世界40拠点で展開——シリコンバレー発、世界最大級のベンチャーキャピタル・アクセラレーターとして知られるPlug and Play。ベンチャーキャピタルとしてDropboxやPaypal、Lending Clubなど多数のユニコーン企業を輩出してきた。そんな同社は、2017年に日本支社、Plug and Play Japanを設立。目指すのは、世界を目指したスタートアップ育成。日本におけるその事業概要、得られるキャリアについて、代表取締役社長のヴィンセント・フィリップさんに伺った。
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【Plug and Play Japanについて】
Plug and Play Japanは、世界トップレベルのアクセラレーター/ベンチャーキャピタル。シリコンバレー発のイノベーションプラットフォームとして、現在では45社以上に及ぶ各業界を牽引する企業・団体がパートナーとして参画している。同社はグローバルネットワークを活かした「大手企業のイノベーション支援」「業界横断型アクセラレータープログラム」「スタートアップ投資」を強みとしており、革新的な技術やアイデアを持つスタートアップと大手企業との共創を支援している。
※詳細は同社HP参照
そもそも、日本支社を立ち上げた背景から教えてください。
日本は、GDP世界3位であり、もともと優秀な企業・人材が揃っていてビジネスが発展している国。日本には、世界を変えていくスタートアップが生まれていくポテンシャルがあると思っていて。
日本から、ユニコーン企業、日本発のグローバル企業を輩出していきたい。日本から世界を目指すスタートアップが生まれていく、そんなプラットフォームを作ることができれば、日本のスタートアップもどんどん海外に出てスピード感を持って事業展開ができるようになると考え、Plug and Play Japanを作りました。
現状で言えば、確かにスタートアップ、オープンイノベーションの領域において、日本は世界は世界的に見ると遅れをとっています。スタートアップの数、国全体の投資金額、 投資件数、1ビリオンドル以上の時価総額のユニコーン企業数は他の国と比べて少ない。かつ、事業規模も小さく、グローバルなビジネス内容が少ない状況です。
ですが、スタートアップによるイノベーションや雇用の創出への期待から、政府も動き始めています。
岸田政権下において、2022年を「スタートアップ創出元年」と位置付け、スタートアップ支援を強化する方針が打ち出されました。そこでは今後5年で、スタートアップを10倍に増やすといった目標も示されています。
実際、我々も主にスタートアップや大手企業と仕事する中で、日本国内でも投資案件額、スタートアップの数、スタートアップが多く育つような資金調達などもどんどん増えていると感じています。大学のインキュベーション、投資、そして大手企業のオープンイノベーションが今後の戦略に入るような取り組み・仕組みも全体的に増えている。産官学ともに、スタートアップ投資やオープンイノベーションのトレンドに火がついているといえるでしょう。
また、コロナ禍や先行きの見えない世界情勢のなか、「今後どういう風にスタートアップやオープンイノベーション市場の変化に繋がっていくか」もVC(ベンチャーキャピタル)界隈ではホットな話題になっています。
「大型資金調達がしづらくなっている」、「ファンドの組成自体が減少している」とも聞きますが、見方を変えれば、スタートアップの時価総額や企業価値の部分で相当膨れ上がっていっていた一時期のバブルが落ち着いて、改善されてきた状態とも言えます。
投資家にとっては投資しやすくなりますし、新たに起業する人にとっても、こうした混沌とした状況だからこそ顕在化されるニーズに対してソリューションをつくっていく、良いタイミングになっていくのではないかと考えています。
代表取締役社長 ヴィンセント・フィリップ
化学品専門商社「岸本産業」(アメリカではUniglobe Kisco)を経て、2014年にPlug and Playのシリコンバレー本社に入社。現在の、テーマ別アクセラレータープログラムの構築段階から関わる。IoT、モビリティの分野の2つのチームの責任者として従事。 日本語を話せる唯一のメンバーだったことから、日本企業に関するプロジェクト全般に関わる。2017年、 Plug and Play Japanを設立。代表取締役社長に就任。
「日本におけるスタートアップ、オープンイノベーションへの遅れ」という課題に対し、Plug and Play Japanとしてはどういったアプローチで挑むのでしょうか?
当社はグローバルネットワークを活かした「大手企業のイノベーション支援」「業界横断型アクセラレータープログラム」「スタートアップ投資」を強みとしており、革新的な技術やアイデアを持つスタートアップと大手企業との共創を支援しています。
フローとしては、まずはパートナー企業となる各大手企業との、ワークショップやアイディエーション、デザインシンキングを通じ、企業のニーズ、抱えている課題をキャッチアップします。
ニーズはDX、データの活用の仕方、業務の改善、新規事業など様々ですが、それぞれに対して、どういったテクノロジー、ソリューションがあれば解決できるのか。そもそもスタートアップを活用するべき案件なのか、から考えていきます。
そして、スタートアップ活用をしていくとなれば、適切なスタートアップを探し出して引き合わせる。あるいは業界横断型アクセラレータープログラムとして募集をかけることによって、幅広くスタートアップと出会えるようサポートしています。
「業界横断型のアクセラレータープログラム」とは?
