「充電体験をデザインし、EVが普及する未来をより豊かなものにする」こう語るのが「プラゴ」代表の大川直樹さん。競争が激化するEV充電スタートアップのなかでも、充電の「体験」に特化したアプローチに注目が集まる。長野県軽井沢町とも連携し、地域創生への貢献にも期待が寄せられる。彼らが理想とするEV充電体験とは?そのビジネスの可能性、ビジョンについて大川さんに伺った。
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いよいよ「EV」普及までのカウントダウンが始まった。
2022年、国内新車販売のEV比率は過去最高を記録 (*1) 。各メーカー共にEVの新型モデルを相次いで発表し、2030年には、国内を走行するEVは17倍に拡大していく見通しだ。2035年には、新車販売は全て「EV」へとシフトしていくとされ、待ったなしで「EVの波」は押し寄せる。そういったなかで注目されるのが、充電インフラスタートアップ「プラゴ」だ。
同社が開発する次世代の充電サービスには、パブリックエリアの充電では日本初となる「予約機能」を搭載、かつ全ての充電を再生可能エネルギーで賄う「グリーン充電」を実現し、EVユーザーや設置企業、そして地球にやさしい設計が特徴だ(*2)。
「今後、EV充電器の設置率は、加速度的に進んでいきます。特に私達が力を入れているのが、スーパー、スポーツジム、ショッピングモールなど、人々の生活動線に戦略的に充電器を設置していくこと。人々が「マイ充電ステーション」を持てる状態を実現する。EVを未来のスタンダードにし、ひいてはサステナブルな社会の実現に貢献していきます」
こう語るのが、プラゴ代表取締役CEOの大川直樹さん。なぜ彼らは生活動線に、EV充電器を設置するのか。そしてなぜ「充電体験」にこだわるのか。
彼らが掲げる、 プロダクト、環境、ランドスケープまで全てをデザインし「続けたくなる未来を創る」という壮大なビジョンに迫った。
(*1)国内新車販売のEV比率最高 22年1.7%、米欧中には後れ|日本経済新聞
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUC10ARK0Q3A110C2000000/
(*2)日本初 電気自動車充電メーカーのプラゴが100%再生可能エネルギーで 充電するグリーン充電™を開始、提供第一弾となる再エネ証明の調達を完了|プラゴ HP
https://plugo.co.jp/news/20210908-237/
日本初 商業施設に事前予約可能なEV充電ステーション設置開始
https://plugo.co.jp/news/20220929-694/
「充電器を選ぶことは未来の景色を選ぶこと。環境に優しい乗り物の普及を後押しするための社会インフラにしていくのなら、景観ノイズを生むようなデザインは避けるべきだと思っています。そのため、充電器の意匠にもこだわりたかった。この事業を構想して会社を立ち上げようと思ったとき、真っ先にセイタロウデザインの山崎晴太郎に声をかけました。彼は共同創業者であり、CDO(チーフ・デザイン・オフィサー)として、EVユーザー向けアプリのUI/UXなども手がけています」と大川さん。
まずはプラゴとしてのビジョン、そして、なぜ充電体験の向上を軸にサービスを展開しているのか、その背景から伺わせてください。
我々が創っているのは、未来の社会インフラです。インフラとして浸透させていくためには、きちんとデザインがなされるべきだと考えています。景観ノイズにならないプロダクトデザインはもちろん、ユーザーの使い勝手、充電体験までをデザインしていく。そのため、充電器を設置して終わりではなく、設置した後のサービス設計も、パートナー企業や自治体と一緒に進めていきます。より具体的に理想を言えば、究極的には「充電」というものの存在を消していきたい。充電を「わざわざやるもの」から「自然と終わるもの」に変えていきたいと考えています。
というのも、ガソリンの給油は3分で終わるのに対し、充電は圧倒的に時間がかかります。普通充電で2時間~3時間。急速充電で30分~60分、超急速充電でも10分~15分。決して短くはない時間が発生するなか、人によっては、億劫に感じたり、手持ち無沙汰に思ったりする人も少なくはないはずです。
インフラとして使い続けてもらう存在となっていくことを考えると、ストレスは極力なくしたい。そこで、充電時間をデザインしようと考えました。
いかに充電の時間を感じさせないようにしていくか。ここがポイントになりそうですね。
そうですね。その1つの手段が「ながら充電」だと考えています。つまり、買い物している間に、趣味のゴルフをしている間に、充電が終わっていた、という状態を実現していきます。
そして、これはEVユーザーにとってだけではなく、充電器を設置する施設にとってのメリットも大きいはず。
たとえば、充電器を設置すれば、EVユーザーの集客、来店頻度の向上に繋がる可能性がある。そしてEVユーザーに充電サービスをお店から提供できるということは、顧客満足度向上のきっかけにもなり得る。これは、施設からゲストへの「おもてなし」と言えますよね。
EVユーザー、設置する施設の双方にとって「あってよかった」と思えるサービスを構築していく。それが、僕らのビジョンでもある「続けたくなる未来を創る」ことにつながっていくと考えています。
都心部における自宅への充電設備の有無を表した図。国の補助もあり高速道路やサービスエリアなどでは見受けられるようになったEV充電器。しかし、適材適所に設置されているとは言えない、と大川さんは語る。「世帯数ベースでは0.01%以下。新築マンションは充電器がついていても、 既設マンションではなかなか充電器設置が進んでいない。つまりマンションに住んでいるという理由で、EVを持てない人々も一定数存在するのが現状です。こうした課題に対するソリューションとしても、「マイ充電ステーション」のコンセプトはフィットすると考えています」
企業だけでなく、自治体との取り組みも推進しているというリリースを拝見しました。具体的にはどういうことでしょうか?
