新人エンジニアに知ってほしい、DX時代のキャリア論。約500名を育成してきたCTOからの手紙

約500人を超えるエンジニアの採用と育成に携わってきた小俣泰明氏(アルサーガパートナーズのCEO兼CTO)による連載企画。エンジニアとして、高い目標のキャリア像を掲げられているか。日本のDXを加速させるエンジニアの役割とは。小俣泰明氏独自のキャリア論をお届けします。

新人エンジニアに知ってほしい、DX時代のキャリア論。約500名を育成してきたCTOからの手紙

【寄稿】小俣 泰明(@taimeidrive

アルサーガパートナーズ株式会社 代表取締役社長 CEO/CTO

日本ヒューレット・パッカードやNTTコミュニケーションズなどの大手ITベンダーで技術職を担当し、システム運用やネットワーク構築などに従事。その後、2009年にソーシャルゲーム開発をするIT企業(現クルーズ※東証JASDAQ)に参画し、同年6月に取締役に就任。翌年5月、同社技術統括担当執行役員に就任。CTOとして大規模Webサービスの開発に携わる。2012年6月に退任し、2012年からITベンチャー企業を創業。代表として3年で180名規模へ。2015年に辞任し、2016年ITサービス戦略開発会社アルサーガパートナーズ株式会社を設立。営業組織を持たない開発・制作集団として従業員約130名を率い、ナショナルクライアントをはじめ、基幹システムからWeb・アプリ開発、インフラやゲーム、IoTまでITサービス開発に対応する。


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DX時代、活躍するデジタル人材になるために

みなさん、こんにちは。アルサーガパートナーズのCEO兼CTOの小俣泰明と申します。約130名のエンジニア、クリエイターを中心とした組織であるITサービス戦略・開発の会社の代表をしています。前職、前々職と過去含めると約500人を超えるエンジニアの採用と育成に携わってきました。

こういった経験を踏まえ、同連載(寄稿)では、今後、ソフトウェアエンジニアとして本格的なキャリアをスタートさせていく方、またはキャリアをスタートさせて間もない若いみなさんに向け、エンジニア、デジタル人材として「成長スピード」を加速させるために、私の経験を通じて、大切だと考えていることについてお話します。

とくに「これからのDX時代に活躍していくために」というテーマで、より本質的な考え方、仕事との向き合い方などに触れていければと思います。

第1回となる今回は、いきなり大きな話ですが、エンジニアとしてのキャリアを歩むからには「世界で勝負できるサービスを開発する」と高い理想を掲げるべき、といったお話をしていきます。

エンジニアとして、どんな山を登るか。

突然ですが、みなさんはTwitterを使っていますか。InstagramやTikTokも使っているかもしれません。最近でいえば、Clubhouseや、Dispoなども話題になりました。

ユーザーとして当たり前に使うこれらのサービスは、ほとんどがシリコンバレーか、中国で生まれたもの。今、手にしているスマホも、よく使うアプリも、海外からやってきたものがほとんどですよね。

たとえば、コロナ禍以前の話ですが、日本に観光で来た中国人の方々は「日本では未だに財布や小銭を持ち歩いている」と驚いたそうです。キャッシュレス、OMO、ライブコマース、国民IDなど、中国におけるIT産業は既に世界の先端。日本の数年先を行っていると言われており、日本はITサービス開発において、他国に先を行かれる状況となってしまいました。

この状況に、ひとりの技術者としても、経営者としても、私は強い危機感を持っています。

ちなみに、あなたはどのくらいの危機感を持っているでしょうか。この危機意識をどれだけ共有できているか。じつは、これからエンジニアとしてのキャリアを考える上でも非常に重要な部分です。その目線ひとつで、キャリアの到達点も大きく変わってくるからです。あらゆる国内企業が開発するITサービスは海外を見据えているのが前提です。そういったなか、エンジニアとして描くキャリアビジョンも当然、グローバルを見据えるべき。

山登りと同様、そもそもどのような山を目指すのか。決まっていなければ対策も練れません。どれだけ高い山をターゲットにできるか。高い山を目指す、そう掲げ、対策することで、到達できる地点もより高くなります。

