INTERVIEW
財務省 | 主計局調査課課長補佐 兼 主計局法規課課長補佐 兼 デジタル庁統括官付参事官付 片岡修平

コンサル、投資ファンドを経て「財務省」へ。パブリック側からの「資金支援」で日本を元気に ―― 若き日に抱いた熱き思い

掲載日:2021/11/08更新日:2022/11/07
求人掲載中

新卒にて米系経営戦略コンサルティング企業に入社後、PEファンドの投資主担当を経て、28歳で財務省に入省した片岡修平さん。彼はなぜ「霞が関」の門を叩いたのか。そこには「民間資金が流れにくい分野においてもパブリック側から積極的な支援をしたい」という熱い思いがあった――。

きっかけは「東日本大震災」だった。

前職はPEファンド(プライベート・エクイティ・ファンド)にて投資主担当をしていた片岡さん。28歳の時、中途採用で財務省へと入省した。そもそも、なぜ「省庁」だったのだろうか。

東日本大震災はひとつ、大きなきっかけになりました。当時、投資ファンドの主担当として働いており、オフィスは高層ビルの上層階。当然、すごく揺れたのですが、揺れが収まってすぐに取った行動は「仕事」でした。

3月はファンドとして案件のクロージングが迫るまさに繁忙期。銀行・信託・弁護士の方々など協働していた関係各所全員に連絡し、その日は帰らずに契約書修正の継続と本日中の終了などを依頼していました。

安否確認もろくにせず、とにかく目の前の仕事に没頭していた。一通りの調整を終えてようやく帰宅した朝、散乱した家のなかを見渡し、テレビをつけると大変なことになっている。ことの重大さに気付くのが遅く、自分は何をしていたのだろうかと。

震災の時、役所の方々はすごく大変な状況のなかでも人を助けるために、迅速に、政策を通したり、予算を考えたり、現場に入ったり、懸命にサポートをされていた。一方で、自分は「日本を元気にしたい」と考えつつ、遠いところにいて。直接的に国や地域に支援していく道もあるのではないかと、思い至るようになりました。

そして友人からの「国の仕事をしてみたらどうか」という言葉も後押しになったと振り返る。

25歳で投資ファンドに入り、3年ほど勤務したのですが、当時は珍しい「投資を通じて地域の総合病院における経営の立て直しを図る」というミッションを担っていました。日本の投資ファンドのなかでも数社しかやっておらず、さまざまな都道府県に出張し、多くの病院さんを支援していくことができました。リターンを得ながらも、社会的な意義、そしてやりがいも感じられる仕事でした。

一方で、医療分野はどうしても民間資金が流れづらいとも感じていました。診療報酬制度により「売上」のアップサイドは狙えないため、日々のオペレーション改善が重要となります。国の支援は十分だと思っていましたし、やりがいがあっても「投資リターンが不十分」と投資家に思われると、次のファンドの資金調達が困難になってしまいます。民間資金だけでは回りにくいのではないか、とジレンマを感じる場面もありました。そういったことを、厚生労働省で働く友人と官民若手勉強会の場で何気なく話をしていたのですが、「もし本当にそう思うなら、君自身が国の仕事をしてみたらどうか」と言ってくれた。「何も知見はないが、とりあえず応募してみよう」と決心がつきました。彼の言葉がなければ、今ここで働いていなかったかもしれません。

5

片岡修平(かたおか しゅうへい)
主計局調査課課長補佐 兼 主計局法規課課長補佐 兼 デジタル庁統括官付参事官付
1983年生まれ。京都大学農学部卒業後、2007年にボストン コンサルティング グループ(BCG)に新卒入社。その後、PEファンドの投資主担当を経て、28歳にて「利益が上がりにくい、民間資金が流れにくい分野においてもパブリック側から積極的な支援をしたい」という思いを胸に、2012年に選考採用(当時・国家公務員1種採用試験(経験者)採用)にて財務省に入省。財務省、農林水産省、内閣官房で働き方改革、フィンテック支援などを担当。財政金融担当の外交官として英国ロンドンに約3年間駐在。2021年7月に帰国し、現職に至る。

28歳で財務省へ。出向の機会を活かし、多様な経験を。

こうして「霞が関」の門を叩いた片岡さん。財務省への入省後、農林水産省、内閣官房への出向、さらに財政金融担当外交官として英国ロンドンに約3年間駐在するなど、広い経験を積んできた。

個人的にも出向の機会があれば、どんどん活かしたいと考えていました。当然、ケースバイケース。本省で経験を積む方も多くいますし、希望に応じてさまざまな選択肢があると思います。