前提として、アクセラレータープログラムにも、様々な型があります。幅広いテーマでアイデアを募るジェネラル型のプログラムもあれば、スタートアップの技術・アイデアを募るプログラムもあります。
その中で我々は、「コンソーシアム型」のアクセラレータープログラムを採用しています。
これは、簡単に言えば、多くの大手企業を募ることによって、多くのスタートアップを集める形式。スタートアップにとっては、参加のハードルが低く、かつより多くの大手企業とつながることができるやり方です。
例えば、1対1型、つまりプログラムに参加する大手企業が1社、スタートアップが1社という形式の場合、1社の大手企業と1社のスタートアップで課題が解決し切れるとは限らない、という意味でリスクが伴います。一方、複数のスタートアップや大手企業と組むことができれば、そのリスクは分散されます。
さらに言えば、つながる企業の数が多ければ、その分だけ多くのフィードバックをもらうことができ、事業内容はブラッシュアップしていくことが可能。単独で事業を進めるよりも、仲間や他社とパートナーシップを組んで、たくさんのアドバイスをもらいながら進めた方がより魅力的なビジネスになるし、成功する確率も高まるはずです。
つまり、 パートナーシップを組めるような大手企業がたくさんいればいるほど、多くのスタートアップにとって参加したくなるプログラムになると考えています。
このようなコンソーシアム型でアクセラレータープログラムを運営している会社は、グローバルでも日本でも少ないです。世界にスタートアップネットワークがあり、20ほどの業界テーマごとにアクセラレータープログラムを運営してきたノウハウがある当社ならではだと思います。
3ヶ月間にわたるアクセラレータープログラムの成果発表の様子。3ヶ月のアクセラレータープログラムの中では、事業を進めていく上でのアドバイス、メンタリング、資金調達、組織のスケールアップのさせ方、バックオフィスやリーガル関連までワンストップで支援していく。スタートアップ支援ノウハウは強みの1つでもある。
アクセラレータープログラムには海外のスタートアップも参加されていると拝見しました。
はい。これまでに、約800社のスタートアップに参加いただきましたが、その半分、約400社は海外のスタートアップが占めています。
この背景には、海外スタートアップと大手企業の連携を生み出すだけでなく、日本のスタートアップが海外スタートアップと触れ合う機会を増やしたいという思いがあります。
海外スタートアップのビジネスモデルに触れたり、ピッチ(登壇して行う短時間のプレゼンテーション)を聞いたり、自分たちのピッチにフィードバックをもらったりする経験を通して、日本のスタートアップのレベルもどんどん上がっていくはず。このプログラムを機に、いい交流が生まれて、日本のスタートアップの底上げに繋がっていくと嬉しいですね。
今後の展望について教えてください。
今後の成長戦略として4つ。「アクセラレータープログラムのテーマ拡充」、「拠点の拡大」、「投資事業への注力」、そして「政府機関との連携」です。
特に「政府機関との連携」に関して言えば、すでに内閣府を通してJETROとの連携によるスタートアップ支援を開始しています。
これは、JETROよりグローバル展開の基礎知識習得や海外市場展開の意欲向上を目的とするスタートアップシティ・アクセラレーションプログラムの「Global Preparationコース」を受託し、50社の採択スタートアップのグローバル展開を支援していくものです。
プログラムに採択されたスタートアップには、海外展開に必要となる実践的な知見を習得できるセミナーや、ビジネスモデル構築のためのセミナーやメンタリング、海外投資家・ビジネスパートナーとのネットワーキング・マッチングの機会を提供する予定です。
また、地域別のスタートアップの支援や、実際、そのスタートアップが各地域で、事業を実装できるような仕組みなどに関しても、政府と連携によって今後増やしていければと考えています。
現在、日本支社のアクセラレータープログラムには上記8つのテーマが存在する。シリコンバレー本社では20あり、今後日本でもテーマを拡充していく予定だ。
Plug and Play Japanの組織について
約60名が在籍。大きく、「アクセラレータープログラムチーム」と「投資チーム」により構成されている。
・アクセラレータープログラムチーム(約50名)
各業界ごとに、4~5名のチームに分かれている。例えば保険チームであれば、インシュアテックチームの責任者、対大手企業のコンサル担当、対スタートアップのアクセラレータープログラム運営担当などがいる。
・投資チーム(約10名)
スタートアップのスカウティング、ソーシング、発掘と投資を担当している。
成長戦略を推し進めていく上では、どういった人材を求めているのでしょうか?
