からデザインまで任せてもらえる環境だったんですが、私は”売り方”を知らなかったんですよね。ある時、デザインしたプロダクトをCEOにプレゼンする機会があり、デザインは好感触だったのですが、「いいデザインだが、いつ売るのか。何台売れるのか」と問われたとき、何も答えられなかったんです」

ビジネスを知らければ、売れないし、事業を回せない。

「そこからビジネス観点を意識するようになり、事業開発や運営に関するスキルを身につけ、せっかくなら日本のために働きたい、そう思ってデロイトに入社しました。メーカーに限らず、通信や不動産など、さまざまな業界の事業支援に携わることができ、仕事自体はとてもやりがいがありました。ただ同時にもどかしさもあって...」

それが、日本におけるビジネスにおいて「デザイン」がさほど重視されていない、という点だ。

「“デザインが事業を牽引するものである”という考え方は、ほとんど浸透していない。自分の実力不足へのもどかしさ、理想としていたことと隔たりを感じることもありました。

たとえば、企業が新規事業を考えていく上で、ビジネス上の都合を優先してしまい、ユーザーの間に隔たりが生まれてしまう。ある大手メーカーで、ある新しいプロダクトの開発支援を担当したのですが、もともとある技術を使う、という前提が経営判断のなかであって。本来であれば、どうやったらユーザーを助けられるのかという話がコアにあり、技術を選ぶべきですよね。同時に絵空事ばかり考えても、やるべきアクションを具体的な数字レベルで落とせなければ意味がない。この両方をいかに回していけるか、日々葛藤していました」

「とくに前職のコンサル時代は、1つの物事を進めていくうえでフローがガチガチに固まっていたんです。あらゆるフェーズにおいて、計画を練りに練って、社内政治を全部クリアした段階で初めて世の中にオープンにできる、という世界。ただ、そういった進め方だと、私が理想としていた、プロトタイピング(試作)を繰り返しながら発散と収束を繰り返していく方法とはギャップがあったんです」

そういった時に出会ったのが、Goodpatchだった。

goodpatchデザインストラテジスト伊澤和宏さんの正面顔

「ユーザー」を主語にした新規事業推進を

とくにGoodpatchに惹かれたのが、マインドやプロセスも含めた、広義のデザインで、ビジネスに並走していける、ということ。

事業やサービスを通じて実現したいありたい未来を描き、その未来を実現するための道筋を設計していく。

「デザイン」は決して装飾的な意味だけではない。

「Goodpatchを選んだのは、デザイン先攻で、かつゼロイチから事業支援できる環境だと思ったからです。プロジェクトとしても、私のチームが携わる場合は、まずはクライアントのマーケット(社会)から、妄想の材料を引き出すところからスタートします。対話を通じて「ありたい未来」としてのVisionを妄想し、事業やサービスのあらすじを描く。そこから事業やサービスのマーケット(社会)との接続を設計。「ありたい未来」を実現するためのステップに落とし込みます」

そもそも「ありたい未来」など粒度の大きな話、ディスカッションも、クライアントがGoodpatchに期待することのひとつ。基本的にGoodpatchのクライアントは、デザインに理解がある、ポテンシャルを感じてくれているケースも多い。最上流部に携われることが大きなやりがいだと伊澤さんは語る。

「市場分析をして、クライアントに対して投資するべき事業領域を提案することもありますし、クライアントの事業におけるKGIやKPIの見直しを提案することもあります。ときには経営者とコミュニケーションを取りながら、彼らの頭の中にある構想や考えを図式化したり、ビジョンやミッションに落とし込んで組織のカルチャーをつくっていったりすることもあります」

具体的なプロジェクト例についても紹介してくれた。

「私が担当したプロジェクトのなかに、新規サービス『SUNTORY+(サントリープラス)』があるのですが、飲料などの製品以外でも健康をサポートするべくスタートした新規事業で。いわゆる“デザインスプリント*”という手法を使い、高速で何度も価値検証を重ねました。ときには週に複数回事業アイデアを発散したり、ユーザー理解やアイデア検証のためにターゲット層の社員にインタビューを実施したり。アイデアの発散と収束を繰り返す中で、現在の『SUNTORY+』の成長に繋がるアイデアの種が見つかりました」