私自身のケースでいえば、財務省に入り財政投融資に携わった後、農林水産省、内閣官房と出向を経験させてもらいました。予算をつけられた調査事業がどのようなプロセスを経て、執行されるのか、間近に見ることができて。もっといえば、研修において実際若手がイキイキと働く農家さんのところに無償で農作業のお手伝いをさせていただいたり、数多くの食・農ベンチャー経営者の方々の事業モデルと課題を伺って解決策を考えたり、調査事業のなかで入札された方との折衝をしたり、貴重な経験ができたと思っています。

さらに内閣官房に出向し、スタートアップ企業と連携・支援なども手掛けていくことに。

日本政府において成長戦略を立てていくなかで、フィンテック、ヘルスケアテック、モビリティなどの新産業をいかに育てていくか、ここも重点課題のひとつとなっています。そういった領域の新技術促進、スタートアップ企業支援も内閣官房に出向し、携わることができました。

たとえば、クルマの自動運転や相乗りサービス、電動キックボードなどのモビリティ分野。あくまで一例ですが、「道路交通法」などの交通規則でいえば警察庁が管轄、「旅客運送業・貨物運送業」などライセンスについては国土交通省が管轄、「電動自転車のモーターやクルマにおける部品の製造」でいえば経済産業省が管轄となる。

ヘルスケアテックといえば業の振興も規制も厚生労働省だけと思われがちですが、医療データ活用が絡むと個人情報保護委員会も管轄となる。フィンテックといえば業の振興も規制も金融庁だけと思われがちですが、クレジットカードが絡むと(割賦販売法を所管するゆえに)経済産業省も管轄となる。

こういったカタチで、新たな産業を興そうと考えると、複数の部署省庁にまたがるケースが非常に多いわけです。そういった新技術を使ったスタートアップ企業からすると、どこに、どう相談し、許可を得たり、制度を適用させたりしていけばいいか、非常にわかりづらい。資金面よりもむしろ既存の制度・法令・慣習などが障壁となることもある。さらにスタートアップ企業にとっては、特に、時は金なりですから、もう18ヶ月後にはビジネスを飛躍させて次の資金を調達しないと手元資金がショートしてしまう可能性があるなど、法改正を悠長に待つことができない、既存法令と新規ビジネスに関する照会で長く待てないケースも多々あります。政府が新事業の邪魔をしてはいけない、後押しをしなくては、と強く思うようになりました。

そういった企業の相談役、伴走者となり、スピーディーな支援をしていく。いわば「無料で使えるバックアップチーム」のような立ち位置で、スタートアップの方々に認知していただけるよう、内閣官房における新技術等社会実装推進チームとして取り組みを行なっていきました。そのひとつの集大成が、上司と共に策定と運用を手掛けた「規制のサンドボックス制度*」だったと思います。私の調べた範囲では、世界30以上の国・地域の政府によりサンドボックス制度は立ち上げられていますが、分野横断的に一元的な窓口で受付可能である日本の同制度は現在21件の認定が出ていて世界3番手に付けているスピード感で新事業の後押しをしています。

*IoT、ブロックチェーン、ロボット等の新たな技術の実用化や、プラットフォーマー型ビジネス、シェアリングエコノミーなどの新たなビジネスモデルの実施が、現行規制との関係で困難である場合に、新しい技術やビジネスモデルの社会実装に向け、事業者の申請に基づき、規制官庁の認定を受けた実証を行い、実証により得られた情報やデータを用いて規制の見直しに繋げていく制度です。引用:「成長戦略ポータルサイト」より

その後、2018年には財政金融担当の外交官として英国ロンドンへ。約3年間の駐在を経験している。「キャリアのバリエーションもさまざま、働く職員のバックグラウンドも多様」と語る。

私のようなキャリアを歩むケースは稀かもしれませんが、入省して率直に感じたのは、人事面においていわゆる「硬直的なイメージとは違う」といった部分でした。

財務省で働く職員にしても非常に多様です。新卒はもちろん、金融機関、コンサルティングファーム、投資ファンドなど民間出身者も多く活躍している。マクロの視点で学びながら、個別の政策に関わり、そこからは10年、20年といったスパンで見た上で、さまざまな経験を希望に応じて積んでいくこともできる。当然、全ての希望が叶うわけではありませんが、機会は豊富にあり、手を挙げることができます。

じつは私自身、入省するまでそこまで省庁の役割、仕事などについては詳しくありませんでした。投資ファンドにおいて民間での資金の流れは見てきたのですが、たとえば、補助金など国の予算、税制改正などには知見がなく、「日本全体でいえば投融資は何処が担当するのだろう。おそらく財務省かな」といったくらいのイメージでした。もし、省庁に対して敷居が高いと感じている方も、新しい事業分野でキャッチアップを求められるのはコンサルも同じこと、意外と充分にやっていけるのではないかと思います。