2022年に長野県軽井沢町と包括的に充電インフラ整備に関するパートナーシップを結びました。
この提携においてメインテーマとなるのが、EVで軽井沢に来ていただく観光客の方を増やしていくこと。いわゆる「EVツーリズム」を牽引していくリゾート地を目指していくうえでどうしていくといいのかを協議しています。
アイデアとしてあるのは、充電器を使っていただいたときに地域で使えるお買い物クーポンを発行する。あるいは、2次交通としてマイクロモビリティを充電器横に設置し、充電中にマイクロモビリティで地域を回遊していただくこと。
実際にEVに乗るとわかるのですが、充電場所を探しているうちに初めての地で美味しいレストランを発見できたり、珍しいお土産に出会えたりします。これは偶然起こっていることなのですが、それをサービスとしてインフラ整備していこうとしています。
結果として、充電インフラをただ設置するだけではなく、 新たな人流創出や地域創生に繋げていく。こうした取り組みを、長野県軽井沢だけではなく様々な観光地、自治体とどんどん進めていきたいですね。
2023年4月に世界的なホテルチェーン「マリオット・インターナショナル」ともパートナーシップ締結を発表。ホテルにおける充電インフラの在り方について検討を重ねているという。「たとえば、EVでホテルに到着し、他のゲストが充電器を使用中で使えないといったことになれば、翌日分はどこか別の急速充電器に立ち寄って充電するほかありません。それは旅の無駄な時間になってしまいますし、体験としてもよくないですよね。一方、家を出る前、もしくはホテル予約時に充電器も予約できれば、現地に到着したらホテルで充電でき、翌朝にはフル充電の状態で次の目的地へと出発できる。これは心地のいい体験ですよね。いわば究極のおもてなしを提供している企業とタッグを組み、新たなおもてなしの形を追求していく。これは、我々としても楽しみな点です」
プラゴとして、直近の目標について伺わせてください。
足下では、2025年末までに1000拠点、1万基の導入を目標にしています。そこに向けて、新しいメンバーをどんどん仲間に迎え入れて体制を強化してきたい。特に、セールス、事業企画などのポジションでの採用に注力していきます。生活に密着した施設や自治体の方への提案、充電時間をどうデザインするのか等のサービス設計を含め、事業をスケールさせていける方を求めています。
ずばり、今のプラゴで働く面白さとはなんだと思いますか?
充電インフラというのは、これから社会に物理的にインストールされていくもの。こういうフェーズはあまりない。市場をつくっていく当事者として、未来のインフラを創造していける。これこそが、現在在籍する社員の多くが最も魅力に感じてくれている点でもあると思います。
特に、「充電体験をデザインする」と謳う企業は、世界的に見ても我々プラゴくらいです。まだ誰も挑戦したことのないことに取り組んでいるので、当然、答えはない世界。色々な仮説を立て、どちらの方がお客様に喜ばれるかを試行錯誤しながら、世の中に問うて反応を見ながらサービスを改良していく。それらを、我々単独でやるだけではなく、大手企業を中心としたパートナー企業さんや自治体と進めていく。
さらに、ハードウェア、ソフトウェア、デザインまで全て自社内で内製しているので、アイデアを出すのみでなく、実際に自分たちの手で形にして社会実装までしていける。得られるやりがいは、計り知れないほど大きいと思います。
最後に、これから入社される方にメッセージがあればお願いします。
我々が目指す未来の姿に共感いただけることは大前提として、もう1つ、自ら事業を創出していく気概を持つ方にぜひ来ていただければと思っています。
私が新卒で入社した電通には、鬼十則第1条に「仕事は自ら創るべきで、与えられるべきでない」というものがあって。私は今でもこれを座右の銘にしています。実際プラゴにも、与える仕事というのはありません。その代わり、あらゆる事業を構想しつくっていく舞台なら豊富にある。そういった環境にワクワクする方と一緒に働けると嬉しいですね。