こうして、アプリ開発の知見を求めてパートナーを探していたサントリー食品インターナショナルに対して、Goodpatchは事業の構想段階からデザインパートナーとしてコミットしていったという。

*デザインスプリント...GV(旧 Google Ventures)によって開発された、高速でプロセスを回し、アイデアの価値を検証するプログラムのこと。

goodpatch事例・サントリープラスの説明画像

『SUNTORY+(サントリー+)』...企業の「健康経営」のため、従業員の健康行動習慣化をサポートするサントリー食品インターナショナル(株)のヘルスケアサービスアプリ。2020年7月に正式リリースし、企業への導入が進んでいる。

ビジネスとデザインの両利きで、事業アイデアに収益性、持続性という要素を強化していく。まさにビジネスとデザインのバイリンガルのような役割を担う。

「クライアントと一緒にトライアンドエラーを繰り返すなか、アイデアが膨らんだり、方向性が見えてきたりすることもある。新しいサービスや事業の開発に“デザイン”のアプローチでクライアントに貢献できることは大きなやりがいにつながっています」

goodpatch社内のブレスト風景

事業アイデアを拡散するために実際したワークショップ。現在はホワイトボードツールを活用し、オンラインで実施することが多い。

多様な人材が集う、最強のグローバルデザインカンパニーへ

もうひとつ伺えたのが、Goodpatchで活躍する人材について。伊澤さんはプロダクトデザイナー出身だが、とくにデザインストラテジストチームにはさまざまなバックグラウンドを持つ人材が集う。

「たとえば、前職はマーケティングリサーチ会社やネットメディア会社で働いていた人、制作会社や広告代理店で働いていた人、自動車メーカーで働いていた人などさまざま。大手にいた人もいれば、メガベンチャーやスタートアップ経験者、起業経験がある人もいる。事業開発周りに携わっている人が多い傾向はあります。

チームも、クライアントの課題次第。ビジネス用語をデザイン用語へ、デザイン用語をビジネス用語へ変換していく。さまざまな角度から物事を捉える視点、マインドセットを持ち合わせた人材が活躍しているし、そういった方は最高に楽しめると思います」

デザインストラテジストチームだけでなく、Goodpatchで活躍している人に共通しているのは「共感力」「言語化力」「構造化力」だと言う。

「基本的にはポータブルスキルが高い人たち、とくに共感力、言語化力、構造化力に長けた人が多い。サービスをつくる時、“わかる人たち向け”ではなく、“すごくわからない人に向け”に作るものが多いので、そもそも人の気持ちがわからないと難しい。これが「共感力」です。また、相手との認識のズレがないようにするには、「言語化」をし、言葉を定義し、共通認識をとっていかないといけない。その過程では、抽象と具体を行ったり来たりする。これが「構造化」です。この3つの素養がある方がよりフィットすると思います」

仕事は「世界を良くする」と同時に、目の前の誰かを喜ばせるもの

取材終盤、伊澤さんの仕事に対する価値観についても伺うことができた。

「クライアントと、その先にいるお客さんの喜びを生み出したい。その先にあるのが仕事は世界をよくするもの、だと捉えています。もちろん大きなインパクトがあるかどうか大切です。ただ、それだけに限らず、目の前の誰かを喜ばせたい、という思いがあるんですよね」

あらゆるビジネスにおいて「正解」がなく、クライアントとしての悩みも深い。最上流部に携わることは、そういった担当者によりそっていくことに直結するのかもしれない。

「当然一緒に働いているクライアント企業の担当者さんもそうですし、もっといえばその事業、サービスの向こう側にいるお客さんにも喜んでもらいたい。デザインというものを通して喜んでいただけることが、一番の価値だと思うんですよね。サービスが広まって良いクチコミがもらえたり、SNSで反響があったり。自分の仕事によって生活が少し豊かになっている人がいるんだなと思える。そんな時、頑張ってよかったなと思える。こういった仕事をひとつでも多く積み重ねていきたいですね」

goodpatchデザインストラテジスト伊澤和宏さんの笑顔
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