ぜひ「世界で勝負できるものをつくる」という目標を掲げ、共にそこを目指していきましょう。

2013年以降に起きた、IT開発のパラダイムシフト

それでは、ここから「どのようにしてその高い山を登っていくか?」というお話ができればと思います。まず前提として、この十数年にあまりで起こったIT開発のパラダイムシフトについて触れていきます。

これまでの時代と、これからの時代では、求められるモノが大きくシフトした。こういった話は、至るところで語られており、周知とは思いますが、私が開発現場で経験してきたことを踏まえて、改めて解説していきます。

私のファーストキャリアは、大手ITベンダーでのエンジニアでした。1999年~2008年までセキュリティ設計やネットワーク構築に従事していました。いわゆるActive Directryなどマイクロソフト系技術を用いて企業のシステムを構築するプロジェクトで、セキュリティシステムのコンサルティングやネットワークの構築も経験できました。データセンターにおけるサーバー、インフラ関連の知識を身に着けたのもこの時です。

2007年に発売され、IT業界に衝撃を与えたのがiPhoneです。2009年にはその潮流を捉え、ソーシャルゲームを開発するIT企業(現クルーズ)へ。スマートフォンが台頭していたとはいえ、当時はまだまだガラケー文化も盛り上がっており、i-mode(アイモード)をはじめとする、ガラケーにおけるインターネット市場で各社激しい競争が行われていました。

代表的なものとして、mixi、GREEなどのSNS+ゲームプラットフォームに対応できるよう、各社が自社で、インフラやデータセンターを保有し、インフラ、サーバーOS、ミドルウェアなどを構築したうえでのサービス開発が求められるようになっていきました。

当時は、フレームワークやgitなどの共同開発がスムーズにできるような技術はあまり発展していなかったため、コンフリクトなどの問題が起こり、共同開発はまだまだしづらい時代でした。

また、インターネットが一般的にも活用されるようになってから、2012年あたりまで、大雑把にいえば「サーバーにラック、マウントを自身で引かなければ、ITサービスを立ち上げることができない」という状況でした。つまり、こういった状況下では、サーバーを立てられる人、ケーブルの配線ができる人が優秀とされ、重宝されていたのです。エンジニアが対応すべき技術領域も広かったと言えます。

一言で「優秀なエンジニア」といっても、わずか数年単位で定義が大きく変わる。そのわかりやすい例ではないでしょうか。

その後、2013年ごろを境目に、ソリューションの多様化、低価格化が進みAWSなどでアカウントを開設し、安価にサーバーを構築できる時代に変化していきます。

また、スマートフォンのシェアが高まるにつれ、スマホ対応(ネイティブアプリ)の開発が求められるようになりました。


市場がこうした変化を遂げるにつれ、導入しやすいITソリューション(オープンソースプロダクト、ライブラリ、低価格のソリューションなど)が次々とリリースされていきました。「使えるソリューションの価値」を好きなだけ吟味ができ、選択肢が豊富にある時代へ変化し、今もこうした流れは加速しています。

ソリューションの選択肢が豊富になるにつれ、かつて重宝されていた「自力でサーバーを立てられ、ケーブルの配線ができるようなIT人材」の存在感は薄まる傾向に。 こういった時代における「優秀なエンジニア」はどう定義ができるか。

あらためて「クライアントの要件を紐解き、最適なソリューションを選定できる人材」が求められていく時代の扉が開いた瞬間でした。

一度の「納品」ではなく、並走しながら課題を解決し続けていく。ビジネスの場で価値を発揮するソリューションを選び、活かせるか。いわば「選定眼」が求められるようになった、と私は考えます。

選定眼とは何か。まず「こんなサービスをつくりたい」と言われた時、ゼロから作ろうと考えるのではなく、どこかに売ってないか、組み合わせて使えないか、と考えられる能力とも言えます。この選定眼を、意識的に高めている若いエンジニアのみなさんはそこまで多くない。だからこそチャンスがあるといえます。

基礎的な技術は、これまでも、これからも求められる

ただ、基礎的な技術力が不要かといえば、そんなことはありません。

近年、ノーコードプロダクトが、海外から多く生まれ流行しています。日本にもこの潮流は来るでしょう。エンジニアとしてはキャッチアップをしていくべきです。一方で大規模なサービスで活用しようと考えると、セキュリティ対策、保守運用、拡張性などの観点ではまだ課題も多くあります。