4

海外駐在において各省庁担当者や他国の外交官、海外スタートアップ、海外アカデミアなどとのネットワークも広がったという片岡さん。民間出身としての経験、アイデア、発想、論理的思考力などは活かせる部分も多いという。一方で、まずは省庁における慣習、業務の進め方などを積極的にキャッチアップし、実行してみる素直さも重要だと語る。「何事にも「守破離」があります。大組織を外から見ると非効率に見えることも、やってみると実は理にかなっていることも多い。まずは素直に吸収してやってみる。わからないことを聞いてキャッチアップしていく。どこででも重要なことだと思います」と片岡さん。

各府省庁、国際機関、アカデミア、経済界…多くのカウンターパートと連携

2021年7月に帰国し、財務省 主計局にて働く片岡さん。「国の信用を守り、希望ある社会を次世代に引き継ぐ」という組織理念を掲げる財務省。あらためて同省で働くことのやりがいについて伺えた。

財務省における大きな役割のひとつに予算編成があります。少子高齢化、自然災害、安全保障…さまざまな課題において「国のかたち」を守ることに予算は直結していく部分。日本政府全体として構想、諸外国の動きなどを踏まえ、各省庁に予算面での示唆を出していくことができます。

私自身、大使館時代の経験を活かし、現地からの大量の情報をもとに資料に起こし、財政のあるべき姿を内部で示唆出ししていく、国際機関や格付け会社に日本の財政について正しい発信をしていくなど、政府内コンサルタントのような動きをしています。この役割は全体の中のごく一部で、1~2年毎の異動で職務は代わります、予算部局の中の先輩や同僚は各省庁の担当者とディスカッションをしながら予算の査定を行っています。当然、各省庁、アカデミア、国際機関、経済界…多くのカウンターパートとも連携していますし、国際租税・関税・国際金融など海外政府とのルール形成の場面では、日本政府メンバーの立場でしか携われません。霞が関のなかでも、これだけ分野横断的に携われる省は少なく、仕事におけるやりがいになる部分ではないかと思います。

100年後の日本、次世代にバトンをわたしていくために

そして伺えたのは、片岡さん自身の仕事観について。投資ファンドでのキャリアではなく、なぜ財務省でのキャリアを選択したのか。その根本にある思いとは。

やはり大きくあったのは、前職時代、病院における経営の立て直しに携わる中で感じた、利益が上がりにくい、民間資金が流れにくい分野においてもパブリック側から積極的な支援したい、という気持ちです。

余談ですが、もともと私自身、いわゆる中流のサラリーマン家庭の生まれ、公立の小中高から国立大学に奨学金を得つつ進学しました。これらも国の制度がなければ、叶わないことでした。もちろん、全てが全て優れているものではないですが、日本にはよく考えられた仕組み、制度がある。教育やインフラ、医療・食・文化など諸外国に決して劣らない環境。そう学生時代にふと思う瞬間があった。そういった制度や仕組みづくりに自らも携わってみたいと、どこかで考えていたのかもしれません。

そう考えると、私にとって仕事は、誰かのために役に立つこと。仮に一生暮らしに困らないお金があっても引退はせず、おそらくなんらかの仕事をすると思います。なぜなら、そこで自らの頭で考え、汗をかき、人と話をし、誰かの役に立ちたいと考えるからです。その誰かとは、日々暮らす私たちであり、企業・事業者・団体であり、地域・コミュニティであり、きっと日本を元気にしていくことにつながるはず。

できれば、その仕事において、自分が介在したことで成し得たことをできるだけ多く残したい。特に政府のなかで働くということの特徴は、「50年後、100年後を見据え将来からバックキャスティングしながら超長期の時間軸で日本という国が、地域が、持続可能であり続けるために知恵を絞り実装していくフィールドがある」、ことに加えて、「海外政府との連携・情報収集のほか、海外政府との国際的なルール形成に携わるフィールドもある」貴重な職場である、と捉えています。

日本、そして世界には、短期的にお金にはならないかもしれませんが、長期的に解決しなければいけない問題が多くあります。次の世代にバトンを渡していく。当然、予算編成において各省庁に厳しいことを言わなければいけない場面など、人から嫌われる場面もあるかもしれませんが、それでも短期的な利益にとらわれずに、自分の生きる50年後・こどもの生きる100年後の未来を見据えて政策に携わり、知恵を入れ込む。政府の一員として国内外のルール形成の場に身を置く、そういったフィールドこそが、政府で働く面白さなのかもしれないと思っています。少しでも関心の合う方はぜひ気楽にトライしてみていただければありがたいです。

この記事を読んだ人におすすめの記事
最近ご覧になった求人に基づいたおすすめの求人
若手ハイキャリアのスカウト転職