グローバルな市場が拡大し続ける現代。より重要な役割を担っていくのが国際税務のスペシャリストたち。そういったなか、今回取材したのが、世界中に拠点を持つ『PwC税理士法人』で活躍する金澤学さん(30)だ。グローバルな舞台で、専門性を武器に戦っていく。そこに至るまでの道のり、仕事に対する姿勢とは?
「大企業に入って40年勤め上げるというライフプランは、もう時代にそぐわないですし、自分の性格にも合わないと感じたんです」
このように『PwC税理士法人』への入社理由を語ってくれたのが金澤学さん(30)。税理士と会計士、2つの資格を持つ、国際税務(移転価格)の専門家だ。
専門性を武器に働いていく。彼がそう考えはじめたのは、大学1年生のころだった。
「何かのスペシャリストになろう。そう決意して選んだのが“公認会計士”の資格でした」
最も勉強した時期でいえば、1日12時間以上に及ぶ試験勉強をこなし、大学4年生のときに試験をパス。ただ、彼が選んだのは「税理士法人で働く」という選択。いわば異端の道だった。
(公認会計士の認定は、試験合格に加え、2年以上の実務経験が必須。そのため、多くの公認会計士試験の合格者は「監査法人」就職を選択するのが一般的)
「会計にはある程度、画一的な世界基準があります。ただ、税法はそれぞれの国ごとに特徴が異なっている。すごく興味深い分野であると同時に、戦うフィールドが細分化されているということ。狭くても、特化していけば、その道のトップ、稀有な人材になっていけるのではないかと考えました」
そして彼が選んだのが『PwC税理士法人』だった。世界中に拠点をもち、国際税務やM&A、事業再生など、多岐にわたるサービスを提供している。
大学4年の11月、卒業を待たずして同法人で働きはじめた金澤さん。彼が働くことになったのは、金融機関向けの税務コンサルティングを担当する部署だった。しかし、リーマンショックに端を発した景気低迷は税理士法人にも例外なく訪れ、翌4月には移転価格部への転籍を命ぜられる。「希望したわけではなかった」と語る。
ただ、彼は自身にできることを探し、英語を活かした業務にやりがいを見出していった。
「たしかに希望する部署、業務ではありませんでした。ただ、培った英語力を活かせるという点でもやりがいがありましたね。その部署では日本人だけでなく外国人も活躍している部署でした。だから、風通しがよく自由な雰囲気で。それは自分には合っていたのだと思います」
その後、彼が担当することになったのが国際税務、そのなかでも「移転価格」に関する仕事だった。
「移転価格税制」とは、多国籍企業がグループ間での取引を通じ、所得を海外移転するのを防止するための仕組みのこと。日本企業が海外の子会社と取引をする際、その内容が妥当かどうか判断する。これが金澤さんのミッションだった。
日本はもちろん、外国の税務当局ともやり取りをする。入社3年目を迎える頃にはより大きな案件を担当するようになっていった。
そのなかでも印象に残っているのが、「中国の税務当局向けに取引の妥当性を証明する」というグローバルな仕事だった。
「移転価格に関する業務は、前例のないケースがほとんどです。常に新しいことにチャレンジしなくてはなりません。個人的な見解ですが、税法の中でも、解釈や解法に関してある程度の自由が認められていると思います。あらゆる選択肢の中から最も適切な解を導き出すのはもちろん大変ではありますが、自分で手探りをしながら導き出した答えが認められる。そのようなときに達成感がありますね」
順調に「移転価格」におけるスペシャリストとしてのキャリアを歩んできた金澤さん。だが、26歳のとき、転機が訪れる。
「移転価格の仕事はとても専門的。ニッチな分野とも言えます。もともとスペシャリストとして戦っていくつもりでしたから自分には合っていたと思います。同時に30歳を目前に迷いもあって。他を知らずに自分のキャリアを決めてしまってもいいのか。もう少し選択肢を広げてみたい」
そして決意したのが、企業のM&Aや事業再生・再編などを支援するグループ企業へ。グループ制度を利用した転籍だった。
彼が手がけることになったのが、財務デューデリジェンス。公認会計士の資格を活かした仕事だ。財務的な観点を中心にターゲット会社/事業の実態について理解を深めるとともに、ディールにかかわる諸リスク要因を特定して評価する、企業のM&Aに深く関わっていく。そこでの経験を金澤さんは振り返る。
「ダイナミズムを感じる分、厳しい仕事でもありました。強く鍛えられたと思います。同時に、あらためて自分自身のキャリアを問い直すように。よい経験をさせてもらえたと思います」
2015年、金澤さんは改めて古巣である『PwC税理士法人』へ。「移転価格」を扱う国際税務の世界に帰ってきた。今度はマネージャーとして周囲を率いる立場だ。
「転籍で自分の選択肢を広げてみた結果、やはり専門性を高めてスペシャリストとして戦っていこう。そういった結論に達しました。日本企業はこれまで以上に海外に進出する必要が出てくる。移転価格は今後、ビジネスとしてよりおもしろくなっていく領域。やりがいも増していくと考えました」
実際、世界各国にあるPwCの拠点と密にやりとりし、大きな裁量のなかでミッションに挑んでいる金澤さん。
取材の最後には、これからの展望について彼の口から聞くことができた。見据えているのは「世界」だ。
「移転価格はまだまだ専門家が多いとはいえない領域です。同時に世界中のあらゆる大手企業において必要とされていますし、求人における需要も尽きません。世界中どこででも通用するスキルといえます。ですので、より専門性に磨きをかけていき、いつかは欧米やアジアの新興国など、海外を拠点に働いてみたいですね」