本来ビジネスに必要なセキュリティレベルでITサービスを開発するには、ノーコードだけでの対応は現実的に厳しいものがあります。

こういった観点からも、基礎的な技術力は、これまでも、これからも求められていくことになります。

たとえば、SNS、コミュニティサービスを作ろうと考え、画像を圧縮しなければならないとします。エンジニアとしては、画像圧縮をするための技術として、さまざまなオープンソースコードやライブラリのなかから、必要なソリューションを選定していくことになるでしょう。ただ、そのソリューションが「必要なセキュリティレベルを満たしているか」「信頼できるか」という判断基準を自らが持ち、関係者に提案をしていく必要があります。

価値のあるITサービスを提供するために、必要なソリューションを選定し、活かす。そのためにも「基礎的な技術力」や「ソリューションの選定眼」は、あらゆるITサービスの開発に関わる人材に必要になってくるスキルです。

どのようにしてソリューションの選定眼を磨くことができるか、まずは自分自身がサービスの価値を体験し、本気で「良い」と思えるサービスに出会うことがスタート地点だと私は考えます。なぜなら、自分自身が価値を感じれば、自分がつくりだしたい、という意欲が生まれるからです。

その意欲によってこそ、プログラミングやインフラ構築への知的好奇心が湧き上がり「つくる」という活動につながっていく。その根本的なマインドをもっていることが大前提になります。

そのうえで、外的要因ではなく、自分自身がITサービスをつくりたいという気持ちから、プログラミングを書いていくことができるか。自分自身で勉強したい、プログラミングを書きたいと思う心理状況をつくることが次のステップになります。

また、実務面においては、事業会社のDX事業担当として働くか、コンサルや、開発会社で戦略フェーズから携わるか、ここもキャリアの分岐点となります(ここは、次回以降での連載にて詳細に解説をしていきます)

これまでの「当たり前」を塗り替えよう。

初回の最後に、私が考える日本のDX化を加速させるために大切だと思うこと、そこでエンジニアが果たすべき役割についてお話します。

かつて「ものづくり大国」として栄えた日本は、ソフトウェア面で、海外のサービスを利用するしかない状況になっています。この状況について私は安全保障上も、経済においても「大きなリスク」だと考えています。

検索エンジンにせよ、SNSにせよ、海外発の多くのサービスに多くの日本人であるみなさんの個人情報、データが紐付いているからです。

そもそも、なぜ、こういった状況になってしまったのか。なぜ、日本からGAFAMに代表されるIT企業、中国のテックジャイアントのような企業が生まれなかったのか。

あくまでも私見ですが、日本独自の「個人情報」に関して過剰になりすぎてしまった「空気」があったのではないかと考えています。企業文化のなかでも、個人情報保護法案に基づくセキュリティ概念が、強く根付き、パソコンの持ち出し禁止、インターネット上のクラウドデータの使用禁止、イントラネット上のデータの保管しか許されない、という時代が10年近く続いてしまいました。

文化的にも、2006年から2009年頃のmixi全盛期、日本ではプロフィール画像に自分の顔をのせること、本名でSNSに登録することが常識ではありませんでした。

もちろん現在、欧米でも、活発にGDPR(EU一般データ保護規則)について議論されていますが、これは既にデジタルシフトを経験してから個人情報を保護する欧米と、はじめから拒否反応を示してしまい、SNSをはじめ、ソフトウェアの世界で覇権をとられてしまった日本では、まるで状況が違います。

この拒絶反応が、日本のデジタルシフトを遅らせてしまった要因のようにも思うのです。そして蓋をあけてみれば、Facebookをはじめ、今ではすっかり本名でもSNSを当たり前に使うようになり、Googleにも個人情報をわたし、利便性を享受しています。

今後、国際社会において日本のIT産業が、存在感を示すためには、同じ轍を踏まないようにしなくていけない。空気にのまれていけない、と強く思うのです。エンジニアを志すみなさんも、歴史に学び、それまでの「当たり前」を壊しにかかるモノを作りましょう。

今はまさに新型コロナウイルスの感染拡大によって、テレワークが進むなど、DX化を後押ししています。変化の時、これまでの常識を変える、大きなチャンスの時です。

歴史に学び、それまでの「当たり前」を壊しにかかるモノを我々とともに作りましょう。

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