フレフキシブルかつフラットな起業家精神を持つ方に、ぜひ来て欲しいと考えています。
現在働いているメンバーは、経験、国籍もバラバラ。前職は、コンサル、外資系IT企業、金融機関で投資に携わっていたメンバーなど。かなり多様性に溢れるチームです。
共通しているのは、イノベーションやスタートアップの世界に興味があること。そして、スタートアップやイノベーションというものが、これからの時代において非常に重要であり、日本そしてグローバルに大きなインパクトをもたらす取り組みであると信じている、という点です。
「自身が今の世の中を変えたい」、「自分が大きいインパクトをもたらすような仕事をしたい」といったマインドセットを持つメンバーは多いように思います。
今のタイミングで入社することで、 得られる経験・スキルとは?
たくさんの人に出会い、あらゆる仕事内容に触れることを通じて、インスパイアされて自分のやりたいことなどが明確になっていく。これこそが、Plug and Playで働く醍醐味だと思います。
実際、Plug and Playで働いていると、スタートアップの起業家、大手企業のあらゆる部署・部門のメンバークラスから経営層まで、たくさんの人に出会えます。
それこそ、非常に高いパッションやビジョンを持つ方々とたくさん会うことができる。非常にインスパイアされて、自分自身の考え方も変わってくる。私個人としても、ここが一番やりがいに感じている部分です。
また、数多くのビジネスに触れ、多くのフィードバックが蓄積されていくことで、スタートアップを見極める力も養われますし、どういった企業が成功するかもわかってくる。ノウハウを積み上げていく感覚も得られるはずです。
Plug and Play Japanを卒業した人の中には、起業した人、大手企業のオープンイノベーション部に移る人、外国で活躍する人もいるという。「私としては、人材の滞留によってイノベーションが進まないことも日本の1つの課題だと捉えています。そのため、もちろんPlug and Play Japan を卒業してしまうこと自体は残念ではありますが、人材の流動性が生まれ、そこから更なるインパクトに繋がっていくと考えると、ポジティブなことだと考えています。シリコンバレーでは、数年で仕事を変えるのは当たり前のこと。転職がナレッジシェアやイノベーションに繋がるケースがたくさんあります。卒業後に、さらにPlug and Playの文化とインパクトを広げてくれるのであれば、それはそれで嬉しいことだなと思います」
ヴィンセントさんご自身は、前職は商社で働かれていたと伺いました。Plug and Playに転職したきっかけとは?
もともと日系の化学品専門商社で新規事業開発担当として、アメリカでスタートアップを発掘し、日本のお客様に紹介するような仕事を担っていました。10年近く前ではありますが、当時、日本企業における新規事業の難しさやフラストレーションを感じたのが、転職を考えるきっかけになりました。
今でこそ、オープンイノベーション室やイノベーション推進部、新規事業部など、スタートアップの窓口となる部署が、一般的に設置されるようになりましたが、当時は全くなくて。そもそも「スタートアップはどういったものか」、「スタートアップと連携する理由・メリットとは」という根底の部分から、理解がありませんでした。
当然、スタートアップ、オープンイノベーションに対してのコミットメントが非常に低く、そう簡単にはスタートアップや全く新しい新規事業に対して時間やバジェットを使ってもらえる組織体制でもない。シリコンバレーをはじめとした新しいスタートアップの取り組みを、本社のメンバーから理解を得ることは非常に難しく、新規事業×スタートアップの取り組みを進めるのは難しかったです。
もともと、前職時代の業務というのは、Plug and Playから紹介されたスタートアップを日本企業と引き合わせていた形。Plug and Playで働けば、よりスピーディに社会に大きなインパクトを与えられるのではないか。そう思うようになり、転職を決断しました。
実際入社してみると、Plug and Playのフラット、フレキシブルな環境と文化は衝撃でした。社内のメンバーはもちろん、接する大手企業もスタートアップも、「新しいことをしたい」という考え方をもつ人ばかり。こういった人たちと一緒に働けるのは、最高にエキサイティングだなと感じましたね。
2017年の日本支社立ち上げから5年、今後ヴィンセントさんご自身として実現したいことを伺わせてください。
まずは、この5年で築き上げてきた貢献、インパクトを、さらに何倍にもしていきたい。そのためにも、手がける領域・範囲はどんどん広げていきます。
また、Plug and Play Japanに入社してくれているメンバーは、自分以上に強いミッション、ビジョンを持つメンバーも多い。私個人としては、今後、日本の中でも、こういったPlug and Play Japanのような、フラット、フレキシブルな文化を持った組織がもっと増えればいいな、と。その代表となれるような会社をつくっていきたいですね。